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 買い物と友達。

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車に乗り込み運転し始めると、助手席に座っている瑠奈が一目で分かるほど嬉しそうにしている。
(今のメイクでこれは反則だよ...)
つい横目で見てドキドキとしてしまう。

今の彼女は仕事をしている時の化粧。普段見せてくれる彼女よりも大人っぽい雰囲気をしている。
そんな彼女が年相応かそれよりも幼い行動をしているのだ。とんでもないギャップがある。

『蓮太郎さん運転お上手ですねっ』
楽しそうに外へと向けていた視線をこちらへ向け嬉しそうにしている。

『そーかな?でも前は仕事で良く上司を乗せたりしてたから、安全運転が染み付いてるのかもね』
『ふふっ。安心して乗れてますよ』
未だ免許を持っていない彼女からしたら、凄い事に感じるようだ。ずっと尊敬の眼差しを向けられ、ついこそばゆくなってしまう。

『もー着くからね。もし良かったら今度少し遠出してみる?』
『行きたいですっ』
つい嬉しそうな彼女に提案してしまったが、今日一番の笑顔で食い気味に応じてくれる。

(本当にこの子は...)
そんな彼女をついつい可愛がってしまうのは仕方のない事だよな。と一人笑みが溢れてしまった。




『蓮太郎さん、まずどこから見ていきますか?』
『生活用品まとめて用意してその後に衣類に行こうかな』
買うものリストに目を通しながら応えると嬉しそうにドンドンと先へ進んでいく彼女。

(そんなに楽しいモノなのかねえ)
そんな彼女を見てつい、考えてしまう。
言ってしまえば彼女はオッサンの荷物持ち要員だ。
それなのに楽しそうにしてくれている彼女のことが気になって仕方がない。

『蓮太郎さん、置いて行っちゃいますよ~?』
『あぁ、ごめん今行くよ』
振り返りニコニコしている彼女へと応え、早足に進む。
今はまだ彼女の事を詳しく知らない。それでもこれから知っていきたいと伝えることができた。これもまた新しい彼女の素顔なのだと思い、今日何度目かの笑みが溢れてしまった。



『これなんてどうですか?』
食器やタオル。部屋に置く家具を少し購入し車に詰め込むと、次の目的である衣服を買うためにユ●クロと訪れていた。

ここは知らない人も居ないと思う。全国の至る所にあるコスパのいい有名アパレルショップだ。



『どうだろう。自分じゃよく分からないな...』
と彼女が手に持つシャツへと目を落とす。

ベージュと黒のストライプの薄手のシャツ。
いわゆる柄シャツなのだが、普段手に取ることも無いので良し悪しの判断ができない。

『ちょっと試着して来てください』
『え?試着するの?』
つい、聞き返してしまう。
生まれてこの方試着をして服を買ったことなんてない。せいぜいが鏡の前で合わせるだけだった。

こんな事を言うと怒られるかもしれないが、わざわざ試着をするのは面倒くさい。
なので、ここで済ませられるのであれば済ませたいと思ってしまう。

『試着しないで服を買うなんて悪です。着もせずに何がわかると言うんですか』
『えぇ』
強気に良いから彼女に対してつい、不満が漏れてしまった。
それを受けた彼女は咎めるように捲し立てる。

『人によって似合うサイズ感は違います。いざ買ってみて変だったらどうするんですか?サイズ感は私が教えるので今後絶対に試着してください。良いですか?』
『はい...』
怒涛の勢いで言い終える彼女に成す術なく従うことにした。

彼女からシャツを手渡され、コソコソと試着室へと入っていくのだった。


『どうかな?』
試着を終え一度鏡で確認したのだが、やはり自分では良し悪しが分からないので、カーテンを開けて瑠奈へ感想を求める。

『似合ってますよ。でも大きめに作られてるのでMサイズのが良いかもしれませんね。こっち着てみて下さい』
言い終えると、違うサイズのシャツをこちらへと手渡してくれたので受け取る。

(言われてもみてもよく分からないな...)
と、しぶしぶ再度着替えるためにカーテンを閉める。

『あれ?瑠奈じゃん。よっす』
『どうも...』
蓮太郎が服を着替え確認していると、カーテンの外から陽気な男の子の声と、困ったような瑠奈の声が聞こえて来た。

(友達かな...出られないな...)
今出て行くと大変な事になると思い、申し訳ないがことの成り行きを見守ることにした。


***********************



『あれ?瑠奈じゃん。よっす』
『どうも...』
蓮太郎さんの試着が終わるのを待っていると、突然背後から男に声をかけられてしまった。

『お前、周(しゅう)の告白断ったらしいな?』
馴れ馴れしくお前呼ばわりしてくるこの男には見覚えがあった。

同じクラスでいつもうるさい迷惑な男子生徒だ。
その男がニヤニヤとこちらを品定めするかのように見つめてくる。

『それが何?用がないなら早くどっか行きなよ』
視線や言葉。いや存在自体が嫌なので、つい言葉が尖ってしまい、それを受けた彼の表情に怒気が滲みあがる。

『お前そんなだから友達少ないんじゃねーの?もっと愛想良く出来ないのかよ』
と、検討外れな事を真実かのように言い張る。

はっきり言って不快だ。
そもそもこの男に対して好意を抱いてもいないのに何故愛想を良くしなければならないのか分からない。

『はぁ。で?まだ他に言いたいことある?無ければ帰りなよ』
『お前調子乗んなよ?』
不快感を全面に表し告げると彼は先程よりも怒りを露にし、こちらへ詰め寄ってくる。

(蓮太郎さん居るのに、なんでっ...)
自分の態度に後悔し、殴られる事も覚悟して全身に力を入れ俯き目を瞑る。

『瑠奈ちゃん。姉さんが早く来いってさ。それでこれはどういう状況?』

目を開くと、怯えていた私の顔を覗き込んでいる蓮太郎さんと目が合う。着替えも済ましたようだ。

『蓮太郎さん...』
声が震えてしまう。いや、声だけでなく身体も小刻みに震えてしまっていた。

『おい、お前誰だよ。俺今そいつと話してたんだけど中で聞いてたんだろ?邪魔すんな』
彼は蓮太郎に対し敵意を剥き出しに睨みつけている。
そんな彼に対して蓮太郎は少し戯けた様子で話しかける。

