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第6話 りかの秘密。
しおりを挟む僕は未だ塞がらない口に手を当て考える。
何故、彼女が今目の前にいるのか。
初めて彼女と出会ったのは、二年半ほど前。
その日僕は一人で『月夜に唄う』が主題歌を担当した恋愛映画を見に行っていた。
映画が終わりエンディング曲で"シュリ"の歌声を聴いた瞬間。ボロボロと大粒の涙を溢してしまった。
映画の内容は、まあ良かった。くらいの感想だったのだが、その後に聞いたシュリの歌。
病と戦う明るくも、か弱いヒロイン。
そんな彼女のことを想い書かれた歌に心を動かされ、ずっと泣いていた僕は映画が終わったのに席を立てないで居た。
『あの...大丈夫ですか?』
はいここ。ここで話しかけてきたのが、今目の前にいる少女。
ハンカチをこちらへ差し出しながら、おずおずと様子を伺う彼女。
『大丈夫です。ただ涙が止まらないだけで』
人と、特に女の子と関わるのが苦手な僕は、その場を後にしようとしたのだが、腕を掴まれ、引き留められてしまう。
『あのっっっ、お一人ですよね?良ければこの後カフェで映画についてお話ししませんか?』
俯きながらも、チラチラとこちらの様子を確認する彼女はちょっと可愛かった。
僕が特に苦手意識を持っているのは、陽キャラの女の子。
彼女のように、こちら側の子なら何とかなるかもしれない。そう思い首を縦に振ってしまった。
その後は本当に何事もなく、カフェで映画の話をしてそのまま解散――お互いに名乗りもせずだ。
またどこかで会えたら話しをしたい。と考えていた僕はその1ヶ月後にも"たまたま"彼女に遭遇した。
そこから毎月、"たまたま" 彼女と遭遇しては、同じ時を過ごしていた。
これが本当に"たまたま"だから驚いた。
例えば、CDを買いに出かけた時。
例えば、ラノベを買いに出かけた時。
例えば、一人でアニメとコラボしているカフェに行った時。
僕と趣味趣向が似ていて、生活圏の近い彼女は僕同様に、全てを発売日に買いたい派。
つまり、本当に"たまたま"会っていたと、ずっと思って居た。
深呼吸し、心を落ち着ける。
目の前で不思議そうにしている彼女に言わねばならないことがある。
男には、逃げてはいけない戦いがある。
『りか、何で僕に会いにきてたんだ?』
精一杯怒った顔を作り、告げる。
『会いたかったから♡』
効果ゼロ。清々しいまでに完敗だ。
彼女は、彼女なりの考えを伝えてくれる。
『そもそも、うみくんが会いたがらなかったことが問題だったんだよ?カップル枠になったなら会いたいもん。それなのに、誘ってくれないから――――』
『ちとまて。ゲームはゲーム。リアルはリアルじゃないの?』
『えっ――――』
化け物でも見たかのような顔をする彼女に、つい同じ顔を返してしまう。
『つまり、りかは――』
『うみくんの彼女でしょ?』
知らなかった。僕には彼女が居た。
知らなかった。ゲーム内の関係がリアルにも適用されるらしい。
知らなかった。この少女はこんなにも可愛い顔をしていたんだ。
慌ただしく動く彼女の前髪の間から見えた、長い睫毛に縁取られた大きく、吸い込まれそうな瞳。
僕は確信する。この子はダイヤの原石だ――
『友達からお願いしまっっっっす』
『は?』
お辞儀をして、手を差し出す。
昔テレビで見た、お見合い番組の最後の告白シーン同様に。
誠心誠意想いを告げたのだが、返ってきたのは絶対零度だった。
一撃必殺。効果は抜群だ。僕は力尽きた。
彼女の瞳は、力尽きた僕を未だ捉えている。
そして、ゆっくりと柔らかそうな唇が動く。
『うみくん。に が さ な い ぞ♡』
僕の知ってる彼女はこんな表情をしたことはなかった。
妖艶に、綺麗に、笑う彼女はどんな女性よりも美しいと思った。と、同時に背筋が凍る。
ネットで見たことがある。
メンタルヘルス女子。通称メンヘラ女子。
もしかしたら彼女は――――――
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次回 りかとランチ。 乞うご期待。
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