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 水着とプールと蓮太郎。

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1人回想に耽って居ると、目の前の少女に顔を覗き込まれる。
『蓮太郎さん?大丈夫ですか?』
『うん、大丈夫。はいこれ』

返事と同時にカップを一つ差し出す。

プールにやって来て2時間。少し飲み物を飲みながら休憩しよう。と蓮太郎が買いに行ったら彼女がナンパされていた。

今はベンチに2人並んで座って居る。
彼女は何やら言いづらそうに俯いてしまっている。
この子なりに、思うところもあるのだろう。

『どうしたの?せっかく来たんだから楽しもうよ』
『でも...』
いつもの歯切れの良さを持ち合わせていない彼女。

『デートなんでしょ?僕、楽しみにしてたんだよ?』
『蓮太郎さん...』
『折角ならさ、笑おうよっ』
僕は、笑う―――彼女が笑顔になってくれるように強く、意識して笑う。

『蓮太郎さん...ありがとうございます。私も、すっっっごく楽しみにしてました』

瑠奈は笑ってくれた。
彼女が1番綺麗に見える―――幼さを残した可愛い笑顔だ。

俯き、ラッシュガードのフードに隠れていた彼女は、今はもうお日様の下に顔を出す。

僕は彼女が楽しんでくれたら楽しい―――彼女がからか俯くのなら、それに寄り添い笑顔にしたい。素直にそう思ってしまっていた。




気を取り直した僕達は今、流れるプール(一周200mほどあるプール)で、お互い浮き輪の中に腰を下ろし漂う。

水に身を任せ、周りの沢山の人達と共にただ漂っている。

『蓮太郎さ~ん、私寝ちゃいそうです~』
『奇遇だな。僕も同じことを考えていたよ』

ゆっくり揺れ、流される浮き輪。
分かりやすく言うのなら揺籠だろうか―――僕達の周りだけ、時間が長く、ゆっくりと進んでいる感じが心地良い。

なんて、感慨に耽っているのだが、こうなった理由は"それ"では無い。

単に、僕が耐えられなかった。

今の瑠奈はアルバイトの時の化粧をしている。
そんな彼女が下着同然のエメラルドグリーンの衣類を身につけ、僕と居る。

無理だった。
目はキョロキョロしてしまうし、口籠る。手を握られた時なんて心臓が飛び出た(出てはいない)


僕は相変わらず情けない男だ。

それでも彼女は今隣で、安心しきった幸せそうな笑み
を浮かべ、浮き輪に身を任せている。

『瑠奈ちゃん、お昼にしよっか?』
『はいっ。お腹空いてきたかもです』

口にしたが、ここからどうやって脱出するのか僕は知らない。

彼女が先に浮き輪に腰を下ろしたので真似たのだが、こんな使い方はしたことが無かった。

浮き輪の穴にすっぽりハマった二つのお尻。
僕は出ることが出来ずに、彼女の様子を伺う。

すると―――彼女は腰を少し浮かせ、重心を前にする。すぐに浮き輪が転倒して、水の中に潜り込んだ。

彼女を中心に出来た波と水飛沫の中から顔を出した彼女は笑っていた。

楽しそうに、まるで小学生が両親にねだり連れてきてもらえた。そんな風に笑う彼女は愛らしくも麗しい。

『蓮太郎さんっ。早く降りてくださいよ』
『う、うん』

彼女は凄く楽しそうだ、なら僕も同じようにすれば"それ"を味わえるのかもしれない―――

彼女がしたように腰を浮かせ、重心を前へ傾けると、すぐに水に全身を包まれる。

気持ちがいい―――僕は水の中で目を開け、そこから出ようとした。

『ぶふぉっっ』

僕は身体中の空気を一気に出してしまい、口に水が流れ込むみ、苦しくなり水の中で暴れる。

目を開けた時。目の前にあったのはエメラルドグリーンの薄布に包まれた、細く柔らかそうな太もも。瑠奈の足があった。


僕は水の中で目を瞑り、必死に暴れる。
今も脳裏にこびり付く"それ"を追い出す為に―――でもそれが最も愚かな事だったと気付いてしまった。

右手に伝わる柔らかな感触。
水の中なのに温かい気がするそれは、なんだろう。僕は再び目を開いてしまった。

飛び込んで来たのは、エメラルドグリーンの薄布に触れる僕の手―――僕は、あろうことか瑠奈の秘部に手を添えてしまっていた。

『ぶふぉっっ』
僕の吐いた空気が再び大きな泡となり浮かび上がる。

体内の酸素が足りなくなった僕は、そのまま地上に―――瑠奈の居る地上に出るしかなかった。

身体が、脳が、酸素を求め肺が応え吸収する。
『ぜぇはぁ、ぜぇはぁ』と呼吸する僕は彼女の瞳にどう映っているのか。

『蓮太郎さん...................,..........,』

『はい..............................』

顔を真っ赤にした彼女は、顔を真っ赤にした僕に声をかける。
お互い俯き、水面で目が合ってしまう。

『蓮太郎さん...................,..........,』

『...................,........はい』

永遠に感じる時間の中僕と彼女は動かない。
お互い水面に映る相手から視線を逸らせない。

『蓮太郎さん...................,..........その、ご飯食べにいきましょうか』

『...................,........はい』

彼女は僕を叱責しない。
僕は彼女に謝罪しない。

お互い何事もなかったかのように、真っ赤な顔を夏の暑さのせいにして、プールから上がるのだった―――





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最後まで読んでいただきありがとうございます。


作者のモチベになりますので、よろしければお気に入り、コメントなどお待ちしております。

次回の更新、お待ちくださいませ。





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