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えっ?刺される??驚いて身体が動かない。
思わず目をぎゅっと閉じた。
ドンッ、ドサッ!
「うわっ!」
大きな音と湊くんの声が聞こえてそっと目を開けた。床に人が倒れている。しかも二人。
え?何で?そのうちの一人は…。
「祐一さん⁉︎」
祐一さんが湊くんに覆い被さるように倒れていた。
「由紀くん!大丈夫?ケガはない?」
祐一さんが湊くんからナイフを取り上げて立ち上がった。
何で祐一さんが?
お店の人が警察に通報したらしく警察官が数人なだれ込んできた。
倒れたまま湊くんが警察官に両腕を掴まれ起こされた。
僕たちも警察署に行く。智明さんは唖然として何も話さなかった。
結局、痴話喧嘩ということで大事にはしなかった。
湊くんはずっと泣いていてご両親が迎えに来てくれた。
警察に知り合いがいるらしく湊くんの父親が警察官と何か話している。
「中原さん、訴えたりしなくて良いんですね?」
「はい。」
泣いている湊くん…。他人事には思えない。
泣きじゃくる湊くんを見ると僕まで悲しくなった。
オメガだから…。アルファの気まぐれに振り回されるのか?湊くんのご両親は丁寧に謝ってくれた。
智明さんは何も言わない。ただそこに立っているだけだ。
「湊くん。僕と智明さんは何でもないよ。この先も僕は智明さんと番いになる事はない。僕もオメガだからよく分かるけど、アルファは選ばないと。」
湊くんはぐしゃぐしゃの顔を上げて僕を見た。
僕を刺そうと思うくらい傷付いているんだ。
智明さんはまだ素知らぬ顔で立っている。
最低だな。
「祐一さん。帰りましょう。」
僕は祐一さんを連れて警察署を出た。
「由紀くん!もう帰るの?」
智明さんが後を追ってきた。立ち止まって振り返る。
こういう人にははっきり言わないと。
「はい。智明さんとはもう会いません。さようなら。」
「え?何で?」
何でって…。本気で言っているのか?唖然と智明さんの顔を見る。
「由紀くんはもう君とは会わないって言ってるだろ。男らしく身を引けよ。」
祐一さんが僕を庇うように間に入った。
「おまえには関係ないだろ?」
「関係ある。俺は由紀くんに番いになりたいと申し込んでいるんだ。君は今、断られただろ?」
「僕は智明さんのことは嫌いです。オメガをバカにするにもほどがある。」
「えっ…?そんな…。」
「自分のしたことを良く考えてみて下さい。」
そう言ってタクシーに乗った。
大丈夫かな。あんなにはっきり嫌いと言ってしまった。
「由紀くん、カッコよかったね。」
祐一さんがにこにこしながら僕を見た。
あれ、そういえば何で祐一さんが…?
