至宝のオメガ

みこと

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朝から屈強な男たち数人がコルディの指示で集まり、壊れた柵をあっという間に修理していく。
おそらく大工や木工業を仕事としている男たちだろう。
壊れた四カ所と古くなって傷んだ場所もついでに直した。

「殿下、どうでしょう。」

「ああ、充分だ。あとは我々に任せてくれ。」

「よろしくお願いします。」

コルディを下がらせると、フレデリックとマーカスが柵に触れた。

「じゃあ始めましょうか。私が第一結界を張ります。殿下はマルコムと第二結界を。」

「分かった。」

マーカスに良く似た青色の髪の男が柵に近づいた。

「兄貴、第一結界は感知結界がいいと思う。」

「そうだな。」

二人は双子で結界魔法が使える。物理的な攻撃を防ぐ結界は弟のマルコムが得意とする結界で、魔法を防ぐ結界は兄のマーカスが得意だ。
結界を張る魔法陣を使いこなせる者はとても珍しい。
第一部隊が無敵なのは、戦いで結界を張る二人の力が大きい。
ただ、結界を張るにはかなりの魔力を消費する。国境の結界なら尚のことだ。

「マーカス、行くぞ。」

「殿下、よろしくお願いします。」

フレデリックがマーカスの肩に手を乗せ目を閉じる。するとマーカスの身体が赤く光った。
マーカスは自分の体に魔力が流れてくるのを感じ、柵に触れて魔法陣を唱えた。
赤い光はマーカスの手から柵に伝わり、柵全体が赤く輝いた。

「はぁ、ふぅ…。完了です。」

額に汗をかいたマーカスが笑顔でみんなを見た。しかし足元はふらついている。かなりの体力を消耗したようだ。

「マーカス、少し休め。」

フレデリックが声をかける。

「ありがとうございます。」

ゴードンがマーカスの身体を軽々と抱えて座らせた。

「次、マルコム。」

「はい。」

同じようにフレデリックがマルコムの肩に手を乗せる。
今度はマルコムの身体が青く光り、マルコムが魔法陣を唱えた。
マルコムの両手には小さな青い光の球が出来上がる。
魔法陣を唱え続けるとその球はだんだん大きくなり人の頭の大きさくらいになった。青い球はさらに輝きを増して金色の光を帯びている。
肩に手を乗せたままフレデリックが魔法陣を唱えると球は空高く打ち上げられ破裂し、大きく光り辺りを包む。
第二結界が張られたのだ。

「はぁはぁ…終わりました。」

マルコムも汗だくでぐったりしている。

「よし、二人ともご苦労だった。少し休んで体力を回復させろ。」

「「殿下、ありがとうございます。」」

「いや私は何も。二人とも良くやった。」

フレデリックは辺りを散策しながら何ごともなかったように歩き出した。
その後ろ姿を見ながらマーカスたちは只々感心するしかなかった。
広い結界を張るにはかなりの魔力が必要になる。
フレデリックは結界を張るために二人に魔力を分け与えたのだ。マルコムに至っては第二結界を張るためにフレデリックも魔法陣を唱え補助魔法をかけたはずだ。それなのに体力も魔力も減った様子はない。
結界が壊された手がかりがないかをみんなと探している。

「マルコム、殿下は恐ろしいな。」

「ああ。まったくな。」

剥き出だしの岩に腰かけていた二人はフレデリックを眺めて苦笑いをした。






「コルディ、結界は二重に張り直したからおそらく安全だ。だか、誰がやったのかは分からない。何かあったらすぐに知らせてくれ。」

「はい、殿下。ありがとうございました。皆様も本当にありがとうございました。」

コルディが深々と頭を下げた。
別れを告げてコルディの屋敷を出ようとすると玄関から若い女が飛び込んできた。

「お父様!」

「ナディア!ナディアじゃないか!どうしたんだ!」

「お父様、大変です…。」

ナディアと呼ばれた娘は玄関に倒れ込んだ。よく見ると腹が大きく膨らんでいる。おそらく妊婦だろう。

「ナディア、落ち着きなさい。ブロディ、母さんと医者を呼べ。」

「お父様、お父様…。」

ナディアは泣き出しコルディにしがみついた。酷く動揺しているようだ。

「ナディア、落ち着いて。フレデリック殿下の御前だ。」

ハッとして側に立っていたフレデリックたちを見て平伏す。

「挨拶はいい。身籠っているのだろう?体に毒だ。コルディ、すぐに休ませてあげなさい。」

「殿下、申し訳ありません。ほらナディア、立てるか?」

「休んでいる場合ではありません。レニンに魔獣が出たのです!」

「「えぇ⁉︎」」

息も切れ切れにナディアが言った言葉に皆が驚いた。

「ナディアと言ったな?レニンに魔獣とはどういう事だ?」

オリバーが膝をついて座りナディアに尋ねる。
動揺しているナディアの肩に手を置いて落ち着くよう促した。
大きく深呼吸してナディアが震える声で話し出した。
ナディアはコルディの実娘でレニンの大きな宝石商に嫁に行き、来月里帰り出産をする予定だった。
しかし三日前、レニンの町外れで魔獣が出たと大騒ぎになり身重の妻を心配した夫が実家に帰らせたのだ。

「ナディアは魔獣を見たのか?」

「いいえ、私は…。夫と義父や叔父が見たと言っていました。それ以外にも何人か。襲われた人もいるみたいです。」

「三日前か。レニンならすでに兄上のところには報告は届いているだろうな。」

「ええ、おそらく。ナディア、どんな魔獣か聞いているか?」

「はい、キメラがどうのと言ってました。」

「「「キメラ⁉︎」」」

第一部隊の皆が声を上げざわついた。
キメラは恐ろしい魔獣だ。人や家畜を襲い魔力が高い。

「殿下、どうしますか?」

「このままレニンに行こう。本当にキメラなら私たちが必要だ。」

「そうですね。」

「殿下、夫を…レニンの街の人をよろしくお願いします。」

ナディアは泣きながらフレデリックに頭を下げる。
愛する人を残してきたのだ。その気持ちは痛いほど分かる。
フレデリックは大きく頷いてコルディの屋敷を出た。
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