みにくいオメガの子

みこと

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「マジで!そいつ最低だな。」

「うん。湊って子がかわいそうだ。しかも智明さんは自分が悪いなんてこれっぽっちも思ってない。」

「うわーっ!湊、本当に悲惨だな。そういう話を聞くとアルファって本当にムカつく。」

真紘に昨日の話をした。
終始智明さんに怒っていた。ムカつく、ムカつくと繰り返している。

「あ、あとあのさ。僕、祐一さんと…。」

「付き合うんだろ?トシくんに聞いたよ。」

早っ!いつ聞いたんだろう。

「良かったな。あのナンパの人は?どうするの?」

「昨日断ったよ。でも返信がないんだ。」

「そっかー。まぁ大丈夫じゃない?それよりダブルデートできるな。トシくんに言ってみよう。」

真紘は嬉しそうにスマホをいじっている。
ダブルデート…。僕のことだよね?祐一さんは何て言うかな?



授業が終わって二人で塾に向かう。
生徒は十人ちょっとの少人数だ。
みんな頭が良さそうに見える。
先生が入ってきた。うわっ、熊みたいな先生だ。優しい先生だといいな。
初めてなので緊張する。授業についていけるだろうか。
あの問題集はさっぱり分からなかったからな。明日祐一さんに教えもらおう。
僕は必死で先生の話に耳を傾けた。




「どうだった?」

「うーん。やばいね。」

「僕も。」

予備校の授業は難しかった。周りの人たちはみんな理解して授業を受けているように見える。休みを返上して勉強しないと。
せっかく恋人が出来たのに…。
一応志望大学にY大の文学部と書いて出した。真紘と同じ大学だ。

「このままじゃ祐一さんとデートどころじゃない。」

「僕も。トシくんに言っとかないと。受験終わるまでは遊べない。」

二人で駅までとぼとぼ歩いていた。

「ねぇ。そこの二人。」

え?僕たちのこと?
後ろから話しかけられた。僕たちは立ち止まって振り返る。
オメガかな。知らない人だ。塾の人?

「俊之のオメガはどっち?」

俊之ってトシくんのこと?僕たちは顔を見合わせた。

「あ、僕だけど…。」

真紘が答えた瞬間だった。そのオメガは真紘に体当たりしてきたのだ。
その勢いで隣にいた僕も後ろに転んで尻餅をついた。

「痛っ!何するんだよ!真紘、大丈夫か…。」

隣で尻もちをついている真紘を見ると手で脇腹を押さえている。その手の周りから白いワイシャツが赤く染まっていくのが見えた。
えっ?一瞬何が起こったのか分からなかった。
体当たりしたオメガを見上げた。真っ青な顔で真紘を睨んでいる。その手には昨日湊が握っていたものとそっくりなものが握られていた。
ま、真紘…?えっ?

「い、痛い…。」

真紘の声で我に返った。

「真紘!」

ど、どうしよう。誰か…。そうだ救急車、救急車を呼ばないと。

「救急車を呼んでください!救急車!」

通りすがりの人たちに声をかけた。大きな声を出したつもりだけど声が出ない。
その中の女の人が気付いてくれた。真紘を見て驚いて駆け寄ってくる。

「救急車…。助けて。真紘が…。」

「待って、今呼ぶから。」

「真紘…、真紘っ!真紘っ!」

女の人が救急車を呼んでくれた。カバンの中からタオルを取り出して傷を抑えてくれる。

「大丈夫。私、看護師なの。大丈夫よ。君はこのタオルで傷を圧迫して。」

「名前は真紘くん?」

「はい…。」

「真紘くん!目を開けて。」

女の人が真紘の顔を叩いて声をかけ続けてくれる。
真紘がうっすら目を開けた。

僕はいつの間にか泣いていた。怖くて身体が震える。
真紘が死んじゃう。
しばらくして救急車のサイレンの音が近づいてくる。僕たちの横で救急車が停まり、救急隊員が三人降りてきた。そのまま真紘を担架に乗せて救急車に収容された。救急隊の人に言われて僕も乗り込んだ。
いつの間にかあのオメガは居なくなっていた。

サイレンが鳴り走り出す。 
救急車の中で真紘は機械に繋がれて救急隊員に声をかけられていた。慌ただしく動く救急隊が今の状況の深刻さをより強く感じる。
僕は震えながらただそれを見ていた。

「君はお友達?この子の家族と連絡は取れる?」

「は、はい。電話しても良いですか?」

震える手でスマホを取り出した。手には真紘の血が付いていてさらに怖くなる。

「桜ヶ丘病院が受け入れ可能です。」

運転席の人が大きな声が聞こえる。
桜ヶ丘病院…。

そういえば真紘の家の電話なんて分からない。もちろんご両親の番号も知らない。どうしよう。
そうだトシくんにかければ良いんだ。この間教えてもらったトシくんの番号に電話をした。手が震えて上手くかけられない。
五回目のコールでトシくんが出た。

「…もしもし。と、俊之さんですか?」

「あれ、由紀くん?どうしたの?」

『えっ?由紀くん?』後ろで祐一さんの声が聞こえてきた。

「真紘が、真紘が…。」

「真紘?真紘がどうしたの⁉︎」
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