至宝のオメガ

みこと

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「ニケーア殿、ムスカリアの動きはどうだ?」

「ここのところやけに大人しいですね。」

「そうか。」

ニケーアには話しておいた方がいいだろうと、アーネストが結界柵が壊されたことや銀色のキメラの話をした。
各地で魔獣が出て手薄になった城が襲撃されたことも。

「ニケーア殿は紫の蝶を知ってるか?」

「紫の蝶…。聞いたことないですね。それがどうしたんですか?」

「いや、知らなければいいんだ。何か困ったことが起こったらすぐに知らせてくれ。我々が全力で力を貸す。」

「ありがとうございます。」

ニケーアにパーティーに参加するように誘うが、はサリエルが心配だからと帰るようだ。

「姉様…。」

「ルイーズ、元気そうで良かった。」

「はい。姉様に会いたかったです…。」

「私もだよ。父上も心配していた。」

「うう…姉様…。」

ルイーズはニケーアに抱きついて泣いている。
やはりサリエルに残してきたみんなを心配していたのだろう。フレデリックはルイーズと一緒になることばかり考えていた。本当はいろいろ悩んでいるのかもしれない。
ニケーアに抱きついて子どもみたいに泣くルイーズを申し訳ない気持ちで見つめていた。

「ほら、そんなに泣かないの。今幸せなんでしょ?サリエのことは心配しなくていいから殿下にちゃんと守ってもらうんだよ?」

「うぅ、はい…。姉様。」

「ルイーズ、アルファは嫉妬深いからね?気を付けないと。」

ニケーアはフレデリックを見てウインクした。
確かに嫉妬している。しかしそれは羨望と言った方がいいかもしれない。ニケーアがルイーズから全幅の信頼を寄せられていることに。

「じゃあまたね。結婚式には父上と出席するから。」

ルイーズを抱きしめて頬にちゅっとキスをした。
そしてニヤッと笑ってフレデリックを見る。

「では、皆さま。ルイーズをよろしくお願いします。」

爽やかな笑顔でニケーアは去って行った。





フレデリックとルイーズは広間には行かずフレデリックの部屋に戻って来た。
二人でソファーに座りルイーズを抱き寄せる。

「ルイーズ、サリエルが心配?」

「はい…。」

「そうだよね。来週婚約発表をしたら一度帰ってみようか。」

「え?」

「私も一緒に行こう。ルイーズのお父上にも挨拶をしないとね。でも危険が伴うことは確かだ。どうやって帰るかは父上や兄上と相談する。」

「僕は帰れるんですか?」

ルイーズが目を潤ませてフレデリックを見上げる。

「もちろんだよ。捕虜じゃないんだから。でもムスカリアやバザーカルディアが狙っている。出来るだけ安全にサリエルに行きたい。」

「父様やみんなに会える…。嬉しいです。」

ルイーズはポロポロと涙を流した。フレデリックはそっとその涙を拭い眼尻に何度もキスをする。

「ごめんね、気付いてあげられなくて。ルイーズと居られることに浮かれてしまった。私は自分のことしか考えていなかったよ。」

「そんなことありません!僕だってフィルと一緒に居られることに浮かれていました。サリエルの王子なのに…。大好きなフィルといられて、幸せで自分のことしか考えていなかった…。」

「ルイーズ…。」

キツくルイーズを抱きしめる。頭にキスをして顔を埋める。

「ルイーズ、愛してる。ルイーズのためなら何だってするよ。」

「フィル…僕もです。」

ムスカリアたちの動向も気になる。結界柵を破壊した者や、魔獣が増えたことも調べなければならない。
バートレットの王子としてやることは山積みだ。
でもルイーズが居てくれればなんでも出来るような気がする。
愛しい人を守るためだ。全て自分の手で解決していこうと心に決めた。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「はぁ…ルイーズ様。素敵です。」

「本当に…天使のようです。」

「えへへ、ありがとう。」

ルイーズは純白のチョハを身につけている。
上質な生地に金糸で繊細な刺繍がしてあるだけでなく、所々にダイヤモンドと真珠で装飾された豪華絢爛なチョハだ。
マオカラーのシャツは首元に控えめなレースで飾られており、光沢のあるシルバーのパンツが良く似合っている。
メイクはせず髪をセットしただけだが、みんなため息をついている。

「フレデリック殿下が喜びますよ。いや、興奮するかな
?」

「イアン!」

「冗談ですよ。さあ、そろそろ殿下が迎えに来ますよ。」

「うん。」

アレクセイの計らいで帰還から一週間後の今日、正式に婚約発表をすることとなった。
今日は親類縁者や臣下たちに改めてルイーズの顔見せを行い、明日は国民に向けてのお披露目だ。
このチョハはフレデリックがデザインし、贅の限りを尽くした物だ。この婚約をバートレットが歓迎しているという証だ。

「閣下がおかえりになってからあっという間でしたね。」

メイドたちが下がるとイアンがルイーズの襟元を直しながら言った。

「うん。」

「反対派の人たちもアレクセイ閣下の一声で頷いたんだから、やはり閣下は只者ではないですね。」

バドレー派が反対しメリンダを強く押したが、アレクセイの『この結婚は私が決めたものだ。ルイーズとの結婚は我が国に必ずや多大なる恩恵を授ける。意義は私への反逆とみなす。』と宣言すると皆大人しく受け入れた。
ある一人を除いては…。


「ルイーズ、準備は…、」

フレデリックが扉を開けて控室に入ってきた。

「フィ、フレデリック殿下!」

「はぁ、私の妻は天使だったんだな…。」

ルイーズを見た途端うっとりとして早足で近づき抱きついた。

「何て可愛いんだ!青いチョハも素敵だったが、純白のチョハは天使だ!」

可愛い、可愛いと言いながら顔中にキスをする。抱きしめていた手がモゾモゾと怪しい動きを見せた。

「殿下!」

イアンの声でフレデリックが我に帰る。
ぱっと離れてバツの悪そうな顔を見せるが、ルイーズを見て途端また蕩けた顔になりキスをした。

「可愛い…。誰にも見せたくない。私だけのルイーズだ。」

「あ、フィル、ダメです。髪が崩れちゃう…。」

ぎゅうぎゅう抱きしめて舐め回すようにキスをする。

「はぁ、もう。勝手にして下さい。」

すぐに二人の世界に入ってしまう二人にイアンは呆れて部屋を出た。
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