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第11話 告白と夏休み
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7月も半ばを超え三分の二を消化した今日。
いつもと変わらない帰りのHRの筈なのにやけに騒がしいクラスメイトの面々を眺めながら1人ニヤけそうな口元をきつく結ぶ。
『明日から夏休みだけど、私は合コンの予定が立て込んで居ます。くれぐれも余計な事をして呼び出されることがないように。いい?』
佐藤ちゃんこと担任の佐藤先生は教卓に両肘を着き、手を組み口元を隠している。いわゆる、真剣な面持ちである。
そんな彼女は近場の席同士で会話している生徒たちから無視を決め込まれながらも尚も続ける。
『この私を差し置いて恋人とイチャイチャしてるのを目撃した時は問答無用で補修リストに名前を入れます。これは決定事項です』
『勘弁してくれよ佐藤ちゃん』
真顔で淡々と告げる佐藤先生にヒロが呆れながらもルールの取り消しを要求している。
『それじゃHRを終わりにします。良き夏休みを満喫してくださいまし...』
『夏休みじゃーーーーーーーーー』
ヒロを無視し、憂鬱な表情で佐藤先生がHRを終わらせたと同時に樹が椅子に立ち上がり咆哮している。
佐藤先生は気に留める様子もなく肩を落とし、教室を後にした。
(どんだけ落ち込んでるんだよ...)
教室が一気に賑やかになる。
友人同士夏休みはどうするか。そんな話しが至る所から聞こえてくる。
辺りを見回していると、帰り支度したヒロと樹がこちらへ来ていた。
『よっし、サ●ゼ行こうぜ』
樹が今にも駆け出したい気持ちを必死に抑えてる様子で皆へと声をかけている。
『樹は少し落ち着きなさい。私はすぐ行けるけど皆は?』
『俺は莉奈が来たらすぐ行ける』
樹に変わり柚葉が段取りを決めていく。ヒロはすぐにでも行けると名乗り出ていた。
『私ちょっと用事あるから後で合流するね...』
『了解』
皆の視線を受け夏菜がモジモジとしながら、応えている。
(用事?なんだろう...)
今日この時に用事があるのには少し疑問が残る。
『優はすぐに行ける?』
『俺も後からになる。佐藤ちゃんに呼ばれてるんだよね』
『そっかー。じゃあ4人で先に行ってるね』
嘘である。が、特に追及される事は無かった。
やはり夏菜の用事が少し気になるのと、彼女一人置いて皆で先に行くことに少しばかり思うことがあった。
『それじゃまた後でな~』
樹がこちら
に手を振り別れを告げると莉奈も合流し、4人が廊下へと出て行く背中を見送る。
『優くんも残るんだね。タイミングが合ったら一緒に行こっ』
夏菜は嬉しそうにしている。
やはり後から一人で行くのは少なからず嫌だったのだと思い、安堵する。
『了解。終わったらLINE入れといて』
『わかった。それじゃ行ってくるね』
言い終え小走りに廊下へ出て行く夏菜を見送り、一人これからどうするか考える。
(遠回りして自販機行くか)
特に思い付くことも無かったので普段の何倍も遠回りして自動販売機へと向かうのだった。
(やっぱ学校といえばこれだよな)
手に持っている、パックの乳酸飲料へと目を向けると、しみじみ思ってしまう。
ヨーグ●ッペ。80円で買えるお手頃価格ながら、味も美味い。
この高校へ来てからは基本こればかり飲んでいる。
(夏菜どれくらいで終わるかな)
待ち人の用事がどれくらいなのか考えながら1人中庭を歩いていると、男子生徒の声が聞こえてくる。
『なんで俺と付き合ってくれないんだよ』
気になりそちらへ近付くと、やたらと大きな声で怒鳴る男子生徒が目に映る。
その人物は学校の女子から人気がある2年の先輩と、誰かが教えてくれた。
『俺は本気なんだよ。頼むよ夏菜ちゃん』
(夏菜?)
