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第四章 王都防衛戦

147.総力戦2

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 フラムから助けを求める声が上がりフルームとディルは注意を引く為にドラゴンの前足を攻撃し始める。
 ディルも先程ブレスを斬ったことで剣に魔力を込める感覚を完全に覚えた。さらにはフルームから借りた竜玉から魔力を得られる為先程までとは比べ物にならない程魔力が溢れている。……というのも例の変換効率の話である。ただ、ディルの魔力変換効率はもともと高いようで先程の倍とまでとはいかないだろう。それでも十分すぎる効果を発揮している。

グォォォオオオオオオオオオオ!?

 ディルが剣で斬りつけると面白いくらい簡単に刃が通る。その為ドラゴンの太い脚に深い傷を付けることができた。

「やるねぇ。私も頑張らないとかな!」

 フルームが対抗して同じ脚に斬りかかる。するとディル同様にドラゴンの脚に大きな傷を負わすことが出来た。

グァァァァアアアアアアアアアアア!?

 あまりの痛みにドラゴンは足を庇うように持ち上げる。そしてそのまま爪でふたりを薙ぎ払おうと横殴りにする。
 しかし、ふたりはドラゴンが足を持ち上げた瞬間に距離をとっていた為攻撃が届くことはなかった。
 今度は無数のウィンドカッターをふたりに飛ばすがフルームもディルも剣を使って攻撃をいなす。
 ドラゴンは魔法が効かないとわかると今度は2人に向かって口を大きく開けブレスを吐こうと構える。

「まずい!?」

「大丈夫!」

 その隙をついてフラムがまた遠くから青白い魔力の刃を飛ばした。フルームとディルを攻撃しようとしていたドラゴンは不安定ながらもフラムの攻撃を相殺するべくフラムに向かってブレスを吐くのだった。

 ……これならいける!そう確信するディル。フラムが攻撃してくれるおかげでディルはドラゴンに注意を向けられる事なく攻撃することが出来る。それは先ほどまでとは大きく違い、こんなにも楽なのかと思うほどであった。
 しかし、物事はそう簡単ではないようだ。

「……まずいね。お姉ちゃんバテてきてる」

 ディルとフルームが自由に動けている分フラムが狙われるのだ。その為フラムの魔力消費が大きい。この調子で戦っていればそのうち倒せるだろうが、フラムの魔力が切れるのも時間の問題だった。

「お姉ちゃん!まだいける?」

「ちょっとキツいわね……もう半分切ってるからそんなにもたないわよ」

 もう半分切っている。それだけでディルも理解できた。きっと先程からバンバン魔力で刃を伸ばしている事からフラムも竜玉を持っており、その魔力が半分を切ったのだ。そうなると悠長にしていられない。もしフラムの魔力が切れたらドラゴンのブレスを防ぐことができなくなりフラムが危ない。さらにはそのブレスが今度は自分達に向くのだ。そうなるといくらなんでもどうしょうもない。
 このままではまずい。どうにかして決定打を与える必要があった。

 そんな中事態は好転する。

「お前たち!すまない待たせた!」

「生き残った人の避難誘導は終わりました。あとはコイツを叩くだけです!」

 フェルスとアイトネが戦闘に加わるというのだ。フェルスとアイトネの剣には魔力が付与されているように見える。

「さっきマーレに魔力付与して貰ったから戦力になる筈だ」

「彼には無理して魔力付与して貰ったので避難してもらってます」

 どうやらマーレが休んで回復した分の生命力を使って魔力付与を行ったようだ。
 騎士団長と冒険者ギルドのギルド
マスターが加わる。こんなに頼もしいことはないと思った矢先、さらに声が上がった。

「俺も忘れてもらっちゃ困るぜ。……一回ぽっきり折れたが今度は折れねぇ!知ってるか?骨折は治るたびに丈夫になるんだぜ!」

「……ジレトニー。噂には聞きますがそれ嘘ですからね?」

「嘘なのかよ!?」

 ギルドサブマスターのジレトニーまで加わる。先程までの理不尽な状況に一回心が折れたもののアイトネと合流でき、避難誘導をしているうちに復活したようだ。その証拠にアイトネといつも通りの他愛もないやり取りが出来ている。

