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2 ~アンビバレンスな放課後~
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「今日はいつも以上に騒がしいな」
思考の片隅でそう思いながら天崎来夢は窓の外を眺めていた。日を重ねる毎に風が湿度を無くし、木々が緑を無くしてく様は何度見てもなぜか覚えもない郷愁を抱いてしまう。このまま世界が朽ちていく。そんなファンタジー小説のプロローグのようなものを、ただの幻想と一蹴できない自分に対し少し苛立つ。俺に故郷なんてないんだ。そう自身に言い聞かせていると名前を呼ばれた。隣?確か転校生の話をしていたような。とりあえず返事をしておく。
またこれだ。さっきまでの喧騒が幻だったかのような空気感。俺に向けられる視線はいつも可哀想な人間を見る目。担任の三村は無理して周りと同じように接してくるが、瞳の奥にはクラスの連中と同じ色が宿っているのが分かる。生まれて間もなく孤独になった俺には…。
「天崎君。明日は新しい出会いがあるのよ」
ホームルームが終わり担任と転校生用の机と椅子を取りに行く時にいつも調子で三村が言った。
「そうですね」俺には関係ない。三村の方を見ずに答える。すると視界の端にいた彼女の姿が消えた。俺も立ち止まり振り返ると目が合った。
「明日来る子とは仲良くなってほしいな」普段とは違う優しい笑顔でそう告げる。入学から3年近くの間、他の教員達が腫れ物のように扱い、過去を知った生徒たちは分かりやすく避け続ける。そんな俺に対しても真摯に向き合ってくる。その性格からクラスメイトからも愛されてる。良い先生なんだろうな。
「そうですね」俺の方は表情を変えずにそう呟く。 教師の方に視線は送らない。いたたまれなくなるからだ。涙目になりながら次の言葉を探しているこの人に対し俺は何もできない。何も言えない。
その後、三村と無言のまま教室に戻り荷物を置くと彼女が再び口を開いた。
「天崎君はアーシャとアリュバートの神話、覚えてる?」
「今日話してたやつですよね」
「皆んなにはああ言われたけど、やっぱり私はこの話が好き」さっきと打って変わって今度は恋する乙女の表情で言い、窓際へ向かう。鍵を開け両手で透明な壁を開け放つ。昼間より冷たくなった秋風が教室に流れ込む。体が少し強張り、鳥肌が立つ。同じように少し震えている大人の乙女が星の見え始めた空を見上げる。
「運命の人って、いつどこでどんな風に出会うか分からないでしょ?それは身近な所で出会うかもしれないし、少し離れた地域や海外の人。もしくは違う星の、違う世界の人かもしれない」彼女の瞳の中に星が浮かんだ気がした。瞼を閉じ、少し胸を上下させる。振り返って再び開かれた彼女の瞳は大人の女性になっていた。
「数時間後に会うその子が天崎君の運命の人って可能性もある。天崎君が生涯を懸けて守る大切な人になるかもしれないの」ゆっくり微笑み、頭を撫でられる。
「だからもう少し、周りの人に目を向けてあげてくれないかな。きっとあなたの味方は沢山いるわよ」
「…!」何も言えなかったのは彼女の大きすぎる愛ゆえにだ。その心の変化に気づかれたか、彼女の瞳が大きくなり、また優しくなる。
「初めて天崎君の心が分かったかもしれない」その右手が頭の上に乗せられる。
「俺は独りだ。生まれた時から。だから誰の手も必要としない。俺は独りで生きていくんだ」その手をほどき背を向け呟く。言いながら反抗期の中学生みたいだなと自分を恥じる。
すると背中に暖かいものを感じた。そしてその温度は全身に広がる。満たされた時、俺は意図的に顔を伏せていた。
「はいはい。分かりました」駄々っ子をあやす母親のような音色が耳元で響く。この人は結婚できたら良いお母さんになれたのかもな。そう思い、不本意だが少しの間その温もりに浸った。俺は子供じゃない。その強がりを飲み込んで。