男子生徒は今も声を荒げ、女子生徒へと詰め寄っている。
ある程度近付いたところでようやく相手の女子生徒を確認できたが、やはり夏菜だ。
『すいません。お気持ちは嬉しいのですが、やっぱり先輩の気持ちには応えられません』
怯えながらもキッパリと言い切る夏菜に対し男子生徒は尚も距離を詰める。
『なんでっ』
突然男子生徒は夏菜の手を掴もうと腕を伸ばす。
『夏菜っ遅いと思ってたに来たけど、これどうゆう状況?』
おちゃらけた態度を取りながら夏菜へと近付く。
『優くん』
怖かったのだろう。涙目で助けを求めている。
『お前誰だよっ』
男子生徒は部外者の介入に憤り、先程よりも声を荒げ優を睨みつけている。
『夏菜の友達です。彼女嫌がってるんで解放してくれませんかね』
『うるせぇ。お前がどっか行けよ』
聞く耳を持たない彼はこちらへと距離を詰めてくる。
『先輩?振られたのにみっともなくはありませんか?これが学校で人気者のやることですか...』
距離を詰めてくる彼に対し、最大限の侮辱をぶつけ煽る。
『うるせえって言ってんだろ』
優の目と鼻の先にまで接近した彼は胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。
『そこで何をしているの?早く帰りなさい』
窓から佐藤先生が顔を出し、こちらを眺めている。
『っち』
男子生徒が佐藤先生の顔を確認すると、バツが悪そうに優へ伸ばした手を引き、1人早足にこの場を去っていった。
『佐藤ちゃん遅いよ』
勿論優は気付いていた。
2人が背を向けている校舎の2階を歩く佐藤先生を見つけた。だがこちらに気付く様子がなかったので、男子生徒を煽り、大声を出させる事で気付く様に仕向けたのだ。
『えー。私としては一番かっこいいタイミングだと思ったのになぁ~。2人とも大丈夫?早く帰るのよ』
優が再度文句をぶつけようとするも用事があるのか、早足に去って行った。
『夏菜大丈夫か?』
佐藤先生が居なくなったので、早足に夏菜の元へと駆け寄る。
『怖かった。ありがとう優くん』
大粒の涙を流しながら優の胸へと体重を預けてくる。
『怖かったよな。間に合って良かったよ』
『うん。ありがとう優くん』
『歩けそう?ベンチ行こうか』
『うん』
正直に言うと、胸の辺りの柔らかな感触に意識の全てを持っていかれかけた。が、それよりも夏菜の事が心配なので表情に出ることはなかった。
『優くん本当にありがとうね』
ベンチへ座り、少し落ち着いた夏菜はハンカチで涙を拭い笑顔で感謝を告げてくれる。
『気にしないでよ。それに佐藤ちゃんが居なかったらヤバかったよ』
恥ずかしくなり、少しおちゃらけた感じに返してしまう。
『先生の事気付いてたでしょ?』
見抜かれてしまった。どうやら照れ隠しも通用しないようだ。
『じゃなきゃ優くんがあんなこと言うわけないもん』
ハッキリと言い切り、笑いかけてくれる。
『バレてた?』
『うんっ』
優が降参するとさらに嬉しそうにしている。
『普段の優くんをみてたら簡単にバレるからね』
『それは...なんかありがとう?』
『ふふっ』
夏菜が優を理解してくれていることに胸がくすぐったくなってしまう。
『もう大丈夫そうだね、みんな待ってるから行こうか』
『うんっ』
恥ずかしさのあまり早口になってしまったが、気にする事なく夏菜がついて来てくれる。
こうして、2人自転車で皆の待つファミレスへと向かうのだった。
『皆お待たせ』
『あっ遅かったね...って夏菜どうしたの?その目』
ファミレスへと到着し、予め聞いていた席へと向かい声をかけると柚葉がすぐに夏菜の異変に気付く。
『ちょっと色々あったんだよね...』
『そっか。早く座って聞かせて?』
