みにくいオメガの子

みこと

文字の大きさ
上 下
27 / 30

19

しおりを挟む
「由紀、大丈夫?」

「うん…。なんとか。」

頭がぼーっとして授業が身に入らなかった。
真紘が言うには千聖さんがフェロモンを使ったらしい。頭がぼーっとして身体が熱い。でもだいぶ元に戻ってきた。

「トシくんに頼んで祐一さん呼んだから。」

「え?」

真紘の顔を見るとかなり怒っているのが分かる。

「由紀!」

祐一さんとトシくんが走ってきた。

「祐一さん…。僕…」

「うん。大丈夫だよ。送ってくから帰ろう。」

祐一さんは僕を抱えるようにして歩き出した。

「由紀、また明日ね。祐一さん、よろしくお願いします。」

「あぁ。連絡ありがとう。」

『よろしくお願いします』って。お母さんみたいだ。
そのまま歩いて近くのパーキングに停めてある祐一さんの車に乗せられた。

「由紀、大丈夫?何か飲む?」

小さく首を振った。
祐一さんは心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。

「真紘がフェロモンて…。」

「そうみたいだね。クソッ!あ、ごめん。」

「ごめんなさい。」

「いや、由紀は悪くないよ。腹を立ててるのは相手のアルファにだよ。ごめん。」

千聖さんはオメガを誘惑するフェロモンを使ったみたいだ。そんなに強くフェロモンは出してないみたいだけど、他人相手に使うフェロモンじゃない。
僕は鈍感でよく分からなかった。真紘が来てくれて良かった。

「山城千聖か…。法学部の四年。知ってるかもしれない。」

「同じ大学。」

「うん。でも由紀が無事で良かった。山城っていうヤツには無茶苦茶腹が立つけど。」

祐一さんからはふわっと優しい匂いがする。怒ってるはずなのに…。
その匂いに吸い寄せられるように祐一さんの肩に額を乗せた。

「由紀…。本当に大丈夫?」

「うん。まだ少しぼーっとするけど、祐一さん良い匂い。」

抱きしめて頭を撫でてくれる。さらに匂いが濃くなって身体が暖かくなった。

「クソッ!俺の大事な由紀に。」

「祐一さん、もう大丈夫だよ。」

「本当?」

「うん。」

祐一に家まで送ってもらった。真紘も心配して電話をくれた。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「由紀は処女のオメガだからね。簡単にアルファのフェロモンにはやられちゃうんだよ。僕はトシくんのフェロモンにガードされてるから。あの人は気を付けた方がいいよ。」

処女のオメガ…。まぁ、そうだけど。

「真紘、声が大きいよ…」

いつものファミレスので勉強している。明日提出の課題だ。一ヶ月前よりは問題が解けるようになってきた。
一息ついていると真紘がこの間の事を掘り返してきた。

「由紀くん。」

「え?」

聞いたことがある声に顔を上げると千聖さんが立っていた。真紘はあんぐりと口を開けている。
何でこんな所に…。

「この間はごめん。由紀くんが可愛くてつい…。」

この間…。あのフェロモンのことか。

「い、いえ。あのどうしてここに?」

「たまたまだよ。前を通ったら顔が見えてね。勉強?教えようか?」

「間に合ってます!」

真紘が大きな声で言った。千聖さんが真紘を見る。

「今から僕たち恋人と待ち合わせなんです。」

「…そう。分かった。じゃあね由紀くん。また。」

そう言ってファミレスを出て行った。

「これで何度目?本当に偶然?」

真紘が小声で僕に言った。

「どういうこと?」

「着けられるとか…。とにかく祐一さんに連絡しなよ。」

「う、うん。」

慌ててスマホでメッセージを送った。すぐに返事があって三十分くらいでここに来てくれる。




「由紀!大丈夫?」

祐一さんが血相を変えてファミレスに入ってきた。

「うん。何もされてないよ。」

「でも、おかしいよ。こんなに何度も会う?あれからまだ四日しか経ってないんだよ?」

真紘が興奮している。そして千聖さんをあのフェロモンの件以来信用していない。

「そうだな。由紀、何か変わったことはある?」

僕の隣祐一さんが座った。

「特には…。」

「もう、祐一さん、早く由紀にマーキングしてよ。怖くて見てられないよ。」

え?マーキング?
思わず祐一さんと顔を見合わせてしまった。
あ、そうか。僕は、その、処女オメガだから…。

「いや、それは、その、ちゃんと由紀が心を決めてからだから…。」

祐一さんは顔を赤くしてしどろもどろになった。
きっと僕の顔も赤いはずだ。

「あ、そうだ!これ。」

何かを思い出した祐一さんが鞄の中から小さな袋を出してきた。
中を見るとぬこニャンの小さいぬいぐるみが入っている。

「うわっ!コラボのぬこニャン。祐一さんありがとう。」 

スポーツメーカーとコラボのぬこニャンだ。
可愛い!

「うん。昨日見つけたんだ。」

「由紀、まだぬこニャン集めてるの?」

「うーん、集めてるって程でもないけど。祐一さんがくれるんだ。」

「見るとつい由紀を思い出して買っちゃうんだよ。でもなかなか売ってない。」

手の上にぬこニャンを乗せる。大きいぬいぐるみの隣に置こう。真紘に手の上のぬこニャンを見せた。

「この間ももらっちゃって。ナイトライトとぬいぐるみ。ぬいぐるみはナース服来てて可愛いんだ。」

「え?」

祐一さんが驚いたような顔で僕を見た。
え?何か変なこと言った?

「由紀、俺はライトしか送ってない…。」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

「じゃあ、別れるか」

万年青二三歳
BL
 三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。  期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。  ケンカップル好きへ捧げます。  ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

処理中です...