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第四章 王都防衛戦

154.神の使い

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「じゃあいくよー。アクアソード!……だいたいここら辺だよね…………お?あったっぽい……けど真ん中にひとつだけっぽい!」

 フルームとフラムが竜玉の取り出し作業をしている。結論、正式な回答はアイトネから必要だが、サフはエイシェルの話に乗ったのだ。
 もちろん、エイシェルの発言に一悶着あった。サフが質問をするのは当然なのだが、あまりの発言に魔王も食いついてきたのだ。その場にサフもいた為、アリスはカバンを叩き魔王を注意する。そして、バレないようにアリスは口パクで魔王の発言をあたかもアリスがしたかのように振る舞ったのだった。会話の内容は理解できなかったものの、もし死んだ人が蘇るのであれば願ってもない事だと言ってサフは承認を得る為アイトネを呼びに行った。その時にどうせ素材を取るために解体しなければならないからと先に竜玉の回収の許可はとっていた。
 過去に竜玉を取り出した経験があることから、フルームとフラムが竜玉の取り出し作業を担当していた。
 ドラゴンの大きな体の胸に穴をあけて、竜玉を取り出すのだが、幼体の時はふたつあった竜玉が成体にはひとつしかなかった。

「……ん、出てきそうだね…………ってでか!?」

 ただ、その大きさは人の頭がふたつみっつ入りそうなほど大きい。取り出された竜玉は転がされアリスの前へ運ばれる。

「……大きいわね。ふふふ……どれだけ入るのかしら?楽しませてもらおうじゃないの!」

 取り出された竜玉を目の前にしたアリスはよくわからないテンションで両手を前に突き出し魔力を込め始めた。




 しばらくアリスが取り出した竜玉に魔力を貯めているとサフがアイトネを連れて戻ってくるのが見えた。後ろにはディルも見える。

「皆さん!……ほんとなんですか?」

「フルーム、どういうことなんだ?」

 サフに連れられて来たアイトネとディルが来て早々質問する。どうやらサフが簡単に説明したようだ。……ただ、エイシェルがサフに話した内容はただ死んだ人を生き返らせるとだけである。つまり、他の2人もそれだけしか説明されていない。来て早々に詳細を求めるのは当然である。

 「えっと……私もなにがなんだか……。でも、エイシェルとアリスができるって言うから信じて手伝ってる!」

 ディルに名指して質問されたフルームが代表して答える。だがフルーム自身も詳しい話は聞いていない為何も説明になっていない。竜玉を取り出すのを手伝ってくれと言われたからフラムと一緒に竜玉を取り出しているだけだ。何も言わずに手伝っているのはフラムとフルームがそれだけエイシェルを信頼しているからだろう。ちなみに、エイシェルも手伝おうとしたが勝手が分かる2人に任せてくれと言われ任せている。

「なにがなんだかって……ん?それが竜玉ですか?……なんだか赤く光っているように見えますが……」

 アイトネがフルームの説明にならない説明を聞いた後竜玉に目を奪われる。最初は青や緑のような色をしていたはずだが、急に赤くなって来たのだ。
 するとアリスが竜玉に手をかざしたまま顔だけみんなの方を向き不安そうな表情を浮かべる。

「これ……このまま魔力入れつづけて大丈夫かな……?心なしか熱くなってきた気がするんだけど」

 アリスが話している間にも竜玉はどんどん赤い光を強くする。気付けば熱気でだろうか、陽炎が見えるではないか。

「アリス!もうそれくらいにしておこう!なんだか危ない気がする」

 エイシェルはそう言うがアリスは一向に魔力を込めた姿勢のままでいる。

「アリス?」

「ち、違うの!もう魔力は入れてないんだけど、竜玉の中でどんどん魔力が溢れてるみたい!押さえつけてないと爆発しそうで!」

 アリスは焦っていた。赤くなったところで魔力を込めるのをやめたのだが、竜玉の中でどんどん魔力が生成されているように感じたのだ。そしてその魔力は竜玉を中から破壊し溢れ出しそうに思えた。簡単にいうとこのままでは爆発するように思ったのだ。