柚葉は自分の座る隣の席をパンパンと叩き夏菜を座らせる。
それを確認し、優は樹の隣へと腰を下ろす。
『それで、何があったの?』
『えっとね...』
心配し、催促する柚葉へと夏菜が先程の出来事を話し始めるのだった。
『そんな事が...あの先輩がねぇ』
夏菜が言い終えると柚葉はなにやら考え込んでいる。
周りを見ると皆それぞれに想うことがあるようだ。
『そんなことする奴がチヤホヤされてるなんて許せねぇ』
『あんたのそれはただの僻みよ?』
樹は違う方向へ怒りを表し、柚葉に呆れられている。
『それにしても優はお手柄だな』
『たまたまだよ』
ヒロがニヤニヤとこちらを見つめてくる。
ヒロに関しては、この間のデートを目撃されその後こちらの気持ちを伝えていたので気恥ずかしくなり目を逸らす。
『この辺にしてご飯頼もうぜ。待っててくれたんだろ?』
『それもそうね』
なんとか会話を逸らすことに成功し、各々メニュー表から料理を選んでいく。
(ヒロの奴楽しそうにしやがって...)
とメニュー表を眺めながらつい、悪態をついてしまうのだった。
『そーいえば、皆花火大会どーするよ』
食事を終えた樹は待ちきれないとばかりにウキウキしながら皆の様子を伺う。
優達の学校のある地区の夏祭りは7月後半にある。
つまるところ来週に開催されるのだ。
『俺は莉奈と行くわ』
『知ってた』
ヒロが応えると、声のトーンが下がり返事をしている。
『私らは4人で行く?』
『だなっ。非リアは固まっていくしか無いよな』
『樹と一緒にしないでくれない?』
『ごめん...』
柚葉に言われ落ち込んでしまう樹。
本当にこいつばっかりは憎めない。
『俺としても皆が一緒に行ってくれると嬉しいよ。樹楽しもうな?』
『おう。流石優だぜ』
何が流石なのかは分からないがいつもの調子を取り戻した。これはこれで暑苦しい。
『2人は浴衣で行くの?』
『『どーしようかな...』』
莉奈が夏菜と柚葉へ質問すると歯切れの悪い2人。
(どうせなら浴衣姿見てみたいな)
なんて、考えてしまったからだろう。こちらまで飛び火する。
『樹と優が着るなら私着ようかな』
『柚葉ちゃん、それ良いね』
『『.......えぇ』』
恐らく樹も着るつもりが無かったのだろう。言葉が重なる。
『何よ私らの浴衣姿なんて安く無いんだからね?』
『たしかに...』
胸を張る柚葉へと納得してしまう。
学年で三番には入る美少女2人だ。浴衣姿を安く拝める訳がない。
『俺は持ってないから確認しないといけないな...充電は持ってるか?』
『俺も無いわ。買いに行くしかないか...』
2人の浴衣姿を見るために必死な優と樹。
『日にちが近くなったら教えてね。私は持ってるから』
『私もっ』
やはり2人は用意しているようだ。
これは是が非でも用意して拝ませてもらう他ない。
男2人、言葉を交わさずとも理解し合う。
『夏祭りはこれでいいとしてさ、他にもなんかしたいよな』
このまま夏祭りの話をしているとつい2人の浴衣姿を妄想してしまいそうなので、話を逸らす。
『プールか海は行きたいよな』
またも樹と心がシンクロしてすぐさま応じてくれた。
『『『プールが良いな』』』
突然女子3人の声が重なった。
それを受け目を合わせ、納得し合う女子たち。
『海は身体も髪もベトベトするからどうにもね...』
『本当に...』『アレは考えただけでも嫌だ』
その後も女子ならではの感想を言い合っている。
『だったらプールにしようぜっ。全員空いてる日も1日くらい有るだろ。夏休みなんだし』
『『『『『だね』』』』』』
樹の提案に5人の声が重なり、皆で笑い合う。
(夏休み前にこんなに予定が立つなんてな...)
