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「消えた…。」
「精霊の羽衣を持って行かれた。くそっ!」
消えた勢いに吹き飛ばされたフレデリックが悔しそうに拳で床を殴る。
「あいつら精霊の羽衣を狙っていたのかもな。」
セルゲイも悔しそうだ。ジルを抱きしめたまま呟いた。
オリバーがお茶を淹れてくれたので皆で座って一息ついた。
「自ら呼ぶ、と言ったな?」
「ええ。おそらくあれは名前ではなくあいつらを呼び寄せる呪文か何かだと。精霊の国へ行かせないようにするものかもしれませんね。」
「どういうことだ?」
フレデリックがジルに尋ねた。
「精霊の羽衣を手に入れ、それに魔法陣を書く。そうすれば扉は開くのですが知らずにうっかりあの呪文を読んでしまうと精霊の羽衣を取り上げられてしまう…。」
「すいません。僕のせいで…。」
ルイーズが泣きそうな顔で謝る。
「ルイーズのせいではないよ。仕方ないことだ。」
フレデリックが優しくそう言ってルイーズを抱き寄せた。
「まあどっちにしろ精霊の羽衣はなくなった。これであっちの世界には行けなくなったな。あと一週間後に迫った朔月までに新しい精霊の羽衣を探すのは無理だ。」
皆がっくりと肩を落とす。セルゲイの言う通りだ。精霊の羽衣を手に入れるのは難しい。
意気消沈した面々はその後もレオーニの家で精霊についてや精霊の羽衣を探した。やはり収穫はなくあっという間に五日が過ぎた。
「精霊の羽衣か…。」
皆で夕食を囲んでいたときフレデリックはふと思い出した。あのタペストリーが精霊の羽衣だと分かったのはニケーアに言われたからだ。
何故ニケーアはあれが精霊の羽衣だと分かった?
「ルイーズ、何故ニケーア殿はあれが精霊の羽衣だと分かったんだ?ニケーア殿は精霊の羽衣を知っていたと言うことか?」
皆がフレデリックの顔を見る。
「ニケーア様は精霊の羽衣を知っている…。それは見たことがあるから?」
ジルがボソリと呟いた。
「ルイーズ!サリエルには精霊の羽衣があるのでは?」
フレデリックがルイーズの両肩を掴んで興奮したように言った。
「え?え?あ、それは分かりません…。姉様に聞いてみないと…。」
「よし!サリエルに行こう。」
フレデリックはソファーから立ち上がった。
「そうするしかないな。だか、二日後の朔月までには間に合わないだろう。」
ここからサリエルまでは馬を飛ばしても三日はかかる。
朔月はとっくに過ぎてしまう。今回は諦めるしかなさそうだ。
オリバーとエイベルが夕飯の片付けをしている。ルイーズとジルも手伝っていた。
「はぁ、あと少しだったのに…。」
セルゲイは悔しそうだ。ソファーに横になってぶつぶつ文句を言っている。
「おい、セルゲイも手伝え。フレデリック殿下に皿をしまわせて…。おまえが寝てるなんて恐れ多いだろ。」
「へーい。」
「ほら、そこのごちゃごちゃした本や資料を片付けて要らないものや調べ終わったものは分かるようにしておいて。」
ジルに怒られたセルゲイはのろのろと立ち上がりごちゃごちゃした床を片付けだした。
元々物で溢れていたのにこの間の三人組が暴れてからさらに酷いことになっている。床が見えないくらいだ。
「レオーニはすごいな。溜めに溜めまくって…。」
片付けを始めたセルゲイが本や資料を持ち上げると黒い布が出てきた。一メートル四方に満たない破れた布だ。
「何だ、ゴミか。」
セルゲイがそれを捨てようとした時だ。
「待て!セルゲイ!そ、それは!」
「ん?うわっ!何だ?」
