至宝のオメガ

みこと

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「ルイーズ、ルイーズ…、頼む無事でいてくれ。」

ヒューを走らせながら祈る。
城までは飛ばせば半日ほどだ。
フレデリックのかなり後ろからオリバーたちも付いてくる。

「ヒュー、頑張ってくれ。ルイーズが…、ルイーズが。」

恐怖と焦りが募る。
城から来たテリーの隊員の話からはほとんど何も分からなかった。朝食中に襲撃されたと言っていた。ルイーズがどうなったか、誰が襲撃したのかも。
休憩せず城までヒューを走らせる。
ヒューももう限界に近いだろう。しかし死にものぐるいで走ってくれている。
城下に入り、門が見えた。ヒューがもうダメだ。これ以上走らせたら足がダメになってしまう。

「ヒュー、ありがとう。もう良いぞ。」

ヒューから降りて門番に預けようとした。
しかしヒューがぐるぐる鳴いて抵抗する。自分が行くと言って聞かない。

「ヒュー…。」

ヒューを抱きしめて撫でた。

「よし、行くぞ!」

もう一度ヒューに跨り手綱を握る。ヒューは力を振り絞るように大きく鳴き、城に向かって駆け出した。

城の門をくぐり玄関の扉を開ける。門番も兵士も誰も居ない。

「ルイーズ!ルイーズ!どこだ!」

ルイーズを呼びながら探し回る。
城の中がガランとしていて何の返事もない。
一体何が起こっているのだろうか…。

「ルイーズ!」

廊下の端の方から何か爆発したような音が聞こえた。

「!!!」

急いで音がした方へ向かう。
地下牢の入り口だ。
看守も兵士もいない。
地下牢の階段を駆け降りると声が聞こえた。

「そのオメガをよこせ。」

「ダメだと言ってるだろ?しつこいな。」

アーネストの声だ。

「ふん!そんな身体で何が出来る?お前を殺して奪うまでだ。」

「来いよ。私を殺るんだろ?びびってるのか?」

紫のローブを着て仮面で顔を隠した男が魔法陣を唱えようとした。

「ルイーズ!」

階段を駆け降りてきたフレデリックが間に飛び込む。

怪我を負ったアーネストがルイーズを横抱きにしている。ルイーズは意識がないようだ。

「兄上、一体…。」

「フレデリック、早かったな。」

傷だらけのアーネストがニヤリと笑った。
床には血が滴っている。かなりの深手を負っているようだ。
フレデリックを見て安心したのか膝から崩れ落ちた。

「兄上!」

仮面の男がもう一度魔法陣を唱えようとするがフレデリックが剣を抜いてそれを阻止する。
ルイーズはどうなっているのだろうか?
気を失っているだけか?
確かめようとルイーズとアーネストの側に行こうとすると仮面の男が魔法陣を唱え、無数の小さな氷の刃がフレデリックに襲いかかった。

「くっ!」

フレデリックが剣でその刃を跳ね返すが、いくつかが顔や身体を掠める。

「お前と遊んでいる暇はない。」

ルイーズの元に早く行きたいのにそれを邪魔をされたフレデリックの身体からは赤と金のオーラが漂い始めた。

「うっ、くそっ!」

仮面の男が一瞬怯んだのをフレデリックは見逃さなかった。素早く魔法陣を唱え、剣を構えた。

火炎舞剣ファイヤーソード

勢いよく仮面の男に切り掛かり剣が火を吹いた。

「ぐっ、ぐあーーっ!!!」

炎の一太刀で仮面の男は床に倒れた。

「ルイーズ!」

すぐにルイーズの元に駆け寄り口元に顔を近づける。
僅かに呼吸を感じた。
アーネストも意識はないが息をしている。
良かった…。生きている。
ほっと息をつくと階段を駆け降りてくる足音が聞こえた。

「で、殿下!これは一体何事ですか⁉︎」

オリバー、カイル、サイラスが地下牢に駆け込んできた。

「アーネスト殿下!!!」

倒れているアーネストを見て驚いている。

「息はある。だが、すぐに手当が必要だ。」

フレデリックがルイーズを抱き上げ、サイラスとカイルがアーネストを担いで地下牢を出た。





「殿下!一体何が⁉︎」

「私にも分からない。」

アーネストとルイーズをベッドに寝かせた。
城の中にはフレデリックが倒した仮面の男と同じ格好をした者が何人かいたようだ。
フレデリックの隊員と少し遅れて城に戻ってきたテリーの隊員とで全て片付けたらしい。
アーネストの傷は思ったより深く意識が戻らない。ルイーズの方は怪我はないがこちらも意識がない。
フレデリックやテリーの部隊のように魔獣駆除に散っていた多くの部隊が次々に戻って来た。城の現状にとても驚いていたが、すぐに城や城下の警備と修復へと動き始めた。

フレデリックがいない間に一体何があったのだろうか。
ファビオラや女官たちも見当たらない。

フレデリックはベッドに横になっているルイーズの手をずっと握りしめていた。

「ん…。」

握っていたルイーズの手が僅かに動いた。

「ルイーズ⁉︎」

「フィル…?」

ゆっくりと目を開けたルイーズがフレデリックを見た。

「ルイーズ…、良かった、ルイーズ…。」

「フィル、どうしたんですか?え?僕は一体…。」

ルイーズが起き上がろうとすると、フレデリックがその背中を支える。

「ルイーズ、私がいない間に何があったんだ。」

「えっと…あ!アーネスト殿下は⁉︎」

「兄上は…。」

「そうだ!フィル!大変です!アーネスト殿下が!お城のみんなが!」

ルイーズは今までに起こったことを思い出し、慌ててベッドから飛び降りた。酷く動揺して泣きながら震えている。

「ルイーズ、落ち着いて。落ち着いて話してごらん。」

優しく声をかける。

「アーネスト殿下…。うぅ、フィル、殿下が…。」

フレデリックがルイーズを抱き上げて隣の部屋で眠るアーネストのところに連れて行った。

まだ目を覚さないアーネストにはテリーとオリバーが側についていた。

「僕を庇って…、アーネスト殿下が。うぅ…。」

「ルイーズ、兄上は一命は取り留めた。何があったのか話せるか?」

「は、はい。すみません…。でもその前に。」

ルイーズがアーネストに近づいた。左肩から右側腹部にかけて大きな傷があるようだ。包帯は巻かれているがじわじわと血が滲んでいる。
ルイーズは袖で涙を拭い大きく深呼吸をしてその傷に触れた。
アーネストの身体がほんの一瞬僅かに金色に光った。
皆は固唾を飲んでそれを見守っている。
ルイーズが手を離し一歩下がる。しばらくするとアーネストがゆっくりと目を開けた。

「殿下!」

「アーネスト殿下!!」

オリバーとテリーが驚き側に寄る。
その顔を見たアーネストは静かに微笑み頷いた。
そして枕元に立つルイーズを見つけるとゆっくりと起き上がり手を握った。

「ルイーズ、ありがとう。ルイーズが治してくれていると分かった。暖かくて優しくて命が流れてくるような感じだった。」

そう言いながら血の滲んだ包帯をゆっくり外す。
そこにあったはずの大きな傷は跡形もなく消えていた。

「いえ、僕の方こそ、殿下が守って下さって…。殿下、良かった…。」

泣きじゃくるルイーズの肩をフレデリックがそっと抱いて頭にキスをする。
オリバーとテリーは唖然とその光景を見つめていた。
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