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第三章 王都への旅

95.ギルドマスター

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セラスに呼び出されてギルドマスターの部屋に連れてこられたアンディ。
要件はわかっている。例の通信機のことだろう。
もはや言い逃れはできないと腹を括り、部屋の椅子に腰掛けた。
すると、セラスがふと意外な言葉をこぼした。


「……この部屋は懐かしいですか?アンディさんがその気なら戻ってきてもらってもいいんですよ?」

「バカ言うな。お前さんには色々迷惑をかけちまったんだ。いまさらギルドマスターに戻れねぇよ。それに、実力もお前さんの方があるだろうし、何より今はギルドの運営が安定しているだろう?俺よりお前さんの方がギルドのためになるってもんだ」


セラスは神妙な面持ちでアンディに問いかける。セラスとしてもこの町で人気を集めるアンディがギルドマスターに戻った方がなにかとギルドのためになるのではないかと考えたのだ。
ギルドの繁栄のためなら自身の地位ですら差し出すほどに、セラスはギルドの事を考えているのである。

しかし、アンディは断った。
アンディもギルドの事を大事にしており安定している今のままが良いと考えたのだ。
アンディがギルドマスターだった時代は依頼をひたすらにこなす事で運用していたため多くの人手が必要であり、経営に余裕はなかった。しかし、セラスがギルドマスターになってからは素材の買取カウンターができ、ギルドの運営が安定していたのである。その為、アンディとしてはギルドマスターはそのままセラスに任せるべきだと考えた。


「そうですか……。なんだか、懐かしいですね。魔の森で血だらけになっていたあなたを見つけた時はもう助からないと思いましたよ。……あの森に巣食っていた魔物。討伐されましたよ」

「……あぁ、知ってるよ。まさかあの娘のパーティが討伐するとはね。……リベンジする機会が無くなっちまった」

「リベンジしたかったんですか?」

「そりゃあ……いや、どうだろうな。時々夢に出てくるんだ。……あの調査で俺だけ生き残ったのは俺に仲間の仇を討てと言っているのだと無理矢理思い込んできたが、きっと、単純にずっと怯えていただけだったのかもしれん。またいつか現れるかもしれない。もっと多くの犠牲が出るかもしれない。そんな不安から少しでも強くなろうとしていたのかもしれんな」

「それで現役の冒険者に復帰したんですね……完治までに2年ほどかかりましたが」

「仕方ないだろ。お前さんがもう少し見つけるのが遅かったら俺は命が無かったって言われていたしな。そりゃ治るまでに時間もかかるわい。……そもそも、俺は助からないと思ったからお前さんにギルドを任せることに決めたんだ」

「その時たまたま目の前にいたからってギルドマスターに任命しないで下さい。硬化変異種の調査隊が戻らないって言うから捜索に出ただけなのに……」

「いや、あの頃はお前さんがこの町に来たばかりだったが実力がある事はちゃんと分かっていたぞ?俺はこれでも人を見る目はあるんだ。その結果が今の安定したギルドだろう?俺の判断は間違っていなかったさ」

「また調子のいい事を言って……」


何故か自信満々に言い放つアンディ。
そしてなんだかんだ言いつつもまんざらでもないセラスがいた。
普段どんなに頑張ってもこのように誰かに評価してもらうなんてことは無い。
面と向かって言われたのは初めてかも知れない。
頑張りを認められ悪い気はしなかった。


「……それで、なんなんです?通信機って?」


しかし、本題に入ると先ほどまでの和やかな空気は一変した。


「あー……その、なんだ……すまん!」

「すまん!じゃないですよ。私が今まで他ギルドとの連絡でどれだけ困ったことか……月一回の船ですら出発が不定期だし、どんなに急いでも返事に1ヶ月かかるし…………大体おかしいと思ってたんですよ。王都のギルドからあった連絡事項が同じタイミングで他のギルドからも記載あったんです。……あそこは陸続きだから早馬でも出したのかと思ってましたが、そういうことだったんですか?なんで今まで黙ってたんですか?通信機って今どこにあるんですか?」

「ち、ちょっと落ち着け」

「落ち着けですって!?あなたからギルドマスターを引き継いでから何年だったと思ってるんですか!?今まで不便で仕方なかったのに、そんな便利なものがあるならどこかで教えなさいよ!?」

「あ……ぅ……すみませんでした……」


アンディはこうなることが分かっていた為、今まで最低限の会話としなるべく関わりを減らそうとしていたのだった。
いつかはバレるのでどこかで同じことにはなっていただろう。
だが、バレるまでにかなりの時間を要してしまった。
その事でセラスの怒りがさらに燃え上がったのはいうまでもない。


「…………それで、どこにあるんですか?」

「ギルドの倉庫の奥底にあります……」

「チッ、倉庫か」

「舌打ち!?」

「あそこはフラターに任せてるからどうなってるか分からないのよ。アンディさん、フラターと一緒に明日までに通信機を使えるようにしておいて下さいね」

「いや、見つけるのはいいが、古いから使えるようにできるかどうかは……」

「"明日までに使えるように"しておいて下さいね?」

「……善処します」


こうして何故か巻き込まれたフラターも含め、アンディの通信機復旧作業が始まるのだった。






「…….そうだ、忘れてたわ」

「……あの、まだなにか……?」

「あの子のファンクラブ作ったんでしょ?私にも情報流しなさいよね。私だってあの子達に目をつけてるんだから。……絶対に教えなさいよ?」


こういてまた1人とファンクラブの会員が増えるのだった。
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