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「旦那、何か探し物ですかい?」
レガート地区で聞き込みをしたが成果がなかったリチャードは川岸をふらふらと歩いている。時々落ちているものを拾っては眺めてまた捨てていた。
そんな様子を釣りに来た老人がじっと見ており、声をかけて来た。
「え?あ、あぁ…。」
「なら諦めた方がいい。この前の大雨でみんな流されちまったんです。」
「そうか…。でも大事なものなんだ。」
この前の大雨。あの時のことを言っているのだろう。
分かっているが諦められないのだ。
「大事なもの?宝石か何かですか?今はこんなに穏やかですが雨で増水すると人喰い川と言われて誰も近づかないんですよ。」
「人食い川…」
ルエも食われてしまったのだろうか。怖くて考えたくない。
老人は聞いても居ないのに自分の話をし始める。
リチャードはそれを聞くでも聞かないでもなくぼんやり眺めていた。
「俺の仕掛けも流されちまったんです。これで二回目です。またニースビレッジまで探しに行ってみても良いんですが、なんせほら足が悪くてね。」
そう言って片足をぶらぶらして見せる。近くには杖も置いてあった。
「この足でゴートリバーまで行くのは大変なんですよ。」
ゴートリバー。
山間の小さな村だ。名前だけは聞いたことがある。
しかしこの川の流れ着く先はホークランドだ。
ホークランドはギルバートが探しに行ってくれたが何も収穫はなかった。
「いや、流れ着くならホークランドだろ?」
「いや、旦那。旦那はこの辺の人じゃないですね?この川は大雨で増水するとゴートリバーに流れる川が出来るんですよ。その時だけ現れるんでみんな知らないんです。」
「どういうことだ?」
その時だけ現れる川がある?行き着く先はホークランドだけではないのか?
リチャードはもう一度詳しくその老人に川のことを聞いた。そして急いで屋敷に戻りノーマンにそのことを伝えた。
「ゴートリバー…。山間の村ですね?」
「ああ。知ってるか?」
「おそらくレイモンドを抜けてさらに山に向かって行ったところだと思います。そうか…ホークランドの前のコンラッド山のところで二手に分かれるんですね。激流だから二分される…。だから大嵐の時にしか現れない…。」
「そうだ。その男もそんなことを言っていた。数年に一度現れるかどうかだと。この間は十年ぶりにゴートリバーの方に流れる川が出来たと言っていた。」
「旦那様!直ぐに向かいましょう!」
二人は急いで支度をして馬車に乗り込んだ。するとちょうどギルバートが訪れたので簡単に事情を話した。ギルバートはどうしても外せない仕事があるので遅れてゴートリバーに向かうことになった。
ゴートリバーにルエが居るとは限らない。流れ着いたとしても生きている方が不思議なくらいだ。
それでも僅かでも望みがあるなら…。
リチャードは祈るような気持ちでゴートリバーに向かった。
ほとんど休まず一晩かけてゴートリバー向かい、次の日の午後に小さな村に着いた。
「ここがゴートリバーか…。」
「ええ。そのようですね。」
村の入り口に小川が流れている。山間の村だけあって綺麗な川だ。川の底までくっきりと見える。
「増水した川がこの小川に合流するんですね。」
ノーマンが膝を曲げて川を覗き込んだ。
「村の人に聞いてみましょう。」
しばらく聴き込むが人が流れ着いたという話は聞かない。それどころか村人たちはとてもじゃ封鎖的な人柄のようで、明らかにリチャードたちを警戒している。
「やっぱりダメか…。」
「旦那様、あの小川の下流に行ってみましょうか。集落があるようです。」
がっくりと項垂れるリチャードを励ますように声を掛けて小川の下流に向かった。
そこはさらに田舎で民家も少ない。ゴートリバーという名前だけあって至る所にヤギを放牧している。
小さな家の前に十歳くらいの子どもと女がいて何か揉めているようだ。
ノーマンが近づいて話しかける。
「え?あ、別にケンカしていた訳じゃ…。何ですか?何か用?」
女は驚いたようにノーマンとその後ろに立っているリチャードを見た。
「姉ちゃん!早く行かないとルゥが…!」
「分かってる!」
子どもの方は何か焦っているようだ。姉の袖を掴んで半泣きで叫んでいる。姉はそんな弟を少し苛ついたように宥めていた。
「ルゥが番いにされちゃうよ!」
番い?
