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「フレデリック、少し良いか?」
「はい。何でしょう。」
アーネストは執務中のフレデリックに声をかけた。最近のフレデリックはプライベートの時間はずっとルイーズと一緒にいる。なので婚約の話は仕事中にしか話すことができない。
皆から離れたところまで呼んでバトレー公爵の話をした。
「そんな…。私はルイーズ以外と結婚するつもりはありません。」
「ああ、分かっている。ただバドレー派に反感を持たれないようにするには今すぐ婚約発表は難しいんだ。父上が帰ってきたら早急に対処しよう。」
見て分かるくらいにがっくりと力を落としたフレデリックを慰める。
そんなにルイーズを正式な婚約者にしたいのか。
アーネストは喜ばしい気持ちとそれを叶えてやれない申し訳ない気持ちとでフレデリックを見つめた。
「それでなんだが…。その、ゴート地区のことなんだが…。」
「はぁー、分かっています。すぐに行きます。その代わり兄上がしっかりルイーズを守ってください。」
ゴート地区の住民が困っているのだ。フレデリックの思惑で住民を危険に晒すわけにはいかない。
フレデリック自身もそれをよく分かっている。
「もちろん約束しよう。」
図書室の一番奥のテーブルにたくさんの本を積み上げたルイーズが座っている。何か真剣に読んでいるようだ。
「ルイーズ?」
「あ、フィル。休憩時間ですか?」
「ああ。ルイーズは何をしているんだ?」
「僕はバートレットの歴史を勉強していました。とても興味深いです。ほら、特にここ。今から二百年前のところです。」
ルイーズは隣に座ったフレデリックに本を見せた。
二百年前の皇帝ブリーストンについての話だ。
「何が興味深いんだ。」
「ブリーストン閣下は精霊が見えたのかもしれません。」
「え?何故?」
「ここの記述です。『小さな光の粒たちに導かれ……行き着いた先の銀色の湖で身体を癒し』と書いてあります。これは精霊のことではないですか?」
「へぇ、精霊は光の粒なのか?」
「そういう精霊が多いです。」
ルイーズはまた本に没頭する。
真剣な顔も可愛い…。窓から差し込む光に照らされてルイーズが発光しているようだ。
光の粒…。それが精霊なら今のルイーズも精霊に見える。
美しく清らかな精霊だ。
そうか、私の妻は精霊か…。私の心を乱す精霊だ。
そんなことを考えてふっと笑いが溢れる。
「ルイーズ。」
「はい。」
「婚約のことなんだが、私は今すぐにでもしたい。だが、その、政治的な理由でまだ出来ないんだ。本当に申し訳ない。父上が戻られたらすぐにでも…。」
「いいんです、フィル。僕も一国の王子です。王子と言えど何でもすぐに思い通りになるわけではないのは良く分かっています。特に結婚には政治的な問題が絡んできますから。」
ルイーズがフレデリックを見てにっこり笑う。
政治に精通した物言いのルイーズに感嘆するが聞き分けの良さに少し寂しくなる。
「ルイーズはそれで良いのか?」
「フィル?」
「私と婚約…結婚できなくても良いのか?」
自国の問題なのに思わず子どもじみたことを言ってしまう。もっとルイーズに寂しがって欲しい。
「それは…。出来たらフィルの伴侶になりたいです。フィルと結婚できなければ誰ともしません。」
「私もだ。近々バートレット最北端のゴート地区に行かなくてはならないんだ。おまえと離れるのが寂しくて早く婚約したかったんだ。」
「そこへはどのくらいの滞在ですか?」
「最短でも十日ほどだ。」
「十日も…。」
「ああ。」
「僕も一緒に行きたいです。戦いは出来ませんが傷を癒すことなら出来ます!」
ルイーズは目を潤ませてフレデリックを見つめた。
「ルイーズ…。ダメだ。これはとても危険な任務なんだ。おまえに何かあったら。」
フレデリックはルイーズを抱きしめた。
その瞳はダメだ。黒曜石の美しい瞳…。そんな瞳で見られたら何もかもどうでもよくなってしまう。
離れたくない…。でも連れては行けない。
「ルイーズ、愛してる。」
「はい。僕も愛してます。」
二人は抱き合って何度もキスをする。
フレデリックを探しに来たコナーが声をかけてやっと離れる事が出来た。
書類に目を通しながらルイーズのことを考えた。
婚約はまだ発表出来ない。
でも二人は愛し合っている。
ルイーズは自分のものだ。誰にも触らせたくない。
もう方法は一つしかない。
ルイーズが受け入れてくれれば今夜、それを実行しよう。
マーキングだ。ルイーズとセックスするのだ。
自分のフェロモンをルイーズに纏わせ誰も近づかないようにする。
ルイーズは何て言うだろうか。
答えが怖い反面、顔がニヤけるのを抑えられない。
毎晩、身体を可愛がっているがルイーズは嫌がらない。むしろあのりんごとカモミールのフェロモンは日に日にいやらしくフレデリックを誘う。
夜に備えて今日は早く仕事を終わらせよう。
残った業務を猛スピードで片付け始めた。