「……みんな揃ったようだな。目標はヤツの首だ!前足を攻撃して頭を下げさせろ!」

 フェルスの指示で全員が動く。フルームとディルは先程と同じように攻撃しては反撃をかわす。
 反対の足をフェルス、アイトネ、ジレトニーが担当する。主にアイトネとジレトニーが攻撃し、ドラゴンからの反撃をフェルスがはじく。打ち合わせしたわけでもないのに3人は見事な連携を見せるのだった。
 当然ドラゴンとしても黙ってやられるわけにはいかない。再び地面に向かってブレスを吐こうと構えるがフラムが魔力の刃で首を狙う為フラムに向かってブレスを吐くしかない。
 そうこうしていると両前足に傷を負ったドラゴンは痛みで耐えられず膝を折る。すると自然と首が降りてくる。
 ……チャンスだ。足元にいる5人は一斉に首に斬りかかった。しかし、誰もドラゴンの首を獲ることはできない。……ドラゴンが空に飛び上がったからだ。

「あの巨体で飛べるのかよ!?」

「魔法……で、でしょうか?」

 ジレトニーとアイトネが驚きの声をあげる。飛ばれてしまうと今の戦力ではどうしようもない。
 ドラゴンは真下に向けて口を開く。このままブレスを吐くつもりだ。

「させない!」

 少し離れたところから様子を見ていたフラムがドラゴンを叩き落とそうと魔力の剣を振るう。
 すると、それを待っていたかのようにフラムの方へブレスを吐き、徐々にフラムの方へ近づいてくる。

「お姉ちゃん!?」

「ウソでしょ!?ただでさえ魔力が少ないのに……!?」

 フラムに近づいたドラゴンは射程圏内に入ったのか魔法を使いウィンドカッターでフラムを襲う。

「ウォーターカッター!」

 咄嗟にドラゴンを追いかけたフルームがフラムに迫る風の刃を弾く。それでも次々に風の刃が現れフルームも限界を迎えていた。

「ウォーターカッター!……ぅ……生命力が……ウォーターカッター!」

 フルームが魔法を使うと意識が朦朧としてきた。生命力が枯渇気味なのだ。それでもフラムに降りかかる風の刃を気力で防ごうとする。

「フルーム!?だめ!それ以上は死んじゃう!」

「だって……!お姉ちゃんが……!!ウォーターかった……ぁ……?」

「フルーム!!?」

 フルームが危惧した通りフラムの竜玉も魔力が尽きておりフラムの生命力から変換していた。フルームが最後の力を振り絞って魔法を使おうとしたが、魔法は発動せず気絶してしまった。フルームの心配をしたがフラム自身もギリギリまで生命力が削れている。
 それでもドラゴンは容赦なくフラムに近づきブレスを吐き続けている。

「くっ……もう……だめかも……」

 ドラゴンは余裕の表情を見せブレスに集中する。魔法を使うまでもなく焼き殺そうとでもいうのだろう。間違いなく生態系の頂点に位置する生物。王者の余裕が感じられた。

 ……驕れるものは久しからず。その慢心が仇となる。

「いっけぇぇぇえええええええええ!!!」

 どこからともなく声が聞こえる。その瞬間ドラゴンの胴体を下から貫く光があった。

グガアアアアアアアアアアアア!!??

 ドラゴンが苦痛に歪ませた顔を向けるとそこにはディルが立っていた。竜玉に残った魔力の全てと自分の生命力をギリギリまで使って魔力をかき集めフラムの魔法剣を見様見真似で再現して見せたのだ。その剣を振るうのではなく突くことで光のような速度でドラゴンを貫く。しかし、ディルは限界まで生命力を使った為その場に崩れるように倒れる。
 慌てて駆け寄るフェルス、アイトネ、ジレトニーだったがこれ以上の打ち手はなかった。
 貫かれたドラゴンは怒り狂いディルたちに向かって大きく口を開ける。ブレスが来る。誰もがそう思った。フラムは魔力が切れて注意をひけない。このままではディル達がブレスの餌食になってしまう。
 なんの打ち手もない中ただその時を待つ。その一瞬がとてつもなく長く感じる。

「……く……例え死んだとしても!」

フラムが生命力を振り絞り魔力変換しようとしたその時、声が聞こえた。

「大丈夫だ」

「え……?」

 馴染みのある声が聞こえる。その声の主はいつの間にか隣に立っていた。

「アースウォール!!」

 ドラゴンがブレスを吐いた瞬間にディル達の目の前の地面から土の壁が生える。その壁に遮られてブレスがディル達に届くことはなかった。
 ドラゴンは邪魔をした相手を睨む。そこにはいつの間にかふたりの冒険者が現れていた。

「アリス、もう大丈夫か?」

「えぇ。……遅くなってごめんなさい。あとは任せて!」

 そこにはエイシェルとアリスの姿があった。
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