オメガの香り

みこと

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「樹里、樹貴は寝たぞ。よっぽど疲れたんだな。ベッドに入ってすぐだ。」 

一緒に暮らし始めてちょうど一ヶ月経った。
俺たちはまだ籍入れていないがすこぶる順調だ。
朝起きると樹里がいて、夜は樹貴を寝かせたあと、イチャイチャしてセックスして抱き合って眠る。
本当に幸せだ。
可愛すぎて樹貴の目を盗んでは樹里にキスしたり触ったりしてしまう。
休日は親子三人でいろんな所へ出かける。
今日は樹貴のリクエストで動物園に行ってきた。

「あんな広い動物園なんて初めてだからねぇ。ゴリラとか、ライオンとか、絵本でしか見たことなかったからすごい興奮してた。」

「樹里も疲れただろ?」

「僕は平気。」

「じゃあ今から夫婦の時間だな。」

キッチンで片付けをしている樹里を後ろから抱きしめた。
自分の番いがこんなに愛おしいなんて。
可愛くて愛おしいくて堪らない。一日中樹里のことを考えている。この間はメッセージがしつこいと怒られてしまった。

「あとは俺がやるから…。」

そのままソファーに座らせた。俺はキッチンに戻りお茶を淹れて樹里に出した。

「樹里、ご両親には連絡したのか?」

「まだ。なんて言ったら…。勝手に出ていって子どもまで産んで。」

「全くだ。俺だってめちゃくちゃ心配したぞ。」

「うん、怒られるよね?親子の縁を切られるかも。」

「俺が連絡しようか?」

「ううん。自分でする。大丈夫。」

「会いに行く時は俺も行くから。怒られるなら俺も一緒だ。」

「ふふふ。うん。ありがとう。」

勝手に家を出て姿を消して子どもまで産んでいた樹里。怖くて親に連絡できないのは当然だろう。
でもきっとおまえのことをすごく心配しているはずだ。
まだ籍を入れていないのは、きちんとご両親に報告したいからだ。
でも樹里はなかなか勇気が出ない。

「樹里、早く入籍したい。」

「え?うん。」

「大丈夫。俺がついてるから。」

「うん。」

優しく抱きしめてキスをする。
樹里がこうなったのは俺のせいでもある。
できる限りのことをしてやりたい。
そして早く夫夫になりたい。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「はぁー、緊張する。」

「大丈夫。電話したんだろ?」

「うん。すぐ帰って来いって。」

樹里は昨日やっと家に電話できた。
母親は電話口で泣いてしまいきちんと話が出来なかった。
今日は三人で樹里の家に行くのだ。
子どものことは言っていない。オメガになったことも。

樹里は震える指で玄関のインターホンを押した。

「樹里!」

勢いよく樹里の両親が出てきた。樹里の顔を見て泣き崩れる。

「お父さん、お母さん。ごめん、ごめんなさい…。」

しばらく玄関先で抱き合って泣いていた。

「お母さん、泣いてるの?」

「樹貴…。」

俺と手を繋いでいる樹貴が呟いた。

「樹里、その子は?」

「僕の子。僕が産んだんだ。」

「「…。」」

ご両親はキョトンとしている。
そうだよな。ベータの男だと思っているはずだよな。

「僕、オメガになったんだ。変異種オメガっていうんだって。それで、子どもが出来て…。」

「「えーーーーっ!!!」」



玄関で大騒ぎしてしまい、とりあえず家の中に入った。

「オメガって、本当に?」

「うん。」

樹里は高校二年の夏にオメガになったこと、その時にフェロモンを出して俺を誘惑してしまったと話した。
俺が悪者にならないように言葉を選んで話している。そんな樹里をとても愛おしく思った。

「そうなの…。」

「ごめんなさい。どうしていいか分からなくて。」

「お義父さん、お義母さん。俺にも責任があります。本当にすいませんでした。これからは樹里さんも樹貴も俺が責任持って大事にします。」

「慎一郎…。」

「急なのは分かっています。樹里さんと結婚させて下さい。」

座布団から降りて頭を下げた。

「慎一郎くん、顔を上げて下さい。君がずっと樹里を探していてくれたことは知っています。もちろん、急なことですごく驚いています。でも、何よりも今は樹里が無事で生きていてくれたことが嬉しいんです。」

「お義父さん…。」

「私たちも受け入れるのに少し時間を下さい。でも樹里、オメガになろうとおまえは私たちの大事な息子だ。本当に生きていてくれて良かった…。」

そう言ってご両親はまた泣き出した。
樹里も泣いている。

「ねぇ、何でみんなで泣いてるの?」

樹貴が樹里の後ろからポカンとみんなを見ていた。
あ、そうだ。樹貴をお義父さんたちに紹介しないと。

「お義父さん、お義母さん。樹里さんと私の息子の樹貴です。樹貴、おじいちゃんとおばあちゃんだよ。」

「まあ!樹貴くんっていうのね。はじめまして。おばあちゃんよ。」

涙を拭きながらお義母さんが樹貴に近寄った。

「おばあちゃん?」

「そうだよ。お母さんのお母さんだから樹貴のおばあちゃんだよ。こっちはおじいちゃんだ。」

「はじめまして。樹貴くん。よく来てくれたね。」

ご両親は嬉しいそうに樹貴の側に寄って手を握っている。

「ほら、樹貴。ご挨拶は?」

「こんにちは。」

「あらー、偉いわねぇ。」

樹貴を囲んで和やかな雰囲気になった。
樹里はその様子を見ながら静かに涙を流している。
本当はずっと会いたかったはずだ。俺のせいで大事な親子の時間を奪ってしまった。
これからはご両親にもまめに会いに来よう。

「樹里、良かったな。」

「うん。」

泣いている樹里の肩をそっと抱いた。



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