「はい。何でしょう。」
アーネストは執務中のフレデリックに声をかけた。最近のフレデリックはプライベートの時間はずっとルイーズと一緒にいる。なので婚約の話は仕事中にしか話すことができない。
皆から離れたところまで呼んでバトレー公爵の話をした。
「そんな…。私はルイーズ以外と結婚するつもりはありません。」
「ああ、分かっている。ただバドレー派に反感を持たれないようにするには今すぐ婚約発表は難しいんだ。父上が帰ってきたら早急に対処しよう。」
見て分かるくらいにがっくりと力を落としたフレデリックを慰める。
そんなにルイーズを正式な婚約者にしたいのか。
アーネストは喜ばしい気持ちとそれを叶えてやれない申し訳ない気持ちとでフレデリックを見つめた。
「それでなんだが…。その、ゴート地区のことなんだが…。」
「はぁー、分かっています。すぐに行きます。その代わり兄上がしっかりルイーズを守ってください。」
ゴート地区の住民が困っているのだ。フレデリックの思惑で住民を危険に晒すわけにはいかない。
フレデリック自身もそれをよく分かっている。
「もちろん約束しよう。」
図書室の一番奥のテーブルにたくさんの本を積み上げたルイーズが座っている。何か真剣に読んでいるようだ。
「ルイーズ?」
「あ、フィル。休憩時間ですか?」
「ああ。ルイーズは何をしているんだ?」
「僕はバートレットの歴史を勉強していました。とても興味深いです。ほら、特にここ。今から二百年前のところです。」
ルイーズは隣に座ったフレデリックに本を見せた。
二百年前の皇帝ブリーストンについての話だ。
「何が興味深いんだ。」
「ブリーストン閣下は精霊が見えたのかもしれません。」
「え?何故?」
「ここの記述です。『小さな光の粒たちに導かれ……行き着いた先の銀色の湖で身体を癒し』と書いてあります。これは精霊のことではないですか?」
「へぇ、精霊は光の粒なのか?」
「そういう精霊が多いです。」
ルイーズはまた本に没頭する。
真剣な顔も可愛い…。窓から差し込む光に照らされてルイーズが発光しているようだ。
光の粒…。それが精霊なら今のルイーズも精霊に見える。
美しく清らかな精霊だ。
そうか、私の妻は精霊か…。私の心を乱す精霊だ。
そんなことを考えてふっと笑いが溢れる。
「ルイーズ。」
「はい。」
「婚約のことなんだが、私は今すぐにでもしたい。だが、その、政治的な理由でまだ出来ないんだ。本当に申し訳ない。父上が戻られたらすぐにでも…。」
「いいんです、フィル。僕も一国の王子です。王子と言えど何でもすぐに思い通りになるわけではないのは良く分かっています。特に結婚には政治的な問題が絡んできますから。」
ルイーズがフレデリックを見てにっこり笑う。
政治に精通した物言いのルイーズに感嘆するが聞き分けの良さに少し寂しくなる。
「ルイーズはそれで良いのか?」
「フィル?」
「私と婚約…結婚できなくても良いのか?」
自国の問題なのに思わず子どもじみたことを言ってしまう。もっとルイーズに寂しがって欲しい。
「それは…。出来たらフィルの伴侶になりたいです。フィルと結婚できなければ誰ともしません。」
「私もだ。近々バートレット最北端のゴート地区に行かなくてはならないんだ。おまえと離れるのが寂しくて早く婚約したかったんだ。」
「そこへはどのくらいの滞在ですか?」
「最短でも十日ほどだ。」
「十日も…。」
「ああ。」
「僕も一緒に行きたいです。戦いは出来ませんが傷を癒すことなら出来ます!」
ルイーズは目を潤ませてフレデリックを見つめた。
「ルイーズ…。ダメだ。これはとても危険な任務なんだ。おまえに何かあったら。」
フレデリックはルイーズを抱きしめた。
その瞳はダメだ。黒曜石の美しい瞳…。そんな瞳で見られたら何もかもどうでもよくなってしまう。
離れたくない…。でも連れては行けない。
「ルイーズ、愛してる。」
「はい。僕も愛してます。」
二人は抱き合って何度もキスをする。
フレデリックを探しに来たコナーが声をかけてやっと離れる事が出来た。
書類に目を通しながらルイーズのことを考えた。
婚約はまだ発表出来ない。
でも二人は愛し合っている。
ルイーズは自分のものだ。誰にも触らせたくない。
もう方法は一つしかない。
ルイーズが受け入れてくれれば今夜、それを実行しよう。
マーキングだ。ルイーズとセックスするのだ。
自分のフェロモンをルイーズに纏わせ誰も近づかないようにする。
ルイーズは何て言うだろうか。
答えが怖い反面、顔がニヤけるのを抑えられない。
毎晩、身体を可愛がっているがルイーズは嫌がらない。むしろあのりんごとカモミールのフェロモンは日に日にいやらしくフレデリックを誘う。
夜に備えて今日は早く仕事を終わらせよう。
残った業務を猛スピードで片付け始めた。
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