24 / 30
俊之4
しおりを挟む
由紀から電話があったときは何かの冗談だと思った。
でも泣きながら震える声に只事じゃないと察して一緒にいた祐一と桜ヶ丘病院に向かった。
救急救命センターのドアの前で茫然と立っている由紀を見た時にこれは冗談なんかじゃないと思い知らされた。
俺たちを見てポロポロ涙を流して由紀は泣いた。
泣いてパニックなっている由紀から何とか事情を聞き出せた。
祐一は由紀を心配してずっと肩を抱いたり背中をさすってやったりしている。
由紀の話から俺の知っているオメガに真紘が刺されたようだった。
ミルクティーベージュの髪にヘーゼルの瞳。そんな奴は一人しかいない。秀穂だ。秀穂・クロフォード、俺のセフレだったアメリカ人と日本人のハーフのオメガ。
何となく分かってた。秀穂が俺を好きだってこと。もちろんオメガだから可愛いとは思っていた。でも好きかと言われると分からない。『気に入っている』が一番近いかもしれない。
そもそも俺には好きとか愛しているとかよく分からなかった。
真紘に出会う前は…。
真紘と出会って、好きだとか愛してるだとか嫉妬するとかそういう感情が自分にもあったのかと知った。
だから秀穂も含めたセフレたちを精算した。…したつもりだった。
でもまさか過去の自分勝手な行動がこんな形で返ってくるなんて…。
真紘のご両親が真っ青な顔で駆け付けた。ちょうど医者が出てきて家族に話があると言われた。ご両親に頼んで婚約者という形で中に入れてもらうことが出来た。
ベッドサイドでパソコンの画面を見ながら医者が病状説明をしてくれた。命に別状はないようだ。それを聞いて身体から力が抜けた。麻酔が効いてまだ眠っている真紘。頭を撫でてその顔にキスをした。…良かった。でも俺のせいだ。もう真紘とはダメになるかもしれない。真紘にも、ご両親にも受け入れてもらえないかもしれない。そうなったら仕方ない。自業自得ってやつだ。遠くから真紘を見守ろう。
処置があるのでいったん外に出るように言われた。真紘のご両親はほっとしたようで泣いている。
廊下に出て真紘のご両親に本当のことを話した。頭を下げだからって許してもらえるとは限らない。
でも真紘の父親は予想以上に優しい言葉をかけてくれた。
その後、警察が来て話を聞かれた。包み隠さず本当のことを話した。また明日、警察に呼ばれるみたいだ。
救命救急センターのドアが開いて看護師が出てきた。
真紘が目を覚ました。ご両親と俺とでまた中に入る。
「お父さん、お母さん…。僕、どうしたの…?」
「大丈夫よ。大丈夫だから。」
真紘の母親が泣いている。
「まーくん、ケガしたんだよ。でも大丈夫だ。手術は成功したって。」
真紘の父親が頭を撫でながら言った。
真紘はご両親にまーくんと呼ばれている。俺もそう呼ぼうとしたらすごく嫌がられた。いざという時にご両親の顔が浮かぶからと言う理由だ。いざって何だ、と二人で笑ったのを思い出した。
「トシくん…?」
少し離れたところから真紘たちを見ていた俺に気付いた。
ご両親が避けてくれる。
近づいて顔を見た。まだ顔色は悪く、ぼーっとしている。涙が出てきた。
「トシくん、泣いてる?」
「うん、ごめんな。真紘、ごめん…。」
「ふふ、何で謝るんだよ。」
「ごめん…ごめん。」
何て言って良いのか分からず、ただ謝ってばかりいた。
「俊之くん、今日はもういいから…。」
真紘の父親に促されて離れた。
「明日には一般病棟に移れると思いますよ。」
様子を見にきた看護師に言われた。
真紘にまた明日来ると言って外に出た。
真紘のご両親に入院費を負担させて欲しいとお願いした。何度か断られたけど、頷いてもらった。医者からも明日外科病棟に移れると言われた。俺と真紘のご両親は看護師から入院の説明と病院の案内を簡単にしてもらう。
「この特別室Aは空いてますか?」
パンフレットの中の一般病棟の中で一番高い部屋を指差した。
看護師はパソコンで確認したあと空いていると教えてくれたのでそこを予約した。有料個室は医師の許可があれは付き添いも可能と書かれている。出来たら付き添いたい。真紘に嫌がられなければだが。付き添いどころか顔も見たくないと言われるかもしれない。
真紘のご両親に何度も頭を下げて病院を出た。
由紀と祐一は帰ったみたいだ。あの二人にも謝罪とお礼をしないと。
タクシーに乗ってぼんやり外を眺める。
真紘とはもう終わりかもしれない…。また涙が出てきた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
朝、警察から電話があった。急いで支度をして警察署に向かう。
