至宝のオメガ

みこと

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ルイーズは蒼の森の奥を目指して歩いている。アーネストがこの森に魔獣が多く住んでいると言っていた。何かがいるような気配を感じるが襲っては来ない。
大きなブナの木の森は木の根が盛り上がりボコボコと地面を押し上げている。足場の悪い道はとても歩きづらく余計に疲労が溜まる。
ルイーズは途中で何度も休憩しながら歩き続けた。

「黒の森より明るいな。」

鬱蒼としているが木々の間から陽の光が差し込んでくる。
暗くなる前に寝るところを探そう。
歩き進めながらそう考えていた。

陽が傾き始め辺りが暗くなってくる。ちょうど良さそうな木のうろを身付けたのでその中に身を預けた。
持ってきた毛布に包まる。
陽が落ちると途端に空気が冷え込み、じっとしてるとさらに寒さが身に染みる。
しーんとした森はどこからか動物のような鳴き声や唸り声が聞こえる。
魔獣かもしれない。
イアンに渡された短剣を取り出し握りしめた。
フレデリックの『ダメなら戻ってこい』と言う言葉を思い出す。
弱気になってはダメだ。ジョシュアのためだ。ぎゅっと身体を縮め休んだ。

翌朝、持ってきた食糧を食べてまた歩き始めた。
どれくらい歩いたのだろうか、急に露頭に突き当たった。見上げると上のほうは霞んで見えないくらい高い。とても登れるような高さではない。道を間違えたのかもしれない。
何となく一本道になっているように感じたのでそのまま歩いてきた。
でもそれは勘違いだったのかも…。
ふと周りを見るとここだけ三メートル四方に渡り不自然に草が生えていない。
どうしようか、引き返そうか。ラウラは森の一番奥と言っていた。ここがそうなのだろうか。
引き返そうとすると見えない壁に押し戻されるような感覚がした。
ルイーズは大人しく夜になるのを待った。
近くの岩陰に隠れて座る。今日は昨日よりも寒い。毛布を出して包まるがガタガタ震えるくらい寒くなってきた。
陽が暮れるとさらに空気が冷たく感じる。寒くて真っ暗で心細くなる。

「フレデリック殿下…」

思わず名前を呼んでしまった。
ルイーズはそんな自分に驚いた。心細くなって思い浮かんだのは彼の顔だった。

もう何時間ここにいるのだろう。やはり場所を間違えたのではないか。
不安になってきたその時、木々の間から月の光がサーっと草の生えていない地面を照らした。

すると地面が金色に光り輝き、ルイーズは眩しくて目を瞑る。
しばらくして目を開けてみると何も生えていなかった場所に小さな花がびっしりと咲いていた。

「うわぁ、すごい!キレイだ!」

寒さも忘れて駆け寄る。
シャンパンゴールドの花々はキラキラと光って揺れていた。見上げると木々の間から満月が見えた。

「これが月下草…。」

風もないのにゆらゆらと揺れている。
まるで生きているみたいだ。甘い匂いが鼻をくすぐる。

「あ、あの。君たちを少しもらってもいいかな?ジョシュア殿下を助けたいんだ。まだ子どもで。このままでは死んじゃう…。」

ルイーズが花たちに訴えかける。
すると花たちは波のように大きく揺れてさらにキラキラと光り出した。

「え?いいの?」

また花たちが揺れる。

「ありがとう。」

ルイーズはいくつか花を摘んで鞄へしまった。花たちは大きく揺れて楽しそうに踊っているようだった。


帰ろうと立ち上がると少し傾いた月の光が崖を照らした。その光の先に人が一人通れるくらいの隙間が見えた。来た時には気付かなかった。

「ここを通れば帰れる?」

月下草たちが大きく揺れた。まるで会話をしているようだ。

ルイーズはその隙間の前まで来て振り返った。

「ありがとうみんな。お月様もありがとう。」

真っ直ぐに隙間の中に入っていった。






ルイーズが戻ったと知らせが来た。
フレデリックが空を見上げるとまだ満月は高いところにいる。
月下草は見つからなかったのか…。でもルイーズが無事な事に安堵し急いで森の入り口まで走った。

「ルイーズ!大丈夫か?」

顔は青白く唇は紫だった。小さな肩は震えている。
フレデリックは後悔した。黒の森の時もルイーズは寒さで震えていた。この時期の夜の森はかなり冷えるはず。
何故もっときちんとした装備をさせなかったのか。自分の不甲斐なさに腹が立つ。

「殿下…。これを。」

肩にかけた鞄を開けて見せた。中にはシャンパンゴールドに輝く小さな花が詰まっていた。

「ルイーズ、これはもしかして…?」

「はい。」

小さく笑った。そしてそのまま崩れるように倒れてしまった。

「ルイーズ!」

「ルイーズ様!」

イアンが駆け寄るが一足早くフレデリックがひょいと抱き上げた。
その身体は氷のように冷たい…。

「私の天幕へ。」

そのままフレデリックの天幕に連れて行った。



寝台に寝かせて火の魔法で天幕の中を暖める。 
そっと頬に触れた。
冷たい…。
フレデリックは上着を脱いで狭い寝台に入ると氷のように冷たくなっていたルイーズを抱きしめた。その身体を摩り、自分の体温を分け与えるようにぴったりと身体を重ねる。
頭に顔を埋めるとあの匂いがした。
りんごとカモミールの優しい匂い…。
やはりルイーズだったのか。
フレデリックはもう驚かなかった。初めて会ったあの時からフレデリックはルイーズを求めていたのだ。黒曜石のような瞳にひと目で恋に落ちた。ルイーズを見た途端、ずっと探していたものを見つけた気がした。

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