みにくいオメガの子

みこと

文字の大きさ
上 下
25 / 30

俊之5

しおりを挟む
ナースステーションの受付で部屋の場所を聞いてそこに向かう。
怖い…。
真紘の顔が見たい気持ちともう終わるかもしれないという恐怖。
『810A』
薄いブルーの部屋のドアをノックする。

「はーい。」

真紘の声だ。
ドアを開けると真紘とご両親がいた。真紘はベッドに座っていた。顔色も良くなっている。元気そうで良かった。

「じゃあ、お母さんたち帰るから。また夕方来るからね。」

部屋を出ていくご両親に頭を下げた。

「きちんと話し合って下さい。」

真紘の父親にポンと肩を叩かれた。二人はそのまま出て行きしばらく沈黙が続いた。

「真紘、ごめん。」

「うん。ちゃんと説明して。」

ベッドサイドにイスを持ってきて座った。
秀穂のことを話した。一年前に知り合ったこと。体の関係があったこと、真紘に出会って別れたこと。その時少し揉めて金を払ったことを話した。

「揉めたって?どういうこと?」

「真紘がいても良いから会って欲しいって。でも断ったよ。本当だ。」

また沈黙が続いた。俺は俯いて顔を上げられなかったので真紘の表情は分からなかった。

「で?トシくんはどうしたいの?」

「俺は、…俺としては、その、真紘と別れたくない。」

声が震える。

「はぁ~。本当に僕と付き合ってからは会ってないんだよね?その秀穂って子だけじゃなく。誰とも。」

「絶対に会ってない。あ、そうだ!」

スマホを見せた。メッセージアプリが残っているはずだ。ブロックはしたけど削除はしてない。
真紘にやり取りの最後の日付けを見せた。こんなもので証拠になるか分からない。

「もういいよ。この五ヶ月ずっと一緒にいたから分かるよ。毎日トシくんと会ってた。他の人に会う時間なんてなかったはずだよ。まぁ、僕が帰ってからは分からないけど。」

スマホを返された。

「会ってないよ。真紘だけだ。本当に…。」

「自分がした事を良く考えてね。誰かを傷付ければ必ず自分に返ってくるんだ。」

「うん。ごめん。」

「じゃあ、もうこの話はおしまい。」

「え?真紘?え、その俺は?…もう、終わり?」

「僕に出会う前のことをとやかく言うつもりはないよ。トシくんが品行方正だったなんて最初から思ってないし。今、ちゃんとしてくれているならそれで良い。あと、これから先も。」

まじまじと真紘を見た。ちょうど窓からの陽の光を浴びて後光が差しているみたいだ。
俺は許されたんだろうか。

「真紘、許してくれるのか?」

「次はないよ。もっと相手のことを考えて行動して。」

「うん。真紘、ありがとう。大好きだ。…愛してる。」

泣きながら真紘に抱きついた。真紘はそっと背中を撫でてくれた。
俺の可愛いオメガ。一生大事にする。
さらにぎゅっと抱きしめた。

「トシくん、痛い。まだ傷が痛いんだ。」

「あ、ご、ごめん。大丈夫か?」

パッと離れて顔を覗き込んだ。顔を顰めている。

「うん。トシくんまた泣いてる。」

「だって、もうダメかと思った…。」

真紘はふふっと可愛く笑った。





主治医に許可をもらって病院に泊まっている。真紘の病室にソファーがあるのでそこに寝ている。

「トシくん、付き添わなくても大丈夫だよ。ソファーじゃ眠れないでしょ?」

「いや、そんな事ないよ。意外と寝れる。家にいても真紘が心配で寝れないから、こっちの方が良く眠れるんだ。」

真紘は付き添いはいらないと言うけど真紘のために何か少しでもしてやりたい。手術して三日目には歩けるようになったので、体力をつけるために部屋の中を歩いている。治療は朝昼夕の抗生物質の点滴と貧血の点滴だけだ。それ以外の時間は少しずつ歩いたり、勉強をしたりしている。

