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第4話 お迎え
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『優ちゃん、せっかく髪の毛切ってサッパリしたのにセットもしないで行くの?』
朝ごはんを食べ歯磨きをしていると、またも扉からひょっこりとコチラを覗いている咲夜姉が問いかけてきた。
『うん。切った後に美容師さんがやってくれたのは難しそうだし、どーやって良いか分からないからこのまま行くよ』
基本的に自分の身なりを気にしない優は髪の毛のセットが得意じゃない。上手くできないのであれば何もしない方が良いと判断した。
だが素直に言うのも恥ずかしいのではぐらかすことにする。
『私お兄さんがやってくれてるの隣で見てたからできるかも』
多分できない。昔からこんな事を言い出す咲夜姉は毎回散々な結果を残してきていた。
『いや、いいよ。セット無しでもこの髪型気に入ってるし』
朝の忙しい時間に咲夜に付き合って遅刻したくないが本音だ。それとなく傷付けないよう断った。
だが、こんな事で折れるなら、それはもう咲夜ではない。
『うーん。やっぱり私から見てセットした方がかっこいいと思うよ?お姉ちゃんに任せなさい』
大した結果を残さないと分かりきっているのに、こうなった咲夜を止める術を優は持っていない。
抵抗するだけ無駄と判断し、されるがままになることにした。
『こんな感じでどうかな?優ちゃん』
胸を張り満足そうに笑う咲夜姉。
でも鏡に映る自分を見ると、どこにそんな達成感があるのかさっぱり分からない。
『あのさ、左右で全然形が違うしワックスで持ち上げた筈なのに所々潰れてるのは何で?』
『お兄さんセットする時に程よく潰して程よく立ち上げるとか言ってたよね?』
言ってはいたが、実際に動かした髪の位置が違いすぎる。正解はハチ(側面の1番出っ張っている所)を潰し、トップを立ち上げナチュラルに流すだ。
前後左右どこから見ても菱形をイメージするのが手っ取り早いと教えてくれた。
改めて咲夜のセットした自分の頭を見る。
ハチを潰したはずのサイドは、刈り上げた少し上ハチの下が潰れている。立ち上げるはずのトップはナチュラルに何故かバックが少し立ち上がっている。
(どこから見ても真四角やないかーーーーい)
心の中で叫んでしまう。
『咲夜姉。ありがとう。もう時間だから学校行ってくるよ』
『あっ。もうそんな時間。お弁当用意してキッチンに置いてあるから持っていってね』
笑顔で送り出してくれる咲夜姉。
全ての不満を内に抑え、諦める事でギリギリ登校時間には間に合った。
もちろん髪は歩きながら適当に直し、小洒落た感じくらいにはなっただろう。めでたしめでたし。
『おはよう優』『おはよう優くん』
相変わらず登校すると柚葉と夏菜が先にいて挨拶をしてくれる。
『おはよう2人とも』
『ねー優、その髪型似合ってる。うん、かっこいいよ。夏菜もそー思うよね?』
ニヤニヤと褒めてくれる柚葉。
急に話を振られた夏菜は一瞬オドオドしてたがしっかりとこちらへ視線を向ける。
『うん、優くん凄いかっこいい。セット自分でしてきたの?』
『まーそんな感じだよ。慣れてないけどね』
もちろん咲夜に髪の毛で遊ばれたことは言わない。
『今度ヒロに教えてもらったら?自分の髪弄るの好きだし色々教えてくれるかもよ?』
『そーだな、聞いてみるよ』
たしかにヒロは髪型にこだわりが強そうだ。
逆に樹は短い髪をとりあえず立てておけのスタイルだから参考にならないだろう。
それから2人と少し雑談をしてたのだが、急に夏菜が俯きモジモジしている。
『夏菜。どうかした?体調でも悪いか?』
心配になり聞いてみたが首を左右にフリフリしている。
(仕草は可愛いけど、少し心配だな)
なんて考えた時だった。パッと顔を上げた夏菜に見つめられる。
『そのっ優くん。今日放課後カフェに行かない?あの、昨日言ってたやつでさ...その2人で』
後半になるに連れ、どんどんと声が小さくなり、2人での部分に至ってはもー辛うじて聞こえたレベルだった。
(そーだな。多分勇気を出して誘ってくれたんだし行こうかな)
(ブー、ブー、ブー、ブー)
夏菜に応えようとするが、スマホが着信を知らせていた。
『ごめん夏菜、電話来ちゃったから少し待っててくれるか?』
『うん。ごゆっくり』
笑顔で送り出してくれた夏菜だが相当緊張してたのだろう声が震えていた。
そんな事を考えながら移動し、通話画面を、タップする。
『もしもし、咲夜姉?どーしたの?』
『あ、優くん。ごめんね今日学校帰りすぐに帰って来れるかな?』
『何で?』
夏菜とカフェに行くつもりの優は、ちょっとやそっとの事では帰るつもりはない。
だがどちらが優先か推し量るためにもしっかりと確認する。
『お母さんにね優くんが友達出来たって伝えたらパーティーしたいみたいで』
(.......,俺は幼稚園児かよ)
流石にこの用件なら夏菜を優先し、帰った後で幸恵さんと咲夜姉と晩御飯を食べても大丈夫だろうと思い、伝えようとしたがそうも言ってられないようだ。
『17時半に赤坂に集合だから優くんの学校が終わったらそのまま行きたいんだよね』
『....赤坂?なんで?』
おかしい。普通家で済ますイベントだよな?