俺の両親に昨日あったことを話した。かなり驚いていた。母親からはもの凄く叱られた。子どもの頃以来だ。破談になるかもしれないと言うと母親に『そうでしょうね。あんなにいい子だったのに。』と冷たく言われた。
家を出る際に父親に『もっと上手くやれ。』とこそっと耳元で囁かれた。
落ち着いたら真紘のご両親に謝罪に行くと言われた。それと桜ヶ丘病院の医院長と知り合いなので話をしておいてくれるみたいだ。
警察署に着いた。
やはり秀穂が犯人だった。今朝、両親と弁護士と一緒に出頭してきた。俺は少し事情聴取を受けて帰された。
そのまま桜ヶ丘病院に向かう。まだ面会時間ではなかったが受付に声をかけるとすんなりと通された。
真紘は既に外科病棟に移っていた。重い足取りでエレベーターに乗る。八階の外科病棟のナースステーションの受付に声をかけた。
でも泣きながら震える声に只事じゃないと察して一緒にいた祐一と桜ヶ丘病院に向かった。
救急救命センターのドアの前で茫然と立っている由紀を見た時にこれは冗談なんかじゃないと思い知らされた。
俺たちを見てポロポロ涙を流して由紀は泣いた。
泣いてパニックなっている由紀から何とか事情を聞き出せた。
祐一は由紀を心配してずっと肩を抱いたり背中をさすってやったりしている。
由紀の話から俺の知っているオメガに真紘が刺されたようだった。
ミルクティーベージュの髪にヘーゼルの瞳。そんな奴は一人しかいない。秀穂だ。秀穂・クロフォード、俺のセフレだったアメリカ人と日本人のハーフのオメガ。
何となく分かってた。秀穂が俺を好きだってこと。もちろんオメガだから可愛いとは思っていた。でも好きかと言われると分からない。『気に入っている』が一番近いかもしれない。
そもそも俺には好きとか愛しているとかよく分からなかった。
真紘に出会う前は…。
真紘と出会って、好きだとか愛してるだとか嫉妬するとかそういう感情が自分にもあったのかと知った。
だから秀穂も含めたセフレたちを精算した。…したつもりだった。
でもまさか過去の自分勝手な行動がこんな形で返ってくるなんて…。
真紘のご両親が真っ青な顔で駆け付けた。ちょうど医者が出てきて家族に話があると言われた。ご両親に頼んで婚約者という形で中に入れてもらうことが出来た。
ベッドサイドでパソコンの画面を見ながら医者が病状説明をしてくれた。命に別状はないようだ。それを聞いて身体から力が抜けた。麻酔が効いてまだ眠っている真紘。頭を撫でてその顔にキスをした。…良かった。でも俺のせいだ。もう真紘とはダメになるかもしれない。真紘にも、ご両親にも受け入れてもらえないかもしれない。そうなったら仕方ない。自業自得ってやつだ。遠くから真紘を見守ろう。
処置があるのでいったん外に出るように言われた。真紘のご両親はほっとしたようで泣いている。
廊下に出て真紘のご両親に本当のことを話した。頭を下げだからって許してもらえるとは限らない。
でも真紘の父親は予想以上に優しい言葉をかけてくれた。
その後、警察が来て話を聞かれた。包み隠さず本当のことを話した。また明日、警察に呼ばれるみたいだ。
救命救急センターのドアが開いて看護師が出てきた。
真紘が目を覚ました。ご両親と俺とでまた中に入る。
「お父さん、お母さん…。僕、どうしたの…?」
「大丈夫よ。大丈夫だから。」
真紘の母親が泣いている。
「まーくん、ケガしたんだよ。でも大丈夫だ。手術は成功したって。」
真紘の父親が頭を撫でながら言った。
真紘はご両親にまーくんと呼ばれている。俺もそう呼ぼうとしたらすごく嫌がられた。いざという時にご両親の顔が浮かぶからと言う理由だ。いざって何だ、と二人で笑ったのを思い出した。
「トシくん…?」
少し離れたところから真紘たちを見ていた俺に気付いた。
ご両親が避けてくれる。
近づいて顔を見た。まだ顔色は悪く、ぼーっとしている。涙が出てきた。
「トシくん、泣いてる?」
「うん、ごめんな。真紘、ごめん…。」
「ふふ、何で謝るんだよ。」
「ごめん…ごめん。」
何て言って良いのか分からず、ただ謝ってばかりいた。
「俊之くん、今日はもういいから…。」
真紘の父親に促されて離れた。
「明日には一般病棟に移れると思いますよ。」
様子を見にきた看護師に言われた。
真紘にまた明日来ると言って外に出た。
真紘のご両親に入院費を負担させて欲しいとお願いした。何度か断られたけど、頷いてもらった。医者からも明日外科病棟に移れると言われた。俺と真紘のご両親は看護師から入院の説明と病院の案内を簡単にしてもらう。
「この特別室Aは空いてますか?」
パンフレットの中の一般病棟の中で一番高い部屋を指差した。
看護師はパソコンで確認したあと空いていると教えてくれたのでそこを予約した。有料個室は医師の許可があれは付き添いも可能と書かれている。出来たら付き添いたい。真紘に嫌がられなければだが。付き添いどころか顔も見たくないと言われるかもしれない。
