至宝のオメガ

みこと

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「あれ、ここは?」

ルイーズは目を覚ました。
白い天幕の中にいるようだ。ガバッと起き上がるとタライに生けてある月下草が目に入ってきた。
昨日は…。月下草を採って帰って来られた。そしてその後…。

「そうだ。殿下…。」

フレデリックと一緒に寝たのだ。
お互いの気持ちを語り、通じ合って寝た…?

「夢だったのかな。」

寝台にはフレデリックの姿はない。寒くて疲れて寝てしまい、自分に都合の良い夢でも見たのではないか。

「ルイーズ、起きてたのか?今、ちょうど起こしに来た。」

バサッと天幕が開いてフレデリックが入ってきた。ルイーズを見ると蕩けるような笑顔を向ける。

「おはようございます。殿下。」

「ああ、おはよう。ほらこれで顔を拭いてやろう。少し目が腫れているな。」

フレデリックが絞ったタオルで顔を拭いてくれる。その顔はとても優しかった。
昨日の事は夢ではないのか。ぼーっと彼の顔を見つめる。

「うん?どうした?」

「いいえ。昨日の事は夢ではなかったんですね。」

「夢?」

「はい。」

ふふっとフレデリックが笑う。そのままちゅっちゅっとルイーズの顔中にキスをする。さらに唇にも何度もキスをしてペロリと舐めた。

「で、殿下⁉︎」

「どうだ。これでも夢か?ルイーズがキスはして良いと言っただろう?」

悪戯っぽく笑ってまたキスをする。
そのキスは耳に、そして首筋にまで降りてきた。そのまま顔を埋めて思いっきり匂いを嗅いでくる。

「殿下!僕はその、湯浴みをしてませんし、臭いますよ。」

慌ててルイーズは言った。

「ん?ああ、すごく匂うな。良い匂いだ。食べてしまいたい。」

また顔や首筋にキスをし始める。
良い匂いなわけがない。散々歩いて汗をかいたのだ。
恥ずかしくなってフレデリックの身体を押して引き離した。

「ダメか?」

「臭います。恥ずかしいです。」

「良い匂いだ。堪らない。」 

うっとりとルイーズを見て頬を撫でる。その手は顎をくすぐり、首筋を撫でた。擽ったくて思わず笑ってしまった。

「あぁ、本当に可愛いな。」

とろりとし目でルイーズを見つめ、そのままキツく抱きしめられる。

「可愛い、私のルイーズ。結婚するまでダメか?」

耳元で囁かれる。ダメ?何が?キス?ルイーズが考えているとそのまま寝台に押し倒された。

「ダメか?」

硬くなった下半身をグイッと押し付けられ、もう一度聞かれた。その意味を理解したルイーズは驚いてフレデリックを見つめた。

「おまえが可愛くて我慢できない。」

え?ここで?待って!ルイーズは驚きながらも抵抗した。

「ここでですか?ダ、ダメに決まってます。」

「ふふっ。ここではしないよ。もうみんな起きているしな。ここじゃなければ良いのか?」

さらに腰を押し付けニヤリと笑いながら聞いてくる。ルイーズがどうして良いのか分からなくて黙ってしまうとまた顔中にキスをしてくる。

「可愛い…。本当に可愛いなルイーズ。可愛い、可愛い。」

ルイーズの唇にちゅっちゅっと触れるだけのキスをして何度も可愛いと囁いた。




「殿下、朝食の用意が出来ました。」

天幕の外からオリバーが声をかける。ルイーズはビクッとして起き上がった。

「ああ、すぐに行く。」

フレデリックも返事をしながら起き上がる。ルイーズはほっとして息を吐いた。

「続きは後だな。」

そう言って寝台からルイーズを起こして頭を撫でた。
続きは後って…。思わず顔を赤らめる。


天蓋の入り口を捲り外に出ると空気はひんやりと冷たい。中はフレデリックが暖めてくれていたんだと知ってルイーズは胸がきゅうと締め付けられた。
すぐにイアンが飛んできて声をかけてくる。

「ルイーズ様、大丈夫ですか?どこか具合の悪いところは?」

昔からイアンは過保護だ。バートレット行きが決まった時も危険を承知で真っ先に着いてくると言った。追手に剣を向けられた時も体を挺してルイーズを守った。
だいぶ心配させたのだろう。イアンの顔色は悪くクマができていた。

「大丈夫。心配かけてごめん。」

ほっと息を吐いたイアンが首を横に振った。
そのまま焚き火の前の丸太に案内され座る。

「暖かい…。」

火に手をかざして暖を取るルイーズの肩にふわりと暖かい布がかけられた。

「ルイーズ、寒いのか?」

フレデリックが自分のマントを脱いで肩にかけてくれたのだ。
にこりと笑って隣に座り頭を撫でる。反対側に座っていたイアンは驚き目を見開いてその様子を見ていた。
そんな三人に隊員がパンと干し肉を配ってくれた。
ルイーズは干し肉を噛み千切ろうとするが固くて千切れない。隣のイアンも悪戦苦闘している。ビリッと音を立ててイアンは何とか噛みちぎった。
それを見たルイーズももう一度噛み付くが全く歯が立たない。ぐるりと周りを見渡すと隊員たちは苦もなくその干し肉を食べている。
僕のだけ硬い、なんて事はないよね?

「硬くて食べられないのか?」

フレデリックの方を向くと楽しそうにルイーズを見ていた。
コクンと頷くと急にフレデリックの顔が近づいて来た。そのままキスをしたかと思ったら口の中に噛み砕いて柔らかくなった干し肉が入ってきた。

「これは味は良いんだが硬いからな。でも食べないと力が出ないぞ。」

ルイーズの頭を撫でながら言った。

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