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「父上、お疲れ様でした。無事のご帰還、何よりです。」
「アーネスト、留守中の公務、ご苦労だった。」
アーネストが国王に跪き挨拶する。
その隣でフレデリックも跪き頭を下げていた。
城の広間にはアーネストたちだけでなく親類縁者と臣下が集まっていた。
国王陛下のたっての希望で帰還式は身内のみで行うこととなった。出国した本当の理由もジョシュアのためだからだ。
しかしアドリア大陸一の国王の帰還、親類縁者や臣下だけでもかなりの人数になる。
広間には立食パーティーの準備がされており、国王の挨拶のあと皆で飲んだり食べたりしながら無事の帰還を祝う予定だ。
アレクセイは海を渡り、東の国にいるという魔道士に会いに行ったのだ。毒に倒れたジョシュアを何とか目覚めさせたい一心でバートレットの魔術師の間で噂になっていたどんな病気や怪我も治すという東の魔道士。しかし、会ってみた魔道士たちはことごとく偽物でアレクセイをがっかりさせた。そこからさらに足を伸ばし北の大陸にいる魔女に会いに行く予定だった。しかしその魔女は誰も見たことはなく、これももしかしたらまやかしかも知れないと思いながら船を出そうとしたとき、ジョシュアが目覚めたという手紙をアーネストからもらったのだ。
「父上…」
アーネストに続き、跪いたフレデリックが顔を上げ口を開きかけたときだった。
バタバタと走ってくる足音が聞こえ、扉が勢いよく開いた。
「父上ーーーーっ!!!」
ジョシュアがアレクセイに向かって突進し、抱きついた。
「父上!おかえりなさい!」
「ジョシュ!ジョシュか。良かった…。」
礼儀も何もあったもんじゃない。しかし目に入れても痛くないジョシュアの元気な姿にアレクセイは涙を流して喜んでいる。
アーネストたちも集まったいた臣下も一瞬驚きはしたが、温かい目で二人を見ていた。
「ちょっと見ない間に大きくなったな。」
「はい。二センチ背が伸びました。」
「そうかそうか。身体の調子はどうだ?」
「元気です。」
満面の笑みのジョシュアはアレクセイに抱かれて嬉しそうに甘えていた。
まだ物心がつく前に母を亡くしたジョシュアにアレクセイはとにかく甘かった。ジョシュアもアレクセイの前ではまだまだ幼い子どものような仕草をする。
「父上にお願いがあります!」
「何だ?何でも言ってみなさい。」
アレクセイは優しくジョシュアの頭を撫でる。
二人を暖かい目で見守っていたアーネストは嫌な予感がした。
ジョシュアの願い事…。
まさか!
危険を察知したアーネストがアレクセイに抱きついていたジョシュアを抱き上げて二人を引き離した。
「ほら、みなさんもお待ちだ。私事は後にしなさい。父上、乾杯の音頭をお願いいたします。」
ごまかすように早口でアレクセイにお願いする。
「え?ああ、そうだな。では、皆の者。留守の間、ご苦労だった。大変なこともあったと聞く。皆で乗り越えてくれて本当に嬉しく思う。」
アレクセイは立ち上がり会場に集まった人たちを見渡すとグラスを高々と上げて乾杯の音頭をとった。
「いやー、閣下。お元気そうで良かったです。」
「東の国は如何でしたか?」
アレクセイの元にたくさんの人たちが集まり挨拶をしたりグラスを交わしたりしている。
皆、豪華な料理や酒を振る舞われて上機嫌だ。
フレデリックはそんなアレクセイを横目で見ながら様子を伺っている。今日は何よりも大事な話があるのだ。
重要機密なので手紙では詳しくは伝えていない。
手紙にはジョシュアが目覚めたと記したただけだとアーネストに聞かされていた。
「父上、ご帰還お待ちしておりました。」
「おお、フレデリックか。」
上機嫌でフレデリックを見たアレクセイが一瞬驚いた顔をした。
「父上?」
「あ、いや。しばらく見ぬ間に少し雰囲気が変わったな。」
「え?」
「やわらかくなった気がしてな。驚いたのだ。」
そんなアレクセイの言葉に何となく心当たりはある。おそらくルイーズの存在だろう。
そう言えばルイーズが見当たらない。
トイレに行くと言っていたが…。護衛は付けてあるが心配だ。バドレー派の目もあるのでフレデリックがべったりくっついて歩くわけにはいかないのだ。
キョロキョロと見渡すとふわりと優しい匂いがした。
ルイーズの匂いだ。
匂いが漂ってくる方を見るとルイーズとアーネストが話をしていた。
良かった…。アーネストと一緒なら安心だ。
フレデリックは胸を撫で下ろし、横に来たアレクセイに声をかけた。
「父上、折行って話があります。」
「何だおまえもか。アーネストにもそんな事を言われた。しかも早急にと。」
兄上も?