セルゲイが捨てようとした布を奪って両手で広げる。それはあの黒いローブだった。男たちが消えようとした時にフレデリックがむしり取った物だ。
「それは?」
「あの男たちのローブだ。あのときむしり取ったんだ。吹き飛ばされだけどローブはこっちの世界に残ったんだ。」
皆が集まってそのローブを囲む。
そっと撫でてみるとタペストリーと同じ肌触りだった。柔らかくて上質な麻に似ている。
「これも精霊のローブかもしれない…。」
フレデリックが呟くと皆が驚いてその顔を見た。
「まさか…!いや、あり得ますね。手触りも似ている。あいつが何者かは分かりませんが闇の精霊だとしたら着ているものは精霊の羽衣です。」
ジルは床にそのローブを広げてメモ帳を取り出し羽根ペンで魔法陣を描き始めた。黒い布なので魔法でインクを銀色に変え、一寸の狂いもなく正確に真似る。
一時間ほどでそのローブに魔法陣を書き写した。
「これは精霊のローブかはあと二日後に分かります。」
その言葉に皆頷いた。
いよいよその日が来た。夜も更けて皆そわそわし始める。荷物をまとめいつでも出かけられる準備を始めた。
「みんな、聞いてくれ。」
フレデリックが皆を集めた。
「私たちがしようとしていることは大変危険な事だ。もし扉が開けば私はあちらの世界に行く。しかし戻って来られるかは分からない。皆が行くかどうかはそれぞれの気持ちに任せる。」
「僕は行きます。フィルが行くなら僕も。」
ルイーズが意気込んでフレデリックを見る。
「私も行きます。研究者の血が騒ぎます。」
ジルが手を挙げた。
「なら俺もだ。」
セルゲイも手を挙げる。
「もちろん私も行きます。大丈夫です殿下。大叔父は戻って来られた。」
「私も…。」
オリバーとエイベルも手を挙げた。
皆の顔を見渡しフレデリックは頷いた。
「ありがとう、皆んな。」
「何だよ。この世の終わりみたいな顔すんな。これは始まりだ!」
セルゲイがおどける。
日付けが変わるまであと半刻、皆でそれを見守った。
「精霊の羽衣を持って行かれた。くそっ!」
消えた勢いに吹き飛ばされたフレデリックが悔しそうに拳で床を殴る。
「あいつら精霊の羽衣を狙っていたのかもな。」
セルゲイも悔しそうだ。ジルを抱きしめたまま呟いた。
オリバーがお茶を淹れてくれたので皆で座って一息ついた。
「自ら呼ぶ、と言ったな?」
「ええ。おそらくあれは名前ではなくあいつらを呼び寄せる呪文か何かだと。精霊の国へ行かせないようにするものかもしれませんね。」
「どういうことだ?」
フレデリックがジルに尋ねた。
「精霊の羽衣を手に入れ、それに魔法陣を書く。そうすれば扉は開くのですが知らずにうっかりあの呪文を読んでしまうと精霊の羽衣を取り上げられてしまう…。」
「すいません。僕のせいで…。」
ルイーズが泣きそうな顔で謝る。
「ルイーズのせいではないよ。仕方ないことだ。」
フレデリックが優しくそう言ってルイーズを抱き寄せた。
「まあどっちにしろ精霊の羽衣はなくなった。これであっちの世界には行けなくなったな。あと一週間後に迫った朔月までに新しい精霊の羽衣を探すのは無理だ。」
皆がっくりと肩を落とす。セルゲイの言う通りだ。精霊の羽衣を手に入れるのは難しい。
意気消沈した面々はその後もレオーニの家で精霊についてや精霊の羽衣を探した。やはり収穫はなくあっという間に五日が過ぎた。
「精霊の羽衣か…。」
皆で夕食を囲んでいたときフレデリックはふと思い出した。あのタペストリーが精霊の羽衣だと分かったのはニケーアに言われたからだ。
何故ニケーアはあれが精霊の羽衣だと分かった?
