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子ども?樹里に子どもが居るのか?
保育園から出て来た樹里は四、五歳くらいの男の子を連れていた。
その子は樹里をお母さん、と呼んでいる。
しかも樹里は自分がが産んだと言っている。
その子どもをまじまじと見つめた。
見覚えのある雰囲気だ。
樹里とはあまり似ていない。
黒い髪に黒い瞳、意志の強い生意気そうな顔。
俺だ。俺に似ているんだ。
全身の力が抜けて道路にしゃがみ込んでしまった。
俺の子だ。樹里はあの時妊娠したのか。
頭の中でぐちゃぐちゃになっていた全てのピースが綺麗に繋がった。
樹里は子どもを産むために全てを捨てたんだ。
俺との子どもを産むために…。
「慎一郎?」
「樹里、その子は俺の子か?」
「ちょっと、樹貴が聞いてるから…。」
「あ、ああ。ごめん。」
「おじさん、泣いてるの?どこか痛い?」
俺にそっくりな子どもが話しかけてくる。
泣いている?頬を触ると涙が流れていることを知った。
「いや、大丈夫だ。ちょっとびっくりしただけだよ。」
立ち上がって膝の砂を払った。
そのまま樹里に近づいて跪いて手を取った。
「樹里、結婚してくれ。」
「…。」
「頼む。YESと言ってくれ。」
「えーーっ!」
樹里は驚いて固まってしまった。隣に立っている俺の息子も唖然としている。
しばらくその体勢のまま三人で動かなかった。
「お母さん、ジュージューの音が変わって来たよ。」
俺の息子、樹貴が椅子に乗ってフライパンを見つめている。そのフライパンの中にはハンバーグが三つ入っている。
その近くで樹里は洗濯物を畳んでいた。
「本当?ちょっと待ってて。」
樹里が手早くハンバーグをひっくり返した。
美味しそうな焦げ目が付いている。
「ねぇ、慎一郎。そこに立ってると邪魔なんだけど。」
「あ、ごめん。」
手持ち無沙汰でどこにいて良いのか分からない。
樹里も樹貴も自分の仕事を黙々とこなしている。
洗濯物を畳んでしまい終わった樹里は味噌汁を作り始めた。手際が良い。それが終わるとサラダに取りかかる。
横で樹貴がそれをじっと見ていてタイミング良く皿を出して並べ始める。
ずっとこうして二人でやってきたんだろうな。
また涙が出てきた。
「え?何?何で泣いてるの?」
「いや、ちょっと…。」
「おじさん、大人なのに泣き虫だね。」
樹貴に揶揄われた。
二人はご飯をよそい、テーブルに並べた。
ハンバーグと味噌汁。付け合わせにサラダだ。
「いただきまーす。」
樹貴が元気に挨拶をして食べ始める。
「いただきます。」
俺も箸を持って一礼し食べ始めた。
美味い。今まで食べた物の中で一番美味しい。
「いただきます。」
俺が食べ始めたのを見て樹里も箸をつけた。
樹貴が保育園であったことを一生懸命話している。樹里はそれを相槌を打ちながら嬉しそうに聞いていた。
ダメだ。また涙が…。
俺はその光景を見て泣きながらハンバーグを食べていた。
二人で片付けをして風呂に入ってしまった。
どうしようか。帰れとも言われないし。
狭くて古いアパートにはほとんど物がなかった。
テレビボードに小さなテレビとテーブル、座布団だけだ。
テレビボードの上に写真が飾られていた。
樹貴が赤ちゃんの頃の写真だ。嬉しそうに樹貴を抱く樹里。きっとシェルターで産んだんだ。
両親にも俺にも言わず…。
俺はその頃何をしてたんだろうか。
呑気に樹里が居なくなったことを嘆いていたんだろうか。
しばらくすると二人が風呂から出てきた。
「ちょっと樹貴を寝かせてくるから。」
そう言って襖を開けてとなりの部屋に入っていった。
二人の楽しそうな声が聞こえる。
布団を敷いているようだ。しばらくして絵本を読む声が聞こえた。
十五分ほどで静かになった。
時計を見るとちょうど二十一時になったところだった。
子どもはこんなに早く寝るのか。
そっと襖が開いて樹里が戻ってきた。
冷蔵庫を開けて麦茶を出して二つのコップに注ぐ。
それを持って俺の前に座った。
「「あのっ…」」
二人で一緒に話し始めてしまった。
「樹里から話してくれ。」
「…うん。」
下を向いて黙っている。
「慎一郎、ごめん。あの時、あんな事になっちゃって。本当にごめん。」
「え?何だ?何について謝ってるんだ?」
「だから、その、あの事だよ。僕のフェロモンで…。」
「俺がおまえを襲ったことか?」
「襲ったって…。そうさせたのは僕のせいだ。ずっとベータだと思ってたんだけど違ったんだ。僕、オメガになったんだ。だからあんなフェロモンで慎一郎が…。ごめん、ごめんなさい。」
