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「私が、ですか…?」
驚いたフレデリックが大司教を見た。
「はい。水晶玉は確かに凶報を映し出しました。しかしそれと同時にその凶報から救う者も映し出したのです。」
「それが殿下…。」
オリバーとセルゲイ、他の隊員たちもフレデリックを見た。
確かにフレデリックはバートレットの為に命をも捧げる覚悟はある。
しかし世界を救うとなるとまた別なことだ。バートレットだけでなくいがみ合う隣国も全て…。
フレデリックはそんな大志はないし、出来るとも思えない。
「私に世界を救う力があるとはとても…。」
「もちろんあなた一人ではありません。あなたには大きな加護が付いているのが見えます。」
「加護?」
「ええ。光です。光の粒、それからもっと大きな光りです。それがあなたを守り助ける大きな加護です。」
光の粒、大きな光り。
ああ、そうか。そういうことなのか。
フレデリックは納得した。その加護を見たことが、感じたことがあるのだ。
「ルイーズだ…。光の加護。ルイーズのことだ。」
フレデリックの胸が熱くなった。精霊使いのルイーズが守り、力を貸してくれる。
それなら世界を救うことができるのかもしれない。
「大司教。あなたの仰っていることが分かりました。」
「そうですか。それなら良かった。私は安心して…」
フレデリックと大司教が笑顔で握手をしようとした時だった。扉が勢いよく開いてフレデリックの隊員が飛び込んで来た。
「殿下!大変です!襲撃です。」
「何⁉︎」
「ここにか?」
「い、いえ。結界柵から少し降ったフローレンの丘です。」
「フローレンの丘だと⁉︎」
フレデリックは身体が震えた。
フローレンの丘は宿の近くにある丘だ。
街と結界柵がある森との中間にあるその丘は秋にはヒースの花が満開になる。それを見せるためにルイーズを連れて行きたいと思ってた美しい丘だ。
その近くの宿にルイーズが居る。危ないので外に出ないよう言ってあったのだ。
「行くぞ!大司教、失礼する。」
挨拶もそこそこに部屋を出る。オリバーたちも後に続き教会を出た。
「くそっ!」
またフレデリックが離れた途端、ルイーズが襲われた。いや、まだ襲われたとは限らない。しかし、こうも続くとやはりルイーズを狙っているとしか思えない。
ムスカリアか?それともハザーカルディアか?
ヒューに飛び乗りフローレンの丘を目指した。
馬を飛ばしてフローレンの丘を目指す。
丘の手前、ちょうど町外れまで来た時、丘から煙が上がっているのが見えた。
「殿下、我々の後ろへ!」
異変を察知したオリバーが叫ぶが、フレデリックはその言葉を手で制し前へ出た。
「いい、私が行く!」
目を凝らして周囲を見る。
大きく息を吸い、ルイーズの匂いがあるかを確かめた。
ほんの僅かにかルイーズを感じた。
しかし、それは近くはない。フローレンの丘はいる気配はなかった。
フレデリックたちは辺りを警戒しながらぐんぐん進み、フローレンの丘に着いた。
そこで見た光景にフレデリックたちは唖然とする。
「ゴードン!」
「殿下!ウィルがっ!エイベルも…。」
丘の上にはフレデリックの隊員たちが倒れていた。
急いで馬から降りて倒れている隊員たちを助け起こす。
皆、息はあるようだ。
「殿下…一体何が…。」
結界柵を修復するために残してきた隊員たちが皆やられている。それぞれに高い稀なる腕や魔力を持ち、早々に倒される者たちのではないのに…。
「フレデリック!来るぞっ!」
何かを感知したセルゲイが青褪めた顔で叫んだ。
フレデリックが剣を抜き構える。
オリバー、セルゲイ、マルコム、レビン、イライジャ、ローガンがそれぞれ剣を抜いたり、魔法陣を唱える体勢に入った。
ふいにぶわりと嫌な空気が広がる。
「来た…。」
セルゲイが呟いた時だ。
フローレンの丘に紫色の霧が広がる。
「くそっ!前が見えないっ!」
「殿下!これはっ⁉︎皆、殿下をお守りしろーっ!」
オリバーの声が響くが紫色の霧はあっという間に丘を包みフレデリックたちの視界を奪う。
「神鳥突風」
イライジャの声だ。聖なる鳥が起こす突風がフローレンの丘に吹き荒れた。風は竜巻となり、紫色の霧が風に飛ばされた。
鮮明になった視界。
そこでフレデリックが見たのは黒いローブに身を包んだ三人男だった。
「おまえたちは…!」
顔はよく見えない。しかしフレデリックたちの味方ではないということは分かる。
殺気を放っている右端の男が魔法陣をを唱えた。
「暗黒雷鳴」
地面が大きく揺れて空から真っ黒な雷がフレデリックたちに向かって次々と落ちてくる。
「ぐうっ!」
「レビンっ!」
レビンの左肩に雷が落ち、地面に倒れた。
「防風障壁」
マルコムの結界だ。フレデリックたちを風が包み黒い雷を弾いた。
「殿下、長くは持ちません。」
「ああ、分かった。」
フレデリックは大きく頷き剣を構えた。
「豪炎大剣」
剣が赤く燃えその炎が三人の男に突き刺さるように向かっていく。
それを見た右側の男が真ん中の男を庇うように前に出て炎の衝撃を受けて倒れた。
「クソッ!」
今度は左端の男が前に出て魔法陣を唱える。
「夢魔嗜眠」
黒い蝶の大群が現れ鱗粉を撒き散らす。
「な、何だこれは⁉︎」
「うわっ!」
鱗粉を浴びたオリバーたちが次々と倒れる。
「オリバーっ!マルコムっ!どうしたんだっ!」
フレデリック以外の皆が倒れた。
何が起こったのか分からない。
「おまえ…なぜ眠らない!」
呪文を唱えた男が驚いてフレデリックを凝視する。
フレデリック以外は眠っているようだ。
「そうか、おまえがルイーズだな?」
真ん中の男が前に進み出た。
地の底から響くような気味の悪い声だ。
ルイーズ?