一体何だろうか。思い当たる節はたくさんある。アレクセイが居ない間にいろいろな事があった。
ふと考え込んでいるとアーネストがこちらへやって来た。
「二人とも、少しいいか?」
真剣な顔をしたアーネストに連れられて会場を後にした。
今アーネストは一人だ。
ルイーズはどうしたんだろうとまた心配になったが、アーネストに案内された部屋からルイーズの匂いが優しく鼻を掠めた。
「ルイーズ…。」
フレデリックは口の中でポツリと名前を呼ぶ。
ルイーズは緊張しているようだ。両手を硬く握りしめて立っている。
「父上に話さなければならない事があります。手紙には書けなかった大事なことです。」
アレクセイは小さく頷き二人を見た。
「彼はサリエル公国の公太子、ルイーズ殿です。」
紹介されたルイーズは緊張しながらアレクセイの前に進み出て跪いた。
「はじめまして、閣下。私はサリエル公太子の第一公太子、ルイーズ・ウィルヘルム・サリエルでございます。本日は東の国からの無事のご帰還、心よりお喜び申し上げます。」
「そなたが…。面をあげなさい。」
「はい。」
「それで?アーネスト。サリエルの王子がどうかしたのか?」
四人は部屋のソファーに腰掛けてアーネストがアレクセイの留守中にあった事を詳しく話した。
「ふぅ、そうか…。そういうことか。」
アレクセイがルイーズの顔を見る。
「ジョシュアが世話になったな。ありがとう。」
「い、いえ。私の方こそ…。とても姉上の変わりになんてならないのに…皆さんに良くして頂いて感謝しています。」
ルイーズはもじもじしている。アレクセイはフレデリックに良く似ているのだ。いや、フレデリックがアレクセイに似ていると言った方が良い。
青い瞳と金糸のようなブロンド。フレデリックが歳を重ねたらきっとこうなるであろうと思われる容姿だ。
そんなアレクセイに優しく見つめられるとまるでフレデリックに見つめられているような気持ちになってしまう。
「私からも話があります。父上、私はニケーア殿ではなくルイーズと結婚したいのです。」
「アーネスト、留守中の公務、ご苦労だった。」
アーネストが国王に跪き挨拶する。
その隣でフレデリックも跪き頭を下げていた。
城の広間にはアーネストたちだけでなく親類縁者と臣下が集まっていた。
国王陛下のたっての希望で帰還式は身内のみで行うこととなった。出国した本当の理由もジョシュアのためだからだ。
しかしアドリア大陸一の国王の帰還、親類縁者や臣下だけでもかなりの人数になる。
広間には立食パーティーの準備がされており、国王の挨拶のあと皆で飲んだり食べたりしながら無事の帰還を祝う予定だ。
アレクセイは海を渡り、東の国にいるという魔道士に会いに行ったのだ。毒に倒れたジョシュアを何とか目覚めさせたい一心でバートレットの魔術師の間で噂になっていたどんな病気や怪我も治すという東の魔道士。しかし、会ってみた魔道士たちはことごとく偽物でアレクセイをがっかりさせた。そこからさらに足を伸ばし北の大陸にいる魔女に会いに行く予定だった。しかしその魔女は誰も見たことはなく、これももしかしたらまやかしかも知れないと思いながら船を出そうとしたとき、ジョシュアが目覚めたという手紙をアーネストからもらったのだ。
「父上…」
アーネストに続き、跪いたフレデリックが顔を上げ口を開きかけたときだった。
バタバタと走ってくる足音が聞こえ、扉が勢いよく開いた。
「父上ーーーーっ!!!」
ジョシュアがアレクセイに向かって突進し、抱きついた。
「父上!おかえりなさい!」
「ジョシュ!ジョシュか。良かった…。」
礼儀も何もあったもんじゃない。しかし目に入れても痛くないジョシュアの元気な姿にアレクセイは涙を流して喜んでいる。
アーネストたちも集まったいた臣下も一瞬驚きはしたが、温かい目で二人を見ていた。
「ちょっと見ない間に大きくなったな。」
「はい。二センチ背が伸びました。」
「そうかそうか。身体の調子はどうだ?」
「元気です。」
満面の笑みのジョシュアはアレクセイに抱かれて嬉しそうに甘えていた。
まだ物心がつく前に母を亡くしたジョシュアにアレクセイはとにかく甘かった。ジョシュアもアレクセイの前ではまだまだ幼い子どものような仕草をする。
「父上にお願いがあります!」
「何だ?何でも言ってみなさい。」
アレクセイは優しくジョシュアの頭を撫でる。
二人を暖かい目で見守っていたアーネストは嫌な予感がした。
ジョシュアの願い事…。
まさか!
