26 / 41
26
しおりを挟む
「ノーマン、何だあれは。仕事中じゃなかったのか?」
「あの、お二人はとても仲がよろしくて…。それで、旦那様がルエ様を溺愛されておりまして…」
もごもごと言いにくそうなノーマンにギルバートは察したようだ。
「いつもああなのか?」
「はい。」
「毎日?」
「はい…。」
「ま、まぁ、仲が良いってことだなっ、」
ギルバートとノーマンが扉の前で話をしていると中からリチャードが出てきた。その顔は不機嫌そうだ。
「あ、悪いなリチャード。まさか、その、」
「別に、何の用だ。」
渋々といった様子でギルバートを招き入れてソファーに座る。チラリと見るがルエが居ない。
「ルエは?」
「奥の部屋で支度をしている。」
部屋の奥の扉を見ながらリチャードが言った。さっきのことを思い出したのか不機嫌だ。
「そ、そうか。あ、俺からはルエは見えなかったから安心しろ。」
「…。」
ノーマンがワゴンを押して部屋に入ってくる。手早くお茶の用意を始め、部屋の中に紅茶の芳しい匂いとイチゴタルトの甘い匂いが広がった。
ガチャリと音がして奥の扉が開きルエが出てくるが、ギルバートを見ると顔が赤くなってもじもじして近づいて来ない。
「ルエ、おいで。大丈夫だから。」
リチャードが扉の方までルエを迎えに行き耳元でひそひそ話をしている。ぎゅっと抱きしめて頭や顔にキスをしてルエをソファーまで連れて来て座らせた。
「いちごタルトだよ。今日の紅茶はダージリンだね。」
いつものようにいそいそとルエの世話を焼いているリチャードは本当に幸せそうだ。途中、ルエの頭を撫でたりキスをしたりしながらルエにいちごタルトを食べさせていた。
「良かったなリチャード。幸せそうで何よりだ。」
「まあな。ルエが居てくれるからだ。ね?ルエ。」
「えへへ。はい。」
照れ臭そうに笑うルエをうっとりと見つめてまたキスをしている。
「はあ、お熱いこって。」
呆れたようにギルバートが呟いた。
「ところでおまえは何の用だ?」
「あ、そうだ。リチャード、おまえ知ってるか?」
「何をだ?」
ギルバートの話はあまり楽しいものではなかった。
国王がまた気まぐれでバースに関するおふれを出しだのだった。
未婚のオメガを王城に集めて働かせるというもので、表向きはオメガの就労先を提供するというものだが、本当の目的は第一王子から第四王子までの四人の番いを見つけるという目的らしい。
「第一王子と第二王子はアルファと結婚しているだろ?第三王子もそろそろだと聞いた。」
リチャードにとっては従兄弟にあたる王子たちだ。リチャードの母は結婚する際に王室を離脱しているのでリチャードには王位継承権はない。しかし王室の話は自然と耳に入ってくる。
「ああ。そうなんだ。何というか、公然とオメガの愛人を作ろうとしてるってことだな。…オメガとのあれはすごく良いって…。まあ、あくまで噂だけどな。」
ギルバートは最後の方は言いにくそうに小さな声で付け加えた。
「胸糞悪い話だな。」
オメガの人権を無視した政策だ。大方、王子の誰かが国王に頼んだのだろう。リチャードは我儘な王子たちの顔を思い出して苦々しい顔をした。
今までのリチャードなら何とも思わなかっただろう。しかし今は違う。最愛の妻はオメガだ。オメガが虐げられることに良い気はしない。
そんな愛しいルエは青い顔をして俯いている。優しい性格だ。結婚している自分には関係ないが他のオメガのことを思って辛いのだろう。
「ルエ…。」
優しくルエを抱きしめて頭を撫でる。
ルエにはいつも笑っていてもらいたい。ルエの憂は全て自分が祓ってやりたい。国王は叔父にあたるが、直接進言するのはさすがに無理だ。しかしその妻の王妃はリチャードの母の親友で子どもの頃はよく遊んでもらった。
結婚の報告もしたいし、挨拶がてら会ってみようかと考えていた。
「そこでなんだが、ルエには兄弟がいるのか?」
唐突にギルバートがルエに尋ねた。
「はい。兄が一人居ます。」
「まだ独身なのか?」
「はい。あ、でも兄上はベータです。」
「え?」
何故か驚いた顔をするギルバートにリチャードは不審な顔をする。
「それがどうかしたのか?」
「え、いや、王城に召し上げられるオメガの中にヘンダーソン家の名前があったような気がして。ちゃんと見たわけじゃないんだ。取引先に王城に出入りする者が居て…。」
「どういうことだ?」
リチャードもルエも驚いている。
「いや、わからない。ルエ、ヘンダーソンの家系にルエ以外にオメガがいるのか?」
