16 / 30
10
しおりを挟む
「ただいま。」
玄関を開けると母の靴と見たことのない靴が並んでいた。
もう帰って来てるのか。週末に帰るって行ってたのに。
慌ててネックガードを外して鞄にしまった。こんなすごいネックガードを着けてたら何を言われるか分からない。
「おかえり~。」
リビングから母の声が聞こえた。
「ただいま。」
リビングには母以外に二人の女の人がいた。僕の顔を見てみんな口々に『おかえり』と言っている。
一人は母の姉の知子叔母さんだ。もう一人は見たことない人だった。
「週末に帰ってくるんじゃなかったの?」
「おばあちゃんがわがままで嫌になっちゃったのよ。ねぇ?」
そう言って知子叔母さんを見た。
「そうそう。すぐ怒るし、細かいし。子どもの頃とちっとも変わってない。これ以上一緒にいたらケンカになるから帰って来たの。ヘルパーさんを頼んだから大丈夫でしょ。」
知子叔母さんは呆れたような疲れたような顔で言った。
「由紀ちゃん、相変わらず可愛いわね。薬のこと里子に聞いたよ。大変だったね。もう身体は良いの?ほら、突っ立ってないで座りなさいよ。これお土産。お饅頭食べる?」
「うん。もう大丈夫。」
相変わらずおしゃべりだ。母の家系はみんなそうだ。僕にもその血が流れてるはずなのに。
「この子が由紀くん?」
もう一人の女の人が僕をまじまじと見ている。
「そうよ。由紀ちゃん、この人は叔母ちゃんたちのお華の先生。池上流の偉い人なのよ~。」
「はじめまして。由紀です。」
「はじめまして。やだ、すごい可愛いじゃない。オメガでしょ?」
母たちと同じくらいの歳の人だけど上品でキレイだ。お華の先生って感じがする。
「はい。」
「智明ったら、こんなに可愛い子を…。」
『ピンポーン』
玄関のチャイムが鳴った。まだ誰か来るのかな?
「あ、僕出るよ。」
母にそう言って玄関のドアを開けた。
男の人が立っていた。アルファだ…。背が高くてイケメンだ。
「あの、中原さんのお宅ですか?」
「あ、はい。」
するとリビングからお華の先生が出てきた。
「母さん。」
先生を見た男の人が呟いた。
先生の息子なのか。どこかで見た気がする。
「智明、由紀くんこんなに可愛いじゃない。全くあなたって子は…。」
「えっ?由紀くん?」
その人は驚いたような顔で僕を見た。
あ、思い出した。叔母さんの紹介でお見合いした人だ。
「あ、その節はお世話になりました。」
あまり良い印象はないけど一応挨拶をした。
智明と呼ばれたその人はまだ驚いた顔で僕を見ている。
「智明くん、久しぶりね。上がってお茶でも飲んでいきなさいよ。」
知子叔母さんが出てきてまるで自分の家のように上がっていけと言っている。
「あ、じゃあ。お邪魔します。」
何故か僕もリビングでお茶を飲んでいる。母たちはお華の展覧会の話に夢中だ。話のほとんどが人の噂話だけど、三人とも生き生きしている。
僕はとても居心地が悪い。さっきから智明さんがじっと見ているのだ。
「あ、あの…。」
「本当に由紀くん?あの時の子?」
「はい。」
僕は抑制剤の副作用の話をした。あの時はアルファの威嚇フェロモンを放っていたので印象が違うかもしれないと言った。
「うん。全然違う。すごく可愛い。ねぇ、今度デートしない?」
今度は僕がびっくりした。みんながいる前で堂々とデートに誘うなんて…。よっぽど自信があるんだな。
「あら、良いじゃない。」
「由紀、智明くんと前にお見合いしたんでしょ?」
母と知子叔母さんが話に入ってくる。
「えっ…うん。」
「デートしようよ。今週の土日はどう?」
智明さんはぐいぐい近づいてくる。みんなが見てるし断りづらい。
「は、はい。えと、日曜日なら。」
「本当?嬉しいな。じゃあ連絡先交換しよう。」
僕と智明さんはスマホを取り出して連絡先を交換した。
「由紀、嫌なら断っても良いのよ?」
みんなが帰った後母に言われた。
「別に嫌じゃないよ。ただ…。」
「ただ?」
「知子叔母さんやお母さんみたいに社交的じゃないから。緊張しただけ。」
「そう。でも智明くん、すごいのよ。T大の二年生だって。」
母はさっき聞いた智明さんのプロフィールに食い付いている。僕と智明さんがお見合いをしたのは三ヶ月くらい前だ。その時はまだ早いでしょ、と言って全く興味がなかったのに。
お見合いと言っても本格的なものではなく軽く会っただけだ。写真もプロフィールもなかった。
喫茶店で待ち合わせをして僕の顔を見た瞬間にがっかりされたことを思い出した。一時間ほど一緒にお茶を飲んで解散した。
明らかに嫌そうだったな。『こんなオメガ…』って言ってた。
まぁ、僕はドリアンだし。仕方ない。もう、過去は気にしない。
夜、智明さんとメッセージのやり取りをしている。智明さんも積極的だ。『可愛い』とか『すごくタイプ』だとか送ってくる。僕はこういったことに慣れていない。返信に困ってしまう。
もう寝ます、と送ってお終いにした。
玄関を開けると母の靴と見たことのない靴が並んでいた。
もう帰って来てるのか。週末に帰るって行ってたのに。
慌ててネックガードを外して鞄にしまった。こんなすごいネックガードを着けてたら何を言われるか分からない。
「おかえり~。」
リビングから母の声が聞こえた。
「ただいま。」
リビングには母以外に二人の女の人がいた。僕の顔を見てみんな口々に『おかえり』と言っている。
一人は母の姉の知子叔母さんだ。もう一人は見たことない人だった。
「週末に帰ってくるんじゃなかったの?」
「おばあちゃんがわがままで嫌になっちゃったのよ。ねぇ?」
そう言って知子叔母さんを見た。
「そうそう。すぐ怒るし、細かいし。子どもの頃とちっとも変わってない。これ以上一緒にいたらケンカになるから帰って来たの。ヘルパーさんを頼んだから大丈夫でしょ。」
知子叔母さんは呆れたような疲れたような顔で言った。
「由紀ちゃん、相変わらず可愛いわね。薬のこと里子に聞いたよ。大変だったね。もう身体は良いの?ほら、突っ立ってないで座りなさいよ。これお土産。お饅頭食べる?」
「うん。もう大丈夫。」
相変わらずおしゃべりだ。母の家系はみんなそうだ。僕にもその血が流れてるはずなのに。
「この子が由紀くん?」
もう一人の女の人が僕をまじまじと見ている。
「そうよ。由紀ちゃん、この人は叔母ちゃんたちのお華の先生。池上流の偉い人なのよ~。」
「はじめまして。由紀です。」
「はじめまして。やだ、すごい可愛いじゃない。オメガでしょ?」
母たちと同じくらいの歳の人だけど上品でキレイだ。お華の先生って感じがする。
「はい。」
「智明ったら、こんなに可愛い子を…。」
『ピンポーン』
玄関のチャイムが鳴った。まだ誰か来るのかな?
「あ、僕出るよ。」
母にそう言って玄関のドアを開けた。
男の人が立っていた。アルファだ…。背が高くてイケメンだ。
「あの、中原さんのお宅ですか?」
「あ、はい。」
するとリビングからお華の先生が出てきた。
「母さん。」
先生を見た男の人が呟いた。
先生の息子なのか。どこかで見た気がする。
「智明、由紀くんこんなに可愛いじゃない。全くあなたって子は…。」
「えっ?由紀くん?」
その人は驚いたような顔で僕を見た。
あ、思い出した。叔母さんの紹介でお見合いした人だ。
「あ、その節はお世話になりました。」
あまり良い印象はないけど一応挨拶をした。
智明と呼ばれたその人はまだ驚いた顔で僕を見ている。
「智明くん、久しぶりね。上がってお茶でも飲んでいきなさいよ。」
知子叔母さんが出てきてまるで自分の家のように上がっていけと言っている。
「あ、じゃあ。お邪魔します。」
何故か僕もリビングでお茶を飲んでいる。母たちはお華の展覧会の話に夢中だ。話のほとんどが人の噂話だけど、三人とも生き生きしている。
僕はとても居心地が悪い。さっきから智明さんがじっと見ているのだ。
「あ、あの…。」
「本当に由紀くん?あの時の子?」
「はい。」
僕は抑制剤の副作用の話をした。あの時はアルファの威嚇フェロモンを放っていたので印象が違うかもしれないと言った。
「うん。全然違う。すごく可愛い。ねぇ、今度デートしない?」
今度は僕がびっくりした。みんながいる前で堂々とデートに誘うなんて…。よっぽど自信があるんだな。
「あら、良いじゃない。」
「由紀、智明くんと前にお見合いしたんでしょ?」
母と知子叔母さんが話に入ってくる。
「えっ…うん。」
「デートしようよ。今週の土日はどう?」
智明さんはぐいぐい近づいてくる。みんなが見てるし断りづらい。
「は、はい。えと、日曜日なら。」
「本当?嬉しいな。じゃあ連絡先交換しよう。」
僕と智明さんはスマホを取り出して連絡先を交換した。
「由紀、嫌なら断っても良いのよ?」
みんなが帰った後母に言われた。
「別に嫌じゃないよ。ただ…。」
「ただ?」
「知子叔母さんやお母さんみたいに社交的じゃないから。緊張しただけ。」
「そう。でも智明くん、すごいのよ。T大の二年生だって。」
母はさっき聞いた智明さんのプロフィールに食い付いている。僕と智明さんがお見合いをしたのは三ヶ月くらい前だ。その時はまだ早いでしょ、と言って全く興味がなかったのに。
お見合いと言っても本格的なものではなく軽く会っただけだ。写真もプロフィールもなかった。
喫茶店で待ち合わせをして僕の顔を見た瞬間にがっかりされたことを思い出した。一時間ほど一緒にお茶を飲んで解散した。
明らかに嫌そうだったな。『こんなオメガ…』って言ってた。
まぁ、僕はドリアンだし。仕方ない。もう、過去は気にしない。
夜、智明さんとメッセージのやり取りをしている。智明さんも積極的だ。『可愛い』とか『すごくタイプ』だとか送ってくる。僕はこういったことに慣れていない。返信に困ってしまう。
もう寝ます、と送ってお終いにした。
104
お気に入りに追加
2,219
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ひとりのはつじょうき
綿天モグ
BL
16歳の咲夜は初めての発情期を3ヶ月前に迎えたばかり。
学校から大好きな番の伸弥の住む家に帰って来ると、待っていたのは「出張に行く」とのメモ。
2回目の発情期がもうすぐ始まっちゃう!体が火照りだしたのに、一人でどうしろっていうの?!

巣作りΩと優しいα
伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。
そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
シャルルは死んだ
ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる