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「月下草…」
「はい。行ってみる価値はあると思います。」
「しかし蒼の森か…。」
アーネストは帰ってきたルイーズの話を聞き眉根を寄せた。可能性があるなら試したい。しかし蒼の森と聞くと渋ってしまう。あの森には何種類もの魔獣が住んでいるのだ。
「ルイーズが行くしかないのか?」
フレデリックも同じ気持ちなのだろう。いい顔をしなかった。
ルイーズは戦闘魔法は使えない。おそらく剣術も無理だろう。身を守る術がないのだ。
「ルイーズには傷を癒す力があるからな。」
自分自身を納得させるようにアーネストが呟く。それを聞いたイアンは悲しそうに顔を歪めた。
「ルイーズ様の癒しはご自分には使えません。」
「え?どういうことだ。ルイーズ?」
自分には使えないとは?アーネストが尋ねた。
「僕は十歳の頃にラウラからこの力を授かりました。その時に選んだのです。自分を癒すか、他人を癒すか。ラウラには二つのうちの一つしか選ぶことは出来ないと言われました。僕は他人を癒すことを選びました。だから自分自身の傷は癒せないのです。」
ルイーズが気まずそうに答えた。
ならばルイーズには何もない。自分を守り癒すものを何も持たずに蒼の森に行くと言うのか。
「ダメだ。危険すぎる。しかも絶対に目が覚めるわけではないのだろう?」
フレデリックは止めた。死にに行くようなものだ。
「でも今はこの方法しかありません。」
ルイーズも引かなかった。
「お願いします。殿下。ジョシュア殿下をこのまま見ているだけなんて出来ません。」
アーネストとフレデリックは顔を見合わせた。おそらく止めても勝手に行くだろう。それほどまでに強い意志を感じた。
「分かった。またフレデリックの隊を護衛につけよう。」
ルイーズの希望で満月の二日前には蒼の森に着くように出発することとなった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「ルイーズ様、ファティマの手ですね?」
イアンはソファーに座り一生懸命手芸をしているルイーズに声をかけた。
フレデリックの婚約者という立場なので城の中一番豪華な客室を充てがわれている。部屋は広く調度品は皆豪華だった。ルイーズが今座っている応接セットも花梨の木でデコラティブに装飾されておりガブリオールレッグの美しいものだった。
そのソファーに座り赤子の手の半分ほどの大きさのお守りを作っている。
「うん。騎士団のみんなにあげようと思って。蒼の森まで連れて行ってもらうから。」
大理石と花梨の木で出来た豪華なコーヒーテーブルの上には出来上がった御守りがいくつか置いてあった。イアンはその中のひとつに赤い生地に金糸で装飾してある物を見つけ手に取った。
「赤のファティマ…。」
「あっ!それは…。」
赤は特別な色だ。赤い生地で作ったファティマは特別な人にあげるものなのだ。
「ルイーズ様、こちらはどなたに?」
イアンは意地悪くルイーズを問い詰める。その顔は嬉しそうだ。
「それは…。その、フレデリック殿下に…。」
「ふふふ。赤いファティマを殿下に?」
「うん。」
ルイーズは顔を真っ赤にして俯き手に持っているファティマをまた縫い始める。イアンはその様子を楽しそうに見ていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
ルイーズは出来上がったお守りを持って城の廊下を歩いていた。
「何て言って渡そう…。」
作っている時は一生懸命でどういう風に渡すかを深く考えていなかった。
要らないと言われるかもしれない。フレデリックがルイーズを見る目は怖い。
形だけとは言えルイーズを婚約者として迎え入れたことを不満に思っているのかもしれない。
他に結婚したい人がいるのだ。その事を考えると悲しい気持ちになる。フレデリックに申し訳なく思う。
二年前に初めてフレデリックを見た時のことを思い出した。
アーネストの婚姻式だった。城からほとんど出たことのないルイーズをニケーアが不憫に思い、婚姻式に連れてきてくれたのだ。バートレットはお祭りように賑わい、街は祝賀ムードで溢れていた。
遠くから見たフレデリックは輝いていた。笑顔でアーネストの結婚を祝福し、祝いのため訪れた来客をもてなしていた。
目が離せなかった。
アーネストやその妻のファビオラの事が目に入らないほどだった。