今まで深く関わる友人を作ってこなかった優としては信じられないイベントである。
1人考えていると柚葉に顔を覗き込まれる。
『優どうしたの?』
『いや、楽しいなって。つい考えちゃった』
『優は可愛いな~お姉ちゃん嬉しい』
『おい、柚葉。表出やがれ』
『お姉ちゃんと2人きりになりたいのね?』
『この野郎』
『2人とも辞めてよ~』
夏菜が仲裁に入ることで場が和む。
この下りも定番化してきてしまっている。
『他にも何日か予定決めとこうぜ』
優以外が笑い合ったところで樹が口を開き、それに対して皆でやりたい事を言い合う。
『BBQとかキャンプはまた夏休み中に話してやるか決めるか』
『だね。流石に私らだけでやるとなると難しそう』
意見として多かった2つは実現が難しそうだ。柚葉と2人で保留にすると樹が口を挟む。
『ぜっっったいにやりたい』
『『はいはい』』
『もっとノッてくれよ』
1人ショボくれる樹を無視し、皆へ向き直る。
『また会ったときに話そうか。正直座ってんの疲れた』
『それな。腰痛いわ』
優がおちゃらけた感じに告げるとヒロが乗っかってくれる。
『ってことで、今日はこの辺で解散しようか』
『ちょっと優待ってく...』
『ほら、樹帰るよ』
『はい』
柚葉に叱られている樹を見ながらそれぞれ帰る準備を済ませる。
『それじゃ皆、花火大会でな』
こうして高校1年の夏休みが幕を開けるのだった。
___________________________________________
最後まで読んでいただきありがとうございます。
良ければいいね、コメント、フォローお待ちしております。
合わせて感想やご意見なども募集しておりますので是非聞かせてください。
いつもと変わらない帰りのHRの筈なのにやけに騒がしいクラスメイトの面々を眺めながら1人ニヤけそうな口元をきつく結ぶ。
『明日から夏休みだけど、私は合コンの予定が立て込んで居ます。くれぐれも余計な事をして呼び出されることがないように。いい?』
佐藤ちゃんこと担任の佐藤先生は教卓に両肘を着き、手を組み口元を隠している。いわゆる、真剣な面持ちである。
そんな彼女は近場の席同士で会話している生徒たちから無視を決め込まれながらも尚も続ける。
『この私を差し置いて恋人とイチャイチャしてるのを目撃した時は問答無用で補修リストに名前を入れます。これは決定事項です』
『勘弁してくれよ佐藤ちゃん』
真顔で淡々と告げる佐藤先生にヒロが呆れながらもルールの取り消しを要求している。
『それじゃHRを終わりにします。良き夏休みを満喫してくださいまし...』
『夏休みじゃーーーーーーーーー』
ヒロを無視し、憂鬱な表情で佐藤先生がHRを終わらせたと同時に樹が椅子に立ち上がり咆哮している。
佐藤先生は気に留める様子もなく肩を落とし、教室を後にした。
(どんだけ落ち込んでるんだよ...)
教室が一気に賑やかになる。
友人同士夏休みはどうするか。そんな話しが至る所から聞こえてくる。
辺りを見回していると、帰り支度したヒロと樹がこちらへ来ていた。
『よっし、サ●ゼ行こうぜ』
樹が今にも駆け出したい気持ちを必死に抑えてる様子で皆へと声をかけている。
『樹は少し落ち着きなさい。私はすぐ行けるけど皆は?』
『俺は莉奈が来たらすぐ行ける』
樹に変わり柚葉が段取りを決めていく。ヒロはすぐにでも行けると名乗り出ていた。
『私ちょっと用事あるから後で合流するね...』
『了解』
皆の視線を受け夏菜がモジモジとしながら、応えている。
(用事?なんだろう...)
