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第五章 アンダーグラウンド

191.魔王と勇者のえとせとら15

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 宿に戻り必死の交渉の結果、お昼ご飯を朝食券で食べさせてもらえることになった。実際実施だったのはディアだけで、もともと食事券を受け取ってから調理を開始する方法であった為店的には朝だろうが昼だろうがさほど変わらないのだ。その為、言ってもらえれば普通に対応できる。
 尚、昼食はシチューとパンであった。



 ありがたく昼食をもらったディアは今度こそギルドへと足を運ぶ。オーディーンに書いてもらった依頼達成書を20枚ほど持って。
 常設依頼を依頼人を介して受注するケースが稀である為認識が無かったが、依頼達成書と呼ばれるものがあるらしい。それをギルドに持っていくことで正式に依頼達成を認めてもらえるのだとか。

 ギルドに到着したディアはその足で受付に足を運んだ。今日は受付にドミニクが立っていた。

「おぅ、おまえさんか。なかなかかわいい服着てるじゃねぇか。やっと田舎者から卒業だな。んで、今日は依頼を受けに来たのか?…………なんだその紙束は?」

 ディアは受付の机に紙束をドサっと置いた。それを見て不思議がるドミニクにディアが補足する。

「依頼達成。これならCランクなれる?」
「あー……ちょっと見せてみろ」

 ドミニクがディアから依頼達成書を受け取ると一枚一枚に目を通す。最初はしっかり読み感心したそぶりでディアを見る。しかし、2枚目から様子がおかしくなった。……内容が全く同じなのだ。次々と紙をめくり、そして途中から読むことを辞めた。

「…………なぁ、これ何したんだ?」
「アタシが作った魔道具を20個ほど道具屋に置いてもらった」
「そうか……いや、正直魔道具を作ることもできるのかと感心してたところだったんだが、なんで依頼達成書が20枚あるんだ?」
「依頼を20回こなしたからに決まってる」
「…………」
「これで依頼達成数が24。文句なしでCランクに昇格……」
「するわけないだろ」
「!!?」

 ドミニクがそう言うとディアは驚きの顔を浮かべる。心底信じられないといった表情であった。

「いや、そんな想定外みたいな顔されても。だってこれどう考えても一回の依頼だろう」
「違う。20回の依頼。魔道具を1つずつ20回納品した」
「そこがおかしいんだって」

 ドミニクは頭を悩ませる。確かにこの依頼には制限が書かれていなかった。だからディアの言っていることも正しいのだ。だからこそこのような抜け道が出来てしまっていた。これはギルドの意図したものではない為、到底受け入れられない。

(後で道具屋の主人に釘を刺しておかないと……あと依頼書も書き直しが必要だな)

「依頼書の条件も直しておかないとな……こんなのやったらガラクタを何個も置いて簡単に昇格出来ちまう」
「でも、それはギルドの不手際。今回は認められるべき」
「いや、前例を作るわけにはいかないんだよ」
「常に新しい事には前例などない」
「いや、もっともらしい事言っても、これ抜け道みたいなもんだから」
「抜け道があるなら利用するのが定石」
「いや、なんの定石だよ!不正なの!それ正当な方法じゃないから!」
「何故だ。力は既に示した。他に何が必要というのだ」
「……依頼達成数かな」
「ならば今回ので……」
「まてまてまて、このままじゃらちがあかん。ダメなものはダメだってば」

 ドミニクが譲らず20件の依頼の達成を認めてくれない。それを感じ取ってディアは少々怒り気味で食い下がる。

「話にならん。ギルドマスターを出せ。直談判だ」
「あいにくうちのギルマスは王都に行ってて不在だ。数ヶ月は帰って来んぞ」

 ドミニクでは話にならないとギルマスを呼ぶがこちらも空振り。ディアのストレスがピークに達し思わず悪態が出てしまう。

「くっ……こんな弱っちい小僧に足止めされるなど……」
「……あ?なんて言った?」
「あ」

 しまった。そう思ったのも束の間今度はドミニクがキレた。

「誰が弱っちい小僧だって?……いいだろう。そこまでいうんなら俺とタイマンして勝ってみろ!」
「……えっと、魔法使うけど?」
「上等だこの野郎!勝てたらCでもBでもあげてやらぁ!その代わり、俺が勝ったら2度と口答えするんじゃねぇ!」
「……二言は?」
「あるわけねぇだろ!明日だ!明日の午後訓練場が空いてる。そこでやるぞ!」

 突然決まった実質の昇格試験。ディアにとってはありがたかったがまさかの対戦になるとは思わなかった。そして、その騒動は周りにいた冒険者や職員を巻き込む。

「ちょ、ちょっと!サブマス!何してるんですか!?」
「うるさい!明日の午後にコイツと昇格試験だ。俺を弱っちいとかバカにしやがって……」
「サブマス!……あぁ……もうダメだ。言っても聞かないやつだこれ」

