至宝のオメガ

みこと

文字の大きさ
上 下
66 / 87

60

しおりを挟む
「ルイーズ、身体は大丈夫か?昨夜は無理をさせてしまった。」

「大丈夫です。」

「本当に?無理してないか?」

レオーニの家に向かう馬車の中でルイーズの隣座ったフレデリックが優しく声を掛けて身体を撫でている。

「私の膝に座るか?」

「だ、大丈夫ですっ。」

「しつこいなぁ、ルイーズは大丈夫だって言ってるだろ?なぁ、ルイーズ?」

フレデリックの前に座っているセルゲイが口を挟む。

「あ、えっと、その…。」

「触りたいなら触りたいって言えよ。俺みたいに。ジル、触らせてくれ!」

くるりと隣を向きジルに抱きつこうとする。

「嫌に決まってるだろ。」

バシッと手を払われて冷たく一蹴された。

「冷たいなぁ、昨夜はあんなに熱く燃えた上がったのに…。ジルなんて…むぐっ!」

「やーめーろー!」

ジルに口を塞がれているがセルゲイはそれも嬉しそうだ。

「相変わらずだな。昨夜なら私たちだって熱かった。な?ルイーズ。」

「え?え!あ、えっと、その…。」

ルイーズは顔を赤くして下を向いてしまう。

「ふふ、照れてるのか?可愛いな。」

フレデリックはルイーズに抱きついて顔や頭にキスをしている。前に座っている二人なんてお構いなしだ。

「フィル、人が居ますから…。」

「関係ない。愛し合っているんだから。ルイーズ、可愛い。愛してる。」

クイっとルイーズの顎を引き上げて唇に吸い付く。
そのまま後頭部を手でがっちり固定してキスを続けた。

「セルゲイ、おまえより重傷がいるな…。」

「あ、ああ…。」

二人は引き攣った顔でフレデリックを見ていた。



「オリバーとエイベルは現地集合か?」

「ああ。そうだ。」

キスで腰砕けになってしまったルイーズは結局フレデリックの膝に横抱きにされている。
フレデリックは幸せそうだ。時々ルイーズの顔を覗き込んだりキスをしたりしている。

「おまえ、本当にフレデリックか?偽者じゃないよな?」

「バカなことを。私は私だ。」

フレデリックはふんと笑い、またルイーズの顔を覗き込む。ルイーズは眠いようでフレデリックの胸に顔を擦り付けている。そんなルイーズを愛おしそうに見つめて頭を撫でる。

「はぁ、羨ましいな。ジルも膝に乗るか?」

「遠慮しとく。ほらもうすぐ着くんだろ?キージ礼拝堂だ。」

窓の外から礼拝堂が見える。その裏の道をまっすぐ行くとレオーニの家がある。

「ルイーズ、眠い?」

「いいえ…。」

返事はあるがふにゃふにゃとフレデリックの首筋に自分の鼻を押し付けている。

「ふふふ、レオーニの家で少し休ませてもらおう。まだ病み上がりだからね。無理はダメだよ。」

甘ったるい声でルイーズをあやす。可愛くて堪らないようだ。

「やっぱりおまえはフレデリックじゃない!偽者だ!」

「バカか、おまえは。」

二人がやり合っているうちに場所はレオーニの家の前で停まった。フレデリックはルイーズを横抱きにしたまま馬車を降りる。すでに着いていたオリバーとエイベルが出迎えてくれた。

「殿下!ルイーズ様はどうかされたんですか?」

フレデリックの腕に抱かれているルイーズを見たオリバーが血相を変えた。

「いや、眠いだけだ。昨夜はあまり眠れなかったからな。」

その言葉を聞いたエイベルはハッとして二人から目を逸らした。エイベルには眠れなかった原因に心当たりがありそうだ。

「どこか休むところはあるか?」

「は、はい。ベッドがあります。」

オリバーに案内されてフレデリックが奥の寝室に入っていった。


「すごい素敵な家だな。」

「ジルはこういう感じが好きなのか?」

「ん?まぁな。まるでソミュール城やボボリツェ城みたいだ。」 

「へぇ…。」

中に入ると本や資料で溢れている。ジルは目をキラキラさせて見渡していた。

「私はしばらくここに泊まらせてもらおうかな。」

「え?ちょっと待て。それはダメだ。」

「何で?だって一日二日じゃ読み切れないだろ?」

「俺はどうなるんだよ。おまえが居なくて寂しいだろ?」

「セルゲイも此処から通えば…。」

二人が言い合っていると扉が開いてエイベルがはいってきたか。手には幾冊も本を抱えている。

「お取り込み中、すいません。ジルさんにこれを見せたくて…。この文字は読めますか?」

緑色の皮の装丁の古い大きな本だ。バートレットやこの近辺の国の文字ではない。

「うーん、これは。古代アルセナ文字か、それに近いですね。」

「アルセナ…。」

「ええ。全て読めるかどうかは…。」

「そうですか。とにかくここを…。」

エイベルはその本をパラパラ捲った。所々挿絵がある。

「ここです。」

エイベルの示したページの見開きの左側は挿絵がだった。一人の小さな男が山の頂に立ち手を伸ばしている。その手の先には雲のようなものがあり雲からは雨や雷が地上に向かって落ちている。まるで神が天変地異を操っているような絵だ。

「はっ!これは…。」

セルゲイが何かに気付いたようだ。

「はい、セルゲイ様。ゴードンやカイルから聞きましたか?」

「ああ。あの日、ルイーズが何をしたのか、だな?」

「ええ。私は直接イライジャに聞いたんです。第一部隊以外は知らないあの事です。閣下が箝口令を出しましたからね。」

「それで?」

セルゲイはエイベルの顔を見る。さっきまでのふざけた様子はない。

「それを聞いてこの本を思い出したんです。前回来た時に見つけました。イライジャの話を聞き、この絵が真っ先に浮かんだんです。私にはこの文字が読めないので、ぜひジルさんにと。」

「それは『天使の歌』だ。」

フレデリックの声に皆驚き振り返る。ルイーズは居ないのでどこか別の部屋に寝かせてきたようだ。

「「『天使の歌』⁉︎」」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

処理中です...