私が?
この男は何を言っているのか。
「私の蝶もおまえがルイーズだと言っている。」
真ん中の男の周りに紫の蝶が舞っている。男はその蝶を見て嬉しそうニヤリと笑った。
どういうことだ?
フレデリックのことをルイーズだと思っている?
フレデリックが驚いて男たちをまじまじと見た。
「やれ!ゴーシュ。」
しまった!
フレデリックが気づいた時にはゴーシュと呼ばれた左側の男がフレデリックに向かって弓を引いている。
ルイーズという言葉に気を取られて受け身が取れない。
ばしゅっと大音を響かせて黒い炎を纏った矢がフレデリック目掛けて飛んで来た。
当たるっ!と思った時だ。突如、何もない空間から大きな手が現れ炎を纏った矢を掴み、引き摺り込むように消えた。
矢が消えた…!
フレデリックは唖然とそれを見つめた。
何が起こったんだ…。
「くそっ!一旦退散だ。」
それを見た真ん中の男が焦ったように独りごちて逃げるように立ち去る。
もう一人の男が倒れていた男を抱えてその後について逃げ出した。
驚いたフレデリックが大司教を見た。
「はい。水晶玉は確かに凶報を映し出しました。しかしそれと同時にその凶報から救う者も映し出したのです。」
「それが殿下…。」
オリバーとセルゲイ、他の隊員たちもフレデリックを見た。
確かにフレデリックはバートレットの為に命をも捧げる覚悟はある。
しかし世界を救うとなるとまた別なことだ。バートレットだけでなくいがみ合う隣国も全て…。
フレデリックはそんな大志はないし、出来るとも思えない。
「私に世界を救う力があるとはとても…。」
「もちろんあなた一人ではありません。あなたには大きな加護が付いているのが見えます。」
「加護?」
「ええ。光です。光の粒、それからもっと大きな光りです。それがあなたを守り助ける大きな加護です。」
光の粒、大きな光り。
ああ、そうか。そういうことなのか。
フレデリックは納得した。その加護を見たことが、感じたことがあるのだ。
「ルイーズだ…。光の加護。ルイーズのことだ。」
フレデリックの胸が熱くなった。精霊使いのルイーズが守り、力を貸してくれる。
それなら世界を救うことができるのかもしれない。
「大司教。あなたの仰っていることが分かりました。」
「そうですか。それなら良かった。私は安心して…」
フレデリックと大司教が笑顔で握手をしようとした時だった。扉が勢いよく開いてフレデリックの隊員が飛び込んで来た。
「殿下!大変です!襲撃です。」
「何⁉︎」
「ここにか?」
「い、いえ。結界柵から少し降ったフローレンの丘です。」
「フローレンの丘だと⁉︎」
フレデリックは身体が震えた。
フローレンの丘は宿の近くにある丘だ。
街と結界柵がある森との中間にあるその丘は秋にはヒースの花が満開になる。それを見せるためにルイーズを連れて行きたいと思ってた美しい丘だ。
その近くの宿にルイーズが居る。危ないので外に出ないよう言ってあったのだ。
「行くぞ!大司教、失礼する。」
挨拶もそこそこに部屋を出る。オリバーたちも後に続き教会を出た。
「くそっ!」
またフレデリックが離れた途端、ルイーズが襲われた。いや、まだ襲われたとは限らない。しかし、こうも続くとやはりルイーズを狙っているとしか思えない。
ムスカリアか?それともハザーカルディアか?