「はい。でも年頃のオメガは僕だけのはずです。あとは祖母と叔父と去年生まれた従兄弟だけです。」
「ギル、どういうことだ?ルエは私の妻だ。未婚ではない…。はっ!まさか…。」
勢いよく立ち上がったリチャードが執務机の引き出しを開けて何かを探している。
「ない…あれがない。」
真っ青な顔のリチャードが呆然と立ち尽くしていた。
「リチャード、どうした?あれって何だ?」
ただ事ではない様子のリチャードにギルバートも駆け寄って尋ねた。
「あれだ…離婚届。私のサインがしてある離婚届がない…。」
「「えぇ⁉︎」」
「ノーマン!知らないか?ここにしまっておいて…っ!」
ルエが泣きそうな顔で震えていた。リチャードは急いで駆け寄って抱きしめる。
「大丈夫。ルエは私の妻だ。あの紙の事はすっかり忘れてて…。ルエと一緒に過ごせて幸せ過ぎて忘れていたんだ。ごめんね?でも大丈夫だから。ルエを誰かのところにやるなんて絶対ない。例え相手が国王でもだ。」
「リチャード様…。」
震えて泣くルエをリチャードはさらに強く抱きしめた。
「あの、お二人はとても仲がよろしくて…。それで、旦那様がルエ様を溺愛されておりまして…」
もごもごと言いにくそうなノーマンにギルバートは察したようだ。
「いつもああなのか?」
「はい。」
「毎日?」
「はい…。」
「ま、まぁ、仲が良いってことだなっ、」
ギルバートとノーマンが扉の前で話をしていると中からリチャードが出てきた。その顔は不機嫌そうだ。
「あ、悪いなリチャード。まさか、その、」
「別に、何の用だ。」
渋々といった様子でギルバートを招き入れてソファーに座る。チラリと見るがルエが居ない。
「ルエは?」
「奥の部屋で支度をしている。」
部屋の奥の扉を見ながらリチャードが言った。さっきのことを思い出したのか不機嫌だ。
「そ、そうか。あ、俺からはルエは見えなかったから安心しろ。」
「…。」
ノーマンがワゴンを押して部屋に入ってくる。手早くお茶の用意を始め、部屋の中に紅茶の芳しい匂いとイチゴタルトの甘い匂いが広がった。
ガチャリと音がして奥の扉が開きルエが出てくるが、ギルバートを見ると顔が赤くなってもじもじして近づいて来ない。
「ルエ、おいで。大丈夫だから。」
リチャードが扉の方までルエを迎えに行き耳元でひそひそ話をしている。ぎゅっと抱きしめて頭や顔にキスをしてルエをソファーまで連れて来て座らせた。
「いちごタルトだよ。今日の紅茶はダージリンだね。」
いつものようにいそいそとルエの世話を焼いているリチャードは本当に幸せそうだ。途中、ルエの頭を撫でたりキスをしたりしながらルエにいちごタルトを食べさせていた。
「良かったなリチャード。幸せそうで何よりだ。」
「まあな。ルエが居てくれるからだ。ね?ルエ。」
「えへへ。はい。」
照れ臭そうに笑うルエをうっとりと見つめてまたキスをしている。
「はあ、お熱いこって。」
呆れたようにギルバートが呟いた。
「ところでおまえは何の用だ?」
「あ、そうだ。リチャード、おまえ知ってるか?」
「何をだ?」
ギルバートの話はあまり楽しいものではなかった。
国王がまた気まぐれでバースに関するおふれを出しだのだった。
未婚のオメガを王城に集めて働かせるというもので、表向きはオメガの就労先を提供するというものだが、本当の目的は第一王子から第四王子までの四人の番いを見つけるという目的らしい。
「第一王子と第二王子はアルファと結婚しているだろ?第三王子もそろそろだと聞いた。」
リチャードにとっては従兄弟にあたる王子たちだ。リチャードの母は結婚する際に王室を離脱しているのでリチャードには王位継承権はない。しかし王室の話は自然と耳に入ってくる。
「ああ。そうなんだ。何というか、公然とオメガの愛人を作ろうとしてるってことだな。…オメガとのあれはすごく良いって…。まあ、あくまで噂だけどな。」
ギルバートは最後の方は言いにくそうに小さな声で付け加えた。
「胸糞悪い話だな。」
オメガの人権を無視した政策だ。大方、王子の誰かが国王に頼んだのだろう。リチャードは我儘な王子たちの顔を思い出して苦々しい顔をした。
今までのリチャードなら何とも思わなかっただろう。しかし今は違う。最愛の妻はオメガだ。オメガが虐げられることに良い気はしない。
そんな愛しいルエは青い顔をして俯いている。優しい性格だ。結婚している自分には関係ないが他のオメガのことを思って辛いのだろう。
「ルエ…。」
優しくルエを抱きしめて頭を撫でる。
