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リチャードは今日ルエに離婚の話をすることにした。希望するなら仕事を紹介してやってもいい。
書類に目を通していると窓の外が騒がしいことに気がついた。イスから立ち上がり、窓に近づくと樫の木の枝に小さな男がいるのが見えた。
え?何故こんな所に?
リチャードが唖然と見つめているとその男がこちらを向いた。その顔を見て固まってしまう。
艶のある榛色の髪、小さな顔、そして驚いて見開く瞳に見覚えがあった。光の加減で虹色に見える。
ルイだ!リチャードがずっと探していたルイだ!
なぜルイがここに?
「ルエ様ーーー!危ないです!」
ノーマンの叫ぶ声が聞こえる。
ルエ様?
どういうことだ?
全く現状が飲み込めず固まっているとバキバキっと枝が折れる大きな音がした。
「しまった!」
窓を開けて手を伸ばした時にはもう遅く、枝が折れてルエと呼ばれた男が地面に落ちるのを唖然と見つめるだけだった。
「ノーマン、触るな!動かしてはダメだ!そのままにしろっ!」
二階の窓から叫び庭に急ぐ。
ルエが倒れている周りにメイドやノーマンが心配そうに立っている。ルイの胸の上で小さな子猫が鳴いていた。
「ノーマン、どういうことだ。この者は誰だ!」
「旦那様。この方がルエ様です。枝から降りられなくなった子猫を助けようとして…。」
メイドの一人が子猫を抱き上げた。
どういうことだ。ルエはルイなのか?
ルエはオメガのはずだ。
リチャードは頭が混乱している。
「と、とにかく医者を呼べ。」
医者に診せたが骨は問題ない、頭を打っているかもしれないので安静にするよう言われた。
「ノーマン、ルエを私の部屋へ運ぶぞ。」
「え?だ、旦那様のお部屋に?」
「そうだ。」
リチャードはそっとルエを抱き上げた。ふわりとジャスミンの匂いがした。目を閉じていても分かる。ルエはルイだ。
泣きたくなるような気持ちになったがぐっと堪えて自分の部屋に運んだ。
「旦那様、ルエ様は?」
「まだ目を覚さない。それはそこに置いといてくれ。あとは私がやる。」
ワゴンの上には湯の入ったタライとタオル、着替えの寝巻きが置いてあった。
「分かりました。」
ルエが木から落ちて丸一日が経った。目を覚さないルエを今日も医者に診せたが、よく分からないと言われた。
「ルエ…。」
タオルを絞って顔を拭く。
ずっと探していたルイはルエだった。
「ルエ、すまない…。」
ポロポロと涙がこぼれる。自分の探していた男は自分の屋敷に居たのだ。
見つからないはずだ。ベータの男を探していたのだから。
何故ベータだと偽ったのか分からないが、本当はオメガだった。涙を拭いルエの匂いを嗅ぐ。
優しいジャスミンの匂いだ。ずっと嗅いでいたい匂い。
リチャードは泣きながらルエの身体を拭き、着替えをした。
ベッドサイドに椅子を持ってきて座りルエを眺めた。
『僕は必要とされていない』ルエは確かそう言っていた。
それはリチャード自身とのことだ。オメガだからといって冷たく扱った。
ギルバートやノーマンはルエが優しくて真面目だと言っていた。リチャードにもそれは分かる。
あの日、たった一日一緒に居ただけだがルエの人柄はよく分かった。
ルエは優しく真面目で今まで会ったオメガとは違う。
自分が頑なだったためにルエを傷付けた。
ルエが目を開けたら謝ろう。許してもらえなくてもいい。この屋敷に居てもらいたい。一生を懸けて償いたい。