ヒューに飛び乗りフローレンの丘を目指した。
馬を飛ばしてフローレンの丘を目指す。
丘の手前、ちょうど町外れまで来た時、丘から煙が上がっているのが見えた。
「殿下、我々の後ろへ!」
異変を察知したオリバーが叫ぶが、フレデリックはその言葉を手で制し前へ出た。
「いい、私が行く!」
目を凝らして周囲を見る。
大きく息を吸い、ルイーズの匂いがあるかを確かめた。
ほんの僅かにかルイーズを感じた。
しかし、それは近くはない。フローレンの丘はいる気配はなかった。
フレデリックたちは辺りを警戒しながらぐんぐん進み、フローレンの丘に着いた。
そこで見た光景にフレデリックたちは唖然とする。
「ゴードン!」
「殿下!ウィルがっ!エイベルも…。」
丘の上にはフレデリックの隊員たちが倒れていた。
急いで馬から降りて倒れている隊員たちを助け起こす。
皆、息はあるようだ。
「殿下…一体何が…。」
結界柵を修復するために残してきた隊員たちが皆やられている。それぞれに高い稀なる腕や魔力を持ち、早々に倒される者たちのではないのに…。
「フレデリック!来るぞっ!」
何かを感知したセルゲイが青褪めた顔で叫んだ。
フレデリックが剣を抜き構える。
オリバー、セルゲイ、マルコム、レビン、イライジャ、ローガンがそれぞれ剣を抜いたり、魔法陣を唱える体勢に入った。
ふいにぶわりと嫌な空気が広がる。
「来た…。」
セルゲイが呟いた時だ。
フローレンの丘に紫色の霧が広がる。
「くそっ!前が見えないっ!」
「殿下!これはっ⁉︎皆、殿下をお守りしろーっ!」
オリバーの声が響くが紫色の霧はあっという間に丘を包みフレデリックたちの視界を奪う。
「神鳥突風」
イライジャの声だ。聖なる鳥が起こす突風がフローレンの丘に吹き荒れた。風は竜巻となり、紫色の霧が風に飛ばされた。
鮮明になった視界。
そこでフレデリックが見たのは黒いローブに身を包んだ三人男だった。
「おまえたちは…!」
顔はよく見えない。しかしフレデリックたちの味方ではないということは分かる。
殺気を放っている右端の男が魔法陣をを唱えた。
「暗黒雷鳴」
地面が大きく揺れて空から真っ黒な雷がフレデリックたちに向かって次々と落ちてくる。
「ぐうっ!」
「レビンっ!」
レビンの左肩に雷が落ち、地面に倒れた。
「防風障壁」
マルコムの結界だ。フレデリックたちを風が包み黒い雷を弾いた。
「殿下、長くは持ちません。」
「ああ、分かった。」
フレデリックは大きく頷き剣を構えた。
「豪炎大剣」
剣が赤く燃えその炎が三人の男に突き刺さるように向かっていく。
それを見た右側の男が真ん中の男を庇うように前に出て炎の衝撃を受けて倒れた。
「クソッ!」
今度は左端の男が前に出て魔法陣を唱える。
「夢魔嗜眠」
黒い蝶の大群が現れ鱗粉を撒き散らす。
「な、何だこれは⁉︎」
「うわっ!」
鱗粉を浴びたオリバーたちが次々と倒れる。
「オリバーっ!マルコムっ!どうしたんだっ!」
フレデリック以外の皆が倒れた。
何が起こったのか分からない。
「おまえ…なぜ眠らない!」
呪文を唱えた男が驚いてフレデリックを凝視する。
フレデリック以外は眠っているようだ。
「そうか、おまえがルイーズだな?」
真ん中の男が前に進み出た。
地の底から響くような気味の悪い声だ。
ルイーズ?
私が?
この男は何を言っているのか。
「私の蝶もおまえがルイーズだと言っている。」
真ん中の男の周りに紫の蝶が舞っている。男はその蝶を見て嬉しそうニヤリと笑った。
どういうことだ?
フレデリックのことをルイーズだと思っている?
フレデリックが驚いて男たちをまじまじと見た。
「やれ!ゴーシュ。」
しまった!
フレデリックが気づいた時にはゴーシュと呼ばれた左側の男がフレデリックに向かって弓を引いている。
ルイーズという言葉に気を取られて受け身が取れない。
ばしゅっと大音を響かせて黒い炎を纏った矢がフレデリック目掛けて飛んで来た。
当たるっ!と思った時だ。突如、何もない空間から大きな手が現れ炎を纏った矢を掴み、引き摺り込むように消えた。
矢が消えた…!
フレデリックは唖然とそれを見つめた。
何が起こったんだ…。
「くそっ!一旦退散だ。」
それを見た真ん中の男が焦ったように独りごちて逃げるように立ち去る。
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