危険を察知したアーネストがアレクセイに抱きついていたジョシュアを抱き上げて二人を引き離した。
「ほら、みなさんもお待ちだ。私事は後にしなさい。父上、乾杯の音頭をお願いいたします。」
ごまかすように早口でアレクセイにお願いする。
「え?ああ、そうだな。では、皆の者。留守の間、ご苦労だった。大変なこともあったと聞く。皆で乗り越えてくれて本当に嬉しく思う。」
アレクセイは立ち上がり会場に集まった人たちを見渡すとグラスを高々と上げて乾杯の音頭をとった。
「いやー、閣下。お元気そうで良かったです。」
「東の国は如何でしたか?」
アレクセイの元にたくさんの人たちが集まり挨拶をしたりグラスを交わしたりしている。
皆、豪華な料理や酒を振る舞われて上機嫌だ。
フレデリックはそんなアレクセイを横目で見ながら様子を伺っている。今日は何よりも大事な話があるのだ。
重要機密なので手紙では詳しくは伝えていない。
手紙にはジョシュアが目覚めたと記したただけだとアーネストに聞かされていた。
「父上、ご帰還お待ちしておりました。」
「おお、フレデリックか。」
上機嫌でフレデリックを見たアレクセイが一瞬驚いた顔をした。
「父上?」
「あ、いや。しばらく見ぬ間に少し雰囲気が変わったな。」
「え?」
「やわらかくなった気がしてな。驚いたのだ。」
そんなアレクセイの言葉に何となく心当たりはある。おそらくルイーズの存在だろう。
そう言えばルイーズが見当たらない。
トイレに行くと言っていたが…。護衛は付けてあるが心配だ。バドレー派の目もあるのでフレデリックがべったりくっついて歩くわけにはいかないのだ。
キョロキョロと見渡すとふわりと優しい匂いがした。
ルイーズの匂いだ。
匂いが漂ってくる方を見るとルイーズとアーネストが話をしていた。
良かった…。アーネストと一緒なら安心だ。
フレデリックは胸を撫で下ろし、横に来たアレクセイに声をかけた。
「父上、折行って話があります。」
「何だおまえもか。アーネストにもそんな事を言われた。しかも早急にと。」
兄上も?
一体何だろうか。思い当たる節はたくさんある。アレクセイが居ない間にいろいろな事があった。
ふと考え込んでいるとアーネストがこちらへやって来た。
「二人とも、少しいいか?」
真剣な顔をしたアーネストに連れられて会場を後にした。
今アーネストは一人だ。
ルイーズはどうしたんだろうとまた心配になったが、アーネストに案内された部屋からルイーズの匂いが優しく鼻を掠めた。
「ルイーズ…。」
フレデリックは口の中でポツリと名前を呼ぶ。
ルイーズは緊張しているようだ。両手を硬く握りしめて立っている。
「父上に話さなければならない事があります。手紙には書けなかった大事なことです。」
アレクセイは小さく頷き二人を見た。
「彼はサリエル公国の公太子、ルイーズ殿です。」
紹介されたルイーズは緊張しながらアレクセイの前に進み出て跪いた。
「はじめまして、閣下。私はサリエル公太子の第一公太子、ルイーズ・ウィルヘルム・サリエルでございます。本日は東の国からの無事のご帰還、心よりお喜び申し上げます。」
「そなたが…。面をあげなさい。」
「はい。」
「それで?アーネスト。サリエルの王子がどうかしたのか?」
四人は部屋のソファーに腰掛けてアーネストがアレクセイの留守中にあった事を詳しく話した。
「ふぅ、そうか…。そういうことか。」
アレクセイがルイーズの顔を見る。
「ジョシュアが世話になったな。ありがとう。」
「い、いえ。私の方こそ…。とても姉上の変わりになんてならないのに…皆さんに良くして頂いて感謝しています。」
ルイーズはもじもじしている。アレクセイはフレデリックに良く似ているのだ。いや、フレデリックがアレクセイに似ていると言った方が良い。
青い瞳と金糸のようなブロンド。フレデリックが歳を重ねたらきっとこうなるであろうと思われる容姿だ。
そんなアレクセイに優しく見つめられるとまるでフレデリックに見つめられているような気持ちになってしまう。
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