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俊之5
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ナースステーションの受付で部屋の場所を聞いてそこに向かう。
怖い…。
真紘の顔が見たい気持ちともう終わるかもしれないという恐怖。
『810A』
薄いブルーの部屋のドアをノックする。
「はーい。」
真紘の声だ。
ドアを開けると真紘とご両親がいた。真紘はベッドに座っていた。顔色も良くなっている。元気そうで良かった。
「じゃあ、お母さんたち帰るから。また夕方来るからね。」
部屋を出ていくご両親に頭を下げた。
「きちんと話し合って下さい。」
真紘の父親にポンと肩を叩かれた。二人はそのまま出て行きしばらく沈黙が続いた。
「真紘、ごめん。」
「うん。ちゃんと説明して。」
ベッドサイドにイスを持ってきて座った。
秀穂のことを話した。一年前に知り合ったこと。体の関係があったこと、真紘に出会って別れたこと。その時少し揉めて金を払ったことを話した。
「揉めたって?どういうこと?」
「真紘がいても良いから会って欲しいって。でも断ったよ。本当だ。」
また沈黙が続いた。俺は俯いて顔を上げられなかったので真紘の表情は分からなかった。
「で?トシくんはどうしたいの?」
「俺は、…俺としては、その、真紘と別れたくない。」
声が震える。
「はぁ~。本当に僕と付き合ってからは会ってないんだよね?その秀穂って子だけじゃなく。誰とも。」
「絶対に会ってない。あ、そうだ!」
スマホを見せた。メッセージアプリが残っているはずだ。ブロックはしたけど削除はしてない。
真紘にやり取りの最後の日付けを見せた。こんなもので証拠になるか分からない。
「もういいよ。この五ヶ月ずっと一緒にいたから分かるよ。毎日トシくんと会ってた。他の人に会う時間なんてなかったはずだよ。まぁ、僕が帰ってからは分からないけど。」
スマホを返された。
「会ってないよ。真紘だけだ。本当に…。」
「自分がした事を良く考えてね。誰かを傷付ければ必ず自分に返ってくるんだ。」
「うん。ごめん。」
「じゃあ、もうこの話はおしまい。」
「え?真紘?え、その俺は?…もう、終わり?」
「僕に出会う前のことをとやかく言うつもりはないよ。トシくんが品行方正だったなんて最初から思ってないし。今、ちゃんとしてくれているならそれで良い。あと、これから先も。」
まじまじと真紘を見た。ちょうど窓からの陽の光を浴びて後光が差しているみたいだ。
俺は許されたんだろうか。
「真紘、許してくれるのか?」
「次はないよ。もっと相手のことを考えて行動して。」
「うん。真紘、ありがとう。大好きだ。…愛してる。」
泣きながら真紘に抱きついた。真紘はそっと背中を撫でてくれた。
俺の可愛いオメガ。一生大事にする。
さらにぎゅっと抱きしめた。
「トシくん、痛い。まだ傷が痛いんだ。」
「あ、ご、ごめん。大丈夫か?」
パッと離れて顔を覗き込んだ。顔を顰めている。
「うん。トシくんまた泣いてる。」
「だって、もうダメかと思った…。」
真紘はふふっと可愛く笑った。
主治医に許可をもらって病院に泊まっている。真紘の病室にソファーがあるのでそこに寝ている。
「トシくん、付き添わなくても大丈夫だよ。ソファーじゃ眠れないでしょ?」
「いや、そんな事ないよ。意外と寝れる。家にいても真紘が心配で寝れないから、こっちの方が良く眠れるんだ。」
真紘は付き添いはいらないと言うけど真紘のために何か少しでもしてやりたい。手術して三日目には歩けるようになったので、体力をつけるために部屋の中を歩いている。治療は朝昼夕の抗生物質の点滴と貧血の点滴だけだ。それ以外の時間は少しずつ歩いたり、勉強をしたりしている。
「星野さん、身体を拭きましょう。」
看護師が部屋に入ってきた。男の看護師だ。手にはタオルを持っている。
「俺がやるから置いといて下さい。」
