3 / 41
3
しおりを挟む
「運命の番いに会ったって本当か?」
グループワークで一緒になった平林にずっと気になっていたことを聞いてみた。
平林は一瞬驚いた顔で俺を見て、そしてそのすぐ後に表情を崩した。
いつも真一文字に結んだ唇。鋭い目つき。
男前だかやや強面の印象だ。今の表情の平林は初めて見る。
「あぁ、先々月の十九日に桃ヶ丘のショッピングモールで会ったんだ。」
平林はつなげた机に身を乗り出して胸ポケットからスマホを取り出した。俺はスマホを覗き込んだ。グループワークメンバーの残りの二人もそのスマホを覗いた。
「可愛いだろ?F県の中学三年だ。」
自慢気に見せたスマホの画面には色白の華奢な男が恥ずかしそうに笑っていた。
「へぇ、可愛いじゃん。」
俺の隣の牧がそのスマホを取り上げてまじまじと見つめている。
「やったの?」
平林の隣に座っている金髪の西嶋がストレートに聞いている。
途端に平林の顔が赤くなった。
「オメガ、良いだろ?」
そんな平林を揶揄うように西嶋が肘で小突いている。
「ま、まぁ。でも俺、満意外知らないし…、」
モゴモゴと口籠もりながら平林が言った。
耳と首まで赤くなっている。
二人に質問責めされている平林の幸せそうな顔を眺めていた。
「運命の番いか…。」
「え?何て言ったの?」
どぎついピンクのベットの上に寝転がって天井の鏡に映る自分を見た。いかにもな造りのそこは最近よく行くラブホ。ヤルだけな感じがとても良い。
ポツリと零した俺に朋花が裸のまま俺に擦り寄ってくる。
そんな事されても賢者タイムなので鬱陶しいだけだ。
「ねぇ、亮平くん。私、外でデートしたい。ダメ?」
俺の胸に頭を乗せて上目使いで聞いてくる。
面倒くさいな…。
適当に返事をして起き上がった。
「帰る。課題忘れてた。」
「え?もう?」
膨れっ面の朋花を見た。世間一般的に見れば可愛いのだろう。でも何とも思わない。
「亮平くん、今度ウチに来て。パパとママが紹介しろって。」
驚いた。俺は全くそんなつもりはない。
まず朋花はベータだ。朋花の両親もベータだと言った。
アルファとベータでどうこうなるはずないだろ。
また適当に返事をして外に出た。
駅で別れて電車に乗る。
平林の運命の番いの話を思い出した。
拓実と俺は運命じゃなかったのか?
勝手に俺がそう思っていただけなのか…。
クソっ!腹が立つ。今週はとうとうお見合いをさせられる。
でもみんなこんなもんだろ。平林みたいなのが珍しいだけだ。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
豪奢なテーブルを挟んで俺の前に座る淡いグリーンのワンピースを着た女。
わずかに俯いた切れ長で大きな瞳を縁取る長いまつ毛で影が出来ている。手入れの行き届いた髪に肌。一目で良家の息女と分かる。
アルファの家系の長女で母の友人の娘だ。その女は小さな声で『初鹿塔子』と名乗った。
アルファにしては珍しく控えめな感じだ。家柄も釣り合ってるし、こういう女と結婚するのが良いのかもしれない。
俺の母親と初鹿塔子の母親は散々好き勝手に話をして出て行った。
所謂『後は若いお二人で』というやつだ。
特に話もないけどすぐに帰るわけにもいかない。
時間稼ぎでもするか…。
「塔子さんは乗馬が得意なんですね。」
見合いの釣書に書いてあった事を思い出して話しかけた。
努めて優しく、相手に好印象を与えるように顔に笑顔を貼り付ける。
塔子は伏せていた瞼を上げて俺を見るとふんと鼻で笑った。
「そういうのいいから。あなたもお母様に言われて仕方なく来たんでしょ?やる気がないのが見え見え。」
背を椅子に預けてぞんざいな態度で俺に言った。
一瞬驚いたけど事態を理解して俺も作り笑いをやめた。そのまま足を組んで背もたれに寄りかかる。
塔子は俺と同じで見合いなんかしたくないのだ。
「アルファと結婚しろってうるさいのよ。アルファ至上主義はもうたくさん。あなたのお母様もそうでしょ?」
「まぁね。そういう家は多いだろ。」
つまらなそうにテーブルの上の紅茶をスプーンで掻き回している塔子が俺を見てニヤリと笑った。すまして微笑む顔よりよっぽど魅力的に見える。
「私、付き合ってるオメガがいるのよ。」
「へぇ。」
「お母様には言ってないわ。どうせ反対されるから。自立するまでは黙ってるの。」
『ねぇ』と言って塔子がテーブル越しに顔を寄せて来た。
チラリと入り口を確認して俺を見る。
「あなたのお父様、元気?」
俺の親父?最近全く見ていない。週に何回かは帰って来てるみたいだけど。荷物を取りに来てるだけのようだ。
「親父?元気なんじゃない。」
「そうよね。すごく元気なはず。だって運命に会っちゃったんだもん。」
「え?」
運命?どういう事だ?