それが何で外出イベントになるんだ。
『お母さんお気に入りのレストランみたいで予約あんまり取れないのに今日取れたって喜んでたの』
『そっか.....うん.....わかったよ』
咲夜の行動力は幸恵さん似である。
つまり咲夜と同等に行動力のある女性であるということだ。
『なんか用事あったかな?』
『ううん、とりあえず大丈夫』
ここで友達とカフェに...なんて言えるはずもなくただひたすらに心の中で夏菜に謝るのだった。
『優くんおかえり、電話大丈夫だった?』
『うん。大丈夫だったよ』
心配してくれている夏菜。正直申し訳なさすぎて顔も見れない。
柚葉はどうやら今席を外しているようだ。
『それで、夏菜、ごめん。急に予定入っちゃってカフェに行くの明日でもいいか?』
『うん。私は大丈夫。優くんがゆっくりできる日に行ける方が嬉しいかな』
なんて心の優しい子だろう。可愛い上に気遣いもできる。クラスいや、学年を通して人気な理由もよく分かる。
『ありがとう。夏菜は優しいな』
『そんな事ないよっ』
それから2人で他愛もない話をし、樹とヒロ、どこかに行っていた柚葉が集まりわちゃわちゃと朝のホームルームまでの時間を過ごした。
『みんな俺今日急ぐからこれで、じゃーな』
教室で4人へ別れを告げ早足に下駄箱へ向かう。
ホームルームが少し押してしまい咲夜と待ち合わせの時間に少しギリギリになってしまいそうだ。
幸い駅までは自転車で5分とそんなに距離はない。
(なんか校門前凄い人だな)
下駄箱で靴に履き替え自転車を取りに行き、校門へ向かうと何故だが凄い人だかりが出来ている。
興味はあったがそれどころではないので、脇目もくれず通り抜けようとした時不意に名前を呼ばれた。
『優ちゃーーーん、遅かったからお迎えきたよ』
(........知らんぷりして逃げよう)
『コラッ優ちゃん無視するなーー泣くぞーー』
『咲夜姉本当に何してくれてんの?』
またも色んな生徒に見られてしまっている。
元々サプライズが好きなのは知っている。が、度がすぎてはいないか?怒りを必死に抑え、咲夜へと歩み寄る。
『おかえり、優ちゃん』
『...いや。まじで何してくれてんの?』
だめだ先ほども流された質問をもう一度してしまう。
意味がわからないのだから仕方ないか。
『どうせなら喜んで欲しくて、つい』
『いや、こんなに目立って喜べる要素ある?せめてもう少し学校から離れたところで待っててよ』
今もずっと沢山の視線を浴びている。
主に嫉妬。本当にタチが悪い。
『つまり、今度からは坂を下ったとこにある公園でなら待ってて良いってこと?』
『もうそれで良いから行こう』
咲夜へ伝え早足に歩き始める。
万が一夏菜に見られてしまったら申し訳ないからだ。おそらくまだ見られていない。
ある程度学校から離れたところで自分が早く歩きすぎていたと思い、咲夜を確認する。
すると...
(優ちゃんと下校、優ちゃんと下校...)