真紘のご両親に何度も頭を下げて病院を出た。
由紀と祐一は帰ったみたいだ。あの二人にも謝罪とお礼をしないと。
タクシーに乗ってぼんやり外を眺める。
真紘とはもう終わりかもしれない…。また涙が出てきた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
朝、警察から電話があった。急いで支度をして警察署に向かう。
俺の両親に昨日あったことを話した。かなり驚いていた。母親からはもの凄く叱られた。子どもの頃以来だ。破談になるかもしれないと言うと母親に『そうでしょうね。あんなにいい子だったのに。』と冷たく言われた。
家を出る際に父親に『もっと上手くやれ。』とこそっと耳元で囁かれた。
落ち着いたら真紘のご両親に謝罪に行くと言われた。それと桜ヶ丘病院の医院長と知り合いなので話をしておいてくれるみたいだ。
警察署に着いた。
やはり秀穂が犯人だった。今朝、両親と弁護士と一緒に出頭してきた。俺は少し事情聴取を受けて帰された。
そのまま桜ヶ丘病院に向かう。まだ面会時間ではなかったが受付に声をかけるとすんなりと通された。
真紘は既に外科病棟に移っていた。重い足取りでエレベーターに乗る。八階の外科病棟のナースステーションの受付に声をかけた。
84
お気に入りに追加
2,176
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
βの僕、激強αのせいでΩにされた話
ずー子
BL
オメガバース。BL。主人公君はβ→Ω。
αに言い寄られるがβなので相手にせず、Ωの優等生に片想いをしている。それがαにバレて色々あってΩになっちゃう話です。
β(Ω)視点→α視点。アレな感じですが、ちゃんとラブラブエッチです。
他の小説サイトにも登録してます。
【オメガの疑似体験ができる媚薬】を飲んだら、好きだったアルファに抱き潰された
亜沙美多郎
BL
ベータの友人が「オメガの疑似体験が出来る媚薬」をくれた。彼女に使えと言って渡されたが、郁人が想いを寄せているのはアルファの同僚・隼瀬だった。
隼瀬はオメガが大好き。モテモテの彼は絶えずオメガの恋人がいた。
『ベータはベータと』そんな暗黙のルールがある世間で、誰にも言えるはずもなく気持ちをひた隠しにしてきた。
ならばせめて隼瀬に抱かれるのを想像しながら、恋人気分を味わいたい。
社宅で一人になれる夜を狙い、郁人は自分で媚薬を飲む。
本物のオメガになれた気がするほど、気持ちいい。媚薬の効果もあり自慰行為に夢中になっていると、あろう事か隼瀬が部屋に入ってきた。
郁人の霰も無い姿を見た隼瀬は、擬似オメガのフェロモンに当てられ、郁人を抱く……。
前編、中編、後編に分けて投稿します。
全編Rー18です。
アルファポリスBLランキング4位。
ムーンライトノベルズ BL日間、総合、短編1位。
BL週間総合3位、短編1位。月間短編4位。
pixiv ブクマ数2600突破しました。
各サイトでの応援、ありがとうございます。
巣作りΩと優しいα
伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。
そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……
婚約者は俺にだけ冷たい
円みやび
BL
藍沢奏多は王子様と噂されるほどのイケメン。
そんなイケメンの婚約者である古川優一は日々の奏多の行動に傷つきながらも文句を言えずにいた。
それでも過去の思い出から奏多との別れを決意できない優一。
しかし、奏多とΩの絡みを見てしまい全てを終わらせることを決める。
ザマァ系を期待している方にはご期待に沿えないかもしれません。
前半は受け君がだいぶ不憫です。
他との絡みが少しだけあります。
あまりキツイ言葉でコメントするのはやめて欲しいです。
ただの素人の小説です。
ご容赦ください。
可愛くない僕は愛されない…はず
おがこは
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。
押しが強いスパダリα ✕ 逃げるツンツンデレΩ
ハッピーエンドです!
病んでる受けが好みです。
闇描写大好きです(*´`)
※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております!
また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる