オメガの秘薬

みこと

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「うわっ!」

次の日の朝、鏡を見て驚いた。目が腫れてとんでもない事になっている。
試合直後のボクサーだ。
母さんはこの顔を見て休みなさい、と言った。
今日は休むか…。母さんが学校に連絡してくれた。

「学校に何て言ったの?」

「ギックリ腰。」

「それ、自分じゃん。俺まだ高校生だよ?」

「ごめん、咄嗟にそれしか思い浮かばなかった。」

二人でひとしきり笑った。
大丈夫だ。まだ笑える。
母さん、ギックリ腰はないでしょ。明日、どーすんの?


「父さんは?もう仕事?」

「うん。元気なかった。お父さんの会社、岩澤の子会社だからね。」

「そっか。良いよ。航には何にも言わないで。」

「いいの?」

「うん。」

朝ご飯を食べてテレビを観ながらゴロゴロする。
ワイドショーに変えると人気俳優の不倫がスクープされたという話題だった。
他人事のようにぼーっと眺めていた。

昼は母さんがピザを取ってくれた。
悲しくてもお腹が空くんだな。
あ、何かそんな歌あったな。

ピザを食べ終わり部屋に戻ってスマホの電源を入れてみる。
すごい事になっている。
航からのメッセージと着信。内容は相変わらず一緒だ。
『ごめん』『会いたい』『許してほしい』『話だけでも聞いてくれ』指でザーッと流した。
大きく深呼吸して写真のアプリを開けた。
一番最初にあの写真が目に入る。タップしてみた。表情までハッキリ写っている。まだダメだ。手が震える。
それにしても上手すぎるだろ…俺。
そのうちの一枚、一番よく撮れているやつを航に送ってやった。
その後一通だけ来ていた夏樹のメッセージを開いた。
『どうした?具合でも悪い?』
夏樹はオメガだ。俺の気持ちをわかってくれるはず。

『学校終わったらウチに寄って』と送った。秒でOKのスタンプが返ってきた。アイツ、授業中だろ…。




「どーした?ボクサーにでもなったのか?」

顔を見て驚いている。朝よりはだいぶマシだ。
そんでもって発想が同じって。

「まぁ、上がって。」

ジュースとお菓子を持って夏樹を部屋に入れた。

「何?どーした。」

「航と別れた。」

「えっ?マジで?いつ?何で?」

「昨日。」

スマホの写真を夏樹に見せた。
夏樹は顔を青くして俺を見た。

「マジか…。昨日?」

「うん。昨日。部活なくなっただろ。波多野が具合悪いとかで。」

「あぁ。」

「で、暇になったからマンションに行ったらコレ。」

スマホを指差した。
夏樹は大きくため息をついてそのまま床に倒れた。

「ラブラブだったじゃん。むしろ岩澤の方が。」

「俺もそう思ってた。」

またため息をついて今度は床にゴロゴロ転がった。

「で、どうすんの?」

「どうすんのって…。」

「だって昨日の今日だろ?ちゃんと話ししてないよな?」

「うん、まぁ。」

コイツはこーゆーところが鋭い。

「話なんてないよ。これが全てだ。」

もう一度スマホを指差す。

「ただの気の迷いや浮気だって俺たちオメガにとっては死活問題だ。アルファの独占欲を許容するのも浮気をしないっていう前提があるからなんだ。アイツはそれをぶち壊した。」

「比呂、一晩中考えてたんだな…何か政治家みたいだ。まぁでもわかるよ。俺でも別れるわ。一応話はするけどな。」

「うん。明日は学校に行く。アイツもいるだろ?顔見て決めるよ。」

その後もオメガの人権の話やアルファの独占欲の話をした。
夏樹は『元気出せよ。俺たちはまだ若いんだ!』と昔の青春ドラマみたいなセリフを言って帰って行った。

夕飯はちょっとだけ航の話をして後は違う話題になった。
気を使わせて悪いな。
アイツは俺だけじゃなく父さんや母さんも傷付けたんだ。
そう思うと昨日は悲しみ100%だったが、今は怒りが50%に悲しみ50%に変わってきた。
明日はどうなんだろ。航の顔を見るのが怖い。

愛されていると思ってた。夏樹が言ったようにラブラブだと思ってたんだ。
航は休み時間になれば俺の教室に来る。放課後も俺の部活がない日は一緒に帰る。休みの日も大体一緒にいる。他のアルファと話すのをすごく嫌がり嫉妬する。
俺はあいつの匂いが大好きだった。
嫉妬深いくせに優しく包み込むような匂い。あの匂い包まれると幸せな気分になる。『ヒロ、ヒロ』と言ってあの大きな身体でくっついて来る…。
何でこんな事になったんだろう。
全部幻想だったのか?いつからこうなっていたんだ?
もう何も信じられないよ。

顔が腫れたら困るから涙はぐっと堪えた。
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