優しすぎるオメガと嘘

みこと

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「ノーマン、何だあれは。仕事中じゃなかったのか?」

「あの、お二人はとても仲がよろしくて…。それで、旦那様がルエ様を溺愛されておりまして…」

もごもごと言いにくそうなノーマンにギルバートは察したようだ。

「いつもああなのか?」

「はい。」

「毎日?」

「はい…。」

「ま、まぁ、仲が良いってことだなっ、」

ギルバートとノーマンが扉の前で話をしていると中からリチャードが出てきた。その顔は不機嫌そうだ。

「あ、悪いなリチャード。まさか、その、」

「別に、何の用だ。」

渋々といった様子でギルバートを招き入れてソファーに座る。チラリと見るがルエが居ない。

「ルエは?」

「奥の部屋で支度をしている。」

部屋の奥の扉を見ながらリチャードが言った。さっきのことを思い出したのか不機嫌だ。

「そ、そうか。あ、俺からはルエは見えなかったから安心しろ。」

「…。」

ノーマンがワゴンを押して部屋に入ってくる。手早くお茶の用意を始め、部屋の中に紅茶の芳しい匂いとイチゴタルトの甘い匂いが広がった。
ガチャリと音がして奥の扉が開きルエが出てくるが、ギルバートを見ると顔が赤くなってもじもじして近づいて来ない。

「ルエ、おいで。大丈夫だから。」

リチャードが扉の方までルエを迎えに行き耳元でひそひそ話をしている。ぎゅっと抱きしめて頭や顔にキスをしてルエをソファーまで連れて来て座らせた。

「いちごタルトだよ。今日の紅茶はダージリンだね。」

いつものようにいそいそとルエの世話を焼いているリチャードは本当に幸せそうだ。途中、ルエの頭を撫でたりキスをしたりしながらルエにいちごタルトを食べさせていた。

「良かったなリチャード。幸せそうで何よりだ。」

「まあな。ルエが居てくれるからだ。ね?ルエ。」

「えへへ。はい。」

照れ臭そうに笑うルエをうっとりと見つめてまたキスをしている。

「はあ、お熱いこって。」

呆れたようにギルバートが呟いた。

「ところでおまえは何の用だ?」

「あ、そうだ。リチャード、おまえ知ってるか?」

「何をだ?」

ギルバートの話はあまり楽しいものではなかった。
国王がまた気まぐれでバースに関するおふれを出しだのだった。
未婚のオメガを王城に集めて働かせるというもので、表向きはオメガの就労先を提供するというものだが、本当の目的は第一王子から第四王子までの四人の番いを見つけるという目的らしい。

「第一王子と第二王子はアルファと結婚しているだろ?第三王子もそろそろだと聞いた。」

リチャードにとっては従兄弟にあたる王子たちだ。リチャードの母は結婚する際に王室を離脱しているのでリチャードには王位継承権はない。しかし王室の話は自然と耳に入ってくる。

「ああ。そうなんだ。何というか、公然とオメガの愛人を作ろうとしてるってことだな。…オメガとのあれはすごく良いって…。まあ、あくまで噂だけどな。」

ギルバートは最後の方は言いにくそうに小さな声で付け加えた。

「胸糞悪い話だな。」

オメガの人権を無視した政策だ。大方、王子の誰かが国王に頼んだのだろう。リチャードは我儘な王子たちの顔を思い出して苦々しい顔をした。
今までのリチャードなら何とも思わなかっただろう。しかし今は違う。最愛の妻はオメガだ。オメガが虐げられることに良い気はしない。
そんな愛しいルエは青い顔をして俯いている。優しい性格だ。結婚している自分には関係ないが他のオメガのことを思って辛いのだろう。

「ルエ…。」

優しくルエを抱きしめて頭を撫でる。
ルエにはいつも笑っていてもらいたい。ルエの憂は全て自分が祓ってやりたい。国王は叔父にあたるが、直接進言するのはさすがに無理だ。しかしその妻の王妃はリチャードの母の親友で子どもの頃はよく遊んでもらった。
結婚の報告もしたいし、挨拶がてら会ってみようかと考えていた。

「そこでなんだが、ルエには兄弟がいるのか?」

唐突にギルバートがルエに尋ねた。

「はい。兄が一人居ます。」

「まだ独身なのか?」

「はい。あ、でも兄上はベータです。」

「え?」

何故か驚いた顔をするギルバートにリチャードは不審な顔をする。

「それがどうかしたのか?」

「え、いや、王城に召し上げられるオメガの中にヘンダーソン家の名前があったような気がして。ちゃんと見たわけじゃないんだ。取引先に王城に出入りする者が居て…。」

「どういうことだ?」

リチャードもルエも驚いている。

「いや、わからない。ルエ、ヘンダーソンの家系にルエ以外にオメガがいるのか?」

「はい。でも年頃のオメガは僕だけのはずです。あとは祖母と叔父と去年生まれた従兄弟だけです。」

「ギル、どういうことだ?ルエは私の妻だ。未婚ではない…。はっ!まさか…。」

勢いよく立ち上がったリチャードが執務机の引き出しを開けて何かを探している。

「ない…あれがない。」

真っ青な顔のリチャードが呆然と立ち尽くしていた。

「リチャード、どうした?あれって何だ?」

ただ事ではない様子のリチャードにギルバートも駆け寄って尋ねた。

「あれだ…離婚届。私のサインがしてある離婚届がない…。」

「「えぇ⁉︎」」

「ノーマン!知らないか?ここにしまっておいて…っ!」

ルエが泣きそうな顔で震えていた。リチャードは急いで駆け寄って抱きしめる。

「大丈夫。ルエは私の妻だ。あの紙の事はすっかり忘れてて…。ルエと一緒に過ごせて幸せ過ぎて忘れていたんだ。ごめんね?でも大丈夫だから。ルエを誰かのところにやるなんて絶対ない。例え相手が国王でもだ。」

「リチャード様…。」

震えて泣くルエをリチャードはさらに強く抱きしめた。


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