思考の片隅でそう思いながら天崎来夢は窓の外を眺めていた。日を重ねる毎に風が湿度を無くし、木々が緑を無くしてく様は何度見てもなぜか覚えもない郷愁を抱いてしまう。このまま世界が朽ちていく。そんなファンタジー小説のプロローグのようなものを、ただの幻想と一蹴できない自分に対し少し苛立つ。俺に故郷なんてないんだ。そう自身に言い聞かせていると名前を呼ばれた。隣?確か転校生の話をしていたような。とりあえず返事をしておく。
またこれだ。さっきまでの喧騒が幻だったかのような空気感。俺に向けられる視線はいつも可哀想な人間を見る目。担任の三村は無理して周りと同じように接してくるが、瞳の奥にはクラスの連中と同じ色が宿っているのが分かる。生まれて間もなく孤独になった俺には…。
「天崎君。明日は新しい出会いがあるのよ」
ホームルームが終わり担任と転校生用の机と椅子を取りに行く時にいつも調子で三村が言った。
「そうですね」俺には関係ない。三村の方を見ずに答える。すると視界の端にいた彼女の姿が消えた。俺も立ち止まり振り返ると目が合った。
「明日来る子とは仲良くなってほしいな」普段とは違う優しい笑顔でそう告げる。入学から3年近くの間、他の教員達が腫れ物のように扱い、過去を知った生徒たちは分かりやすく避け続ける。そんな俺に対しても真摯に向き合ってくる。その性格からクラスメイトからも愛されてる。良い先生なんだろうな。
「そうですね」俺の方は表情を変えずにそう呟く。 教師の方に視線は送らない。いたたまれなくなるからだ。涙目になりながら次の言葉を探しているこの人に対し俺は何もできない。何も言えない。
その後、三村と無言のまま教室に戻り荷物を置くと彼女が再び口を開いた。
「天崎君はアーシャとアリュバートの神話、覚えてる?」
「今日話してたやつですよね」
「皆んなにはああ言われたけど、やっぱり私はこの話が好き」さっきと打って変わって今度は恋する乙女の表情で言い、窓際へ向かう。鍵を開け両手で透明な壁を開け放つ。昼間より冷たくなった秋風が教室に流れ込む。体が少し強張り、鳥肌が立つ。同じように少し震えている大人の乙女が星の見え始めた空を見上げる。
「運命の人って、いつどこでどんな風に出会うか分からないでしょ?それは身近な所で出会うかもしれないし、少し離れた地域や海外の人。もしくは違う星の、違う世界の人かもしれない」彼女の瞳の中に星が浮かんだ気がした。瞼を閉じ、少し胸を上下させる。振り返って再び開かれた彼女の瞳は大人の女性になっていた。
「数時間後に会うその子が天崎君の運命の人って可能性もある。天崎君が生涯を懸けて守る大切な人になるかもしれないの」ゆっくり微笑み、頭を撫でられる。
「だからもう少し、周りの人に目を向けてあげてくれないかな。きっとあなたの味方は沢山いるわよ」
「…!」何も言えなかったのは彼女の大きすぎる愛ゆえにだ。その心の変化に気づかれたか、彼女の瞳が大きくなり、また優しくなる。
「初めて天崎君の心が分かったかもしれない」その右手が頭の上に乗せられる。
「俺は独りだ。生まれた時から。だから誰の手も必要としない。俺は独りで生きていくんだ」その手をほどき背を向け呟く。言いながら反抗期の中学生みたいだなと自分を恥じる。
すると背中に暖かいものを感じた。そしてその温度は全身に広がる。満たされた時、俺は意図的に顔を伏せていた。
「はいはい。分かりました」駄々っ子をあやす母親のような音色が耳元で響く。この人は結婚できたら良いお母さんになれたのかもな。そう思い、不本意だが少しの間その温もりに浸った。俺は子供じゃない。その強がりを飲み込んで。
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