今日この時に用事があるのには少し疑問が残る。
『優はすぐに行ける?』
『俺も後からになる。佐藤ちゃんに呼ばれてるんだよね』
『そっかー。じゃあ4人で先に行ってるね』
嘘である。が、特に追及される事は無かった。
やはり夏菜の用事が少し気になるのと、彼女一人置いて皆で先に行くことに少しばかり思うことがあった。
『それじゃまた後でな~』
樹がこちら
に手を振り別れを告げると莉奈も合流し、4人が廊下へと出て行く背中を見送る。
『優くんも残るんだね。タイミングが合ったら一緒に行こっ』
夏菜は嬉しそうにしている。
やはり後から一人で行くのは少なからず嫌だったのだと思い、安堵する。
『了解。終わったらLINE入れといて』
『わかった。それじゃ行ってくるね』
言い終え小走りに廊下へ出て行く夏菜を見送り、一人これからどうするか考える。
(遠回りして自販機行くか)
特に思い付くことも無かったので普段の何倍も遠回りして自動販売機へと向かうのだった。
(やっぱ学校といえばこれだよな)
手に持っている、パックの乳酸飲料へと目を向けると、しみじみ思ってしまう。
ヨーグ●ッペ。80円で買えるお手頃価格ながら、味も美味い。
この高校へ来てからは基本こればかり飲んでいる。
(夏菜どれくらいで終わるかな)
待ち人の用事がどれくらいなのか考えながら1人中庭を歩いていると、男子生徒の声が聞こえてくる。
『なんで俺と付き合ってくれないんだよ』
気になりそちらへ近付くと、やたらと大きな声で怒鳴る男子生徒が目に映る。
その人物は学校の女子から人気がある2年の先輩と、誰かが教えてくれた。
『俺は本気なんだよ。頼むよ夏菜ちゃん』
(夏菜?)
男子生徒は今も声を荒げ、女子生徒へと詰め寄っている。
ある程度近付いたところでようやく相手の女子生徒を確認できたが、やはり夏菜だ。
『すいません。お気持ちは嬉しいのですが、やっぱり先輩の気持ちには応えられません』
怯えながらもキッパリと言い切る夏菜に対し男子生徒は尚も距離を詰める。
『なんでっ』
突然男子生徒は夏菜の手を掴もうと腕を伸ばす。
『夏菜っ遅いと思ってたに来たけど、これどうゆう状況?』
おちゃらけた態度を取りながら夏菜へと近付く。
『優くん』
怖かったのだろう。涙目で助けを求めている。
『お前誰だよっ』
男子生徒は部外者の介入に憤り、先程よりも声を荒げ優を睨みつけている。
『夏菜の友達です。彼女嫌がってるんで解放してくれませんかね』
『うるせぇ。お前がどっか行けよ』
聞く耳を持たない彼はこちらへと距離を詰めてくる。
『先輩?振られたのにみっともなくはありませんか?これが学校で人気者のやることですか...』
距離を詰めてくる彼に対し、最大限の侮辱をぶつけ煽る。
『うるせえって言ってんだろ』
優の目と鼻の先にまで接近した彼は胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。
『そこで何をしているの?早く帰りなさい』
窓から佐藤先生が顔を出し、こちらを眺めている。
『っち』
男子生徒が佐藤先生の顔を確認すると、バツが悪そうに優へ伸ばした手を引き、1人早足にこの場を去っていった。
『佐藤ちゃん遅いよ』
