至宝のオメガ

みこと

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「はぁ~、しかしこんなに物が多いとどっから手を付けていいのか分からんな。」

レオーニの仕事部屋はいろいろな物で溢れかえっている。本や資料もそうだが、魔法具のような物、よく分からない物でごちゃごちゃだ。この中から実物を知らない精霊の羽衣を探し出すのだ。まさに干し草の中から針を探すとはこのことだ。

「申し訳ありません、セルゲイ様。」

オリバーが申し訳なさそうにセルゲイに謝る。

「オリバー様が謝ることはありません。まさに宝の山ですよ!ほら、セルゲイ気合い入れて探せ。」

ジルは嬉々としてタンスの中を探している。

「エイベル、何か面白そうなことが書いてあるのか?」

部屋の隅積まれた本や資料を真剣に読んでいるエイベルにセルゲイが声をかけた。

「え?はっ!いや、その…。」

エイベルは顔を赤らめて慌てている。
セルゲイが近寄ってその本を覗き込んだ。

「はーん、エイベルさんよ、みんなが真剣に探し物をしてるのに面白い物を読んでるじゃないか。」

セルゲイがその本をニヤニヤしながら取り上げた。

「えっと、なになに?異種との性交?懐妊?エイベルはこんな趣味があったのか?」

「い、いや、違いますよ!付箋が付いていたので何か大事なことなのかと…」

「ふむふむ、『異種とは性交は可能であるが懐妊は難しい遺伝子同士が混じり合わないからだ…ただしごく稀に懐妊しこの世に産まれてくる場合もある。それは奇跡の御子であり、両種族の優勢な遺伝子持って産まれてくる』だって。何だこれは。」

「ああ、それは昔の遺伝学の本じゃないかな。人と動物との子どもは産まれないって話。」

「ジル、そりゃ当然だろ?」

「まあ、そうだけど、その昔魔獣の魔力や力が欲しくて人間と交配する実験が行われたのは事実だ。非倫理的だって猛反対が起きてすぐに中止になったけどね。」

「ひぇ~人間は怖いねぇ。」

「その話は聞いたことがあります。大叔父がまだ学生の頃の話だそうですね。大叔父は怒り狂ってましたよ。あんなに怒っているのを見たのは後にも先にもあの時だけです。」

オリバーはその時のことを思い出したのか、顔を歪めている。

「なるほどな。だからレオーニ殿はその本に付箋を付けていたのか。」

フレデリックがその本をパラパラ捲って読んでいる。

「おそらくそうでしょう。昔のことを思い出したんでしょうね。」



結局精霊の羽衣らしき物は見つからず日付けが変わってしまった。アカーシャの金色の文字も元に戻りジル曰く、また読めなくなったそうだ。


「ルイーズ、もし仮にラウラ殿が精霊だとしたら、ラウラ殿が着ている物は精霊の羽衣なのか?」

「どうでしょうか。ラウラは自分のことは話しませんから。ラウラが着ているもの…。うーん、いつも綺麗なローブを羽織っていますね。柔らかくて不思議な生地です。」

「やっぱりそれが精霊の羽衣じゃないか?ラウラから借りることは出来ないのか?」

セルゲイが身を乗り出してルイーズに聞いた。

「いや、おそらく難しいだろう。ラウラ殿は人間とは関わりたくないようだ。ルイーズ以外とは。」

「僕もそう思います。」

しゅんとするルイーズの頭を撫でる。
確かにラウラは人間とは関わらない。しかしルイーズは別だ。自分の『春』を他人に譲るくらいルイーズを大事に思っている。一体ラウラとは何者なのか。ルイーズとはどういう関係なのだろうか。

次の日、フレデリックはルイーズとオリバー、エイベルとともに城に戻ることにした。ジルはもう少し調べたいと言って残り、セルゲイはジルに付き添うことになった。


馬を走らせて城下町近くまで来るとオリバーが右手を上げた。
危険を知らせる合図だ。
フレデリックは前に座るルイーズを自分のマントですっぽり包んで覆い隠した。
前方に見える城から細い煙が上がっているのが見える。
フレデリックたちは馬を止めてその煙を確認する。
薄い緑色の煙が一本、集合の合図だ。

「殿下、何かあったようですな。」

「ああ、急ごう。」

城の手前でカイルとレビンに出くわした。

「殿下、今迎えに行こうかと。」

「レビン、どうした。何があったんだ。」

フレデリックたちが城の中に入ると広間に数人の使用人やメイドが集まっていた。メイドと話をしていたイライジャがフレデリックに気付き駆け寄って来る。

「イライジャ、レビンたちに聞いた。本当か?」

「はい、殿下こちらは私の妹です。ファビオラ様のお世話係をしています。」

「リニーです。」

赤い髪をくるりとまとめてメイド用の濃紺のワンピースを着ている。

「それで、紫の蝶を見たというのは?」

「はい殿下。私が見たのは三日前です。ファビオラ様が庭でお茶を飲んでいた時です。そんなに重要なこととは知らず報告も致しませんでした。申し訳ありません。」

リニーが恐縮している。

「今朝、私と話をしているときにその紫の蝶の話になりまして。」

イライジャがリニーを庇うように隣に立った。

「リニーは悪くない。それで何人か見たというのは?」

フレデリックは安心させるように優しくリニーを見た。

「はい。リニーがメイド同士で話をしていたそうです。紫の蝶を見たものが他にもいると。それで紫の蝶を見た物をここに集めて話を聞く所でした。」

フレデリックはその人数を見て愕然とする。
三十人はいるだろうか。全員があの蝶を見たとは限らないがそれにしても多い。

「一人一人に聞いていこう。」

皆で手分けして使用人たちに確認をすることにした。
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