「ルイーズ、何故ニケーア殿はあれが精霊の羽衣だと分かったんだ?ニケーア殿は精霊の羽衣を知っていたと言うことか?」
皆がフレデリックの顔を見る。
「ニケーア様は精霊の羽衣を知っている…。それは見たことがあるから?」
ジルがボソリと呟いた。
「ルイーズ!サリエルには精霊の羽衣があるのでは?」
フレデリックがルイーズの両肩を掴んで興奮したように言った。
「え?え?あ、それは分かりません…。姉様に聞いてみないと…。」
「よし!サリエルに行こう。」
フレデリックはソファーから立ち上がった。
「そうするしかないな。だか、二日後の朔月までには間に合わないだろう。」
ここからサリエルまでは馬を飛ばしても三日はかかる。
朔月はとっくに過ぎてしまう。今回は諦めるしかなさそうだ。
オリバーとエイベルが夕飯の片付けをしている。ルイーズとジルも手伝っていた。
「はぁ、あと少しだったのに…。」
セルゲイは悔しそうだ。ソファーに横になってぶつぶつ文句を言っている。
「おい、セルゲイも手伝え。フレデリック殿下に皿をしまわせて…。おまえが寝てるなんて恐れ多いだろ。」
「へーい。」
「ほら、そこのごちゃごちゃした本や資料を片付けて要らないものや調べ終わったものは分かるようにしておいて。」
ジルに怒られたセルゲイはのろのろと立ち上がりごちゃごちゃした床を片付けだした。
元々物で溢れていたのにこの間の三人組が暴れてからさらに酷いことになっている。床が見えないくらいだ。
「レオーニはすごいな。溜めに溜めまくって…。」
片付けを始めたセルゲイが本や資料を持ち上げると黒い布が出てきた。一メートル四方に満たない破れた布だ。
「何だ、ゴミか。」
セルゲイがそれを捨てようとした時だ。
「待て!セルゲイ!そ、それは!」
「ん?うわっ!何だ?」
セルゲイが捨てようとした布を奪って両手で広げる。それはあの黒いローブだった。男たちが消えようとした時にフレデリックがむしり取った物だ。
「それは?」
「あの男たちのローブだ。あのときむしり取ったんだ。吹き飛ばされだけどローブはこっちの世界に残ったんだ。」
皆が集まってそのローブを囲む。
そっと撫でてみるとタペストリーと同じ肌触りだった。柔らかくて上質な麻に似ている。
「これも精霊のローブかもしれない…。」
フレデリックが呟くと皆が驚いてその顔を見た。
「まさか…!いや、あり得ますね。手触りも似ている。あいつが何者かは分かりませんが闇の精霊だとしたら着ているものは精霊の羽衣です。」
ジルは床にそのローブを広げてメモ帳を取り出し羽根ペンで魔法陣を描き始めた。黒い布なので魔法でインクを銀色に変え、一寸の狂いもなく正確に真似る。
一時間ほどでそのローブに魔法陣を書き写した。
「これは精霊のローブかはあと二日後に分かります。」
その言葉に皆頷いた。
いよいよその日が来た。夜も更けて皆そわそわし始める。荷物をまとめいつでも出かけられる準備を始めた。
「みんな、聞いてくれ。」
フレデリックが皆を集めた。
「私たちがしようとしていることは大変危険な事だ。もし扉が開けば私はあちらの世界に行く。しかし戻って来られるかは分からない。皆が行くかどうかはそれぞれの気持ちに任せる。」
「僕は行きます。フィルが行くなら僕も。」
ルイーズが意気込んでフレデリックを見る。
「私も行きます。研究者の血が騒ぎます。」
ジルが手を挙げた。
「なら俺もだ。」
セルゲイも手を挙げる。
「もちろん私も行きます。大丈夫です殿下。大叔父は戻って来られた。」
「私も…。」
オリバーとエイベルも手を挙げた。
皆の顔を見渡しフレデリックは頷いた。
「ありがとう、皆んな。」
「何だよ。この世の終わりみたいな顔すんな。これは始まりだ!」
セルゲイがおどける。
日付けが変わるまであと半刻、皆でそれを見守った。
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