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 水着とプールと瑠奈の想い。

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私は今、自分がどんな表情をしていて、どんな動きをしているのか分からない。

いや、多分普通だと思う。
ただそれらに気が回せないだけだ。

おそらく隣を歩く彼も同じ気持ちではないのか。
ちらりと盗み見る彼の顔は、赤く紅く色付いていた。それは果たして夏の日差しのせいなのか―――

流れるプールを出てから、未だ彼との間に会話はない。

        "蓮太郎の手が私の秘部に触れた"

ただその事実が、私たちの口を閉ざす。

人と居て会話をしない事に不安を覚える人は少なくないだろう。

私たちは"普段"なら会話がなくても、お互い不安になることはない。

それでも今は、今だけはお互いがお互いの言葉を待ち、不安に怯えている。

私は―――怒っては居ない。
それでも彼に、申し訳なさそうに、自分の行いを恥じるように俯く彼に、どんな言葉を送れば良いのか分からない。

私は――――――――――――



昼食は何にするか...それは行きの車で既に決まって居たので、2人でプールサイドに店を構えるラーメン屋さんに並んでいる。

こんなことになるのなら、決めてこなければ良かった。

周りを見れば、楽しそうに話す若い男女に家族連れ―――私達はどこか、世界から切り離されたかのように浮いてしまっている。

未だ口を開かない彼は、今何を思い、何を考えているのか―――

私達の時間はプールを上がった時から止まってる。いつ動くのか分からないそれに怯え、苦しむ。

私のデートはこれでいいのか?否。良いわけがない。

私の想い描いていたプールデートはこれではない。

もっと、嬉しくて楽しくてドキドキする。
そんなこの世にごまんと、ありふれたデートがしたい。

私は席へ着き、彼に笑いかける。
私が考えた理想のプールデートのために―――


『蓮太郎さん、私気にしてませんから...その、蓮太郎さんならいつでもOKですっ』
 
『......』

彼は目を見開いて固まってしまった。

失敗した―――彼に声をかけた瞬間に、気が動転した私は余計な一言を付け加えてしまった。

"なに"についてかは伝えてない。
それでも確実に理解している彼は私の目の前で時を止めている。

言うつもりは無かった。
心の中に留めておくつもりだった。

それでも私の気持ち―――欲望は言葉となり、彼に届いてしまった。

先程までの比ではない沈黙が訪れる。

彼は―――蓮太郎は私の言葉をどのように受け取ったのだろうか。




どれくらいの時間が経ったのだろうか―――彼の止まっていた時が動き始める。


『さっきの事はごめんね、瑠奈ちゃん。僕は君との時間に浮かれていた。君の水着姿を見てバタバタして―――情けないな』

先生に怒られる子供のように、自分を叱責するようにポツポツ呟く彼は未だ私と目が合わない。

私の言ってしまった"それ"にも言及しなかった。

でも、彼は私との時間を楽しんでくれていた。浮かれてくれていた。それに―――私の水着姿にドキドキとしてくれていた。

相手にされてないのかと思っていた。
妹のような―――保護対象としてしか見られていないと思っていた。

彼が溢した本音は私の胸を昂らせた。

"君を一人の女の子として意識している"

言葉の裏に隠れた彼の本音が嬉しくてたまらない。

全身が熱に、温かく優しい熱に侵され顔が緩んでしまう。


『蓮太郎さんっ。私今...めっちゃくちゃに幸せです』

『えっ?』


驚く彼は、可愛い間抜けヅラ。もう、愛しくて愛しくて、私の心はどんどん満たされる。

私が彼を想うこの気持ちは何だろうか。
愛なのか、恋なのか、はたまた依存なのかーーー。
分からない。

それでも私が彼を想う気持ちは、きっと彼が私に抱いている気持ちと同じだろう。

私は今にも走り出したい、跳び回りたい気持ちを必死に堪え、彼を見る。

やっと目が合った彼に向けて精一杯笑いかけるーーーーー

『蓮太郎さんっ。私今ーーーいえ、蓮太郎さんといる全ての時間が楽しくて、嬉しくて、幸せで...おかしくなっちゃいそうです』

私は少し重いのかもしれない。

同年代の他の子に比べれば、重く、扱いにくい女の子なのかもしれない。

それでも、彼は受け入れてくれる。
私を見てくれる。

なら、私はーーーー彼にも秘密にしてきた事を、打ち明けても良いのかもしれない。

『蓮太郎さん。これからも私の事どうか、よろしくお願いしますね』

『うん。こちらこそよろしくね、瑠奈ちゃん』

曖昧な笑みを浮かべる彼は今、何を想い、何を考え、私に笑顔を見せてくれているのだろう。

それは、愛なのか、恋なのか、はたまた親心のようなモノなのかーーー分からない。

それでも一つ確実に言えるのは、彼は絶対に私を棄てない。

私が側に居てって言えば居てくれるだろう。

そんな、優しい彼にーーー世界で一番私に優しい彼に甘えるのは、いけない事なんですか?

過去に傷付き、一度は絶望し、人生を諦めかけた私なんかがーーーーもう一度幸せへと手を伸ばしても良いんですか?

神様。いるなら教えてください。

私は、彼と一緒に生きていっても良いんですかーーーーーーーー?



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最後まで読んでいただきありがとうございます。


作者のモチベになりますので、よろしければお気に入り、コメントなどお待ちしております。

次回の更新、お待ちくださいませ。
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