「ルエ、目を開けてくれ。頼むから…。」
リチャードは優しくルエの頭を撫でた。
「旦那様、少しお休みにならないと…。」
三日目の朝、とうとうノーマンがリチャードに声をかけた。リチャードはほとんど寝ずにルエの看病をしている。食事もそこそこにルエの側から離れないのだ。
「私は平気だ。居ない間に何かあったら…。」
ノーマンは小さくため息をついて部屋を出て行った。
リチャードはルエの身体を拭いて着替えさせる。
それが終わるとベッドサイドの椅子に座りひたすらルエを眺めていた。
少しクセのある柔らかい髪、寝顔は天使のようだ。
その髪を撫でているとリチャードはイスの上でうとうとしだした。
ルエは良い匂いに包まれて幸せな気持ちで寝ていた。まるで天国にでもいるようだ。
暖かくて柔らかい布団、それにルエの大好きな匂いもする。目が覚めたくないと思っていたがどうやら目が覚めてしまったようだ。
見慣れない天蓋のベッド。豪華な彫刻とビロードの布が垂れている。
「…ここは?」
思わず声が出た。
「ルエ⁉︎ルエ、目が覚めたのか?」
目の前に現れた男が泣いている。ルエのことを知っているようだ。名前を呼んでいる。
「誰、ですか…?」
そう問いかけると男の顔が苦しそうに歪んだ。
ルエはリチャードの顔を良く知らないのだ。幼い頃の記憶しかない。
ここへ来て一度も顔を合わせていないからだ。
それはリチャード自身が望んだことだ。
自分がしたことの惨さを突きつけられたリチャードはルエに申し訳なくなった。
「ルエ、私はリチャード・クロフォードだ。」
「え?リチャード様?えっとここは…?」
「ここは私の部屋だ。」
ルエば急いで起きようとするがリチャードに止められた。
「ダメだ。安静にしないと。今医者を呼ぶから。」
強い声で嗜められてベッドに身体を預けた。
すぐに医者が来て隅々まで診察される。
「もう大丈夫でしょう。背中を打ってますが、そのおかげで頭は無事でした。無理はせずゆっくり動くようにして下さい。」
医者とノーマンが出て行き、また二人きりになった。
「あ、あの。僕はどうしたんでしょうか。」
「覚えてないのか?木から落ちたんだよ。もう三日も目を覚さなかったんだ。」
書類に目を通していると窓の外が騒がしいことに気がついた。イスから立ち上がり、窓に近づくと樫の木の枝に小さな男がいるのが見えた。
え?何故こんな所に?
リチャードが唖然と見つめているとその男がこちらを向いた。その顔を見て固まってしまう。
艶のある榛色の髪、小さな顔、そして驚いて見開く瞳に見覚えがあった。光の加減で虹色に見える。
ルイだ!リチャードがずっと探していたルイだ!
なぜルイがここに?
「ルエ様ーーー!危ないです!」
ノーマンの叫ぶ声が聞こえる。
ルエ様?
どういうことだ?
全く現状が飲み込めず固まっているとバキバキっと枝が折れる大きな音がした。
「しまった!」
窓を開けて手を伸ばした時にはもう遅く、枝が折れてルエと呼ばれた男が地面に落ちるのを唖然と見つめるだけだった。
「ノーマン、触るな!動かしてはダメだ!そのままにしろっ!」
二階の窓から叫び庭に急ぐ。
ルエが倒れている周りにメイドやノーマンが心配そうに立っている。ルイの胸の上で小さな子猫が鳴いていた。
「ノーマン、どういうことだ。この者は誰だ!」
「旦那様。この方がルエ様です。枝から降りられなくなった子猫を助けようとして…。」
メイドの一人が子猫を抱き上げた。
どういうことだ。ルエはルイなのか?