「はい。行ってみる価値はあると思います。」
「しかし蒼の森か…。」
アーネストは帰ってきたルイーズの話を聞き眉根を寄せた。可能性があるなら試したい。しかし蒼の森と聞くと渋ってしまう。あの森には何種類もの魔獣が住んでいるのだ。
「ルイーズが行くしかないのか?」
フレデリックも同じ気持ちなのだろう。いい顔をしなかった。
ルイーズは戦闘魔法は使えない。おそらく剣術も無理だろう。身を守る術がないのだ。
「ルイーズには傷を癒す力があるからな。」
自分自身を納得させるようにアーネストが呟く。それを聞いたイアンは悲しそうに顔を歪めた。
「ルイーズ様の癒しはご自分には使えません。」
「え?どういうことだ。ルイーズ?」
自分には使えないとは?アーネストが尋ねた。
「僕は十歳の頃にラウラからこの力を授かりました。その時に選んだのです。自分を癒すか、他人を癒すか。ラウラには二つのうちの一つしか選ぶことは出来ないと言われました。僕は他人を癒すことを選びました。だから自分自身の傷は癒せないのです。」
ルイーズが気まずそうに答えた。
ならばルイーズには何もない。自分を守り癒すものを何も持たずに蒼の森に行くと言うのか。
「ダメだ。危険すぎる。しかも絶対に目が覚めるわけではないのだろう?」
フレデリックは止めた。死にに行くようなものだ。
「でも今はこの方法しかありません。」
ルイーズも引かなかった。
「お願いします。殿下。ジョシュア殿下をこのまま見ているだけなんて出来ません。」
アーネストとフレデリックは顔を見合わせた。おそらく止めても勝手に行くだろう。それほどまでに強い意志を感じた。
「分かった。またフレデリックの隊を護衛につけよう。」
ルイーズの希望で満月の二日前には蒼の森に着くように出発することとなった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「ルイーズ様、ファティマの手ですね?」
イアンはソファーに座り一生懸命手芸をしているルイーズに声をかけた。
フレデリックの婚約者という立場なので城の中一番豪華な客室を充てがわれている。部屋は広く調度品は皆豪華だった。ルイーズが今座っている応接セットも花梨の木でデコラティブに装飾されておりガブリオールレッグの美しいものだった。
そのソファーに座り赤子の手の半分ほどの大きさのお守りを作っている。
「うん。騎士団のみんなにあげようと思って。蒼の森まで連れて行ってもらうから。」
大理石と花梨の木で出来た豪華なコーヒーテーブルの上には出来上がった御守りがいくつか置いてあった。イアンはその中のひとつに赤い生地に金糸で装飾してある物を見つけ手に取った。
「赤のファティマ…。」
「あっ!それは…。」
赤は特別な色だ。赤い生地で作ったファティマは特別な人にあげるものなのだ。
「ルイーズ様、こちらはどなたに?」
イアンは意地悪くルイーズを問い詰める。その顔は嬉しそうだ。
「それは…。その、フレデリック殿下に…。」
「ふふふ。赤いファティマを殿下に?」
「うん。」
ルイーズは顔を真っ赤にして俯き手に持っているファティマをまた縫い始める。イアンはその様子を楽しそうに見ていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
ルイーズは出来上がったお守りを持って城の廊下を歩いていた。
「何て言って渡そう…。」
作っている時は一生懸命でどういう風に渡すかを深く考えていなかった。
要らないと言われるかもしれない。フレデリックがルイーズを見る目は怖い。
形だけとは言えルイーズを婚約者として迎え入れたことを不満に思っているのかもしれない。
他に結婚したい人がいるのだ。その事を考えると悲しい気持ちになる。フレデリックに申し訳なく思う。
二年前に初めてフレデリックを見た時のことを思い出した。
アーネストの婚姻式だった。城からほとんど出たことのないルイーズをニケーアが不憫に思い、婚姻式に連れてきてくれたのだ。バートレットはお祭りように賑わい、街は祝賀ムードで溢れていた。
遠くから見たフレデリックは輝いていた。笑顔でアーネストの結婚を祝福し、祝いのため訪れた来客をもてなしていた。
目が離せなかった。
アーネストやその妻のファビオラの事が目に入らないほどだった。
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