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 水着とプール。

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拝啓、田舎のお母さん。
いかがお過ごしでしょうか。僕は今とても後悔をしています。出来ることなら2日前に戻って自分にビンタを食らわせてやりたいです。
お母さんも今の僕を見たら必ずビンタしてしまうでしょう。出来の悪い息子をどうかお許しください。同時に健康にも気を使い、長生きしてください。敬具。

つい現実から目を背けたくなり、母親へと心の中で手紙を送ってしまう。
そう。現実から目を背けたいのだ。

真夏の太陽に照らされ、肌がジリジリと焼けていく感覚を覚える。とか今はどうでもいい。

『君可愛いね~俺らと遊ぼうよ』
『嫌ですけど?早くどこかに行ってくださいませんか?』
ドリンク2つ持つ僕の目の前では軽薄そうな男2人が美少女を誘っている。
美少女は嫌悪感を隠すこともなく、男たちを睨みつけている。

(前にも言ったのにな...)
この先がどうなるのか、大体想像が出来てしまい憂鬱になる。彼女は穏便に済ませる。という言葉を知らないのだ。
歩くスピードを上げ、彼女の所へと向かう。

『あんまり調子に乗るなよ?クソガキッ』
彼女の態度にブチギレた男が彼女へと手を伸ばす_________ギリギリ間に合った蓮太郎が食い止める。

『お兄さん。その子僕の連れなんだ...意地悪は辞めてくれないかな?』
『...っう』
男の様相が悲痛に歪む。
彼女には言ってなかったが、蓮太郎は空手有段者であり、趣味が筋トレ。そこらの男よりは大分強い。

彼女は前回と同様に、目を伏せ震えている。
(こうなることが分かりきっているのにな...)
つい心の中でお小言が漏れる。
だが、今はそんな状況ではない。男が蓮太郎の腕をタップし、訴えかける。

『痛えよ。離せ、こいつが生意気だったんだ、殴るつもりなんて無かった』
『それでも手を出したらダメだ。ナンパもね』
『わ、分かった。ごめんって...』

蓮太郎が力を強めることで、恐怖を覚えたのだろう。身体が震え出している。
隣にいる連れも状況を理解したようで、口を開くこともなくただ、成り行きを見守っている始末。

腕の力を緩め解放する。
男は数歩たたらを踏み、すぐに去って行った。

『瑠奈ちゃん大丈夫だった?』
『ごめんなさいっ。またやってしまいました』
ほぼ同時に口を開き、お互いの言葉を理解する。
瑠奈はちゃんと前回で反省し、直そうとしていた。

『怖かったよね。ごめんね、こうなるなら一緒に行くべきだった...』
『怖かったです。でも、また蓮太郎さんが助けてくれました』
そう口にし、笑顔を見せる。
彼女は未だ子供だ。恐怖を抱く対象に対して去勢を張る。いわば防衛本能だ。

そんな危機に晒してしまった自分こそが悪である。深く反省し、彼女の手を握る。
頬を赤くし、チラチラとコチラを確認してから彼女にそっぽを向き、言い訳がましく口を開く。

『さっきみたいなの、もう嫌なの。大人しく手を繋がれなさい』
『はいっ。喜んで』
こちらの気持ちなど何も考えてないだろう彼女は『えへへ』などと口にし、だらしない顔をしている。

(お母さん。僕は2日前の自分をビンタで済ませるなんて出来ません。殴ります)
心の中でそっと呟き、こうなってしまった2日前の自分を思い出す。




『蓮太郎さん。水着が欲しいですっ』

バイトから帰ってきた彼女は開口一番そんなことを宣言してくる。
欲しいなら買えばいいし、お金が足りないのなら出してあげよう。だが、何故そんな宣言を僕にするのか意味がわからない。

