上 下
4 / 11

第4話 妹。

しおりを挟む
4月2日。入社式を明日に控えた僕は今短い人生の中で1番浮かれている。

どれくらい浮かれているかって?

頭上を舞う、桜の花ビラを捕まえてはニッコリ微笑みかける。
繰り返すこと26回目。

これが浮かれてないのならば、何が浮かれているのだろうか。

スマホを取り出し、昨晩届いた『りか』からのメッセージを開く。

りか『明日11時に桜木町駅の改札前に集合』

絵文字もなく、簡素なメッセージが目に映る。

だが僕はこのメッセージに表情筋の機能を停止させられてしまっている。

『お母さん、あの人なんでスマホ見てニヤニヤしてるのー?』
『しっ、世の中にはそういった人も居るのよ』

なんか失礼な事を言われている。
今すぐに何故僕がニヤニヤとしているのか、その理由を熱く語り聞かせたい。

普通に不審者だ。落ち着きを取り戻し、スマホをポケットにしまい込む。

(それにしても、遥のお陰で恥をかかないで済みそうだ...)

スマホから手を離した事で、店舗のガラスに映し出された自分に目がいく。

黒のチェフパンツと呼ばれるモノ黒のジャケットのセットアップ。その中にはベージュの裾の長いTシャツ。足元にはコンバースのベージュのローカットスニーカー。

髪は短めに切り揃えられ、前髪を立ち上げる事で視界良好。下手くそなりに頑張ってセットした事が伺えるヘアースタイル。

妹である遥の手によって生み出された、なんちゃってリア充がそこに居た。

遥に教えてもらった美容室へ行き帰宅した時の彼女の見るに耐えたないと言った、微苦笑がフラッシュバックする。

『あの~お兄さん?いくら髪整えても、その服だとキモすぎるんですけど?』

思い出しただけで、胸に激痛が走る。

普段は兄貴と呼ばれているるし、口調も雑な彼女は、馬鹿にするような――いや、馬鹿にした敬語を用いて僕の心に深い傷を負わせた。

だが僕が落ち込み、返事もせずにそそくさと自分の部屋へ逃げ込もうとすると、彼女はそれをこんな言葉で阻止してきた。

『車出して、服選んだげる』
『えっ......?遥..........?』

突然の提案に驚き、慌てふためく僕を他所に彼女はそそくさとリビングを後にする。

『気が変わらないうちに早く準備してくんない?』
『はいっっっ』

こうして僕は遥に連れられ、家の近所店を構える有名衣料品店"UNIQLO"で、今着ている服を選んでもらい、ABCマートで靴も選んでもらった。

一式揃えて、11.000円。お手頃だ。

いや、分からない。服を母に買ってきて貰っていた僕はこれが安いのか高いのか、判断ができない。

それでもこの金額で、この僕が曲がりなりにもリア充に見える。それならこの金額は安いと言って良いだろう。

(遥と買い物に行ったのなんていつぶりだ...)

三年...いや四年ぶりだろうか。
海斗が家に引き篭もる前、海斗が中学生の頃までは遥と海斗は仲の良い兄妹だった。

『お兄ちゃん』と慕われ、一緒にゲームをしたり、買い物に行ったり。
まさか今みたいな関係になるとは思ってもみなかった。

昨日久方ぶりに見た妹の優しい笑顔を思い返す。

服を選んで貰い、試着して見せた時―― 
一瞬だけ、昔のような柔らかく優しい笑顔を見せてくれた。

直ぐにいつもの興味の無いような表情に戻ってしまったが、海斗はその顔を見逃さなかった。

(これを機に、前みたいに戻れるのかな――)

そんな想いを胸に抱き、海斗は最寄駅に向かい走り出した。




___________________________________________


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

私のモチベに繋がりますので
星、ハート、フォローなど、頂けると幸いです。


次回 りか。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

処理中です...