頬を朱に染め、なにやらブツブツと繰り返している。優に聞かせるつもりはないのだろう全く聞き取れない。
『咲夜姉?さっきも言ったけどこれからは学校まで迎えに来ないで』
『うん。分かってる。ここの公園で待つ方がいいんだもんね』
はい。それ全然分かっていません。
だが今これすらも否定するとめんどくさいので今後徐々に遠くしていくと心に決めた。
でも本音を言うと咲夜姉みたいな美女に出待ちされるのは嬉しい。限度はあるが。
(恥ずかし過ぎるから控えて欲しい。けど咲夜姉の嬉しそうな顔見るの好きなんだよな)
優自身この『好き』が家族に対してのモノなのか、異性としてのモノなのか分かっていない。
でも今はそれで良いんじゃないか。
だってこれから先も2人の共同生活はずっと続いて行くのだから。
『咲夜姉。幸恵さん待たせるの申し訳ないから早くいくよ』
『うん』
こうして2人で肩を並べ駅まで向かっていく。
『優ちゃん久しぶり。少し逞しくなったわね』
咲夜と電車に乗り待ち合わせ場所である赤坂駅へと到着すると改札前で幸恵さんが出迎えてくれる。
『お久しぶりです。全然実感ないです』
『ふふっ。そーゆーものよ』
嬉しそうに笑っている幸恵さん。
心から優のことを思ってくれているのが伝わってくる。
『咲夜との生活はどう?迷惑かけられてない?』
『お母さん?なんで私が迷惑かける前提なの?』
咲夜が幸恵の言い分に対して頬を膨らまし抗議している。行動がいちいち可愛くてつい笑ってしまう。
『そーですね。少し...でも僕の為に色々してくれてるので感謝してます』
『優ちゃん?少し何?ハッキリ言いなさい』
『やだ』
今度は優の発言に噛み付いてくる咲夜を見つめ頬を緩ませる幸恵さん。
『本当に2人は昔から仲が良いわよね。安心したわ』
嬉しそうに、まるで自分の息子の姉弟を見ている時のように優しく微笑んでくれる。
本当に幸恵と話をすると自分のことを大切に想ってくれているのが分かる。
今の優にとってはそれが何よりも嬉しかった。
『それじゃ行きましょうか』
幸恵さんの言葉に咲夜と頷き、予約してくれている店へと向かって歩き始めた。
『お料理は予め注文しているから飲み物だけ頼んでね。咲夜もお酒飲むなら頼みなさい』
『『はーい』』
幸恵が予約していたのは、駅から歩いて10分程にある老舗和食店だった。
小さな佇まいながらも歴史を感じる店構えに、綺麗な店内。完全予約制という事もあり、落ち着いた雰囲気のお店だった。
咲夜と2人してドリンクメニューを選び幸恵さんに伝えたところで注文してくれる。
『優ちゃん、本当に急になっちゃってごめんなさいね?』
『いえ、連れて来てくれてありがとうございます』
『ここのお料理どれも美味しいから是非一度連れて来たいと思ってたのよ。本当予約取れて良かったわ』
心底嬉しそうな幸恵さん。
咲夜も楽しそうに優の顔を覗き込む。
『お母さんから電話来た時『優ちゃんを連れて行けるわ~』って子供みたいに喜んでたのよ?』
『尚更嬉しいな』
幸恵さんは咲夜の言葉を受け顔を赤くし、親の恥ずかしい話を楽しそうに話す咲夜を軽く睨んでいたりする。
全く気に留めてない咲夜から優へと視線を移す幸恵はまたも嬉しそうに口を開く。
『優ちゃんさえ良ければ月に一度はこうして皆で食事に来たいと思ってるのよ』
『良いんですか?忙しいんじゃ...』
『子供ならしっかり甘えないとダメよ?私が優ちゃんと咲夜と会いたいだけなんだから』
こちらの気持ちを理解した上で安心できるように諭してくれる幸恵さん。
本当にこの人の元へ来れて良かった。
そう改めて実感し、目頭が熱くなるのを感じる。
『僕も幸恵さんと咲夜姉とご飯食べたい、です』
『良かったわ。ありがとう』
優の言葉を受け幸恵は咲夜へと視線を移す。
『咲夜も良いわよね?』
『なんか私だけ雑なのが嫌だけど、美味しいもの食べれるなら我慢する』
こうして月1で3人の食事会が行われることになった。
その後は優と咲夜の学校での事を幸恵さんが楽しそうに聞きながら、料理を楽しむのだった。
『『ご馳走様でした』』
頼んでいた料理をすべて平らげたところで、幸恵さんへと感謝を伝える
『2人ともお腹いっぱいになった?まあ咲夜は見ればわかるのだけれど』
『美味しすぎて食べすぎちゃった。明日からダイエットしなきゃ...』
優達の言葉を受け嬉しそうにしている幸恵さん。
咲夜は食べてる最中から『ダメってわかってるのに美味しすぎて...』と口にしながら端を伸ばしていて、今はポッコリ出たお腹をさすっている。
『本当に美味しかったです。予約全然取れないわけですね』
『そーなのよね...また予約取れたら来ましょうね。私お会計してくるから2人は外で待っててね』
『『はーい』』
幸恵さんがカバンを持ち席を立ったところで優も腰を浮かせた。
『優ちゃん...おんぶして~』
お酒を飲み頬が赤くなっている咲夜は両手を広げ、優が背を向けるのを待ち構えている。
『ほら、咲夜姉行くよ。来ないなら置いていくからね』
『そんなー待ってよ優ちゃーん』
咲夜へ背を向け歩き始めるとせかせかとついて来る。
(人前で無ければな...)
