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第7話 りかとランチ。
しおりを挟む『うみくん?聞いてるの?』
妖艶な笑みの彼女は、こちらに一歩、また一歩と歩を進める。
『聞いてる。りか。ありがと...』
対メンヘラ最終兵器発動。"とりあえず受け入れる"
効果。とりあえずこの場は凌げる。代償として相手の依存度が増す。
『うんっ♡』
効果は抜群だ。
嬉しそうに笑う彼女は、今自分がこの世で1番幸せ。なんて言い出しそうな表情をしている。
『ご飯食べに行こっ』
『ほえっっ』
こちらの手を取り、ぐんぐんと前を歩いていくりか。
なんとか変な声を出すだけで済み、そのまま飲食店えと向かって歩いていく。
ちなみに、りかの手は小さく瑞々しいぷにぷに感触。100点の握り心地だった。
ちなみに、前を歩くりかは耳までを朱に染めこちらを振り返らない。恥ずかしいけど衝動を抑えられなかった彼女の態度。これも100点だ。
対して僕はどうだろう。もちろん、顔は耳まで真っ赤。
全身を汗が包み込んでいる感覚を覚え、空いた手はヌメヌメ。多分彼女と繋がっている手も同様だろう。
呼吸が上手く出来ずに、鼻息が荒く目は様々な方向に行ったり来たり。
0点。むしろマイナス100点だろう。
夢にまで見た手繋ぎデート。
でも何だろう。僕の想い描いたそれは、こちらから手を差し出し、もっとスマートに事を進めるはずだった。
僕はダメだ。人間として、得るべき経験値があまりにも足りてない。
誰がジムリーダーに卵から孵ったばかりのモンスターを使う?
ギャ●ドスに睨まれたキャ●ピーに何が出来ると言うんだ。
僕の思考はどんどん暗く、ネガティブになっていっている。
だが僕は不甲斐ない自分に目を瞑り神に問う。貴方は本当に人間を平等に生み出す気はあるのか―――と。
『うみくん何してるの?』
『ごめんごめん。何でも無いよ』
僕が神を尋問するために歩くのを辞めてしまったせいで、りかにこちらの様子がバレてしまった。
『うみくんかわいっ♡』
『はははっ』
僕は、前世で何か業を背負っていたのだろうか―――全ての行動、言動が裏目に出てしまっている気がしてならない。
『ほらっ行くよ』
『はいなのです』
再び手を引き歩き始める彼女は僕の言葉を聞き流した。
全ての行動、言動が裏目に出るなら、普段と違う事をすればいい。
僕は正真正銘の阿呆だ。
初めての出来事が多すぎるあまりパニックに陥っている。
海斗は正真正銘の阿呆だ。
パニックに陥るあまり、彼女のとびきり可愛い今の表情を見逃してしまったのだから―――
『本当にここでいいの?レストランとかのが良いんじゃ無い?』
『ここが良いの♡』
彼女は有名ファミリーレストラン"サイ●リア"が良いと、嬉しそうに言い切っている。
確かにこの店は良い。非常に良い。
お手頃な価格帯なのに美味しい料理。全高校生の味方といえばこのお店だろう。
それでも、初デートとしては少し不向きな気がする。
自慢では無いが、趣味に費やすために、週五でバイトしていた僕は、それなりに金銭の貯蓄がある。
今日僕は彼女が望むのなら、有名ホテルのランチにでも連れて行くつもりで来ていた。
でも、蓋を開けてみたらこれだ。
"どこに行くかで無く、誰と行くかに意味がある"
たまに耳にする言葉だが、これこそが人間関係において非常に大切なことだとハッキリと理解した。
『注文しようか』
『うん♡』
嬉しそうな、幸せそうな笑顔を見せてくれる彼女は僕との時間を楽しんでくれている。
なら、僕は...僕に出来ることは精一杯彼女に楽しんでもらう。それだけだ―――
『ずっと気になっていたんだけど、イメチェンしたんだね♡』
休日ということもあり、騒がしい店内で彼女は僕を逃がさないとばかりに、見つめる。
初めて会う女性。それもかなり親しい部類の彼女に会うと張り切ってイメチェンした僕。
