至宝のオメガ

みこと

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「あるってどういうことだ?」

「寝室にあったじゃない。壁に飾ってあったでしょ?珍し物を持ってるなって思ったのよ。」

フレデリックとルイーズは顔を見合わせた。壁に飾ってあるタペストリー。それはレオーニの物でオリバーから譲り受けたのだった。フレデリックは立ち上がり寝室に駆けて行った。二人もそれを追いかける。

「これが…これが精霊の羽衣…。」

一メートル四方のアイボリーの生地。手触りは柔らかい麻に似ている。薄いのに丈夫そうだ。フレデリック精霊の羽衣を見てさらに驚いた。その布にはうっすらとあの紋様が描かれていたのだ。
あの紋様とはレオーニの家で見た精霊の国とこちらの国を繋ぐ魔法陣だった。

「フィル、これ…」

「ああ。」

ルイーズも気が付いたようだ。うっすらと描かれたその紋様がレオーニの家で見たものということに…。

「はっ!僕…。」

ルイーズが何かを思い出したようだ。その顔を青ざめている。

「どうした?」

「僕、この間見ました。この壁から紫色の光が漏れ出て壁がぐるぐる回っているのを…。」

「この間とは?」

「朔月の日です。そのまえも確か朔月の日だったと。寝ぼけて見間違えたのかと思っていました。」

「どういうことだ?」

「おそらく扉が開いたのね。」

ニケーアがそのタペストリーを触りながら言った。

「扉が…?」

「ええ。フレデリック殿下の話だと、精霊の羽衣に魔法陣を書けば他の国と繋がるんでしょ?それならその条件はクリアしてるわけだから…。」

「じゃあ僕が見たあの光と壁のぐるぐるは向こうの世界かもしれない…」

「そういうことだな。そしてそれは朔月の日に開く…。」

三人は顔を見合わせた。次の朔月まであと一ヶ月ほどある。それまでにまたレオーニの家で調べられるだけ調べてみようということになった。
ニケーアはそのままサリエルに帰るので何か分かったらお互いに報告し合う約束をした。
帰り際にルイーズをぎゅうぎゅう抱きしめて頬に何度もキスをしていったのをフレデリックは恨みがましい目で見ていた。

「帰ったな。嵐のような人だ。」

「ふふ。そうですね。」

ルイーズたちは遠ざかるニケーアの後ろ姿を見送る。その姿が見えなくなった途端、フレデリックはルイーズに抱きついて顔中にキスをした。

「フ、フィル…。」

「分かってる。ルイーズの姉上ということは分かってはいるんだ。でもダメだ…私のルイーズに触れて良いのは私だけだ。」

そう言ってじっと見つめるフレデリックの熱い眼差しにルイーズの顔は赤くなる。

「はい。僕はフィルのものです。」

恥ずかしそうに言うルイーズを抱きしめて今度はその唇を激しく吸う。
城の入り口で行われている二人の熱いキスにその場に居た者たちは皆、下を向いたり目を逸らしたりしてやり過ごした。




「フレデリック!本当か⁉︎精霊の羽衣あったのか?」

「ああ。」

レオーニの家に集まったいつもの面々に精霊の羽衣の話をした。

「まさかあれが…。」

オリバーも驚いている。ルイーズが言った通り本当にレオーニは精霊の国へ行き精霊に会っていたのかもしれない。

「それで?どうしますか?」

エイベルが尋ねた。

「次の朔月までまだ日がある。精霊の国とやらに行くにしても準備が必要だ。レオーニの残した物をとことん調べようと思うんだ。」

「そうだな。全く未知の場所へ行くんだ。下調べが必要だ。」

セルゲイの言葉にとジルが頷く。

「あのタペストリーの向こうはやはり精霊の国ではないかと考えるのが妥当だ。精霊について調べよう。」

フレデリックの意見に皆賛成した。また手分けしてレオーニの遺品を調べる。
ジルとセルゲイはこの間から残って調べていたときに気になるものをいくつか見つけたようだ。

「フレデリック、これを見てくれ。」

セルゲイに渡されたのは一冊の本だった。広げてみると本ではなく蛇腹折になっている長い紙だ。色褪せて見えなくなっている部分が多いが何かの年表のようだった。
絵や文字は子ども向けのような感じだ。

「これは?」

「どこかの国の年表のようなんだ。なあ、ジル。」

「はい。もちろんバートレットではありません。字が薄くなって見えなくなっている箇所が多いのですか、精霊の国の年表かと。」

「ええ⁉︎何だって?」

驚いたフレデリックが二人を見た。

「驚くのも無理はないさ。俺たちも驚いたよ。だがこれはその、何というか…。」

セルゲイが口籠もって考え込んでいる。

「架空の世界の話のように書いてあるんです。」

「そうなんだ。俺たちは精霊とかそういうものについて調べてただろ?だからこの年表に目が止まった。でもそうじゃなかったら完全にスルーしていた代物だ。まるで絵本のように書いてある。でもその内容は子ども向けのものなんかじゃない。」

バートレットの文字で書かれているそれはセルゲイが言ったように一見子供向けの絵本のようだ。うっすらと可愛らしい挿絵に同じく可愛らしい丸文字で書かれている。

「精霊の誕生…?」

蛇腹の紙の一番左端に書かれた文字だ。所々薄くなり破けている箇所もある。

「問題はここだ。」

セルゲイが指差した箇所を見た。
『精霊の分裂…光と闇…闇の精霊の世界…表の世界と裏の世界…』

「闇の精霊の世界…。」

「ああ。ジル、お前が見つけた本を。」

ジルが頷きもう一冊本を持ってきた。それはまさに絵本だった。

「それは?」

「この絵本は精霊王が闇の種族たちと戦うお話です。どうやらレオーニ様が書いたようなのです。」

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