ルエにはいつも笑っていてもらいたい。ルエの憂は全て自分が祓ってやりたい。国王は叔父にあたるが、直接進言するのはさすがに無理だ。しかしその妻の王妃はリチャードの母の親友で子どもの頃はよく遊んでもらった。
結婚の報告もしたいし、挨拶がてら会ってみようかと考えていた。
「そこでなんだが、ルエには兄弟がいるのか?」
唐突にギルバートがルエに尋ねた。
「はい。兄が一人居ます。」
「まだ独身なのか?」
「はい。あ、でも兄上はベータです。」
「え?」
何故か驚いた顔をするギルバートにリチャードは不審な顔をする。
「それがどうかしたのか?」
「え、いや、王城に召し上げられるオメガの中にヘンダーソン家の名前があったような気がして。ちゃんと見たわけじゃないんだ。取引先に王城に出入りする者が居て…。」
「どういうことだ?」
リチャードもルエも驚いている。
「いや、わからない。ルエ、ヘンダーソンの家系にルエ以外にオメガがいるのか?」
「はい。でも年頃のオメガは僕だけのはずです。あとは祖母と叔父と去年生まれた従兄弟だけです。」
「ギル、どういうことだ?ルエは私の妻だ。未婚ではない…。はっ!まさか…。」
勢いよく立ち上がったリチャードが執務机の引き出しを開けて何かを探している。
「ない…あれがない。」
真っ青な顔のリチャードが呆然と立ち尽くしていた。
「リチャード、どうした?あれって何だ?」
ただ事ではない様子のリチャードにギルバートも駆け寄って尋ねた。
「あれだ…離婚届。私のサインがしてある離婚届がない…。」
「「えぇ⁉︎」」
「ノーマン!知らないか?ここにしまっておいて…っ!」
ルエが泣きそうな顔で震えていた。リチャードは急いで駆け寄って抱きしめる。
「大丈夫。ルエは私の妻だ。あの紙の事はすっかり忘れてて…。ルエと一緒に過ごせて幸せ過ぎて忘れていたんだ。ごめんね?でも大丈夫だから。ルエを誰かのところにやるなんて絶対ない。例え相手が国王でもだ。」
「リチャード様…。」
震えて泣くルエをリチャードはさらに強く抱きしめた。
28
お気に入りに追加
1,735
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
貴方の事を心から愛していました。ありがとう。
天海みつき
BL
穏やかな晴天のある日の事。僕は最愛の番の後宮で、ぼんやりと紅茶を手に己の生きざまを振り返っていた。ゆったり流れるその時を楽しんだ僕は、そのままカップを傾け、紅茶を喉へと流し込んだ。
――混じり込んだ××と共に。
オメガバースの世界観です。運命の番でありながら、仮想敵国の王子同士に生まれた二人が辿る数奇な運命。勢いで書いたら真っ暗に。ピリリと主張する苦さをアクセントにどうぞ。
追記。本編完結済み。後程「彼」視点を追加投稿する……かも?
婚約者は愛を見つけたらしいので、不要になった僕は君にあげる
カシナシ
BL
「アシリス、すまない。婚約を解消してくれ」
そう告げられて、僕は固まった。5歳から13年もの間、婚約者であるキール殿下に尽くしてきた努力は一体何だったのか?
殿下の隣には、可愛らしいオメガの男爵令息がいて……。
サクッとエロ&軽めざまぁ。
全10話+番外編(別視点)数話
本編約二万文字、完結しました。
※HOTランキング最高位6位、頂きました。たくさんの閲覧、ありがとうございます!
※本作の数年後のココルとキールを描いた、
『訳ありオメガは罪の証を愛している』
も公開始めました。読む際は注意書きを良く読んで下さると幸いです!
いつか愛してると言える日まで
なの
BL
幼馴染が大好きだった。
いつか愛してると言えると告白できると思ってた…
でも彼には大好きな人がいた。
だから僕は君たち2人の幸せを祈ってる。いつまでも…
親に捨てられ施設で育った純平、大好きな彼には思い人がいた。
そんな中、問題が起こり…
2人の両片想い…純平は愛してるとちゃんと言葉で言える日は来るのか?
オメガバースの世界観に独自の設定を加えています。
予告なしに暴力表現等があります。R18には※をつけます。ご自身の判断でお読み頂きたいと思います。
お読みいただきありがとうございました。
本編は完結いたしましたが、番外編に突入いたします。
捨てられオメガの幸せは
ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。
幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる