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「いらっしゃいませ。」
カリルの街の中心部にあるモダンな作りのレストランの扉をウエイターが恭しく開ける。
リチャードがルエをエスコートして中に入った。
「ここは国王や王族も訪れる由緒正しいレストランだ。」
リチャードの言葉にルエの身体が緊張して縮こまる。
「大丈夫。個室を取っておいたからね。堅苦しくなることはないよ。」
優しい笑顔でルエの頭を撫でた。
ルエにはメニューの内容がよく分からないのでリチャードとウエイターに任せた。前の席に座ったギルバートは遠慮なくいろいろ注文している。
「俺はシャンパンをもらおう。あとメインに合う赤ワインも。ルエは酒はダメか?」
ワインメニューを見ながらギルバートがルエに尋ねる。
「はい。飲んだことがありません。父も母も飲めないのでダメだと思います。」
「なら私の妻にはこの果実水をもらおう。」
しばらくすると料理が順番に運ばれてくる。
まずはアミューズ三種だ。
塩気の利いた小さなタルト生地にサーモンとイクラが乗っている。隣の背の高いグラスには赤座海老とブロッコリーのピューレ、左端にはホタテとトマトのテリーヌだ。
どれも鮮やかで美しく見ているだけで幸せな気持ちになる。
ルエがどう食べようか迷っているとギルバートは手でタルトを取り口に入れた。
「美味い!」
リチャードも手でタルトを取り口に入れる。
「うん、美味しい。塩が利いてる。それなのに塩辛くない。」
二人を真似てルエも手でタルトを取り一口齧った。
「んん!美味しい!」
残りも口に入れて食べる。タルト以外もどれも美味しく綺麗に食べ切った。
そのあともシャキシャキのサラダに桃のポタージュ、外はパリッと中はしっとりと焼き上げられたパンはクリームのように濃厚なバターが添えられている。
ルエたちはどれも美味しく頂いた。
「メインでございます。牛ヒレ肉とフォアグラのロッシーニです。」
バルサミコソースの芳しい香りが食欲をそそる。
蕩けるようなフォアグラと柔らかいヒレ肉は濃厚なのに爽やかなソースとの相性がバッチリだった。
それを食べ終えたルエはかなりお腹がいっぱいになったが目の前のギルバートはまだ足りないとばかりに頼んだものを食べている。
「肉も魚も美味いな。」
「海が近いからな。ルエ、魚は食べる?」
「いいえ、僕はもう…」
隣のリチャードもギルバートと同じくらい食べていた。ギルバートはそれを見て驚いている。リチャードは食に対して欲がない上にさほど量を食べない。
「おまえ、いつからそんな大食漢になったんだ?」
「ルエといると食事が美味しく感じるんだ。」
そう言ってルエの方を見て微笑んだ。
本当に不思議なのだが、ルエと食事をすると味を感じることが出来る。リチャードは食べ物を美味しいと感じたのは子どもの頃以来だった。
メインを食べ切ったルエを見たリチャードはウエイターに声をかけた。
しばらくするとウエイターがデザートを乗せたワゴンを押してルエたちのテーブルの前に止まった。
「ルエ、食べたいものを彼に言いなさい。幾つでも構わないよ。」
「うわぁ…!」
ワゴンの上はまるでおとぎの国のようだ。
色とりどりのデザートが乗っている。
イチゴのケーキに洋梨のタルト、シュークリーム、カシスのババロア、モンブラン、チョコレートケーキ、アップルパイ、それ以外にもいろいろな種類のケーキありどれも小さめなので何種類でも食べられそうだ。
ルエは目を輝かせてそのワゴンを見ていた。
「えっと、えっと…」
「ふふふ、ルエ、大丈夫。逃げないから。ゆっくり選んでごらん。」
「はい。」
嬉しそうに頷くルエにリチャードは蕩けるような笑顔を向けた。
ルエの目の前の皿には小さなシュークリーム、ガトーショコラ、バナナタルト、ナポレオン、オレンジのババロアが並んでいる。
「たくさん頼み過ぎました。」
ちょっと困ったような顔でリチャードを見た。
「残ったケーキは私が食べよう。」
「え?リチャード様はデザートが嫌いでは?」
「ごめんね、ルエ。ノーマンからそう聞いたのか?私はこういったものを嫌いなわけではないんだよ。ドーナツだって食べただろ?」
「あ…。」
屋敷を抜け出した時、ルエはリチャードにドーナツをあげたのだ。リチャードは美味しそうに食べていたのを思い出した。
「私の母が好きだったんだ。ケーキや焼き菓子、パイやタルト、いつも食事の最後には食べていたよ。甘いクリームやバターの香りは亡くなった母を思い出して辛かったんだ。」
ルエが持っていたフォークをそっと置いた。
「でももう良いんだ。思い出よりもルエの喜ぶ顔が見たい。今だって嬉しそうなルエが見られて幸せだよ。ルエが辛い思い出を幸せな時間に塗り替えてくれたんだ。さあ、ほら食べて。でないと私が全部多べてしまうよ。」
ルエは頷いてフォークを持ちバナナタルトを口に入れた。サクッとした生地にフワッとバナナとクリームが口いっぱいに広がる。
「美味しい…。」
「良かった。私にも一口。」
あーんとルエに向かってリチャードが口を開ける。ルエはタルトを小さく掬ってその口の中に入れた。
「うん!本当だ!美味しい。帰ったらうちにもパティシエを雇おうかと思うんだ。」
「パティシエ?」
「ケーキやお菓子を専門に作る料理人のことだよ。そうすれば毎日美味しいデザートが食べられる。」
そう言って幸せそうにルエを見た。
