至宝のオメガ

みこと

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「セルゲイ、何か分かるか?」

「ああ、たくさんの魔力の集まりの中心にめちゃくちゃ濃い魔力を感じる。」

「それが女王か?」

「おそらくな。」

茂みの中に身を潜めながらキメラの巣を探す。
襲撃に備えながらセルゲイが感知した方に進んだ。
林の中は腰の高さまでの草が生え茂り、隠れながら進むにはうってつけだ。しかしそれは敵も同じで隠れながら襲撃に備えられる。
セルゲイの感知だけでなく、皆用心しながら進んだ。

「嫌に静かですね。」

「ああ。セルゲイ、何も感じないか?」

林の入り口に見張りのキメラがいたきり、他が襲ってくる気配がない。

「全部の気配が濃い魔力の女王のところに集まっている。」

「それはまずいな。」

「オリバー、何がまずいんだ。」

顔を青くするオリバーにフレデリックが聞いた。

「女王は出産ではなく、吸収するのかもしれません。」

「「吸収⁉︎」」

オリバー以外の皆の声が揃った。

「昔、大叔父に聞いたことがあります。何十年かに一度、キメラの女王はその家族らを吸収し、力を蓄えると。」

「力を蓄える…。それで?」

「身体も巨大化し、魔力も増大する。殿下、銀色のキメラについて聞いたことありますか?」

「銀色のキメラ…。幻のヘルキメラのことか?」

「ええ、それです。キメラの女王がキメラたちを吸収してできると言われています。」

普通のキメラでさえ厄介なのに、そんな得体と知れないもの…。しかも街からそう遠くない場所で出来てしまったら…。

「やばいな。」

「ああ、レニンが崩壊するかもしれない。」

フレデリックたちは顔を見合わせてキメラの女王がいるらしき場所へと急いだ。

しばらく走ると明らかに怪しい気配を感じた。草をかき分けその気配の場所を確認する。
そこでは異様な光景が繰り広げられていた。皆は言葉もなく唖然とし立ち尽くした。
キメラがキメラを飲み込んでいるのだ。それをさらに別のキメラが飲み込む。それをまた別のキメラが…。
目の前で繰り広げられている悍ましい光景。キメラの数がどんどん減っていき、最後に紫色のキメラが大きな口を開けて待っていた。

「やばい!吸収されるぞ!」

カイルがすかさずナイフを投げるが弾き飛ばされる。
テリーの隊の大男がスピアで攻撃しようと近寄るとそのままキメラの口の中に吸い込まれてしまった。

「うわーっ!!!」

「ザフィ!!!」

「ザフィが飲まれた!」

「くそっ!近づくことも出来ないのか。」

皆その場で吸収を終えるキメラを見つめるだけだった。
最後のキメラが飲み込まれた。飲み込んだキメラが眩く光ってフレデリックたちは目が眩んだ。

「銀色のキメラ…!」

オリバーの声に目を開けると、さっきのキメラの数倍の大きさの銀色のキメラがこちらを睨んでいる。

「来るぞっ!」

キメラが氷の息を吐いた。
逃げきれなかったテリーの隊員が二人凍って砕けた。

「殿下っ!」

「私は大丈夫だ。」

フレデリックの隊のケビンが魔法陣を唱えた。林の木々が蠢き出し、枝がうねり銀色のキメラの身体を捉えて巻き付く。
しかし、その枝はすぐに凍って砕けてしまった。

「くそっ!」

その後もテリーの隊員やフレデリックの隊員が魔法を使うが皆跳ね返されたり無効にされたりしてダメージを与えられない。
銀色のキメラがニヤリと笑い大きく息を吸い込んだ。

「やばいっ!」

「しまった!」

フレデリックたちを目掛けて大きな氷の息を吐き出した。
その勢いはブリザードのようで、あたりがまったく見えない。

「くっ、殿下…。」

「うぅ!」

ブリザードが止み、目を開けると景色が一変していた。
たった一息で林が全て凍ってしまったのだ。
銀色のキメラがまた息を吸い込む。
次にあの息をくらったらお終いだ。
しかし無情にも銀色のキメラのは氷の息を吐き出した。

「え…?」

ブリザードの息を食らったはずなのにダメージを感じない。
目を開けて前を見るとマーカスが結界を張っていた。皆を守っている。

「ぐっ、殿下、長くは持ちません!」

「マーカス…。」

残りの魔力を全て使って結界を張っている。
その姿を見てフレデリックは剣を抜いた。
剣を構えて魔法陣を唱えると剣が金色に輝いた。

「殿下っ!」

「殿下の聖魔法だ!」

金色の光は剣とフレデリックを包みこむ。
そのままフレデリックはマーカスの結界を抜けて銀色のキメラに向かって突進した。

聖光双剣ミカエルのいかづち

フレデリックの剣から光り輝く巨大な大天使ミカエルの幻影が現れる。ミカエルはフレデリックと一緒に剣を構えて二人で銀色のキメラを斬りつけた。

「ぎゃーーーーっ!!」

銀色のキメラの断末魔が辺りに響く。キメラは聖なる黒炎に包まれて跡形もなく消えた。

「殿下…。」

「あれがフレデリック殿下の聖魔法か…。」

呆気に取られていた皆が騒めく。
フレデリックの身体がぐらりと揺れた。

「殿下っ!」

オリバーが駆け寄り支える。聖魔法はかなりの魔力を消費するようだ。

「大丈夫だ…。」

フレデリックは支えを断り皆の方に近づいていった。

「殿下、恐れ入りました。」

テリーが跪いて頭を下げる。それを見たテリーの隊員たちも同じように跪いた。

「いや、礼には及ばない。犠牲者を出してしまった。すまない。」

「いえ、殿下が居なければ街ごと全滅していました。」

あと一歩フレデリックたちが来るのが遅かったらそうなっていただろう。間一髪でそれを防ぐことが出来た。
しかしフレデリック顔は晴れない。何故、こんなところにキメラが出たのだろう。ゴート地区の結界の破壊といい、嫌なことばかり続く。
フレデリックはテリーを立たせて馬を待たせてあった場所へ戻った。




「殿下、市長がぜひお礼をとおっしゃっています。」

街へ戻ると残っていたゴードンたちが待っていた。
林は凍って木々は枯れてしまったが、街への被害は防ぐことが出来た。
フレデリックが頷き、市長を待っていると街の入り口に馬が入ってくるのが見えた。
赤の団旗、テリーの隊員だろう。

「隊員ーーっ!大変ですっ!」

馬から飛び降りた隊員が血相を変えてテリーに駆け寄る。
余程急いでいたのだろう、フレデリックのことは目に入ってなかった。

「何だ、ジョイ。フレデリック殿下の御前だぞ!」

「はっ!で、殿下!殿下、城が…城が何者かに!」

「どういうことだ⁉︎」

思わずフレデリックが問い詰めた。

「し、城に何者かが侵入したようで…。サリエルのオメガの王子を狙ったとかで…。」

サリエルのオメガの王子!ルイーズのことだ!
フレデリックの血の気が引いた。

「そ、そのオメガの王子はどうなった⁉︎」

「分かりません、私は応援を呼ぶように出されました。バートレットの各地で魔獣が出て、その対処のために殆どの隊が出払っていて…。」

「ルイーズ…」

ルイーズに何があったら…。

「オリバー!すぐ城に戻るぞ!」

「は、はい!殿下!」

フレデリックはヒューに飛び乗り皆を待たずに駆け出した。
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