「ば、爆発!?一体どれだけ魔力こめたのよ?」

「……ひ、百人分くらい?」

「百って!?しかもそれってアリス基準でしょ!?」

「そうよ!普通の人基準だと大変な量になるわよ!?」

「だ、だって!いっぱい入るんだもん!どこまで入るか気になってどんどん入れたくなるでしょ!?……ってあつ!?あつい!!エイシェル!エイシェルはやく!はやーく!!」

 フラムがアリスにどれだけの魔力を込めたか確認するととんでもない量を入れ込んでいたようだ。フラムとフルームは驚き思わず非難するような口調になってしまうがアリスはそんな事を気にしている場合ではなかった。言い訳をしていたら竜玉がどんどん熱くなり赤く輝き始めたのだ。アリスは膨張する竜玉内の魔力を押さえつけるので精一杯となっており、竜玉の魔力を使い魔法を行使することもできずにいた。今逃げ出したら間違いなく爆発するだろう。竜玉の中でどんどん増幅する魔力が解き放たれたらどうなるか。想像もしたくない。この状況を打開できるのは言い出しっぺのエイシェルしかいない。アリスはそう考えひたすらエイシェルの名前を叫ぶのだった。

「わ、分かった!」

(たしか、あの時に言っていた名前は……)

 エイシェルは先程聞いた名前を思い浮かべ魔法として使うようイメージしてその名を叫ぶ。

「……アスクレピオス!」

 エイシェルがそう言うと急激に熱を発していた竜玉の光が徐々に失われ、代わりにエイシェルの体が光出す。そして、光の粒のようなものがまるで粉雪のようにエイシェルを起点として広がった。

『あたたかい……』

 魔王が呟く。身体を持たないはずの魔王だが、何故か身体中が暖かくなるような感覚に包まれる。それは1000年越しの感覚であり心すら温まるように感じた。

「これは…………」

「…………あ!ディル!ボサっとしてないで行かなきゃ!」

「え……?」

「え?っじゃないよ!アニスさんのとこ!」

「!……俺、行ってくる!」

 ディルは今見ている光景に見惚れていた。それがあまりにも幻想的で現実の世界から別の世界へ来てしまったのではないかと錯覚するほどであった。
 そんなディルであったが、フルームの声で我に帰る。エイシェルが魔法を使ったと言うことはアニスが生き返っている筈である。まだ本当かは分からない。それでも目の前の光景を見れば現実離れしたものだとわかる。期待するなという方が無理があるだろう。
 ディルはフルームに一言いうとすぐに走り去るのだった。

「あれ……あそこ見て!」

 アリスが叫ぶ。瓦礫側にあった黒い塊。もはや何かもわからなかった塊に光が集まる。するとその光は徐々に人の形を成しやがて光が弱まり静まる。すると、そこには人が横たわっていた。

「あれは……!?サフ!行きますよ!」

「お、おぅ。……これは生き返ったってことか?」

 アイトネとサフが横たわる人に駆け寄る。先にそばに寄ったアイトネがその身体を確認すると脈があり呼吸もしていた。流石に服は再生出来ないのか、再生された姿は裸であった為、アイトネが自身の上着をかける。

「信じられねぇ……こんなの神にでもならねぇと……いや、神に力を与えられた使いってとこか……?」

 サフも再生された姿を見て驚く。その力は間違いなく人の域を超えているだろう。それこそ神そのものか神から力を貰ったものくらいである。
 サフが物思いに耽っているとアイトネが大声で指示を出す。

「サフ!体にかけられる大きさの布を大量に用意してください!」

「……なるほど、ついでにありったけの服も集めてくらぁ。生き返ったところで素っ裸は可哀想だしな」

「私も行きます!……みなさん。ありがとうございます。この力について聞きたいのは山々ですが、今は生き返った方々の尊厳も守りたいので失礼します!……また後でお話聞かせてください!」

 そう言うとアイトネとサフは冒険者ギルドへ走り去っていくのだった。
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