 こうしてディアの昇格試験が決まった。





 ディアが帰りに歩いているとドミニクのことを思い出しなんだがイライラしてきた。

(あんなんギルド側の不備じゃん。今回くらい認めろよな……ダメだ。イライラして頭が回らない。……何か甘いもの食べよ)

 そんなことを思ったディアは近くにあったクレープ屋に入った。

「いらっしゃいませー」

 元気な店員が声をかける。中を見るとおやつ時なのか女性客が多い。メニューを見ると生クリームとイチゴのようなメジャーなものからコーンマヨのような食事の代わりになるようなものまである。今のディアの気分はとにかく甘いものが食べたいといったものであった為、自分の気持ちに任せて注文をする。

「ご注文何にしますか?」
「イチゴカスタードと、イチゴ生クリーム、チョコと生クリームのと……あ、チョコバナナ。……お?このプリンアラモードってやつも追加で」
「……えっと、合計5点で間違いないですか?持ち帰りですかね?」
「全部ここで食べます」
「」

 店員が驚きの表情を浮かべるが声が出ていない。軽くフードファイト状態である。かたや店員もひとりで店を回している為同時に5つものクレープを、しかも全部バラバラの商品を作らなければならない。それがとても面倒であった。しかし、注文を受けた以上作らなければならない。店員は覚悟を決めてクレープを焼き始めるのであった。



「お待たせしました……お会計がプリンアラモードで銅貨8枚、その他がそれぞれ銅貨6枚なので合計銀貨3枚と銅貨2枚です……」
「ありがとう」

 ゆうに15分は待ったであろう。店員がひとりでせこせこ頑張っていた。焼いた生地を冷まし、各食材をカットして中身を入れて巻く。冷やすのと巻く作業で時間がかかり大変そうであった。
 銀貨4枚で支払いお釣りの銅貨8枚をもらう。商品を受け取ったディアは店の外にある席に腰掛けた。

(ちょっと頼みすぎたかな……)

 待っている間に冷静になり少し後悔するディア。しかし頼んでしまったものは仕方がない。ひとまずイチゴ生クリームのクレープをほうばる。

(っ!?あ、甘い!いちごがすごく甘い!生クリームは逆に控えめな甘さでイチゴを引き立ててる……!クレープの生地もモチモチしてて歯ごたえがある……!?なにこれ……クレープの生地まで優しい甘味が……!?)

 ディアは感動していた。普段魔族領では甘味などたまにしかお目にかかれない。……普段が威厳のあるイメージを映し出しているせいで接待も美味しい料理がメインである。甘味など出されない。だからこそ、ディアにとっては今この瞬間が一番幸せに感じていた。

「……何やってんだ?」

 近づいてきたヴァラロスのことに気づかないほど幸せを感じていた。

「ヴァルじゃない。どうしたん?」
「どうしたん?じゃないわ。ドミニクと決闘するって聞いたぞ?」
「決闘じゃないよ。昇格試験でちょっと戦うだけだって」
「普通はサブマスと戦ったりしないからな?」

 呆れ顔のヴァラロスはディアの言葉につっこむ。だが、すぐに思い詰めたような顔になり謝り出した。

「……ごめん。俺のせいだよな。俺が無理にCランクになろうなんて言うから。今からなら俺も一緒に謝るから。少しずつ依頼をこなしていこう」

 ヴァラロスが自分のせいだと思い、嫌なら戦わなくていいと言うのだ。しかし、ディアはそれを否定する。

「ヴァルは関係ない。上手くいけばBランクにもなれるかもだし、折角チャンスが出来たんだからやってみたい」

 思っていたよりも前向きな反応にヴァラロスは不思議に思う。かなりの口喧嘩になったと聞いた為怒っているものかと思ったのだ。
 ディアがやる気なら仕方がない。恐らくディアなら大丈夫だろう。そう思ったヴァラロスは助言をすることにした。

「ドミニクさんなんだけど……」








 翌日、準備を終えたディアが訓練場に現れる。そこにはドミニクと受付の女の人が立っていた。ドミニクは剣、斧、弓を担いでいた。斧と弓を地面に置くと剣のみを持って待ち構える。
 ヴァラロスに聞いていた通りだ。ドミニクはウェポンマスターの異名を持つらしく、状況に応じて使う武器を変えるのだとか。普段は途中で武器を変えるなんてことはしないようだが、今回は本気なのだろう。これでは武器を捨てての投擲も考えられる。その可能性が高まるだけで戦いにくさは抜群であった。
 周りを見ると観客だろうか冒険者の姿も見える。ヴァラロスもそこにいた。

「逃げ出さずによく来たな。……ボコボコにしてやる!」
「違うでしょ!昇格試験ですからね!お互い危険な行為はやめて下さい!」
「……アタシは問題ない。殺す気で来ないと負けるよ?」
「ほぅ……舐められたものだな。お望み通りやってやるよ!今から試験開始だ!」

 ドミニクの宣言により急に試験が開始するのであった。
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