そんな事を考えてしまい一人顔を真っ赤にしてしまった。
『お見送りありがとうね。優ちゃん夏休みは咲夜と何日かウチにも帰って来てね』
『はい。お店も手伝いますよ』
『ふふっ、そうしてもらおうかな。2人とも気をつけて帰ってね?』
幸恵だけ違う電車なのでホームまで送り届け改札を通りホームへと向かう階段を降りていく幸恵に手を振り見送る。
『優ちゃん帰ろっか』
『電車で寝ないでよ?』
『寝ても優ちゃんが起こしてくれるから大丈夫』
『...知らないよ?』
幸恵を見送り、咲夜と他愛もない話をしながら優達の乗る電車の改札へと向かい歩き始める。
(今度は咲夜姉と2人でレストランとか行きたいな)
楽しそうに話す咲夜を横目にそんな事を考えてしまったことは口が裂けても言えない。
2人仲良くこれからの話をしながら帰路につくのだった。
_____________________________________________
最後まで読んでいただきありがとうございます。
良ければいいね、コメント、フォローお待ちしております。
合わせて感想やご意見なども募集しておりますので是非聞かせてください。
朝ごはんを食べ歯磨きをしていると、またも扉からひょっこりとコチラを覗いている咲夜姉が問いかけてきた。
『うん。切った後に美容師さんがやってくれたのは難しそうだし、どーやって良いか分からないからこのまま行くよ』
基本的に自分の身なりを気にしない優は髪の毛のセットが得意じゃない。上手くできないのであれば何もしない方が良いと判断した。
だが素直に言うのも恥ずかしいのではぐらかすことにする。
『私お兄さんがやってくれてるの隣で見てたからできるかも』
多分できない。昔からこんな事を言い出す咲夜姉は毎回散々な結果を残してきていた。
『いや、いいよ。セット無しでもこの髪型気に入ってるし』
朝の忙しい時間に咲夜に付き合って遅刻したくないが本音だ。それとなく傷付けないよう断った。
だが、こんな事で折れるなら、それはもう咲夜ではない。
『うーん。やっぱり私から見てセットした方がかっこいいと思うよ?お姉ちゃんに任せなさい』
大した結果を残さないと分かりきっているのに、こうなった咲夜を止める術を優は持っていない。
抵抗するだけ無駄と判断し、されるがままになることにした。
『こんな感じでどうかな?優ちゃん』
胸を張り満足そうに笑う咲夜姉。
でも鏡に映る自分を見ると、どこにそんな達成感があるのかさっぱり分からない。
『あのさ、左右で全然形が違うしワックスで持ち上げた筈なのに所々潰れてるのは何で?』
『お兄さんセットする時に程よく潰して程よく立ち上げるとか言ってたよね?』
言ってはいたが、実際に動かした髪の位置が違いすぎる。正解はハチ(側面の1番出っ張っている所)を潰し、トップを立ち上げナチュラルに流すだ。
前後左右どこから見ても菱形をイメージするのが手っ取り早いと教えてくれた。
改めて咲夜のセットした自分の頭を見る。
ハチを潰したはずのサイドは、刈り上げた少し上ハチの下が潰れている。立ち上げるはずのトップはナチュラルに何故かバックが少し立ち上がっている。