「星野さん、身体を拭きましょう。」

看護師が部屋に入ってきた。男の看護師だ。手にはタオルを持っている。

「俺がやるから置いといて下さい。」

看護師に声をかけた。男の看護師に真紘を触らせたくない。

「いや、大丈夫です。点滴もありますし、私がやりますよ。」

看護師は引き下がらない。点滴が終わってから俺がやるのに。

「真紘はオメガだ。男に触らせるわけにはいかない。」

「ちょっと、トシくん…。」

キツめに看護師に言うとそいつは部屋を出て行った。

「相手は仕事だよ?オメガとか関係ないよ。」

「それでもダメだ。真紘は俺のだ。」

呆れる真紘を抱きしめた。俺のオメガに触らせたくない。抱きしめて髪を撫でていると女の看護師が入ってきた。

「私もオメガです。お着替えのお手伝いしますよ。」

にこりと笑った。オメガか…なら良いか。

「さっきの看護師はベータなんです。だから分からないかも。」

そう言って真紘の身体を拭いて着替えを手伝って部屋を出て行った。
どうしても出なきゃいけない授業以外は真紘のそばにいて勉強を見たり、身体を拭いたり、髪を洗ってやったりした。
俺の両親が見舞いに来て真紘に頭を下げた。
親父なんて誰かに頭を下げたことなんてないはずだ。そんな親父が土下座する勢いだった。母親は俺を許してくれた事を泣いて喜んでいた。

一週間後に退院できるようだ。真紘の学校もあまり休めないし、休んでいる理由も担任と校長しか知らないので直ぐに学校に行かなければならない。
当面は俺が送り迎えする。

退院の前の日にオメガの看護師二人から連絡先を渡されたがそのまま返した。真紘にも報告した。

「ふーん、トシくんモテるもんね。」

真紘が頬を膨らませてやきもちを焼いている。…可愛い。

「俺は真紘だけだ。」

抱きしめて顔中にキスをした。そのまま耳と首筋にもキスをする。

「もう、擽ったい。でも僕ももらったよ。」

「え?誰から?」

ガバッと離れて顔を見る。
真紘はあの男の看護師と研修医二人から連絡先を渡されていた。
驚いた。いつの間に…。研修医はアルファだけど看護師はベータだろ。

「トシくんと番うからダメって言った。」

「真紘…。」

ふふふと笑う真紘をもう一度抱きしめて可愛い唇に何度もキスをした。
当分セックスは出来ないけどこれで充分だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平穏なβ人生の終わりの始まりについて(完結)

ビスケット
BL
アルファ、ベータ、オメガの三つの性が存在するこの世界では、αこそがヒエラルキーの頂点に立つ。オメガは生まれついて庇護欲を誘う儚げな美しさの容姿と、αと番うという性質を持つ特権的な存在であった。そんな世界で、その他大勢といった雑なくくりの存在、ベータ。 希少な彼らと違って、取り立ててドラマチックなことも起きず、普通に出会い恋をして平々凡々な人生を送る。希少な者と、そうでない者、彼らの間には目に見えない壁が存在し、交わらないまま世界は回っていく。 そんな世界に生を受け、平凡上等を胸に普通に生きてきたβの男、山岸守28歳。淡々と努力を重ね、それなりに高スペックになりながらも、地味に埋もれるのはβの宿命と割り切っている。 しかしそんな男の日常が脆くも崩れようとしていた・・・

溺愛オメガバース

暁 紅蓮
BL
Ωである呉羽皐月(クレハサツキ)と‪α‬である新垣翔(アラガキショウ)の運命の番の出会い物語。 高校1年入学式の時に運命の番である翔と目が合い、発情してしまう。それから番となり、‪α‬である翔はΩの皐月を溺愛していく。

落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす
BL
 αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。  努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。  世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。  失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。  しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。  あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?  コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。  小説家になろうにも掲載。

こじらせΩのふつうの婚活

深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。 彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。 しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。 裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

愛しいアルファが擬態をやめたら。

フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」 「その言い方ヤメロ」  黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。 ◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。 ◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

巣作りΩと優しいα

伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。 そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……

処理中です...