「祐一さんは何であそこにいたんですか?」
「えっ…。あ、えっと、その由紀くんが心配で…。」
デートすると聞いて僕の跡を付けてきたみたいだ。顔を赤くして恥ずかしそうに俯いている。
「まだ時間があるしどこかに行きませんか?」
「えっ?行く!」
下を向いていた祐一さんはガバッと顔を上げた。
ショッピングモールに停めてあった祐一さんの車に乗ってドライブに出かけた。
「さっきのオメガそのままで良いの?」
「はい。あの子だけが悪いんじゃないです。僕だって軽い気持ちで今日のデートをOKしたんだし。」
「でも由紀くんは知らなかったんでしょ?」
「はい。」
海の近くの公園の駐車場に車を停めた。土曜日なのでたくさん人が居る。
祐一さんが僕の方を向いた。
「俺たちアルファはどこかで自分たちが一番だと過信している。俺だって清廉潔白じゃない。まぁ、あそこまで酷くはないけど。でも由紀くんと会って変わった。俺には由紀くんだけだ。大事にするし悲しませたりしない。」
祐一さんは本気だ。智明さんと違って必ず僕の意見を聞いてくれる。怖いと思った事はない。
「はい。よろしくお願いします。」
「え?」
あれ?伝わらなかったのかな?僕からちゃんと言おう。
「僕と、その、付き合って下さい…。」
「由紀くん!」
「うわっ!」
ガバッと抱きつかれた。
「ご、ごめん。嬉しくて。」
パッと離れた祐一さんの顔は赤くなっていた。
僕たちは車から出て海沿いを散歩した。
祐一さんは僕の手をしっかり握って離さなかった。
帰りの車の中で次に会う日を決めている。
「あっ!僕、来週もデートの約束しちゃったんです。断らないと。」
「えっ?」
スマホを取り出し断りのメッセージを送った。祐一さんが僕のスマホを覗き込んでいる。
「誰それ?」
祐一さんに説明した。心配だ、としきりに言っている。
受験勉強があるのであまり会えないと言うと祐一さんが勉強を見てくれる事になった。数学が苦手だと伝えると『一番得意だ』と言って張り切っている。
明日は予備校なので火曜日に勉強を見てもらう予定だ。
「今日はありがとうございました。」
「うん。明日電話しても良い?」
「はい。」
家の前まで送ってくれた。
ちゅっ。
額にキスをされた。驚いたけど嫌じゃない。
恥ずかしくなってすぐに車から降りた。祐一さんは嬉しそうだ。
手を振って車を見送った。
智明さんとデートに出かけたのに祐一さんと付き合うことになるとは…。怒涛の一日だ。
「ただいま。」
「おかえり。デートどうだった?」
母に今日あったことを話した。ナイフを突き付けられた事は言わず、修羅場になったとだけ言った。
「何それ。とんでもない話だね。お母さんから先生に言おうか?」
「いいよ。もう二度と会わないから。」
「知子叔母さんには言っとく。」
母は怒りながら叔母さんに電話している。夕飯は当分後だな。
祐一さんのことも言おうと思ったけどパニックになりそうなのでやめた。
思わず目をぎゅっと閉じた。
ドンッ、ドサッ!
「うわっ!」
大きな音と湊くんの声が聞こえてそっと目を開けた。床に人が倒れている。しかも二人。
え?何で?そのうちの一人は…。
「祐一さん⁉︎」
祐一さんが湊くんに覆い被さるように倒れていた。
「由紀くん!大丈夫?ケガはない?」
祐一さんが湊くんからナイフを取り上げて立ち上がった。
何で祐一さんが?
お店の人が警察に通報したらしく警察官が数人なだれ込んできた。
倒れたまま湊くんが警察官に両腕を掴まれ起こされた。
僕たちも警察署に行く。智明さんは唖然として何も話さなかった。
結局、痴話喧嘩ということで大事にはしなかった。
湊くんはずっと泣いていてご両親が迎えに来てくれた。
警察に知り合いがいるらしく湊くんの父親が警察官と何か話している。
「中原さん、訴えたりしなくて良いんですね?」
「はい。」
泣いている湊くん…。他人事には思えない。
泣きじゃくる湊くんを見ると僕まで悲しくなった。
オメガだから…。アルファの気まぐれに振り回されるのか?湊くんのご両親は丁寧に謝ってくれた。
智明さんは何も言わない。ただそこに立っているだけだ。
「湊くん。僕と智明さんは何でもないよ。この先も僕は智明さんと番いになる事はない。僕もオメガだからよく分かるけど、アルファは選ばないと。」
湊くんはぐしゃぐしゃの顔を上げて僕を見た。
僕を刺そうと思うくらい傷付いているんだ。
智明さんはまだ素知らぬ顔で立っている。
最低だな。
「祐一さん。帰りましょう。」
僕は祐一さんを連れて警察署を出た。
「由紀くん!もう帰るの?」
智明さんが後を追ってきた。立ち止まって振り返る。
こういう人にははっきり言わないと。
「はい。智明さんとはもう会いません。さようなら。」
「え?何で?」
何でって…。本気で言っているのか?唖然と智明さんの顔を見る。
「由紀くんはもう君とは会わないって言ってるだろ。男らしく身を引けよ。」
祐一さんが僕を庇うように間に入った。
「おまえには関係ないだろ?」
「関係ある。俺は由紀くんに番いになりたいと申し込んでいるんだ。君は今、断られただろ?」
「僕は智明さんのことは嫌いです。オメガをバカにするにもほどがある。」
「えっ…?そんな…。」
「自分のしたことを良く考えてみて下さい。」
そう言ってタクシーに乗った。
大丈夫かな。あんなにはっきり嫌いと言ってしまった。
「由紀くん、カッコよかったね。」
祐一さんがにこにこしながら僕を見た。
あれ、そういえば何で祐一さんが…?