(どこから見ても真四角やないかーーーーい)
心の中で叫んでしまう。
『咲夜姉。ありがとう。もう時間だから学校行ってくるよ』
『あっ。もうそんな時間。お弁当用意してキッチンに置いてあるから持っていってね』
笑顔で送り出してくれる咲夜姉。
全ての不満を内に抑え、諦める事でギリギリ登校時間には間に合った。
もちろん髪は歩きながら適当に直し、小洒落た感じくらいにはなっただろう。めでたしめでたし。
『おはよう優』『おはよう優くん』
相変わらず登校すると柚葉と夏菜が先にいて挨拶をしてくれる。
『おはよう2人とも』
『ねー優、その髪型似合ってる。うん、かっこいいよ。夏菜もそー思うよね?』
ニヤニヤと褒めてくれる柚葉。
急に話を振られた夏菜は一瞬オドオドしてたがしっかりとこちらへ視線を向ける。
『うん、優くん凄いかっこいい。セット自分でしてきたの?』
『まーそんな感じだよ。慣れてないけどね』
もちろん咲夜に髪の毛で遊ばれたことは言わない。
『今度ヒロに教えてもらったら?自分の髪弄るの好きだし色々教えてくれるかもよ?』
『そーだな、聞いてみるよ』
たしかにヒロは髪型にこだわりが強そうだ。
逆に樹は短い髪をとりあえず立てておけのスタイルだから参考にならないだろう。
それから2人と少し雑談をしてたのだが、急に夏菜が俯きモジモジしている。
『夏菜。どうかした?体調でも悪いか?』
心配になり聞いてみたが首を左右にフリフリしている。
(仕草は可愛いけど、少し心配だな)
なんて考えた時だった。パッと顔を上げた夏菜に見つめられる。
『そのっ優くん。今日放課後カフェに行かない?あの、昨日言ってたやつでさ...その2人で』
後半になるに連れ、どんどんと声が小さくなり、2人での部分に至ってはもー辛うじて聞こえたレベルだった。
(そーだな。多分勇気を出して誘ってくれたんだし行こうかな)
(ブー、ブー、ブー、ブー)
夏菜に応えようとするが、スマホが着信を知らせていた。
『ごめん夏菜、電話来ちゃったから少し待っててくれるか?』
『うん。ごゆっくり』
笑顔で送り出してくれた夏菜だが相当緊張してたのだろう声が震えていた。
そんな事を考えながら移動し、通話画面を、タップする。
『もしもし、咲夜姉?どーしたの?』
『あ、優くん。ごめんね今日学校帰りすぐに帰って来れるかな?』
『何で?』
夏菜とカフェに行くつもりの優は、ちょっとやそっとの事では帰るつもりはない。
だがどちらが優先か推し量るためにもしっかりと確認する。
『お母さんにね優くんが友達出来たって伝えたらパーティーしたいみたいで』
(.......,俺は幼稚園児かよ)
流石にこの用件なら夏菜を優先し、帰った後で幸恵さんと咲夜姉と晩御飯を食べても大丈夫だろうと思い、伝えようとしたがそうも言ってられないようだ。
『17時半に赤坂に集合だから優くんの学校が終わったらそのまま行きたいんだよね』
『....赤坂?なんで?』
おかしい。普通家で済ますイベントだよな?
