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第五章 アンダーグラウンド

160.続く襲撃

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「……ねぇ、まだ着かないの?もう結構歩いたんだけど」

 エイシェル達がみんなで歩いている中不平不満の声があがる。

「しかもこの坂急じゃない?もう少しゆっくり歩いてくれたら嬉しいんだけど」
「…………」

 そしてその声は無視されていた。

「あ、そうだ!前に荷台で運んだじゃない?どこかで荷台借りれないかしら?」
「うるさいわね!誰のせいで坂を登ることになったと思ってるの!?」

 アリスがキレた。魔王改めディアが美味しいものを食べたいと言った為エイシェルが王都西側にある山で動物を狩り手料理を振る舞おうという話になった。
 その為一行は現在道中の坂を登っている。坂を登り始めてから少し歩いたところでディアが根を上げていたのだ。

「生後1日経ってない身体なんだから大目に見てよ。まだ慣れてないし気遣って欲しいわ」
「ならなんで山を登ろうなんて言ったのよ!」
「あー産まれたてでまだ耳がよく聞こえないわー」
「このっ………!そうね、質問責めにして喋れなくしてやろうかしら……?」
「鬼畜!やめてよ!せっかく手に入った身体なんだから!」
「ちゃんと聞こえてるじゃないの!つべこべ言わずに歩く!」
「……まぁ、ふたりとも元気そうだな」

言い争うアリスとディア。その様子をみたエイシェルはそう呟くのだった。

「ふたりともーおいてくよー?」
「あそこの公園の奥から山に入れるのよ。もうすぐ入口だから頑張って」

フルームとフラムがアリスとディルに声をかける。フラムが指を差した先に公園の入り口が見える。……とても小さく。

「まだあんなに遠いじゃないの!?もう足が動かないー」
「……わたしも心が折れそう」

 まだ文句を言うディア。小さく見える公園の入り口を見てまだ先は長いのだとアリスも遠い目をするのだった。








「はい!おんぶしてください!」

 公園の入り口に着くや否やディアが元気よく挙手をし、そう口にする。
 公園自体がかなり広いのにも関わらず公園を抜けた先に森があり、そこから続く山がまた大きいことがすぐに分かる。
 どう考えてもその山を登ることになる。それならば早めにギブアップの意思表明をするべきと考えたのだ。

「あなたねぇ……」
「おっと、そこから先なにを言いたいのか分かるわよ?恥とか思わないのか?でしょ?」
「い、いや、そこまで言うつもりはなかったけど……」
「つまり、似たニュアンスではあったということね。一応言っておくけど恥なんて1000年も前に捨てたし、身体も手に入って役目も終えたんだからあとは自由にしたいわけ。ふふふ……自由、あぁ、なんていい響きなのかしら!」

 ディアは清々しい顔を浮かべ両手を広げながらクルクル回る。今までのしがらみから解放され自由を謳歌している。そんな印象を受ける。
 そんなディアは繰り返す。

「だからおんぶして!」
「なんでそうなるのよ!」
「あー質問したー!私もう答えられないー」
「くっ……このっ……!」

「……楽しそうで何より」
「そだねー」
「……そうかしら?」

 少し先でその様子を見ていた3人は他人事のように呟く。その様子から3人ともディアを背負う気はさらさらない事が見てとれた。
 いつまでもモタモタしているディアとアリスをみかねてエイシェルとフルームが声を掛ける。

「おーい、日が暮れるぞー」
「本当においてっちゃうよー?」

 エイシェルとフルームが先に行こうとした瞬間ディアが何かに気づいた。

「っ!ち、ちょっと待って!」
「なに?誰もおんぶしてくれないわよ?」

 ディアの叫びにアリスが答える。アリスには置いていかれそうになって焦っているように見えたようだ。

「おんぶ違うわ!そうじゃなくて山から何かおかしな気配がする!」
「おかしな気配……?」
「あれを見て!」

 ディアの言葉にアリスが疑問を感じているとエイシェル組とアリス組の間にいたフラムが山を指差し叫ぶ。
 そこにはまるで雪崩のように木々が押し倒され何かが大量に迫っていた。

「なんだ……?」
「ち、ちょっと?こっちに来てないかな……?」

ドドドド……

 先程まで何もおかしなところは無かったはずだが急に現れたかのようであった。そして、その音はどんどん近づいて来る。

ドドドドドドドド…………

「これってまずくない?」
「急に現れたってことはまた召喚されたって考えたほうがいいわね」

 いつの間にか追いついていたアリスとディルが言う。北の森の件や街中に現れたドラゴンの件を考慮するとディルの言った事があながち間違いではないと思える。
 ただそれは、祖龍の攻撃が前回の襲撃で終わっていない事を意味していた。
 迫り来る何かに身構える5人。エイシェルは弓を構え、アリスとディルは両手に魔力を込める。フラムとフルームはそれぞれ魔法剣を準備した。その何かは不自然にもエイシェル達がいる公園に吸い込まれるように集まる。
 そして、その先頭が森を抜けて姿を現す。




ブヒィィィ!

「い、イノシシ!?」
「大きくない!?カスースでエイシェル達が狩ってきたのと変わんないんだけど!?」
「そんな事言ってる場合じゃないわよ!この数相手にしないと!」

 エイシェルとフルームが驚く。滅多に現れない大きさのイノシシが群れで現れたのだ。フラムに一喝されすぐ切り替えるエイシェルとフルーム。先に動いたのは魔力を込める事に集中していたアリスとディアであった。
 
「アースウォール!」
「エクスプロージョン!」
「ちょっと!?」

 アリスが魔物の群れの前に壁を作る。昔のアリスであれば簡単に突破されてたであろう土の壁だが今のアリスにとって一度動きを止めるくらいは出来る。
 ……そこへディアのアースウォールが重なれば完全に進路を塞ぐ事が出来るとアリスは考えていたのだが、何故かディアはエクスプロージョンを空に放った。

ドオオオオオオン!