「祐一さんは何であそこにいたんですか?」
「えっ…。あ、えっと、その由紀くんが心配で…。」
デートすると聞いて僕の跡を付けてきたみたいだ。顔を赤くして恥ずかしそうに俯いている。
「まだ時間があるしどこかに行きませんか?」
「えっ?行く!」
下を向いていた祐一さんはガバッと顔を上げた。
ショッピングモールに停めてあった祐一さんの車に乗ってドライブに出かけた。
「さっきのオメガそのままで良いの?」
「はい。あの子だけが悪いんじゃないです。僕だって軽い気持ちで今日のデートをOKしたんだし。」
「でも由紀くんは知らなかったんでしょ?」
「はい。」
海の近くの公園の駐車場に車を停めた。土曜日なのでたくさん人が居る。
祐一さんが僕の方を向いた。
「俺たちアルファはどこかで自分たちが一番だと過信している。俺だって清廉潔白じゃない。まぁ、あそこまで酷くはないけど。でも由紀くんと会って変わった。俺には由紀くんだけだ。大事にするし悲しませたりしない。」
祐一さんは本気だ。智明さんと違って必ず僕の意見を聞いてくれる。怖いと思った事はない。
「はい。よろしくお願いします。」
「え?」
あれ?伝わらなかったのかな?僕からちゃんと言おう。
「僕と、その、付き合って下さい…。」
「由紀くん!」
「うわっ!」
ガバッと抱きつかれた。
「ご、ごめん。嬉しくて。」
パッと離れた祐一さんの顔は赤くなっていた。
僕たちは車から出て海沿いを散歩した。
祐一さんは僕の手をしっかり握って離さなかった。
帰りの車の中で次に会う日を決めている。
「あっ!僕、来週もデートの約束しちゃったんです。断らないと。」
「えっ?」
スマホを取り出し断りのメッセージを送った。祐一さんが僕のスマホを覗き込んでいる。
「誰それ?」
祐一さんに説明した。心配だ、としきりに言っている。
受験勉強があるのであまり会えないと言うと祐一さんが勉強を見てくれる事になった。数学が苦手だと伝えると『一番得意だ』と言って張り切っている。
明日は予備校なので火曜日に勉強を見てもらう予定だ。
「今日はありがとうございました。」
「うん。明日電話しても良い?」
「はい。」
家の前まで送ってくれた。
ちゅっ。
額にキスをされた。驚いたけど嫌じゃない。
恥ずかしくなってすぐに車から降りた。祐一さんは嬉しそうだ。
手を振って車を見送った。
智明さんとデートに出かけたのに祐一さんと付き合うことになるとは…。怒涛の一日だ。
「ただいま。」
「おかえり。デートどうだった?」
母に今日あったことを話した。ナイフを突き付けられた事は言わず、修羅場になったとだけ言った。
「何それ。とんでもない話だね。お母さんから先生に言おうか?」
「いいよ。もう二度と会わないから。」
「知子叔母さんには言っとく。」
母は怒りながら叔母さんに電話している。夕飯は当分後だな。
祐一さんのことも言おうと思ったけどパニックになりそうなのでやめた。
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