それが何で外出イベントになるんだ。
『お母さんお気に入りのレストランみたいで予約あんまり取れないのに今日取れたって喜んでたの』
『そっか.....うん.....わかったよ』
咲夜の行動力は幸恵さん似である。
つまり咲夜と同等に行動力のある女性であるということだ。
『なんか用事あったかな?』
『ううん、とりあえず大丈夫』
ここで友達とカフェに...なんて言えるはずもなくただひたすらに心の中で夏菜に謝るのだった。
『優くんおかえり、電話大丈夫だった?』
『うん。大丈夫だったよ』
心配してくれている夏菜。正直申し訳なさすぎて顔も見れない。
柚葉はどうやら今席を外しているようだ。
『それで、夏菜、ごめん。急に予定入っちゃってカフェに行くの明日でもいいか?』
『うん。私は大丈夫。優くんがゆっくりできる日に行ける方が嬉しいかな』
なんて心の優しい子だろう。可愛い上に気遣いもできる。クラスいや、学年を通して人気な理由もよく分かる。
『ありがとう。夏菜は優しいな』
『そんな事ないよっ』
それから2人で他愛もない話をし、樹とヒロ、どこかに行っていた柚葉が集まりわちゃわちゃと朝のホームルームまでの時間を過ごした。
『みんな俺今日急ぐからこれで、じゃーな』
教室で4人へ別れを告げ早足に下駄箱へ向かう。
ホームルームが少し押してしまい咲夜と待ち合わせの時間に少しギリギリになってしまいそうだ。
幸い駅までは自転車で5分とそんなに距離はない。
(なんか校門前凄い人だな)
下駄箱で靴に履き替え自転車を取りに行き、校門へ向かうと何故だが凄い人だかりが出来ている。
興味はあったがそれどころではないので、脇目もくれず通り抜けようとした時不意に名前を呼ばれた。
『優ちゃーーーん、遅かったからお迎えきたよ』
(........知らんぷりして逃げよう)
『コラッ優ちゃん無視するなーー泣くぞーー』
『咲夜姉本当に何してくれてんの?』
またも色んな生徒に見られてしまっている。
元々サプライズが好きなのは知っている。が、度がすぎてはいないか?怒りを必死に抑え、咲夜へと歩み寄る。
『おかえり、優ちゃん』
『...いや。まじで何してくれてんの?』
だめだ先ほども流された質問をもう一度してしまう。
意味がわからないのだから仕方ないか。
『どうせなら喜んで欲しくて、つい』
『いや、こんなに目立って喜べる要素ある?せめてもう少し学校から離れたところで待っててよ』
今もずっと沢山の視線を浴びている。
主に嫉妬。本当にタチが悪い。
『つまり、今度からは坂を下ったとこにある公園でなら待ってて良いってこと?』
『もうそれで良いから行こう』
咲夜へ伝え早足に歩き始める。
万が一夏菜に見られてしまったら申し訳ないからだ。おそらくまだ見られていない。
ある程度学校から離れたところで自分が早く歩きすぎていたと思い、咲夜を確認する。
すると...
(優ちゃんと下校、優ちゃんと下校...)
頬を朱に染め、なにやらブツブツと繰り返している。優に聞かせるつもりはないのだろう全く聞き取れない。
『咲夜姉?さっきも言ったけどこれからは学校まで迎えに来ないで』
『うん。分かってる。ここの公園で待つ方がいいんだもんね』
はい。それ全然分かっていません。
だが今これすらも否定するとめんどくさいので今後徐々に遠くしていくと心に決めた。
でも本音を言うと咲夜姉みたいな美女に出待ちされるのは嬉しい。限度はあるが。
(恥ずかし過ぎるから控えて欲しい。けど咲夜姉の嬉しそうな顔見るの好きなんだよな)
優自身この『好き』が家族に対してのモノなのか、異性としてのモノなのか分かっていない。
でも今はそれで良いんじゃないか。
だってこれから先も2人の共同生活はずっと続いて行くのだから。
『咲夜姉。幸恵さん待たせるの申し訳ないから早くいくよ』
『うん』
こうして2人で肩を並べ駅まで向かっていく。
『優ちゃん久しぶり。少し逞しくなったわね』
咲夜と電車に乗り待ち合わせ場所である赤坂駅へと到着すると改札前で幸恵さんが出迎えてくれる。
『お久しぶりです。全然実感ないです』
『ふふっ。そーゆーものよ』
嬉しそうに笑っている幸恵さん。
心から優のことを思ってくれているのが伝わってくる。
『咲夜との生活はどう?迷惑かけられてない?』
『お母さん?なんで私が迷惑かける前提なの?』
咲夜が幸恵の言い分に対して頬を膨らまし抗議している。行動がいちいち可愛くてつい笑ってしまう。
『そーですね。少し...でも僕の為に色々してくれてるので感謝してます』
『優ちゃん?少し何?ハッキリ言いなさい』
『やだ』
今度は優の発言に噛み付いてくる咲夜を見つめ頬を緩ませる幸恵さん。
『本当に2人は昔から仲が良いわよね。安心したわ』
嬉しそうに、まるで自分の息子の姉弟を見ている時のように優しく微笑んでくれる。