『買ってきな?』
それしか言えないだろう。
逆に、『よし、すぐにでも行こう』なんて言えるわけ無いよね?僕が行って役に立つことなんて一つもないのだから。

だが、彼女はそうは思わないらしい。
シュンと誰が見ても落ち込んでいると断言出来るほど肩を落とし、俯く。

(最近の女子高生むっっっず)
直接言えるわけもなく、内に留める。

瑠奈は未だに俯き言葉を発さない。
蓮太郎は発言を間違えたのだろう。

『水着買うお金あげようか?』
『いえ、要りません』
ただお金を渡す。それはダメだと思いながら口にするのだが直ぐに拒否され、ホッとした。

もし、彼女の要望であるなら僕達の関係は援助交際の様なモノに成り果ててしまうからだ。
口にした愚かな自分。否定してくれた彼女。

やはり、僕達はそんな不埒な関係では無い。誰にも言えない関係ではあるのだが、何故か誇らしくなってしまう。

『水着を選ぶのに僕も連れてってくれるなら付き合うよ』
胸の支えが取れると、すんなりと口にできた。

『はいっ。蓮太郎さんに見て欲しかったんです』
今までは演技だったのだろう。
してやったり、といつもとは違う笑みの彼女。

(僕達の関係って何なんだろうな...)
そんな彼女の笑みを受け考える。
勿論今日までもずっと考えていた。
それでも結論が出ない。1人では出せない。

僕達は一体何を目的とし、何を求めているのだろう。
自分自身の気持ちさえ、うまく言葉にできなかった。


*********************

蓮太郎さんはチョロい。
ラブコメのチョロイン(簡単に落とせるヒロイン)よりもチョロい。
試着室に入った私を外で待つ彼は本当にチョロい。

普通女の子は水着選びのパートナーに興味の無い男性を選ばない。
それを理解してついてきているのか疑問だ。

彼は私をどう思っているのだろう。異性として見てくれていないのではないか。
そのことが不満でならない。

この1ヶ月程アピールまではいかないが、色々してきた。

彼の部屋で寝ちゃったのは失敗だけど、プレゼントをあげたり、好きなモノを夜ご飯として出したり、私が寝てからコッソリ飲んでいるお酒のアテを作ったり。彼に好かれるために頑張ったつもりだ。

(私って本当に魅力ないのかな..,)
自信が無くなってしまう。
私は比較的モテる方だと思っている。
過信などではなく、今までの思いを伝えられた回数は人よりも多いからだ。

(早く大人になりたい)
彼と知り合ってからずっと思っていた。
もし、同い年なら彼と問題無く交際できた。勿論彼が私を好いてくれればだが。
それでも今よりはハードルが少なかった。

今日こそ、なんとしても彼に女と認識させる。私には時間が残されていない。現状に満足していたらダメだと、私の中の何者かが告げている。

(よし、いい感じ)
鏡に映る少女へ目を向けると、整った顔立ちにスタイル。それを最大限引き出す水着。女として。女子高生としての武器を遺憾無く発揮している。
彼は私の今の姿を見たらどう思うのか。何を感じるのか。考えただけでワクワクしてしまう。

必死に平静を装い、試着室のカーテンを開くのだった。


*********************

1人目のやり場に困りながらも試着室の前で待たされる。
こんな経験今までになかった。

周りを見渡せば女性用水着の数々にそれを選ぶ女性たち。
コチラのことを少し気にした様子の彼女たちからの視線が痛い。

(僕はなんでこんなことになっているんだ...)

僕の行動はおかしかったのだろか。
水着が欲しいと言った彼女の買い物に付き添う。これ自体も彼女が望んだことだ。
なのに、僕は今不審な目を向けられている。

僕自身にも問題があるのかもしれない。
心ここに在らず、アタフタとキョロキョロと目のやり場に困りながら、瑠奈の着替えを待つ。

見方によっては変態だな。
いや、普通に変態かもしれない。
深呼吸をして、態度を改める。毅然と。ただ知人の着替えを待つ。それだけだと自分に言い聞かせる。

なんて、1人意味もわからない事を考えていると突然カーテンが開かれる。

『蓮太郎さん。この水着...どうですか?』
『......』
モジモジと顔を赤くし俯いている彼女は小さな声で、でもハッキリと問いかけてくる。それを受けた僕はフリーズ。