だが、彼女は昨日までの僕を知っている。
気になって当然だろう。
『穴があったら入りたい。穴がないなら掘ってでも入りたい』
『えっ?』
天井を見上げ、一人願う。
もしも次の人生があるのならもっとスマートな初デートが出来ますように―――
そんなパニック状態の僕を他所に、彼女は更に追い打ちをかける。
『今のうみくんカッコいいよ、私は好きっ♡』
『おっふ』
『服もオシャレだね。どこで買ったの?』
『おっふ』
『次会う時はどんなうみくんが見れるんだろ』
『おっふ...って、次?』
精神的負荷が危険領域にまで達していた僕を彼女は強引に引き戻した。
『次...あるよね?まさか無いとは言わないよね?』
対面に座る彼女は身を乗り出し、そのたわわに実った二つの果実が僕の目の前まで迫ってくる―――わけもなく、少し距離が近くなった。
『次ね...ってかさ。りかは何で僕に黙って会いに来てたの?何で名乗ってもくれなかったの?』
禁断の果実から目と気を逸らすために、話しを逸らす。
こうでもしないと僕は欲望に素直な獣と化していただろう。いや。流石にファミレスでそれはないか。
『うーーーーーーーーーーーーん』
僕の言葉を受けた彼女は顎に手を当て考える。
何を考えているのだろう。僕は壺や神の水と言った商品を売りつけられるのだろうか。
女の子いう生き物について僕は詳しく知らない。
彼女が何を想い僕に会いに来て、何を想い僕と話して、何を想い好意を伝えてくれるのか。
僕は何にも知らない。
僕が知ってるのはゲームの中の、1人の人間としての"りか"だけだ。女の子としてリアルに存在する彼女の事は何も知らない。
長考の末、言葉が纏まった彼女は口を開く。
僕が彼女に抱いていた気持ちは失礼に値するとこの後に思い知らされた。
『さっきも言ったけど、私はリアルでもうみくんと仲良くなりたかった。勿論何度も、それこそ毎回名乗ろうともした。でもね...』
申し訳なさからだろうか、一度言葉を区切り俯く彼女。
でも、違った。申し訳なさなどではない。
彼女は今、この瞬間"何か"を決意した。
『ゲームする時のうみくんと、リアルのうみくん。私はその両方。2人とも好き。だから言い出せなかった。2人を独占するために、私は黙ってうみくんに会いに行ってたんだ―――』
拝啓神様。
先程は恨んでしまい申し訳ございませんでした。僕は貴方に選ばれし存在という事にやっと気が付きました。どうか何卒これからもよろしくお願いします。敬具。
彼女の言葉を噛み締め神に感謝を。
僕は恵まれていないと、ずっと思って生きてきた。
そんなわけなかった。
こうして彼女が、僕を気に入り好いてくれる。
僕は...それだけで幸せなのかもしれない。
僕のところには来ないと思っていた幸せは...もっとずっと近くにあった。
僕は彼女の事を知りたい。
もっと沢山彼女の事を知って、仲を深め、その先の未来で彼女と笑っていたい。
それが恋なのか友情なのかは未だ分からない。分かるわけがない。
それでも僕は彼女に、好意を抱いている事を理解した。
『りか。ありがとう。僕もずっとゲームの中のりかと、たまに会うりか。そのどちらにも好意を抱いていたのかもしれない―――』
僕達は互いを想い、想われていた。僕達の関係に名前を付けるのなら何が相応しいのか。
僕は知らない。
僕は何にも知らない。
なら、知らないなら...これから彼女と知って行けばいいのでは無いだろうか―――
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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
私のモチベに繋がりますので
星、ハート、フォローなど、頂けると幸いです。
次回 りかとカラオケ。 乞うご期待。
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