樹里はそう言って泣き出した。
保育園から出て来た樹里は四、五歳くらいの男の子を連れていた。
その子は樹里をお母さん、と呼んでいる。
しかも樹里は自分がが産んだと言っている。
その子どもをまじまじと見つめた。
見覚えのある雰囲気だ。
樹里とはあまり似ていない。
黒い髪に黒い瞳、意志の強い生意気そうな顔。
俺だ。俺に似ているんだ。
全身の力が抜けて道路にしゃがみ込んでしまった。
俺の子だ。樹里はあの時妊娠したのか。
頭の中でぐちゃぐちゃになっていた全てのピースが綺麗に繋がった。
樹里は子どもを産むために全てを捨てたんだ。
俺との子どもを産むために…。
「慎一郎?」
「樹里、その子は俺の子か?」
「ちょっと、樹貴が聞いてるから…。」
「あ、ああ。ごめん。」
「おじさん、泣いてるの?どこか痛い?」
俺にそっくりな子どもが話しかけてくる。
泣いている?頬を触ると涙が流れていることを知った。
「いや、大丈夫だ。ちょっとびっくりしただけだよ。」
立ち上がって膝の砂を払った。
そのまま樹里に近づいて跪いて手を取った。
「樹里、結婚してくれ。」
「…。」
「頼む。YESと言ってくれ。」
「えーーっ!」
樹里は驚いて固まってしまった。隣に立っている俺の息子も唖然としている。
しばらくその体勢のまま三人で動かなかった。
「お母さん、ジュージューの音が変わって来たよ。」
俺の息子、樹貴が椅子に乗ってフライパンを見つめている。そのフライパンの中にはハンバーグが三つ入っている。
その近くで樹里は洗濯物を畳んでいた。
「本当?ちょっと待ってて。」
樹里が手早くハンバーグをひっくり返した。
美味しそうな焦げ目が付いている。
「ねぇ、慎一郎。そこに立ってると邪魔なんだけど。」
「あ、ごめん。」
手持ち無沙汰でどこにいて良いのか分からない。
樹里も樹貴も自分の仕事を黙々とこなしている。
洗濯物を畳んでしまい終わった樹里は味噌汁を作り始めた。手際が良い。それが終わるとサラダに取りかかる。
横で樹貴がそれをじっと見ていてタイミング良く皿を出して並べ始める。
ずっとこうして二人でやってきたんだろうな。
また涙が出てきた。
「え?何?何で泣いてるの?」
「いや、ちょっと…。」
「おじさん、大人なのに泣き虫だね。」
樹貴に揶揄われた。
二人はご飯をよそい、テーブルに並べた。
ハンバーグと味噌汁。付け合わせにサラダだ。
「いただきまーす。」
樹貴が元気に挨拶をして食べ始める。
「いただきます。」
俺も箸を持って一礼し食べ始めた。
美味い。今まで食べた物の中で一番美味しい。
「いただきます。」
俺が食べ始めたのを見て樹里も箸をつけた。
樹貴が保育園であったことを一生懸命話している。樹里はそれを相槌を打ちながら嬉しそうに聞いていた。
ダメだ。また涙が…。
俺はその光景を見て泣きながらハンバーグを食べていた。
二人で片付けをして風呂に入ってしまった。
どうしようか。帰れとも言われないし。
狭くて古いアパートにはほとんど物がなかった。
テレビボードに小さなテレビとテーブル、座布団だけだ。
テレビボードの上に写真が飾られていた。
樹貴が赤ちゃんの頃の写真だ。嬉しそうに樹貴を抱く樹里。きっとシェルターで産んだんだ。
両親にも俺にも言わず…。
俺はその頃何をしてたんだろうか。
呑気に樹里が居なくなったことを嘆いていたんだろうか。
しばらくすると二人が風呂から出てきた。
「ちょっと樹貴を寝かせてくるから。」
そう言って襖を開けてとなりの部屋に入っていった。
二人の楽しそうな声が聞こえる。
布団を敷いているようだ。しばらくして絵本を読む声が聞こえた。
十五分ほどで静かになった。
時計を見るとちょうど二十一時になったところだった。
子どもはこんなに早く寝るのか。
そっと襖が開いて樹里が戻ってきた。
冷蔵庫を開けて麦茶を出して二つのコップに注ぐ。
それを持って俺の前に座った。
「「あのっ…」」
二人で一緒に話し始めてしまった。
「樹里から話してくれ。」
「…うん。」
下を向いて黙っている。
「慎一郎、ごめん。あの時、あんな事になっちゃって。本当にごめん。」
「え?何だ?何について謝ってるんだ?」
「だから、その、あの事だよ。僕のフェロモンで…。」
「俺がおまえを襲ったことか?」
「襲ったって…。そうさせたのは僕のせいだ。ずっとベータだと思ってたんだけど違ったんだ。僕、オメガになったんだ。だからあんなフェロモンで慎一郎が…。ごめん、ごめんなさい。」
樹里はそう言って泣き出した。
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