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「本当にルイーズを連れて行くのか?」
「ええ。城に残しても危険ですので。」
「そうか。」
晴れて正式な婚約者となったルイーズをフレデリックは遠征に連れて行くようだ。
他国には発表していないが、婚約の噂は流れているだろう。
隠す必要がなくなったフレデリックは、ルイーズへの溺愛っぷりをさらに加速させている。
この間のようにフレデリックのいない時を狙ってルイーズが襲われることも心配だが、離れるのも嫌なのだ。
「ルイーズの癒しの力を借りるかもしれませんし。」
無論本気でそんな事は考えていない。癒しを使うとルイーズは体調を崩してしまう。連れて行く口実がほしいのだ。
「分かった…。とにかくルイーズに危険がないようにな。」
「もちろんです。」
フレデリックは嬉々としてアーネストの部屋を出て行った。
今回の遠征は比較的安全な方だ。
毎年恒例のスィール地区への視察。王都から最も離れているため、結界を張り直しに行く目的だ。
「スィールなら仕方ないか。遠いしな…。」
アーネストは嬉しそうに出て行った弟の顔を思い出した。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「ルイーズ、ローブはもう少し厚い方が良いと思う。スィールは標高が高いからここより寒いんだ。ほら、このローブはどうだ?綺麗な常盤色だ。ルイーズに似合うと思う。」
「…そうですか。」
ルイーズとフレデリックは遠征の準備をしている。
服やブーツはすぐに決まったがローブがなかなか決まらない。ルイーズがあまり乗り気ではないのだ。
今もフレデリックは綺麗な深い緑色をした厚めのローブをルイーズに合わせているが本人は浮かない顔をしている。
「殿下、その色だからですよ。」
近くで二人の様子を見ていたイアンが口を開いた。
「え?」
フレデリックがイアンを見る。
「イ、イアン…。フィル、僕これにします。」
慌ててルイーズがフレデリックに合わせてもらっている常盤色のローブをさっと手に取った。
「ルイーズ様は今のローブを大変気に入っているんです。もう裾はボロボロなのに、お直しをしていつでもそれを着ています。」
フレデリックがルイーズのローブをよく見てみると確かに古くなっている。裾は何度か直した跡もあり、少し丈が短い。
「イアン、いいから。僕、これにする。」
やはり何故かルイーズは慌てている。顔も赤い。
「ルイーズ?このローブがそんなに気に入っているのか?」
「あ、はい…。」
ますます顔が紅くなる。
どうしてだ?
「誰かからもらった物なのか?」
フレデリックは胸がざわついた。ルイーズがそんなに気にいっている物…。それが誰かからのプレゼントだとしたら?
ルイーズは清貧というか、王子なのに贅沢は好まない。宝石や煌びやかな服はそんなに興味がないようだ。むしろ血税をそんな物に使いたくないと思っている。
そんなルイーズが執着するローブ…。
「ふふふ、殿下。そのローブはルイーズ様がご自身で選んだ物です。よくその色を見て下さい。」
イアンはニヤニヤと嬉しそうだ。
色?
フレデリックはローブをじっと見る。
古いが上等な生地だ。深いのに鮮やかな青い生地。
「フレデリック殿下の瞳と同じ色ですよ。ねえ?ルイーズ様。」
「え?」
自分の瞳の色と同じ?
確かに言われてみればそうだ。サファイアブルーだ。
ルイーズは下を向いてもじもじしている。
「フレデリック殿下の瞳の色と同じ色の生地を見つけて一目惚れして作ってもらったんですよね?」
「…うん。」
「もう、三年も同じ物を着ているんです。洗濯も自分でするくらい気に入ってますよ。生地を痛めると嫌だからって。」
ルイーズの顔は真っ赤だ。首まで赤いのが分かる。イアンにバラされて恥ずかしいのだろう。
そしてそれを聞いたフレデリックも顔が赤い。目も潤んでいる。
「ルイーズ…。こっちを見て?」
フレデリックか優しく声をかけるとおずおずと顔を上げた。
「すごく嬉しいよ。遠征にはこれを着て行こう。中に着るものを厚くすれば問題ない。」
「はい。」
「私の瞳の色と同じ…。」
フレデリックはそっとルイーズのローブを撫でる。
三年もルイーズは大事に着ていたのだ。フレデリックを想って…。
「ルイーズ、ありがとう。愛してる。」
気持ちを溢れておさえ切れなくなったフレデリックがルイーズを抱きしめた。
「城下町に有名な生地屋があるんだ。今度そこに行ってみよう。同じ色のものが見つかるかもしれない。」
「はい。」
「その生地で新しいローブを作ろう。そのローブに金糸で私の紋章を刺繍してもらうんだ。」
フレデリックの紋章。
王や王子たちにはそれぞれ自分の紋章がある。各自花の紋章で、自分の持ち物などに刺繍や印字され使われる。フレデリックはグロリオサの花だ。
フレデリック以外は絶対に使う事は許されない。その紋章をルイーズのローブに刺繍する。
まさに特別なローブだ。
「フィル、嬉しいです。」
フレデリックとルイーズは見つめ合ってキスをし始めた。また二人の世界に入ってしまったようだ。
ちゅっちゅっと絶え間なく聞こえフレデリックがそのままルイーズ抱き上げてキスをしたまま寝室に入ってしまう。
最近は何をしていても最後はこうだ。
「またか…。」
イアンは見慣れた光景を背に試着して散らかったローブや服を片付けた。