 辺りが明るいにも関わらず空高く大きな花火が光る。その光も十分目立つが、何より音が凄まじかった。その音で目の前のイノシシの魔物の群れも怯んでいる。

「足止めはあなただけで十分でしょ?この騒ぎをギルドに教えた方がいいと思うんだけどどうかしら?」
「そ、そうかもしれないけど先に教えてくれてもいいじゃない!」
「そんな時間なかったじゃない。ほら、壁が壊れるわよ?」

 ディアが指摘するとちょうど後続のイノシシの魔物がぶつかってきたのか今にも壁が崩れそうになっている。

「わかってるわよ!」

 アリスはディアに悪態をつくと魔物を防いでいた壁に向き直る。その瞬間壁が壊れるのが目に入った。

シュシュシュッ!

 すかさずエイシェルが束ねた矢を放つ。一度に5本の矢を放ってるにも関わらず正確に5体の魔物の眉間を捉えていた。すかさず矢を構え直し連続で魔物を屠っていく。
 フルームは剣での応戦を諦め魔法で攻撃をする。フルームが放ったウォーターカッターは魔物を両断し突き進み、一回の攻撃で4、5体は倒している。
 フラムは得意の魔力刃を飛ばしエイシェル、フルームが対応できない範囲の魔物を薙ぎ倒していく。

「……これ、私たちいらないんじゃないの?」
「そういうわけにはいかないでしょ!」

 ディアの言葉にアリスが反論して、3人が攻撃している場所で押されそうな場所に目掛けてウィンドカッターを放つ。アリスも正直エイシェル、フラム、フルームの3人でもなんとかなりそうと心の中では思ってはいたが、何もしないわけにはいかないと思い魔法を放っていた。
 ディアも流石に悪いと思ったのか魔法で周囲に大量の氷の槍を生み出し、森の奥の方へ放っている。

 しばらくすると魔物の勢いが緩やかになりついには途絶えた。

「……ふう、やっと終わった」
「案外呆気なかったわね」

 フルームとフラムが安堵するとエイシェルが注意する。

「まだ気をつけた方がいい。オレの村に来たイノシシは腹に模様が書かれててそこから別の魔物が現れた。……今思えばあれは転移紋だったのか」

 忘れようがないエイシェルが村を出たきっかけとなる出来事である。それがあった為エイシェルはまだ油断できずにいた。
 しかし、その考えはすぐに否定される。

「いや、大丈夫よ?転移紋持ちっぽいのは森の奥の方でどうにかしたし、もうおかしな気配はしないわ」

 ディアはキッパリと言い切る。エイシェルが何故わかるんだと言わんばかりの顔をしていたのでディアはすぐ言葉を続けた。

「こう、なんにもない所だとちゃんと集中すればおかしな気配がわかるのよ。北の森の時もそう。あ、でも祖龍みたいな桁違いに大きい魔力が近くにあると流石にわからないわよ?」

 なんて事ないと言わんばかりにさらっと説明するディア。本来であれば分かるはずもない事だが、魔力操作に長けた元魔王のディアにとっては造作もない事であった。

「ただ、気になる事があるんだけど……」

 急に真剣な表情になるディア。その様子にただ事ではないと残りの4人はディアの言葉に耳を傾ける。








「……この魔物全部で何人前の食事が作れるのかしら?」
「「……は?」」

 拍子抜けとはこの事である。

「こんなにお肉がたくさんあるのだからすごくたくさん料理が作れると思うのよ」
「ちょっと待ってくれ。気になる事ってそんな事なのか?」
「……そ、そんな事ってなによ!もともと狩りに来たんだし、それくらい気になってもいいじゃない!」

 エイシェルが確認すると一拍置いて怒り出すディア。ディアは自分の口から出た言葉があまりにもしょうもない疑問であったことに気付き赤面する。無意識に出た疑問であったが誰の影響かは言うまでもない。

「……奇遇ね。わたしも同じ事を考えてたわ」
「確かに気になるよね」
「あなた達ね……」

 アリスとフルームもディアに同意しフラムが呆れる。そんな他愛もない話をしていた時にアリスとディアが急に焦り出した。

「あ!?こんなことしてる場合じゃない!」
「気付いたわね!そうよ!急いでやらないと!」

 2人は息を揃えて魔法を唱える。

「「ウォーターボール!」」

 イノシシの魔物が横たわる一角全てを飲み込む程の水が現れる。その範囲は森を一部巻き込む程であった。そして、生み出された水は徐々に熱を失い、やがて見事な程に透明な氷と化した。

「せっかくのお肉だもの」
「腐らせるわけにはいかないわ」

 ディアとアリスの見事な魔法により巨大な肉貯蔵庫が出来上がっていた。
 そんな中まるで示し合わせたかのように一番手前のイノシシだけは凍っていない。

「じゃあエイシェル!水の担当は任せて!」
「わたしにも出来ることあるかしら?」
「私も解体手伝うよー」

 ディア、アリス、フルームが元気よく言い、エイシェルとフラムは肩をすくめるもののその表情は何処となく楽しげであった。
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