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私が乃亜に買われた日 ①
しおりを挟む夢を見た。
とびきりの美少女に犯される夢だ。
彼女は、私に優しく口付けた後、耳、胸へと対象を移動させ、最後には裸にされた私の秘部を弄ぶ。
私は彼女の前に成す術もなく快楽に溺れ、許しを乞う。
そんな淫らな夢を見た。
(カシャッ)
『ん、んぅ……』
物音に目を覚ました私の視界に最初に飛び込んできたのは、スマホをこちらに構え私を見下ろす美少女だった。
寝起きと二日酔いのダブルパンチを食らっている私に笑いかける少女は、夢の中に出てきた私を犯す少女、そのままだった。
『おはようございます。月華さんっ』
ニカっと可愛い笑みに、徐々に記憶が戻って来る。
私は昨日、上司の顔面に辞表を叩き込み、浮気していた彼氏とその浮気相手を寝室に閉じ込め家を出て、恵を呼び出し居酒屋へ行った。
その後で、今目の前で笑う少女――――如月乃亜と出会い、彼女の家に招かれ犯されかけた…。
『月華さん?大丈夫です?』
心配そうにこちらの顔を覗き込んで来る美少女へ笑いかけ、口を開く。
『ねぇ、乃亜ちゃん。私は何で下着姿なのかな?そして何で今乃亜ちゃんは私にカメラを向けているのかな?』
『月華さんが寝てすぐに勝手に服を脱いだからですよ。カメラに関しては、月華さんが可愛いからですかね………?』
『消せーーーーーーーーーーーーー』
私は吠える。
顔を真っ赤にして、力一杯に吠えた。
『月華さん、今日は何かすることあるんです?』
昼過ぎに目を覚ました私に、乃亜は朝食兼昼食として、ざるうどんを作ってくれた。
二人、うどんを啜りながら着く食卓は、今までと違って優しく、温かい雰囲気がして少し居心地が悪い。
『荷物を取りに帰ろうかなって思ってるよ』
昨日飛び出してきた時に持って来れたのは私物の訳二割。
要らないモノを抜いてもあと一往復、私にはその荷物が必要だった。
『一緒について行ってもいい?』
『えっ?』
何を言っているのか分からない。
近所のコンビニに行く感覚の彼女に、きちんと事情を説明する。
『私が行くのは神奈川県。ここから片道1時間以上かかるのよ?』
『はい。昨日聞きましたよ。二人のが退屈しなくて良いんじゃ無いですか?』
『………………………………………』
何だろう。この絶対に譲りませんけど何か?みたいな雰囲気は一体何だろう。
『私の元交際相手も居るんだよ?もしかしたら乱暴されちゃうかも……』
『はい。昨日も言った通り、私は武道の心得があります。月華さんをお守りできるかと』
『………………………………………』
何だろう。頼もしいは頼もしいのだけれど、この胸のモヤは何だろう。
『えっと…乃亜ちゃんは何でそんなに、私と一緒に行きたいの…?』
私が戸惑いながらも口にした質問に対して、乃亜は照れたような表情で応えた。
『月華さんとデート……じゃなかった。お出かけしたいだけですよ?』
『なるほどね…………』
彼女、如月乃亜《きさらぎのあ》は同性愛者"レズビアン"だ。
昨夜、初対面だった私にレイプ未遂をした彼女は、女性である私とお出かけしたい。
その事で頭がいっぱいのようだ。
『ついて行っても良いですか…?』
『いいわよ。その代わり、少し荷物持ってもらうから覚悟していてね?』
『はいっ。任せてくださいっ』
かくして昨日に引き続き、私と乃亜の生活を劇的に変えてしまう一日が幕を開けた。
乃亜の自宅は埼玉県川口市。西川口駅から徒歩8分の所にあるようだ。
私が住んでいたのは、神奈川県横浜市上大岡駅付近。
西川口駅からは電車で1時間20分ほどだった。
昼食を摂り終えた私達は各々準備をして、西川口駅へとやってきていた。
『西川口久しぶりに来たな~』
私は目に映る景色に懐かしさを覚える。
背の高い建物の数々に、ロータリーに止まっている数台のタクシー。行き交う人々は平日の昼過ぎということもあり、少ないものの非常に栄えているそれ。
埼玉県屈指の都会"西川口駅前だ"
『埼玉県出身って言ってましたもんね』
視線をキョロキョロと彷徨わせる私に、優しく微笑みかける乃亜。
ブラウス生地の白いオフショルダーのトップスに、デニム生地のスキニーパンツ。斜めがけしたバックの紐が彼女の谷間を主張している。
とても可愛らしい20歳の美少女がそこにいた。
残念なアラサーには、目に毒だ。
『乃亜ちゃんは?埼玉出身なの?』
話の流れから聞き返したこの言葉。
だが、それは彼女は先程までの笑みを消し、俯かせてしまった。
『いえ、私は埼玉出身ではないです…』
か弱く、消え入るようなその声音。
彼女はこの話題を良しとしていなかった。
『そう。あ、あそこのケーキ屋さん美味しいのよ?今度食べてみてね』
『えっ?』
私の話題転換に驚き、顔を上げ目を見開く彼女は、おずおずと口を開く。
『その…聞かないんですか?』
『ええ、言いたくない事を聞いても楽しくないわ。私は貴方と楽しいお話がしたいのよ?』
優しく、彼女に寄り添うように伝えると、彼女の目に涙が浮かび、頬を濡らす。
『ありがとう月華さん』
『いいえ。ほら、涙拭きな?せっかくのデートなんでしょ?』
『はいっ』
ハンカチを差し出すと、嬉しそうに受けたり、涙を拭く乃亜。
デートと口にしてしまったのは言葉の綾だが、今は良しとしよう。
彼女が笑顔になった。
今はそれだけで良いような気がした。
私は空のスーツケースと大きなリュックを。
乃亜も念の為にと持ってきてくれた、私物の大きなリュックを持ち、私達は上り線の電車に乗り込む。
自称プロゲーマーなヒキニートの住まう家へと向かう為に―――
___________________________________________
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