リチャードはまじまじとその子ども見た。確かに番いと言った。
「おい、番いって…。」
リチャードが前に出て話しかける。
「ちょっと今私たち忙しいんです。用があるなら後にして下さい!」
女はリチャードの言葉を遮って出かけようとしている。
ノーマンとリチャードは顔を見合わせた。何か嫌な予感がする。
急いで出かけようとする女の腕を掴んで話を聞いた。
「ルエ…。ルゥの本当の名前はルエなの?」
「そうだ。私の妻だ。ずっと探していたんだ。」
「その証拠は?」
ハイネと名乗った女は信じきれていないらしい。リチャードは左手の薬指の指輪を見せた。
「これは…。ルゥがしていたものと同じだわ。」
「私が揃いで作ってプレゼントしたんだ。ルエは生きているんだな…良かった、良かった、ルエ…。」
リチャードはその指輪に頬ずりしながら泣いた。隣のノーマンも泣いている。
ハイネとヒューゴは顔を見合わせて頷いた。
「喜んでいるところ申し訳ないんだけど…。」
ハイネとヒューゴの話にリチャードとノーマンは青ざめた顔で立ち上がった。
レガート地区で聞き込みをしたが成果がなかったリチャードは川岸をふらふらと歩いている。時々落ちているものを拾っては眺めてまた捨てていた。
そんな様子を釣りに来た老人がじっと見ており、声をかけて来た。
「え?あ、あぁ…。」
「なら諦めた方がいい。この前の大雨でみんな流されちまったんです。」
「そうか…。でも大事なものなんだ。」
この前の大雨。あの時のことを言っているのだろう。
分かっているが諦められないのだ。
「大事なもの?宝石か何かですか?今はこんなに穏やかですが雨で増水すると人喰い川と言われて誰も近づかないんですよ。」
「人食い川…」
ルエも食われてしまったのだろうか。怖くて考えたくない。
老人は聞いても居ないのに自分の話をし始める。
リチャードはそれを聞くでも聞かないでもなくぼんやり眺めていた。
「俺の仕掛けも流されちまったんです。これで二回目です。またニースビレッジまで探しに行ってみても良いんですが、なんせほら足が悪くてね。」
そう言って片足をぶらぶらして見せる。近くには杖も置いてあった。
「この足でゴートリバーまで行くのは大変なんですよ。」
ゴートリバー。
山間の小さな村だ。名前だけは聞いたことがある。
しかしこの川の流れ着く先はホークランドだ。
ホークランドはギルバートが探しに行ってくれたが何も収穫はなかった。
「いや、流れ着くならホークランドだろ?」
「いや、旦那。旦那はこの辺の人じゃないですね?この川は大雨で増水するとゴートリバーに流れる川が出来るんですよ。その時だけ現れるんでみんな知らないんです。」
「どういうことだ?」
その時だけ現れる川がある?行き着く先はホークランドだけではないのか?
リチャードはもう一度詳しくその老人に川のことを聞いた。そして急いで屋敷に戻りノーマンにそのことを伝えた。
「ゴートリバー…。山間の村ですね?」
「ああ。知ってるか?」
「おそらくレイモンドを抜けてさらに山に向かって行ったところだと思います。そうか…ホークランドの前のコンラッド山のところで二手に分かれるんですね。激流だから二分される…。だから大嵐の時にしか現れない…。」
「そうだ。その男もそんなことを言っていた。数年に一度現れるかどうかだと。この間は十年ぶりにゴートリバーの方に流れる川が出来たと言っていた。」
「旦那様!直ぐに向かいましょう!」
二人は急いで支度をして馬車に乗り込んだ。するとちょうどギルバートが訪れたので簡単に事情を話した。ギルバートはどうしても外せない仕事があるので遅れてゴートリバーに向かうことになった。
ゴートリバーにルエが居るとは限らない。流れ着いたとしても生きている方が不思議なくらいだ。
それでも僅かでも望みがあるなら…。
リチャードは祈るような気持ちでゴートリバーに向かった。
ほとんど休まず一晩かけてゴートリバー向かい、次の日の午後に小さな村に着いた。
「ここがゴートリバーか…。」
「ええ。そのようですね。」
村の入り口に小川が流れている。山間の村だけあって綺麗な川だ。川の底までくっきりと見える。
「増水した川がこの小川に合流するんですね。」
ノーマンが膝を曲げて川を覗き込んだ。
「村の人に聞いてみましょう。」
しばらく聴き込むが人が流れ着いたという話は聞かない。それどころか村人たちはとてもじゃ封鎖的な人柄のようで、明らかにリチャードたちを警戒している。
「やっぱりダメか…。」
「旦那様、あの小川の下流に行ってみましょうか。集落があるようです。」
がっくりと項垂れるリチャードを励ますように声を掛けて小川の下流に向かった。
そこはさらに田舎で民家も少ない。ゴートリバーという名前だけあって至る所にヤギを放牧している。
小さな家の前に十歳くらいの子どもと女がいて何か揉めているようだ。
ノーマンが近づいて話しかける。
「え?あ、別にケンカしていた訳じゃ…。何ですか?何か用?」
女は驚いたようにノーマンとその後ろに立っているリチャードを見た。
「姉ちゃん!早く行かないとルゥが…!」
「分かってる!」
子どもの方は何か焦っているようだ。姉の袖を掴んで半泣きで叫んでいる。姉はそんな弟を少し苛ついたように宥めていた。
「ルゥが番いにされちゃうよ!」
番い?
リチャードはまじまじとその子ども見た。確かに番いと言った。
「おい、番いって…。」
リチャードが前に出て話しかける。
「ちょっと今私たち忙しいんです。用があるなら後にして下さい!」
女はリチャードの言葉を遮って出かけようとしている。
ノーマンとリチャードは顔を見合わせた。何か嫌な予感がする。
急いで出かけようとする女の腕を掴んで話を聞いた。
「ルエ…。ルゥの本当の名前はルエなの?」
「そうだ。私の妻だ。ずっと探していたんだ。」
「その証拠は?」
ハイネと名乗った女は信じきれていないらしい。リチャードは左手の薬指の指輪を見せた。
「これは…。ルゥがしていたものと同じだわ。」
「私が揃いで作ってプレゼントしたんだ。ルエは生きているんだな…良かった、良かった、ルエ…。」
リチャードはその指輪に頬ずりしながら泣いた。隣のノーマンも泣いている。
ハイネとヒューゴは顔を見合わせて頷いた。
「喜んでいるところ申し訳ないんだけど…。」
ハイネとヒューゴの話にリチャードとノーマンは青ざめた顔で立ち上がった。
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