至宝のオメガ

みこと

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「ルイーズ…。」

フレデリックがルイーズを抱き上げる。ルイーズが何か大きな力を使ったと察した。
ポロポロと涙を流すルイーズわ大丈夫だ、と何度も声をかけて背中を撫でた。

「殿下、あそこに…。」

カイルが大穴を指差す。
そこには男が五人倒れていた。

「テリー、あいつらを縛り上げろ。生捕りにして吐かせるんだ。」

「はい。」

アーネストの後を追って来たテリーたちが近づこうとすると一番小さな男が倒れたまま魔法を唱えた。

豪火爆発ファイアバースト

民家ほどの巨大な火の玉がアーネストたち目掛けて飛んできた。

「くっ!」

アーネストとテリーが剣でそれを受け止める。

「殿下、これ以上は…」

「ああ…、みんな逃げろ!」

動ける者が倒れている隊員たちを背負いその場を離れようとした。
ルイーズを抱き上げていたフレデリックがその横に倒れていたイアンに手を伸ばした時だ。

「ルイーズがダメならおまえだけでも…!死ね!」

皆が火の玉に気を取られていた。
倒れていたはずの男の一人がフレデリックの目の前に立ち剣を振り下ろした。
フレデリックは避けようと身体を翻すが、ルイーズを抱えていたため一歩遅れてしまった。

「もらった!」

もう一度男が剣を振る。

「フィル!!」

フレデリックの腕から飛び降り、庇うように前に出たルイーズの身体にその剣が振り下ろされた。

「ルイーズ!!」

「ルイーズ様っ!」

ルイーズの身体がぐらりと揺れた。フレデリックが抱きとめるとその身体がぬるりと滑った。
血だ…。ルイーズが斬られたのだ。

「あ、あ、ルイーズ…。」

「フィル…ご無事で…。」

ルイーズはフレデリックの顔見るとそのまま気を失いぐったりとその身を預けた。

「おのれ…!」

フレデリックの身体が震えながら赤く燃える。ルイーズを抱いたまま剣を抜いた。
その怒りのオーラの強さに皆の動きが止まる。

聖火天翔セイントヴァレスト

剣を振り下ろすと聖なる炎が渦を巻きルイーズを斬った男を包み消し去った。
その炎は消えることなく他の男たちにも襲いかかり、火の玉もろとも煙のように消してしまった。

「フレデリックっ!」

アーネストが駆け寄る。
ルイーズを横抱きにして歩き出したフレデリックはその声にも振り返らなかった。





毒物の混入、敵の襲撃とバートレットは大騒ぎだった。
アレクセイとアーネストが指示を出し調査を開始した。明日の婚約パーティーはルイーズの急病ということで中止となる。その対応にはファビオラ、セルゲイも加わり他国の来客たちに頭を下げて回った。

やっと城の中のが落ち着いた時にはあの日からすでに三日も経っていた。

「ルイーズはどうだ?」

フレデリックは力なく横に首を振る。
あれ以来ルイーズは目を覚さなかった。
サリエル王とニケーアには本当のことを伝えるしかなかった。二人はずっとルイーズについていたが、自国も安泰ではないので戻ることになり、今朝帰っていった。
ニケーアがイアンにいくつか薬の調合を伝えていったようだ。イアンは朝から温室に出かけている。

「医者は何て?」

「傷が深く今日明日が山だろうと。」

アーネストは落胆するフレデリックにかける言葉もなかった。この三日、ルイーズのそばを離れず食事もほとんど摂っていない。

昼過ぎにイアンがが戻ってきた。手には薬の入った壺を持っている。
包帯を交換すると言ってその薬を傷に塗った。傷口は右肩から腰の辺りまでばっくり裂けている。手術で一命は取り留めたが、予断を許さない。
その傷を見てフレデリックは身体を震わせた。

「ルイーズ…ルイーズ。」

ルイーズの手を握りしめキスをする。ルイーズとともにフレデリックも弱っていくように見えた。
午後になりルイーズの熱が上がる。息も荒く身体も燃えるように熱い。

「ルイーズ!イアン、ルイーズはどうなるんだ?」

「殿下…。」

イアンも分からないと首をふる。

「神よ…。」

フレデリックが泣きながら祈りを捧げるがルイーズの容体は悪くなるばかりだ。医者も来て診察するが横に首を振るだけだった。

窓の外を見ると満月だ。暗闇を明るく照らしている。
フレデリックはルイーズと一緒に蒼の森に行ったことを思い出した。
あの日も満月だった。黒の森でラウラに月下草のことを聞いて蒼の森まで行ったのだ。
フレデリックは急にぱっと立ち上がり、近くにいたイアンが驚いてフレデリックを見た。

「殿下?どうしました?」

「…イアン、ルイーズを頼む。」

何かに取り憑かれたように外を見て部屋を出て行った。





「誰か居るか?」

フレデリックは厩に来ていた。出てきた厩番にヒューと出ることを伝え準備をしてもらう。
もう真夜中だ。厩番は驚きながらフレデリックの言うことに従った。

「ヒュー、ルイーズが…。」

ヒューの頭を抱きしめると悲しそうに小さく鳴いた。まるでヒューにも分かっているようだ。
満月が明るく照らす道をヒューを走らせる。休みも取らず、目的の場所に着く頃には夜が開け始めていた。

「ヒュー、ここで待っていてくれ。」

フレデリックは黒の森の入り口に立っていた。
『ラウラに会いたいと願って森に入るだけです』
ルイーズの言葉を思い出し、祈るような気持ちで森の中に入る。
ラウラは人には会わないと言っていた。フレデリックが森に入ったところで会える可能性は少ない。
でももうここしかないのだ。
一縷の望みをかけて森に足を踏み入れた。

「ラウラ殿…頼む。」

ほんの僅かな可能性かけて森の中を歩く。
たった数歩中に入っただけで森の中は景色は真っ暗になった。
その時、竪琴の美しい音色が聞こえた。音の聞こえる方に歩いて行くと明るく照らす場所がある。その真ん中の切り株に座り長いエメラルドグリーンの髪を靡かせた人が竪琴を奏でていた。

「そなたがラウラ殿か?」

「ええ、バートレットの王子。」

ラウラだ。ラウラに会えたのだ!
歓喜したフレデリックは駆け寄って目の前に立った。
男か女かも分からない。エメラルドグリーンの髪に同じ色の瞳。光の加減で銀色にも見える。精霊を擬人化したようだ。

「頼みがあって来たんだ。」

「分かっていますバートレットの王子。ルイーズのことですね。」

「そ、そうだ。頼む。このままではルイーズが死んでしまう。助けてくれ。」

フレデリックは跪き懇願した。

「愚かな人間ども。ルイーズを傷付けるとは。」

ラウラは知っているようだ。ルイーズも言っていた。ラウラは何でも知っていると。







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