看護師に声をかけた。男の看護師に真紘を触らせたくない。
「いや、大丈夫です。点滴もありますし、私がやりますよ。」
看護師は引き下がらない。点滴が終わってから俺がやるのに。
「真紘はオメガだ。男に触らせるわけにはいかない。」
「ちょっと、トシくん…。」
キツめに看護師に言うとそいつは部屋を出て行った。
「相手は仕事だよ?オメガとか関係ないよ。」
「それでもダメだ。真紘は俺のだ。」
呆れる真紘を抱きしめた。俺のオメガに触らせたくない。抱きしめて髪を撫でていると女の看護師が入ってきた。
「私もオメガです。お着替えのお手伝いしますよ。」
にこりと笑った。オメガか…なら良いか。
「さっきの看護師はベータなんです。だから分からないかも。」
そう言って真紘の身体を拭いて着替えを手伝って部屋を出て行った。
どうしても出なきゃいけない授業以外は真紘のそばにいて勉強を見たり、身体を拭いたり、髪を洗ってやったりした。
俺の両親が見舞いに来て真紘に頭を下げた。
親父なんて誰かに頭を下げたことなんてないはずだ。そんな親父が土下座する勢いだった。母親は俺を許してくれた事を泣いて喜んでいた。
一週間後に退院できるようだ。真紘の学校もあまり休めないし、休んでいる理由も担任と校長しか知らないので直ぐに学校に行かなければならない。
当面は俺が送り迎えする。
退院の前の日にオメガの看護師二人から連絡先を渡されたがそのまま返した。真紘にも報告した。
「ふーん、トシくんモテるもんね。」
真紘が頬を膨らませてやきもちを焼いている。…可愛い。
「俺は真紘だけだ。」
抱きしめて顔中にキスをした。そのまま耳と首筋にもキスをする。
「もう、擽ったい。でも僕ももらったよ。」
「え?誰から?」
ガバッと離れて顔を見る。
真紘はあの男の看護師と研修医二人から連絡先を渡されていた。
驚いた。いつの間に…。研修医はアルファだけど看護師はベータだろ。
「トシくんと番うからダメって言った。」
「真紘…。」
ふふふと笑う真紘をもう一度抱きしめて可愛い唇に何度もキスをした。
当分セックスは出来ないけどこれで充分だ。
怖い…。
真紘の顔が見たい気持ちともう終わるかもしれないという恐怖。
『810A』
薄いブルーの部屋のドアをノックする。
「はーい。」
真紘の声だ。
ドアを開けると真紘とご両親がいた。真紘はベッドに座っていた。顔色も良くなっている。元気そうで良かった。
「じゃあ、お母さんたち帰るから。また夕方来るからね。」
部屋を出ていくご両親に頭を下げた。
「きちんと話し合って下さい。」
真紘の父親にポンと肩を叩かれた。二人はそのまま出て行きしばらく沈黙が続いた。
「真紘、ごめん。」
「うん。ちゃんと説明して。」
ベッドサイドにイスを持ってきて座った。
秀穂のことを話した。一年前に知り合ったこと。体の関係があったこと、真紘に出会って別れたこと。その時少し揉めて金を払ったことを話した。
「揉めたって?どういうこと?」
「真紘がいても良いから会って欲しいって。でも断ったよ。本当だ。」
また沈黙が続いた。俺は俯いて顔を上げられなかったので真紘の表情は分からなかった。
「で?トシくんはどうしたいの?」
「俺は、…俺としては、その、真紘と別れたくない。」
声が震える。
「はぁ~。本当に僕と付き合ってからは会ってないんだよね?その秀穂って子だけじゃなく。誰とも。」
「絶対に会ってない。あ、そうだ!」
スマホを見せた。メッセージアプリが残っているはずだ。ブロックはしたけど削除はしてない。
真紘にやり取りの最後の日付けを見せた。こんなもので証拠になるか分からない。
「もういいよ。この五ヶ月ずっと一緒にいたから分かるよ。毎日トシくんと会ってた。他の人に会う時間なんてなかったはずだよ。まぁ、僕が帰ってからは分からないけど。」
スマホを返された。
「会ってないよ。真紘だけだ。本当に…。」
「自分がした事を良く考えてね。誰かを傷付ければ必ず自分に返ってくるんだ。」
「うん。ごめん。」
「じゃあ、もうこの話はおしまい。」