「ええ。城に残しても危険ですので。」
「そうか。」
晴れて正式な婚約者となったルイーズをフレデリックは遠征に連れて行くようだ。
他国には発表していないが、婚約の噂は流れているだろう。
隠す必要がなくなったフレデリックは、ルイーズへの溺愛っぷりをさらに加速させている。
この間のようにフレデリックのいない時を狙ってルイーズが襲われることも心配だが、離れるのも嫌なのだ。
「ルイーズの癒しの力を借りるかもしれませんし。」
無論本気でそんな事は考えていない。癒しを使うとルイーズは体調を崩してしまう。連れて行く口実がほしいのだ。
「分かった…。とにかくルイーズに危険がないようにな。」
「もちろんです。」
フレデリックは嬉々としてアーネストの部屋を出て行った。
今回の遠征は比較的安全な方だ。
毎年恒例のスィール地区への視察。王都から最も離れているため、結界を張り直しに行く目的だ。
「スィールなら仕方ないか。遠いしな…。」
アーネストは嬉しそうに出て行った弟の顔を思い出した。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「ルイーズ、ローブはもう少し厚い方が良いと思う。スィールは標高が高いからここより寒いんだ。ほら、このローブはどうだ?綺麗な常盤色だ。ルイーズに似合うと思う。」
「…そうですか。」
ルイーズとフレデリックは遠征の準備をしている。
服やブーツはすぐに決まったがローブがなかなか決まらない。ルイーズがあまり乗り気ではないのだ。
今もフレデリックは綺麗な深い緑色をした厚めのローブをルイーズに合わせているが本人は浮かない顔をしている。
「殿下、その色だからですよ。」
近くで二人の様子を見ていたイアンが口を開いた。
「え?」
フレデリックがイアンを見る。
「イ、イアン…。フィル、僕これにします。」
慌ててルイーズがフレデリックに合わせてもらっている常盤色のローブをさっと手に取った。
「ルイーズ様は今のローブを大変気に入っているんです。もう裾はボロボロなのに、お直しをしていつでもそれを着ています。」
フレデリックがルイーズのローブをよく見てみると確かに古くなっている。裾は何度か直した跡もあり、少し丈が短い。
「イアン、いいから。僕、これにする。」
やはり何故かルイーズは慌てている。顔も赤い。
「ルイーズ?このローブがそんなに気に入っているのか?」
「あ、はい…。」
ますます顔が紅くなる。
どうしてだ?
「誰かからもらった物なのか?」
フレデリックは胸がざわついた。ルイーズがそんなに気にいっている物…。それが誰かからのプレゼントだとしたら?
ルイーズは清貧というか、王子なのに贅沢は好まない。宝石や煌びやかな服はそんなに興味がないようだ。むしろ血税をそんな物に使いたくないと思っている。
そんなルイーズが執着するローブ…。
「ふふふ、殿下。そのローブはルイーズ様がご自身で選んだ物です。よくその色を見て下さい。」
イアンはニヤニヤと嬉しそうだ。
色?
フレデリックはローブをじっと見る。
古いが上等な生地だ。深いのに鮮やかな青い生地。
「フレデリック殿下の瞳と同じ色ですよ。ねえ?ルイーズ様。」
「え?」
自分の瞳の色と同じ?
確かに言われてみればそうだ。サファイアブルーだ。
ルイーズは下を向いてもじもじしている。
「フレデリック殿下の瞳の色と同じ色の生地を見つけて一目惚れして作ってもらったんですよね?」
「…うん。」
「もう、三年も同じ物を着ているんです。洗濯も自分でするくらい気に入ってますよ。生地を痛めると嫌だからって。」
ルイーズの顔は真っ赤だ。首まで赤いのが分かる。イアンにバラされて恥ずかしいのだろう。
そしてそれを聞いたフレデリックも顔が赤い。目も潤んでいる。
「ルイーズ…。こっちを見て?」
フレデリックか優しく声をかけるとおずおずと顔を上げた。
「すごく嬉しいよ。遠征にはこれを着て行こう。中に着るものを厚くすれば問題ない。」
「はい。」
「私の瞳の色と同じ…。」
フレデリックはそっとルイーズのローブを撫でる。
三年もルイーズは大事に着ていたのだ。フレデリックを想って…。
「ルイーズ、ありがとう。愛してる。」
気持ちを溢れておさえ切れなくなったフレデリックがルイーズを抱きしめた。
「城下町に有名な生地屋があるんだ。今度そこに行ってみよう。同じ色のものが見つかるかもしれない。」
「はい。」
「その生地で新しいローブを作ろう。そのローブに金糸で私の紋章を刺繍してもらうんだ。」
フレデリックの紋章。
王や王子たちにはそれぞれ自分の紋章がある。各自花の紋章で、自分の持ち物などに刺繍や印字され使われる。フレデリックはグロリオサの花だ。
フレデリック以外は絶対に使う事は許されない。その紋章をルイーズのローブに刺繍する。
まさに特別なローブだ。
「フィル、嬉しいです。」
フレデリックとルイーズは見つめ合ってキスをし始めた。また二人の世界に入ってしまったようだ。
ちゅっちゅっと絶え間なく聞こえフレデリックがそのままルイーズ抱き上げてキスをしたまま寝室に入ってしまう。
最近は何をしていても最後はこうだ。
「またか…。」
イアンは見慣れた光景を背に試着して散らかったローブや服を片付けた。
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