俺はニヤニヤと笑う塔子の顔を見た。
グループワークで一緒になった平林にずっと気になっていたことを聞いてみた。
平林は一瞬驚いた顔で俺を見て、そしてそのすぐ後に表情を崩した。
いつも真一文字に結んだ唇。鋭い目つき。
男前だかやや強面の印象だ。今の表情の平林は初めて見る。
「あぁ、先々月の十九日に桃ヶ丘のショッピングモールで会ったんだ。」
平林はつなげた机に身を乗り出して胸ポケットからスマホを取り出した。俺はスマホを覗き込んだ。グループワークメンバーの残りの二人もそのスマホを覗いた。
「可愛いだろ?F県の中学三年だ。」
自慢気に見せたスマホの画面には色白の華奢な男が恥ずかしそうに笑っていた。
「へぇ、可愛いじゃん。」
俺の隣の牧がそのスマホを取り上げてまじまじと見つめている。
「やったの?」
平林の隣に座っている金髪の西嶋がストレートに聞いている。
途端に平林の顔が赤くなった。
「オメガ、良いだろ?」
そんな平林を揶揄うように西嶋が肘で小突いている。
「ま、まぁ。でも俺、満意外知らないし…、」
モゴモゴと口籠もりながら平林が言った。
耳と首まで赤くなっている。
二人に質問責めされている平林の幸せそうな顔を眺めていた。
「運命の番いか…。」
「え?何て言ったの?」
どぎついピンクのベットの上に寝転がって天井の鏡に映る自分を見た。いかにもな造りのそこは最近よく行くラブホ。ヤルだけな感じがとても良い。
ポツリと零した俺に朋花が裸のまま俺に擦り寄ってくる。
そんな事されても賢者タイムなので鬱陶しいだけだ。
「ねぇ、亮平くん。私、外でデートしたい。ダメ?」
俺の胸に頭を乗せて上目使いで聞いてくる。
面倒くさいな…。
適当に返事をして起き上がった。
「帰る。課題忘れてた。」
「え?もう?」
膨れっ面の朋花を見た。世間一般的に見れば可愛いのだろう。でも何とも思わない。
「亮平くん、今度ウチに来て。パパとママが紹介しろって。」
驚いた。俺は全くそんなつもりはない。
まず朋花はベータだ。朋花の両親もベータだと言った。
アルファとベータでどうこうなるはずないだろ。
また適当に返事をして外に出た。
駅で別れて電車に乗る。
平林の運命の番いの話を思い出した。
拓実と俺は運命じゃなかったのか?