ルエはオメガのはずだ。
リチャードは頭が混乱している。
「と、とにかく医者を呼べ。」
医者に診せたが骨は問題ない、頭を打っているかもしれないので安静にするよう言われた。
「ノーマン、ルエを私の部屋へ運ぶぞ。」
「え?だ、旦那様のお部屋に?」
「そうだ。」
リチャードはそっとルエを抱き上げた。ふわりとジャスミンの匂いがした。目を閉じていても分かる。ルエはルイだ。
泣きたくなるような気持ちになったがぐっと堪えて自分の部屋に運んだ。
「旦那様、ルエ様は?」
「まだ目を覚さない。それはそこに置いといてくれ。あとは私がやる。」
ワゴンの上には湯の入ったタライとタオル、着替えの寝巻きが置いてあった。
「分かりました。」
ルエが木から落ちて丸一日が経った。目を覚さないルエを今日も医者に診せたが、よく分からないと言われた。
「ルエ…。」
タオルを絞って顔を拭く。
ずっと探していたルイはルエだった。
「ルエ、すまない…。」
ポロポロと涙がこぼれる。自分の探していた男は自分の屋敷に居たのだ。
見つからないはずだ。ベータの男を探していたのだから。
何故ベータだと偽ったのか分からないが、本当はオメガだった。涙を拭いルエの匂いを嗅ぐ。
優しいジャスミンの匂いだ。ずっと嗅いでいたい匂い。
リチャードは泣きながらルエの身体を拭き、着替えをした。
ベッドサイドに椅子を持ってきて座りルエを眺めた。
『僕は必要とされていない』ルエは確かそう言っていた。
それはリチャード自身とのことだ。オメガだからといって冷たく扱った。
ギルバートやノーマンはルエが優しくて真面目だと言っていた。リチャードにもそれは分かる。
あの日、たった一日一緒に居ただけだがルエの人柄はよく分かった。
ルエは優しく真面目で今まで会ったオメガとは違う。
自分が頑なだったためにルエを傷付けた。
ルエが目を開けたら謝ろう。許してもらえなくてもいい。この屋敷に居てもらいたい。一生を懸けて償いたい。
「ルエ、目を開けてくれ。頼むから…。」
リチャードは優しくルエの頭を撫でた。
「旦那様、少しお休みにならないと…。」
三日目の朝、とうとうノーマンがリチャードに声をかけた。リチャードはほとんど寝ずにルエの看病をしている。食事もそこそこにルエの側から離れないのだ。
「私は平気だ。居ない間に何かあったら…。」
ノーマンは小さくため息をついて部屋を出て行った。
リチャードはルエの身体を拭いて着替えさせる。
それが終わるとベッドサイドの椅子に座りひたすらルエを眺めていた。
少しクセのある柔らかい髪、寝顔は天使のようだ。
その髪を撫でているとリチャードはイスの上でうとうとしだした。
ルエは良い匂いに包まれて幸せな気持ちで寝ていた。まるで天国にでもいるようだ。
暖かくて柔らかい布団、それにルエの大好きな匂いもする。目が覚めたくないと思っていたがどうやら目が覚めてしまったようだ。
見慣れない天蓋のベッド。豪華な彫刻とビロードの布が垂れている。
「…ここは?」
思わず声が出た。
「ルエ⁉︎ルエ、目が覚めたのか?」
目の前に現れた男が泣いている。ルエのことを知っているようだ。名前を呼んでいる。
「誰、ですか…?」
そう問いかけると男の顔が苦しそうに歪んだ。
ルエはリチャードの顔を良く知らないのだ。幼い頃の記憶しかない。
ここへ来て一度も顔を合わせていないからだ。
それはリチャード自身が望んだことだ。
自分がしたことの惨さを突きつけられたリチャードはルエに申し訳なくなった。
「ルエ、私はリチャード・クロフォードだ。」
「え?リチャード様?えっとここは…?」
「ここは私の部屋だ。」
ルエば急いで起きようとするがリチャードに止められた。
「ダメだ。安静にしないと。今医者を呼ぶから。」
強い声で嗜められてベッドに身体を預けた。
すぐに医者が来て隅々まで診察される。
「もう大丈夫でしょう。背中を打ってますが、そのおかげで頭は無事でした。無理はせずゆっくり動くようにして下さい。」
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