本当に幸恵と話をすると自分のことを大切に想ってくれているのが分かる。
今の優にとってはそれが何よりも嬉しかった。
『それじゃ行きましょうか』
幸恵さんの言葉に咲夜と頷き、予約してくれている店へと向かって歩き始めた。
『お料理は予め注文しているから飲み物だけ頼んでね。咲夜もお酒飲むなら頼みなさい』
『『はーい』』
幸恵が予約していたのは、駅から歩いて10分程にある老舗和食店だった。
小さな佇まいながらも歴史を感じる店構えに、綺麗な店内。完全予約制という事もあり、落ち着いた雰囲気のお店だった。
咲夜と2人してドリンクメニューを選び幸恵さんに伝えたところで注文してくれる。
『優ちゃん、本当に急になっちゃってごめんなさいね?』
『いえ、連れて来てくれてありがとうございます』
『ここのお料理どれも美味しいから是非一度連れて来たいと思ってたのよ。本当予約取れて良かったわ』
心底嬉しそうな幸恵さん。
咲夜も楽しそうに優の顔を覗き込む。
『お母さんから電話来た時『優ちゃんを連れて行けるわ~』って子供みたいに喜んでたのよ?』
『尚更嬉しいな』
幸恵さんは咲夜の言葉を受け顔を赤くし、親の恥ずかしい話を楽しそうに話す咲夜を軽く睨んでいたりする。
全く気に留めてない咲夜から優へと視線を移す幸恵はまたも嬉しそうに口を開く。
『優ちゃんさえ良ければ月に一度はこうして皆で食事に来たいと思ってるのよ』
『良いんですか?忙しいんじゃ...』
『子供ならしっかり甘えないとダメよ?私が優ちゃんと咲夜と会いたいだけなんだから』
こちらの気持ちを理解した上で安心できるように諭してくれる幸恵さん。
本当にこの人の元へ来れて良かった。
そう改めて実感し、目頭が熱くなるのを感じる。
『僕も幸恵さんと咲夜姉とご飯食べたい、です』
『良かったわ。ありがとう』
優の言葉を受け幸恵は咲夜へと視線を移す。
『咲夜も良いわよね?』
『なんか私だけ雑なのが嫌だけど、美味しいもの食べれるなら我慢する』
こうして月1で3人の食事会が行われることになった。
その後は優と咲夜の学校での事を幸恵さんが楽しそうに聞きながら、料理を楽しむのだった。
『『ご馳走様でした』』
頼んでいた料理をすべて平らげたところで、幸恵さんへと感謝を伝える
『2人ともお腹いっぱいになった?まあ咲夜は見ればわかるのだけれど』
『美味しすぎて食べすぎちゃった。明日からダイエットしなきゃ...』
優達の言葉を受け嬉しそうにしている幸恵さん。
咲夜は食べてる最中から『ダメってわかってるのに美味しすぎて...』と口にしながら端を伸ばしていて、今はポッコリ出たお腹をさすっている。
『本当に美味しかったです。予約全然取れないわけですね』
『そーなのよね...また予約取れたら来ましょうね。私お会計してくるから2人は外で待っててね』
『『はーい』』
幸恵さんがカバンを持ち席を立ったところで優も腰を浮かせた。
『優ちゃん...おんぶして~』
お酒を飲み頬が赤くなっている咲夜は両手を広げ、優が背を向けるのを待ち構えている。
『ほら、咲夜姉行くよ。来ないなら置いていくからね』
『そんなー待ってよ優ちゃーん』
咲夜へ背を向け歩き始めるとせかせかとついて来る。
(人前で無ければな...)
そんな事を考えてしまい一人顔を真っ赤にしてしまった。
『お見送りありがとうね。優ちゃん夏休みは咲夜と何日かウチにも帰って来てね』
『はい。お店も手伝いますよ』
『ふふっ、そうしてもらおうかな。2人とも気をつけて帰ってね?』
幸恵だけ違う電車なのでホームまで送り届け改札を通りホームへと向かう階段を降りていく幸恵に手を振り見送る。
『優ちゃん帰ろっか』
『電車で寝ないでよ?』
『寝ても優ちゃんが起こしてくれるから大丈夫』
『...知らないよ?』
幸恵を見送り、咲夜と他愛もない話をしながら優達の乗る電車の改札へと向かい歩き始める。
(今度は咲夜姉と2人でレストランとか行きたいな)
楽しそうに話す咲夜を横目にそんな事を考えてしまったことは口が裂けても言えない。
2人仲良くこれからの話をしながら帰路につくのだった。
_____________________________________________
最後まで読んでいただきありがとうございます。
良ければいいね、コメント、フォローお待ちしております。
合わせて感想やご意見なども募集しておりますので是非聞かせてください。
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「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
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