彼女はエメラルドグリーンのビキニタイプの水着を着用している。胸元はフリルがあしらわれ、パラオを巻いている事で露出は控えめ。
それでも美少女の水着姿だ。

さあ、僕から君たちに問おう。
水着と下着違いが分かる男子はいるか?
水着なら良くて下着だとダメな理由がわかる男子は?居ないよね。うん。

つまり僕は女性の下着姿を公開されてしまっている(違う)
フリーズしてしまっても仕方のない事だろう。

『蓮太郎さん聞いてますか?』
『あ、あぁ。そのかわいいねっ?』
マジマジと顔を覗き込まれてしまい、否が応でも反応せざるを得ない。

(あんまり近づかないでくれぇぇぇぇえ)
僕は心の中で叫ぶ。
覗き込まれる?そんなことされてみろ。
彼女のふくよかな胸の作り出す谷間がこれでもかと主張してくる。

こんなモノどんな聖人君主でも耐えられない。舌を巻いて逃げ出すだろう。
若さの作り出す瑞々しさがこれでもかと、彼女を光り輝かせる。

『うわぁ、いっつつ』
『蓮太郎さん?大丈夫ですかっ?』
焦った彼女はこちらを見下ろす形だ。
つい魔窟に気を取られた僕は尻餅をついてしまい彼女に見下ろされる。
(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)
僕の頭はパンクし、しばらく機能しないのだった。


*********************


『蓮太郎さん?大丈夫ですか?』
『大丈夫~』
先程から彼の様子はおかしい。
具体的には分からない。けれど私が手に持ってる水着姿を見せ、取り乱した彼に近づいたら突然だ。

返事は返してくれるがそれだけ。
いつもならこちらの事を気にして話しかけてくれたり、荷物を持ってくれる。
けれど今は隣を歩き返事をするだけ。

それでも私は不満に思うどころか、優越感に浸っています。

彼は私の水着姿を至近距離で見て、可笑しくなった。つまり私を女として意識してくれている。

それだけで私の心は満たされてしまう。
こんなにも私は彼の事を考えている。

(私の事を考えて変になるってもうっ)
スキップしたくなる衝動を抑え込み、彼へ笑いかける。

『蓮太郎さん。私とプールに行ってくれませんか?』
『うん。いーよ』
簡単に言質がとれた。
でも今の彼はとても正常ではない。これで満足しない。

更に蓮太郎へと距離を詰め、至近距離で目を見て伝える。

『蓮太郎さん。私とプールに行きませんか?』

自分が一番可愛く見える角度。それを理解している私はそれを駆使し、一番整った自分を作り伝える。

ちなみに、世の中の女性は皆自分が一番良く見える構図を把握している。
あれだけ自撮りやプリクラを撮るのだから当然だ。
私ですら知っているのだから全員と言ってしまっていいだろう。


『瑠奈ちゃん?プール?僕と?』
ようやく、少し正常に戻ってきた蓮太郎がたどたどしく問いかけてくる。
目は泳いでいるし、手は所在なさげにソワソワとしている。
とんでもなく可愛い。可愛らしすぎる。

『そーです。私は蓮太郎さんとプールに行きたいですっ』
『う、うん。分かった。行こうか』
今度はしっかり、いつも通りの蓮太郎からの言質を得る。
私は彼に女として意識された。
ここからが頑張りどころだ。絶対に逃さない。
そう自分に言い聞かせ、私は笑う。

彼と。大好きな彼とプールに行ける。
こんなに幸せでいいのだろうか。

一度何もかもに絶望し、もう幸せを望むことなどないと思っていた私が、こんなにも幸せでいいのだろうか。

私は彼の幸せと自分の幸せその両方が欲しい。
いや、作りたい。2人で、お互いの幸せを作りたいと願う。
私たちは歪で、異端な関係。今はそれでいい。いつか。彼のおかげで思えるようになった未来で私は彼と一緒に笑っていたいんだ。




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最後まで読んでいただきありがとうございます。


作者のモチベになりますので、よろしければお気に入り、コメントなどお待ちしております。

次回の更新、お待ちくださいませ。

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