勿論優は気付いていた。
2人が背を向けている校舎の2階を歩く佐藤先生を見つけた。だがこちらに気付く様子がなかったので、男子生徒を煽り、大声を出させる事で気付く様に仕向けたのだ。
『えー。私としては一番かっこいいタイミングだと思ったのになぁ~。2人とも大丈夫?早く帰るのよ』
優が再度文句をぶつけようとするも用事があるのか、早足に去って行った。
『夏菜大丈夫か?』
佐藤先生が居なくなったので、早足に夏菜の元へと駆け寄る。
『怖かった。ありがとう優くん』
大粒の涙を流しながら優の胸へと体重を預けてくる。
『怖かったよな。間に合って良かったよ』
『うん。ありがとう優くん』
『歩けそう?ベンチ行こうか』
『うん』
正直に言うと、胸の辺りの柔らかな感触に意識の全てを持っていかれかけた。が、それよりも夏菜の事が心配なので表情に出ることはなかった。
『優くん本当にありがとうね』
ベンチへ座り、少し落ち着いた夏菜はハンカチで涙を拭い笑顔で感謝を告げてくれる。
『気にしないでよ。それに佐藤ちゃんが居なかったらヤバかったよ』
恥ずかしくなり、少しおちゃらけた感じに返してしまう。
『先生の事気付いてたでしょ?』
見抜かれてしまった。どうやら照れ隠しも通用しないようだ。
『じゃなきゃ優くんがあんなこと言うわけないもん』
ハッキリと言い切り、笑いかけてくれる。
『バレてた?』
『うんっ』
優が降参するとさらに嬉しそうにしている。
『普段の優くんをみてたら簡単にバレるからね』
『それは...なんかありがとう?』
『ふふっ』
夏菜が優を理解してくれていることに胸がくすぐったくなってしまう。
『もう大丈夫そうだね、みんな待ってるから行こうか』
『うんっ』
恥ずかしさのあまり早口になってしまったが、気にする事なく夏菜がついて来てくれる。
こうして、2人自転車で皆の待つファミレスへと向かうのだった。
『皆お待たせ』
『あっ遅かったね...って夏菜どうしたの?その目』
ファミレスへと到着し、予め聞いていた席へと向かい声をかけると柚葉がすぐに夏菜の異変に気付く。
『ちょっと色々あったんだよね...』
『そっか。早く座って聞かせて?』
柚葉は自分の座る隣の席をパンパンと叩き夏菜を座らせる。
それを確認し、優は樹の隣へと腰を下ろす。
『それで、何があったの?』
『えっとね...』
心配し、催促する柚葉へと夏菜が先程の出来事を話し始めるのだった。
『そんな事が...あの先輩がねぇ』
夏菜が言い終えると柚葉はなにやら考え込んでいる。
周りを見ると皆それぞれに想うことがあるようだ。
『そんなことする奴がチヤホヤされてるなんて許せねぇ』
『あんたのそれはただの僻みよ?』
樹は違う方向へ怒りを表し、柚葉に呆れられている。
『それにしても優はお手柄だな』
『たまたまだよ』
ヒロがニヤニヤとこちらを見つめてくる。
ヒロに関しては、この間のデートを目撃されその後こちらの気持ちを伝えていたので気恥ずかしくなり目を逸らす。
『この辺にしてご飯頼もうぜ。待っててくれたんだろ?』
『それもそうね』
なんとか会話を逸らすことに成功し、各々メニュー表から料理を選んでいく。
(ヒロの奴楽しそうにしやがって...)