『僕はこの子の叔父。この子の母さんが僕の姉さん。オーケー?』
『邪魔するなって言ったんだよ。どけよ』
戯けた様子の蓮太郎に腹を立てたのだろう。こちらへ向かって来る速度が速くなる。

『話しをしてたって言うけど、僕にはそうは思えなかったな。会話とは相手の言葉を受け取り、返すキャッチボールのことだよ?君のそれは壁当てじゃないのかい?』
『なんだとっ』

蓮太郎が早口に捲し立てる。だが言い終わると同時に彼は蓮太郎の胸元へと手を伸ばす_______。
『うっ。離せっ』
彼の伸ばした手は取られた。更に顔が歪み蓮太郎の腕をタップしている。

『暴力はやめてくれないか?』
蓮太郎が腕を離しながら問いかける。
彼は解放された腕の跡を見てゾッとしている。
釣られて視線を移すと、そこにはくっきりと赤く締め付けられた跡が残っていた。


『ッチ』
蓮太郎には敵わないと思ったのだろう、彼は舌打ちを一つ残し早足にこの場を去っていった。


『はぁ』
蓮太郎に助けてもらえた安堵と疲弊によるとため息。その両方が合わさりつい声に出てしまった。

『瑠奈ちゃん大丈夫だったかい?』
『はい。ありがとうございました』
こちらの様子を伺っている蓮太郎に無事を知らせると彼は強張っていた身体を落ち着かせてくれた。

『ちょっと目立ちすぎたかな...歩ける?』
辺りを見回すと数名がこちらの様子を遠くから眺めている。
蓮太郎が差し出してくれた手を取り早足にこの場を後にするのだった。


***********************

僕は今少し焦っている。
彼女の前で少し強気な態度を出してしまい、引かれてないか。それがただただ心配だった。

『蓮太郎さん、そろそろ、大丈夫だと思います』

『あっごめん...』
思いのほか早く歩き過ぎたのだろう。彼女は少し息を切らして、頬が赤くなってしまっている。

『本当にありがとうございました。助かりました』

苦笑いでこちらを見つめている彼女。
無事で何よりだが、勿論言いたいことがある。

『あんな態度取ったら怒るの分かってたよね?なんであんな感じになっちゃったの?』
つい言葉が尖ってしまう。
言葉を受けた彼女は申し訳なさそうに俯いてしまい、言葉が返ってこない。

『ごめんね。怒っているわけではないんだ。そーだな、ご飯でも食べながら聞かせてくれるかな?』
『...はい』
時刻は13時過ぎ。流石にお腹が空いたので提案すると了承してくれたが、やはり表情は曇ったままだ。

『瑠奈ちゃんが好きなもの食べよう、ほら行くよ』

落ち込んでしまっている彼女を連れ、フードコートへと足を向けるのだった。




『それで、どうして君は彼に対してあんな態度だったの?』

フードコートでお互い食べたいものを頼み、料理を始めて少し経ったところで本題を切り出す。

『すいません。怒るのは分かってました...』
ずっと曇らせた表情のまま、歯切れ悪く彼女は話始めてくれる。

『私は元々人と関わるのが怖くて、学校に友人が数人しか居ません』
そこで一度言葉を区切る。

(友人が少ない?瑠奈ちゃんが?)
つい考え込んでしまう。
蓮太郎の知る限り瑠奈は優しく人当たりが良いと思って居たのだ。

『他人と関わりたくなくて。つい突き放すような言葉を使ってしまうんです』
『そっか』
また一つ彼女のことを知れた。
だが、これは喜ぶ事ではなく直さなければならない。

『知らない人が怖いの?』
『人間そのものが怖いです...平気で裏切る。こんな怖い生き物他にないです』
ハッキリと言い切る彼女。
おそらく過去に何かあったのだろう。
これに関してはあまり踏み込むべきでは無いと判断する。

『そっか。ありがとう話してくれて。この話はもうお終いにしよう』
『えっ?』
驚くのも無理はない。彼女としてはこのまま説教される流れだったのだろう。
それでも蓮太郎は彼女の新たな一面を知り、これからどうするか。その事しか頭に無い。


『ご飯食べたら瑠奈ちゃんの服見に行こう。僕の服はまた今度買うでいいかな?』
『...分かりました。どうせなら高くて可愛いもの買ってくださいね?』
蓮太郎が話を変えると彼女の表情が明るくなっていき、いつもの調子を取り戻した。

『あんまり高すぎたら困るかな』
精一杯穏やかに笑いかけ彼女を安心させる。

(これからもっと彼女のことを知って、彼女自身が良い方向に向かってくれるといいな)

嬉しそうに買いたい服の話しをしている彼女を見ていると、自然とそう思えた。

(僕は彼女に幸せになってもらいたいんだな)

1人自分の中に芽生えた新たな感情を噛み締めるのだった。



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最後まで読んでいただきありがとうございます。


作者のモチベになりますので、よろしければお気に入り、コメントなどお待ちしております。

次回の更新、お待ちくださいませ。
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