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第9話 りかの正体。

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僕は今1人、カラオケ店の外に居る。
何でここへ来たのか...詳しくは覚えていないが、僕は"りか"を放置してここに居る。

何分――どれくらいここに居るのだろう。

(ぶぶっ)
スマホがメッセージの受信を知らせる。

正直に言うと怖くて見れない。

それでも僕は見なければいけない――"りか"からのDMなのだから。

りか『うみくんどこいったの。早く戻ってきなさい』

簡素なメッセージが一つ。

(なんだやっぱり、"りか"か。早く戻ろ――)

僕が腰を浮かせると、開きっぱなしにしていたトーク画面に一枚の写真が送られてくる。

光沢が綺麗な手入れのされた黒髪に、長い睫毛に縁取られた吸い込まれそうな大きな瞳。
小さく形の良い鼻梁にリップに彩られ、鮮やかで柔らかそうな唇。

ニッコリと微笑を浮かべる彼女は、昨日見たネットニュースの時よりも美しい"シュリ"だった。

僕は腰を下ろし、スマホをポケットへ――暫く 1人座り込む。

僕はこの後どうしたらいいのか分からない。
ただ時間が過ぎるのを待つのだった――



『あっ。こんなとこに居た。何してるのよ馬鹿』

メッセージから10分経っただろうか、突然りかの声が聞こえ、ゆっくり顔を上げる―――と、そこには"りか"が居た。

正真正銘のりか。
僕の友達でゲームのカップル枠の"りか"が居た。

『うみくん、何してるの。早く戻るよ』

『そーだね。なんか、疲れた...』

『中で少し休憩しよっか♡』

『ちょっと待って、りか?りかだよね?』

なんか卑猥だと思ったが、今の僕はそれどころではない。

『今は"りか"だね。お部屋に戻ったら今度はちゃんと私の話聞いてくれる?』

(コクコク)
言葉は出せず、首を縦に振る。 

『可愛いうみくん♡』

(フルフル)
言葉は出せず、首を横に振る。

何で会話が成立しないかって?
彼女が推しである"シュリ"だから。

"りか"の皮を被った"シュリ"は先程までは、声を作って居たのだろう。

今の"りか"の声は"シュリ"の声そのまま――認めるしかない。

この女の子――僕のカップル枠の"りか"の正体は君島朱莉――シュリだ。

『ほら、うみくん急ぐよっ』

(コクコク)

こうして僕は推しに微笑みかけられ、視線と心と言葉を奪われてしまった。



『うみくん。今なら質問受け付けます』

カラオケルームに戻ると、対面に座る朱莉は、ニコニコと嬉しそうにこちらを見る。

(フルフル)

『何にもないの?』

(コクコク)

『ふーーーーーーーーーーーーーん』

頬を膨らませ、そっぽ向く彼女はなんで――なんで僕なんかと話しているのだろう。

気になるが、言葉にならない。
僕は彼女と話してはいけない気がする。

推しとは、手の届かない所に居るから推しなのだ。話したり、ましてや"連絡"をとる、"遊ぶ"など、もっての外。それをした時、推しは推しでなくなる。

さっきまでは知らなかったからセーフ。
それでも理解してしまった今は完全にアウトだ。

僕はこれからも"シュリ"――"朱莉"を推したい。
今僕にできるのは一旦身を引く。それしかないのではないか。


『本当に何も聞きたいことないの?』

(コクコク)

『本当の本当に?』

(コクコク)

『なら、私が勝手に話すね』

(フルフル、フルフル、フルフル)

懸命に首を横に振るが、彼女には届かない。
"りか"は野暮ったい髪に手を伸ばし頭から剥ぎ取り――朱莉がその姿を現す。

『ごめんねうみくん。私が君に、海斗くんに聞いてもらいたいの。大人しく聞いていてね♡』

(フルフル、フルフル)

『ダメっ♡』

僕の身体は動かない。
ここに居てはダメだと脳が理解しても、言う事を聞かない身体はここに残ると、拒絶する。

僕はこの後、どうなってしまうのか。
この出来事は僕の今後の人生にどれだけ影響するのか。

僕の身体は素直だ。
彼女を受け入れ、今の関係の、その先を見ている。

人間は愚かな生き物だ。
危険だと分かっていても、甘い蜜に吸い付く。

僕のこれからの人生は今、ここに残ったことで大きく変わっていくことになる――――





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次回 朱莉の想い。  乞うご期待。












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