とメニュー表を眺めながらつい、悪態をついてしまうのだった。
『そーいえば、皆花火大会どーするよ』
食事を終えた樹は待ちきれないとばかりにウキウキしながら皆の様子を伺う。
優達の学校のある地区の夏祭りは7月後半にある。
つまるところ来週に開催されるのだ。
『俺は莉奈と行くわ』
『知ってた』
ヒロが応えると、声のトーンが下がり返事をしている。
『私らは4人で行く?』
『だなっ。非リアは固まっていくしか無いよな』
『樹と一緒にしないでくれない?』
『ごめん...』
柚葉に言われ落ち込んでしまう樹。
本当にこいつばっかりは憎めない。
『俺としても皆が一緒に行ってくれると嬉しいよ。樹楽しもうな?』
『おう。流石優だぜ』
何が流石なのかは分からないがいつもの調子を取り戻した。これはこれで暑苦しい。
『2人は浴衣で行くの?』
『『どーしようかな...』』
莉奈が夏菜と柚葉へ質問すると歯切れの悪い2人。
(どうせなら浴衣姿見てみたいな)
なんて、考えてしまったからだろう。こちらまで飛び火する。
『樹と優が着るなら私着ようかな』
『柚葉ちゃん、それ良いね』
『『.......えぇ』』
恐らく樹も着るつもりが無かったのだろう。言葉が重なる。
『何よ私らの浴衣姿なんて安く無いんだからね?』
『たしかに...』
胸を張る柚葉へと納得してしまう。
学年で三番には入る美少女2人だ。浴衣姿を安く拝める訳がない。
『俺は持ってないから確認しないといけないな...充電は持ってるか?』
『俺も無いわ。買いに行くしかないか...』
2人の浴衣姿を見るために必死な優と樹。
『日にちが近くなったら教えてね。私は持ってるから』
『私もっ』
やはり2人は用意しているようだ。
これは是が非でも用意して拝ませてもらう他ない。
男2人、言葉を交わさずとも理解し合う。
『夏祭りはこれでいいとしてさ、他にもなんかしたいよな』
このまま夏祭りの話をしているとつい2人の浴衣姿を妄想してしまいそうなので、話を逸らす。
『プールか海は行きたいよな』
またも樹と心がシンクロしてすぐさま応じてくれた。
『『『プールが良いな』』』
突然女子3人の声が重なった。
それを受け目を合わせ、納得し合う女子たち。
『海は身体も髪もベトベトするからどうにもね...』
『本当に...』『アレは考えただけでも嫌だ』
その後も女子ならではの感想を言い合っている。
『だったらプールにしようぜっ。全員空いてる日も1日くらい有るだろ。夏休みなんだし』
『『『『『だね』』』』』』
樹の提案に5人の声が重なり、皆で笑い合う。
(夏休み前にこんなに予定が立つなんてな...)
今まで深く関わる友人を作ってこなかった優としては信じられないイベントである。
1人考えていると柚葉に顔を覗き込まれる。
『優どうしたの?』
『いや、楽しいなって。つい考えちゃった』
『優は可愛いな~お姉ちゃん嬉しい』
『おい、柚葉。表出やがれ』
『お姉ちゃんと2人きりになりたいのね?』
『この野郎』
『2人とも辞めてよ~』
夏菜が仲裁に入ることで場が和む。
この下りも定番化してきてしまっている。
『他にも何日か予定決めとこうぜ』
優以外が笑い合ったところで樹が口を開き、それに対して皆でやりたい事を言い合う。
『BBQとかキャンプはまた夏休み中に話してやるか決めるか』
『だね。流石に私らだけでやるとなると難しそう』
意見として多かった2つは実現が難しそうだ。柚葉と2人で保留にすると樹が口を挟む。
『ぜっっったいにやりたい』
『『はいはい』』
『もっとノッてくれよ』
1人ショボくれる樹を無視し、皆へ向き直る。
『また会ったときに話そうか。正直座ってんの疲れた』
『それな。腰痛いわ』
優がおちゃらけた感じに告げるとヒロが乗っかってくれる。
『ってことで、今日はこの辺で解散しようか』
『ちょっと優待ってく...』
『ほら、樹帰るよ』
『はい』
柚葉に叱られている樹を見ながらそれぞれ帰る準備を済ませる。
『それじゃ皆、花火大会でな』
こうして高校1年の夏休みが幕を開けるのだった。
___________________________________________
最後まで読んでいただきありがとうございます。
良ければいいね、コメント、フォローお待ちしております。
合わせて感想やご意見なども募集しておりますので是非聞かせてください。
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※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
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