カリルの街の中心部にあるモダンな作りのレストランの扉をウエイターが恭しく開ける。
リチャードがルエをエスコートして中に入った。
「ここは国王や王族も訪れる由緒正しいレストランだ。」
リチャードの言葉にルエの身体が緊張して縮こまる。
「大丈夫。個室を取っておいたからね。堅苦しくなることはないよ。」
優しい笑顔でルエの頭を撫でた。
ルエにはメニューの内容がよく分からないのでリチャードとウエイターに任せた。前の席に座ったギルバートは遠慮なくいろいろ注文している。
「俺はシャンパンをもらおう。あとメインに合う赤ワインも。ルエは酒はダメか?」
ワインメニューを見ながらギルバートがルエに尋ねる。
「はい。飲んだことがありません。父も母も飲めないのでダメだと思います。」
「なら私の妻にはこの果実水をもらおう。」
しばらくすると料理が順番に運ばれてくる。
まずはアミューズ三種だ。
塩気の利いた小さなタルト生地にサーモンとイクラが乗っている。隣の背の高いグラスには赤座海老とブロッコリーのピューレ、左端にはホタテとトマトのテリーヌだ。
どれも鮮やかで美しく見ているだけで幸せな気持ちになる。
ルエがどう食べようか迷っているとギルバートは手でタルトを取り口に入れた。
「美味い!」
リチャードも手でタルトを取り口に入れる。
「うん、美味しい。塩が利いてる。それなのに塩辛くない。」
二人を真似てルエも手でタルトを取り一口齧った。
「んん!美味しい!」
残りも口に入れて食べる。タルト以外もどれも美味しく綺麗に食べ切った。
そのあともシャキシャキのサラダに桃のポタージュ、外はパリッと中はしっとりと焼き上げられたパンはクリームのように濃厚なバターが添えられている。
ルエたちはどれも美味しく頂いた。
「メインでございます。牛ヒレ肉とフォアグラのロッシーニです。」
バルサミコソースの芳しい香りが食欲をそそる。
蕩けるようなフォアグラと柔らかいヒレ肉は濃厚なのに爽やかなソースとの相性がバッチリだった。
それを食べ終えたルエはかなりお腹がいっぱいになったが目の前のギルバートはまだ足りないとばかりに頼んだものを食べている。
「肉も魚も美味いな。」
「海が近いからな。ルエ、魚は食べる?」
「いいえ、僕はもう…」
隣のリチャードもギルバートと同じくらい食べていた。ギルバートはそれを見て驚いている。リチャードは食に対して欲がない上にさほど量を食べない。
「おまえ、いつからそんな大食漢になったんだ?」
「ルエといると食事が美味しく感じるんだ。」
そう言ってルエの方を見て微笑んだ。
本当に不思議なのだが、ルエと食事をすると味を感じることが出来る。リチャードは食べ物を美味しいと感じたのは子どもの頃以来だった。
メインを食べ切ったルエを見たリチャードはウエイターに声をかけた。
しばらくするとウエイターがデザートを乗せたワゴンを押してルエたちのテーブルの前に止まった。
「ルエ、食べたいものを彼に言いなさい。幾つでも構わないよ。」
「うわぁ…!」
ワゴンの上はまるでおとぎの国のようだ。
色とりどりのデザートが乗っている。
イチゴのケーキに洋梨のタルト、シュークリーム、カシスのババロア、モンブラン、チョコレートケーキ、アップルパイ、それ以外にもいろいろな種類のケーキありどれも小さめなので何種類でも食べられそうだ。
ルエは目を輝かせてそのワゴンを見ていた。
「えっと、えっと…」
「ふふふ、ルエ、大丈夫。逃げないから。ゆっくり選んでごらん。」
「はい。」
嬉しそうに頷くルエにリチャードは蕩けるような笑顔を向けた。
ルエの目の前の皿には小さなシュークリーム、ガトーショコラ、バナナタルト、ナポレオン、オレンジのババロアが並んでいる。
「たくさん頼み過ぎました。」
ちょっと困ったような顔でリチャードを見た。
「残ったケーキは私が食べよう。」
「え?リチャード様はデザートが嫌いでは?」
「ごめんね、ルエ。ノーマンからそう聞いたのか?私はこういったものを嫌いなわけではないんだよ。ドーナツだって食べただろ?」
「あ…。」
屋敷を抜け出した時、ルエはリチャードにドーナツをあげたのだ。リチャードは美味しそうに食べていたのを思い出した。
「私の母が好きだったんだ。ケーキや焼き菓子、パイやタルト、いつも食事の最後には食べていたよ。甘いクリームやバターの香りは亡くなった母を思い出して辛かったんだ。」
ルエが持っていたフォークをそっと置いた。
「でももう良いんだ。思い出よりもルエの喜ぶ顔が見たい。今だって嬉しそうなルエが見られて幸せだよ。ルエが辛い思い出を幸せな時間に塗り替えてくれたんだ。さあ、ほら食べて。でないと私が全部多べてしまうよ。」
ルエは頷いてフォークを持ちバナナタルトを口に入れた。サクッとした生地にフワッとバナナとクリームが口いっぱいに広がる。
「美味しい…。」
「良かった。私にも一口。」
あーんとルエに向かってリチャードが口を開ける。ルエはタルトを小さく掬ってその口の中に入れた。
「うん!本当だ!美味しい。帰ったらうちにもパティシエを雇おうかと思うんだ。」
「パティシエ?」
「ケーキやお菓子を専門に作る料理人のことだよ。そうすれば毎日美味しいデザートが食べられる。」
そう言って幸せそうにルエを見た。
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