勝手に俺がそう思っていただけなのか…。
クソっ!腹が立つ。今週はとうとうお見合いをさせられる。
でもみんなこんなもんだろ。平林みたいなのが珍しいだけだ。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
豪奢なテーブルを挟んで俺の前に座る淡いグリーンのワンピースを着た女。
わずかに俯いた切れ長で大きな瞳を縁取る長いまつ毛で影が出来ている。手入れの行き届いた髪に肌。一目で良家の息女と分かる。
アルファの家系の長女で母の友人の娘だ。その女は小さな声で『初鹿塔子』と名乗った。
アルファにしては珍しく控えめな感じだ。家柄も釣り合ってるし、こういう女と結婚するのが良いのかもしれない。
俺の母親と初鹿塔子の母親は散々好き勝手に話をして出て行った。
所謂『後は若いお二人で』というやつだ。
特に話もないけどすぐに帰るわけにもいかない。
時間稼ぎでもするか…。
「塔子さんは乗馬が得意なんですね。」
見合いの釣書に書いてあった事を思い出して話しかけた。
努めて優しく、相手に好印象を与えるように顔に笑顔を貼り付ける。
塔子は伏せていた瞼を上げて俺を見るとふんと鼻で笑った。
「そういうのいいから。あなたもお母様に言われて仕方なく来たんでしょ?やる気がないのが見え見え。」
背を椅子に預けてぞんざいな態度で俺に言った。
一瞬驚いたけど事態を理解して俺も作り笑いをやめた。そのまま足を組んで背もたれに寄りかかる。
塔子は俺と同じで見合いなんかしたくないのだ。
「アルファと結婚しろってうるさいのよ。アルファ至上主義はもうたくさん。あなたのお母様もそうでしょ?」
「まぁね。そういう家は多いだろ。」
つまらなそうにテーブルの上の紅茶をスプーンで掻き回している塔子が俺を見てニヤリと笑った。すまして微笑む顔よりよっぽど魅力的に見える。
「私、付き合ってるオメガがいるのよ。」
「へぇ。」
「お母様には言ってないわ。どうせ反対されるから。自立するまでは黙ってるの。」
『ねぇ』と言って塔子がテーブル越しに顔を寄せて来た。
チラリと入り口を確認して俺を見る。
「あなたのお父様、元気?」
俺の親父?最近全く見ていない。週に何回かは帰って来てるみたいだけど。荷物を取りに来てるだけのようだ。
「親父?元気なんじゃない。」
「そうよね。すごく元気なはず。だって運命に会っちゃったんだもん。」
「え?」
運命?どういう事だ?
俺はニヤニヤと笑う塔子の顔を見た。
23
お気に入りに追加
708
あなたにおすすめの小説
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
貴方の事を心から愛していました。ありがとう。
天海みつき
BL
穏やかな晴天のある日の事。僕は最愛の番の後宮で、ぼんやりと紅茶を手に己の生きざまを振り返っていた。ゆったり流れるその時を楽しんだ僕は、そのままカップを傾け、紅茶を喉へと流し込んだ。
――混じり込んだ××と共に。
オメガバースの世界観です。運命の番でありながら、仮想敵国の王子同士に生まれた二人が辿る数奇な運命。勢いで書いたら真っ暗に。ピリリと主張する苦さをアクセントにどうぞ。
追記。本編完結済み。後程「彼」視点を追加投稿する……かも?
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
大好きな幼馴染は僕の親友が欲しい
月夜の晩に
BL
平凡なオメガ、飛鳥。
ずっと片想いしてきたアルファの幼馴染・慶太は、飛鳥の親友・咲也が好きで・・。
それぞれの片想いの行方は?
◆メルマガ
https://tsukiyo-novel.com/2022/02/26/magazine/
記憶の欠片
藍白
BL
囚われたまま生きている。記憶の欠片が、夢か過去かわからない思いを運んでくるから、囚われてしまう。そんな啓介は、運命の番に出会う。
過去に縛られた自分を直視したくなくて目を背ける啓介だが、宗弥の想いが伝わるとき、忘れたい記憶の欠片が消えてく。希望が込められた記憶の欠片が生まれるのだから。
輪廻転生。オメガバース。
フジョッシーさん、夏の絵師様アンソロに書いたお話です。
kindleに掲載していた短編になります。今まで掲載していた本文は削除し、kindleに掲載していたものを掲載し直しました。
残酷・暴力・オメガバース描写あります。苦手な方は注意して下さい。
フジョさんの、夏の絵師さんアンソロで書いたお話です。
表紙は 紅さん@xdkzw48
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる