至宝のオメガ

みこと

文字の大きさ
上 下
39 / 87

38

しおりを挟む
「父上、お疲れ様でした。無事のご帰還、何よりです。」  

「アーネスト、留守中の公務、ご苦労だった。」

アーネストが国王に跪き挨拶する。
その隣でフレデリックも跪き頭を下げていた。
城の広間にはアーネストたちだけでなく親類縁者と臣下が集まっていた。
国王陛下のたっての希望で帰還式は身内のみで行うこととなった。出国した本当の理由もジョシュアのためだからだ。
しかしアドリア大陸一の国王の帰還、親類縁者や臣下だけでもかなりの人数になる。
広間には立食パーティーの準備がされており、国王の挨拶のあと皆で飲んだり食べたりしながら無事の帰還を祝う予定だ。
アレクセイは海を渡り、東の国にいるという魔道士に会いに行ったのだ。毒に倒れたジョシュアを何とか目覚めさせたい一心でバートレットの魔術師の間で噂になっていたどんな病気や怪我も治すという東の魔道士。しかし、会ってみた魔道士たちはことごとく偽物でアレクセイをがっかりさせた。そこからさらに足を伸ばし北の大陸にいる魔女に会いに行く予定だった。しかしその魔女は誰も見たことはなく、これももしかしたらまやかしかも知れないと思いながら船を出そうとしたとき、ジョシュアが目覚めたという手紙をアーネストからもらったのだ。

「父上…」

アーネストに続き、跪いたフレデリックが顔を上げ口を開きかけたときだった。
バタバタと走ってくる足音が聞こえ、扉が勢いよく開いた。

「父上ーーーーっ!!!」

ジョシュアがアレクセイに向かって突進し、抱きついた。

「父上!おかえりなさい!」

「ジョシュ!ジョシュか。良かった…。」

礼儀も何もあったもんじゃない。しかし目に入れても痛くないジョシュアの元気な姿にアレクセイは涙を流して喜んでいる。
アーネストたちも集まったいた臣下も一瞬驚きはしたが、温かい目で二人を見ていた。

「ちょっと見ない間に大きくなったな。」

「はい。二センチ背が伸びました。」

「そうかそうか。身体の調子はどうだ?」

「元気です。」

満面の笑みのジョシュアはアレクセイに抱かれて嬉しそうに甘えていた。
まだ物心がつく前に母を亡くしたジョシュアにアレクセイはとにかく甘かった。ジョシュアもアレクセイの前ではまだまだ幼い子どものような仕草をする。

「父上にお願いがあります!」

「何だ?何でも言ってみなさい。」

アレクセイは優しくジョシュアの頭を撫でる。

二人を暖かい目で見守っていたアーネストは嫌な予感がした。
ジョシュアの願い事…。
まさか!
危険を察知したアーネストがアレクセイに抱きついていたジョシュアを抱き上げて二人を引き離した。

「ほら、みなさんもお待ちだ。私事は後にしなさい。父上、乾杯の音頭をお願いいたします。」

ごまかすように早口でアレクセイにお願いする。

「え?ああ、そうだな。では、皆の者。留守の間、ご苦労だった。大変なこともあったと聞く。皆で乗り越えてくれて本当に嬉しく思う。」

アレクセイは立ち上がり会場に集まった人たちを見渡すとグラスを高々と上げて乾杯の音頭をとった。





「いやー、閣下。お元気そうで良かったです。」

「東の国は如何でしたか?」

アレクセイの元にたくさんの人たちが集まり挨拶をしたりグラスを交わしたりしている。
皆、豪華な料理や酒を振る舞われて上機嫌だ。
フレデリックはそんなアレクセイを横目で見ながら様子を伺っている。今日は何よりも大事な話があるのだ。
重要機密なので手紙では詳しくは伝えていない。
手紙にはジョシュアが目覚めたと記したただけだとアーネストに聞かされていた。

「父上、ご帰還お待ちしておりました。」

「おお、フレデリックか。」

上機嫌でフレデリックを見たアレクセイが一瞬驚いた顔をした。

「父上?」

「あ、いや。しばらく見ぬ間に少し雰囲気が変わったな。」

「え?」

「やわらかくなった気がしてな。驚いたのだ。」

そんなアレクセイの言葉に何となく心当たりはある。おそらくルイーズの存在だろう。
そう言えばルイーズが見当たらない。
トイレに行くと言っていたが…。護衛は付けてあるが心配だ。バドレー派の目もあるのでフレデリックがべったりくっついて歩くわけにはいかないのだ。
キョロキョロと見渡すとふわりと優しい匂いがした。
ルイーズの匂いだ。
匂いが漂ってくる方を見るとルイーズとアーネストが話をしていた。
良かった…。アーネストと一緒なら安心だ。
フレデリックは胸を撫で下ろし、横に来たアレクセイに声をかけた。

「父上、折行って話があります。」

「何だおまえもか。アーネストにもそんな事を言われた。しかも早急にと。」

兄上も?
一体何だろうか。思い当たる節はたくさんある。アレクセイが居ない間にいろいろな事があった。
ふと考え込んでいるとアーネストがこちらへやって来た。

「二人とも、少しいいか?」

真剣な顔をしたアーネストに連れられて会場を後にした。
今アーネストは一人だ。
ルイーズはどうしたんだろうとまた心配になったが、アーネストに案内された部屋からルイーズの匂いが優しく鼻を掠めた。

「ルイーズ…。」

フレデリックは口の中でポツリと名前を呼ぶ。
ルイーズは緊張しているようだ。両手を硬く握りしめて立っている。

「父上に話さなければならない事があります。手紙には書けなかった大事なことです。」

アレクセイは小さく頷き二人を見た。

「彼はサリエル公国の公太子、ルイーズ殿です。」

紹介されたルイーズは緊張しながらアレクセイの前に進み出て跪いた。

「はじめまして、閣下。私はサリエル公太子の第一公太子、ルイーズ・ウィルヘルム・サリエルでございます。本日は東の国からの無事のご帰還、心よりお喜び申し上げます。」

「そなたが…。面をあげなさい。」

「はい。」

「それで?アーネスト。サリエルの王子がどうかしたのか?」

四人は部屋のソファーに腰掛けてアーネストがアレクセイの留守中にあった事を詳しく話した。

「ふぅ、そうか…。そういうことか。」

アレクセイがルイーズの顔を見る。

「ジョシュアが世話になったな。ありがとう。」

「い、いえ。私の方こそ…。とても姉上の変わりになんてならないのに…皆さんに良くして頂いて感謝しています。」

ルイーズはもじもじしている。アレクセイはフレデリックに良く似ているのだ。いや、フレデリックがアレクセイに似ていると言った方が良い。
青い瞳と金糸のようなブロンド。フレデリックが歳を重ねたらきっとこうなるであろうと思われる容姿だ。
そんなアレクセイに優しく見つめられるとまるでフレデリックに見つめられているような気持ちになってしまう。

「私からも話があります。父上、私はニケーア殿ではなくルイーズと結婚したいのです。」

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

処理中です...