「え?真紘?え、その俺は?…もう、終わり?」
「僕に出会う前のことをとやかく言うつもりはないよ。トシくんが品行方正だったなんて最初から思ってないし。今、ちゃんとしてくれているならそれで良い。あと、これから先も。」
まじまじと真紘を見た。ちょうど窓からの陽の光を浴びて後光が差しているみたいだ。
俺は許されたんだろうか。
「真紘、許してくれるのか?」
「次はないよ。もっと相手のことを考えて行動して。」
「うん。真紘、ありがとう。大好きだ。…愛してる。」
泣きながら真紘に抱きついた。真紘はそっと背中を撫でてくれた。
俺の可愛いオメガ。一生大事にする。
さらにぎゅっと抱きしめた。
「トシくん、痛い。まだ傷が痛いんだ。」
「あ、ご、ごめん。大丈夫か?」
パッと離れて顔を覗き込んだ。顔を顰めている。
「うん。トシくんまた泣いてる。」
「だって、もうダメかと思った…。」
真紘はふふっと可愛く笑った。
主治医に許可をもらって病院に泊まっている。真紘の病室にソファーがあるのでそこに寝ている。
「トシくん、付き添わなくても大丈夫だよ。ソファーじゃ眠れないでしょ?」
「いや、そんな事ないよ。意外と寝れる。家にいても真紘が心配で寝れないから、こっちの方が良く眠れるんだ。」
真紘は付き添いはいらないと言うけど真紘のために何か少しでもしてやりたい。手術して三日目には歩けるようになったので、体力をつけるために部屋の中を歩いている。治療は朝昼夕の抗生物質の点滴と貧血の点滴だけだ。それ以外の時間は少しずつ歩いたり、勉強をしたりしている。
「星野さん、身体を拭きましょう。」
看護師が部屋に入ってきた。男の看護師だ。手にはタオルを持っている。
「俺がやるから置いといて下さい。」
看護師に声をかけた。男の看護師に真紘を触らせたくない。
「いや、大丈夫です。点滴もありますし、私がやりますよ。」
看護師は引き下がらない。点滴が終わってから俺がやるのに。
「真紘はオメガだ。男に触らせるわけにはいかない。」
「ちょっと、トシくん…。」
キツめに看護師に言うとそいつは部屋を出て行った。
「相手は仕事だよ?オメガとか関係ないよ。」
「それでもダメだ。真紘は俺のだ。」
呆れる真紘を抱きしめた。俺のオメガに触らせたくない。抱きしめて髪を撫でていると女の看護師が入ってきた。
「私もオメガです。お着替えのお手伝いしますよ。」
にこりと笑った。オメガか…なら良いか。
「さっきの看護師はベータなんです。だから分からないかも。」
そう言って真紘の身体を拭いて着替えを手伝って部屋を出て行った。
どうしても出なきゃいけない授業以外は真紘のそばにいて勉強を見たり、身体を拭いたり、髪を洗ってやったりした。
俺の両親が見舞いに来て真紘に頭を下げた。
親父なんて誰かに頭を下げたことなんてないはずだ。そんな親父が土下座する勢いだった。母親は俺を許してくれた事を泣いて喜んでいた。
一週間後に退院できるようだ。真紘の学校もあまり休めないし、休んでいる理由も担任と校長しか知らないので直ぐに学校に行かなければならない。
当面は俺が送り迎えする。
退院の前の日にオメガの看護師二人から連絡先を渡されたがそのまま返した。真紘にも報告した。
「ふーん、トシくんモテるもんね。」
真紘が頬を膨らませてやきもちを焼いている。…可愛い。
「俺は真紘だけだ。」
抱きしめて顔中にキスをした。そのまま耳と首筋にもキスをする。
「もう、擽ったい。でも僕ももらったよ。」
「え?誰から?」
ガバッと離れて顔を見る。
真紘はあの男の看護師と研修医二人から連絡先を渡されていた。
驚いた。いつの間に…。研修医はアルファだけど看護師はベータだろ。
「トシくんと番うからダメって言った。」
「真紘…。」
ふふふと笑う真紘をもう一度抱きしめて可愛い唇に何度もキスをした。
当分セックスは出来ないけどこれで充分だ。
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