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第三章 王都への旅

84.朝カレー

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騎士団の宿に泊まった4人は前日までの疲れからかすぐに眠りにつけた。
その為、朝起きた時にはすっかり身体の疲れが取れていたのだった。


「おはよう」

「おはようエイシェル」

「エイシェルおはよー」

「……えっと、アリスは?まさかまだ寝てるなんてことは……」


先にエントランスに来ていたエイシェルが遅れてやってきたフラムとフルームに声をかける。
ただ、そこにはアリスの姿がなかった。
女性陣は部屋が近い方がいいだろうと3人隣あった部屋が割与えられていたのだ。
そのため、エイシェルは3人いっしょに来ると思っていたのだ。


「私達がドアをノックした時に先に行っててって声が聞こえたから起きてはいると思うけど」

「二度寝してたらわからないよね」

「……ちょっと様子見てくるか?あそこの丁字路を左に進んだ一番奥の部屋だよな?」

「そうよ。行くなら私達も行くわ」


先に行っててと言いながらも二度寝をするなんて事はないと思うが念のため様子を見に行こうと3人は部屋に向かうことにした。


「心配とか言いつつも、実はアリスの寝顔が見たいんじゃないのー?」

「な、なんでそうなるんだ!?おれはそういうつもりじゃ、遅れないようにとおもっただけで……」

「ほんとかなー?実は二度寝してるの期待してない?」

「してるわけないだろ?だいたい、二度寝してたらデコピンでも……」

エイシェルがそう言い部屋までの丁字路を曲がろうとしたところで何かと激しくぶつかった。


「アガッ!?」

「いッ!?」


フラムとフルームは倒れ込む2人を眺める。

エイシェルとアリスが2人ともおでことあごをおさえてジタバタしていた。


「……デコピンどころかデコアゴだったね」

「フルーム、もう何言ってるのかよく分からないわよ……」







「ひ、ひーぅ……」

エイシェルが舌を噛んだようであまりの痛さにろれつが回らないアリスだったが、しばらくのたうちまわった後になんとか回復魔法を発動させた。
一緒に転がっていたエイシェルも回復の効果が現れたのか落ち着きを取り戻していた。


「いたかったぁ……。あ、みんな遅れてごめん」

「びっくりした……遅れたのはいいんだが……走らなくてもいいのに」

「みんなが待ってると思ったら急がなきゃって思って……みんなはなんでこっちに?」

「エイシェルがアリスの寝顔を見に」

「え?」


フルームがそう話すとアリスがきょとんとした顔でいる。
一方でエイシェルはにこやかな表情で静かに話す。


「……フルーム?後で話しがある」

「すいませんでした!冗談です!」


フルームは本能で あ、これマジなやつだ と察し、潔く謝った。

なんのこと?と不思議そうなアリスを見てフラムが解説を入れる。


「……このふたりのことは置いといて、アリスがまだ来なかったからみんなで迎えにきただけよ。フルームが二度寝したんじゃないかって言ってね。それでフルームがエイシェルをからかってたってわけ」

「なるほどね……」


普段のアリスなら便乗してエイシェルをいじりにいくところだが、今日はそんな気分ではなかった。
フラムがアリスに説明したのを見てエイシェルはアリスまでからかってくるんじゃないかとそわそわしていたが杞憂に終わる。


(なるほど……二度寝したらまた夢を見れるかもしれないと……。時間のある朝は試してみようかしら)


ダメな方に思考が傾きつつあるアリスであった。


「おや、もう出発ですか?」


丁字路で話しているとフェルスが現れた。
各部屋からエントランスへ行く道のど真ん中で話してれば誰かしらに会うのは当然だ。
それに、フェルス達団員達も今日で宿を引き払って船に乗るため、同じような時間になるのだ。
ただ、アリス達は念の為少し早く出ることにしていた為出発は別だが。


「あ、パパおはよー」

「「おはようございます」」

「うん、外で朝ごはん食べようと思って。そのまま船には向かうからまた後でね」

「うむ。では、みなさんまた後ほど」


そう言ってフェルスはどこかへ歩いて行った。
宿をまるまる借りていたので余計に引き払う時の手続きがあるのかもしれない。

そんなことを思い4人は宿を出ることにした。


「さて、今日の朝ごはんはどこにしようか?」

「昨日は部屋バラバラに泊まったから話し合えなかったものね」

「量もたくさんあるのがいいなー。あ、でも船の中の料理も気になるから食べ過ぎには注意だね」


朝ごはんの相談をする女性陣3人。最近は同じ部屋に泊まることが多かった為、前日の夜には話し合っていたのだ。
久しぶりにそれぞれバラバラの部屋で過ごした為、朝は外で食べるくらいしか話せてなかった。
……尚、エイシェルはこの前の焼肉の件からまだ食事に関しての発言権がなかった。
しかし、今日のエイシェルはどうしても食べたいものがあり、黙ってはいられなかったのだ。


「……なぁみんな。行ってみたい店があるんだが……いいか?」

「わたしはいいけど……この前みたいなのはダメだよ?」

「流石に朝から焼肉は厳しいわ……」

「私はいけるけどなー」

「分かってるって。……そしてフラムはおれにどんなイメージを持っているんだ……?前に来た時に気になってて、せっかくなら行ってみたいなと思ったんだ。海鮮カレーなんだが……」


エイシェルは、村ではオージンに食べさせてもらうまでカレーを食べたことがなかったが街に来てからは数回夕飯にカレーを食べていた。
アリスに負担をかけないように出来るだけ辛くないものを選んでいたが、中辛でも少し物足りないのだ。スパイスの量が減るのか風味が若干足りない気がする。
辛口を食べてみたいと思っても、アリスに影響があると悪いので我慢していたのだ。
目の前にアリスもいるし、あわよくば辛口に挑戦してみたいと思っていた。
また、それだけではなく、今回は具材に海鮮を使っているのだ。以前食べたお寿司もとても新鮮で美味しかった事から海鮮カレーも気になっていた。

そう思い提案するとアリスが口を挟んだ。


「カレー……まさかエイシェル……激辛なんて食べないわよね……?」


アリスは確認した。前の事件を思い出し確認せずにはいられなかったのだ。
もともと辛いものが得意ではない為、もうあのような事にはなりたくなかった。


「食べない食べない。あれは道具屋のおっちゃんに騙されたんだ。普通の辛さのを食べるから」

「……あまくちがいい」

「せめて中辛を食べさせてくれ」


エイシェルは妥協せざるを得なかった。
エイシェルが心の中で泣いているとフラムとフルームもエイシェルの案に反応する。


「ちょっと朝からは重いかもしれないけど……朝にカレーを食べると頭が冴えるとかも聞くし行ってみましょうか」

「いいねー!行こう行こう!」


こうして4人は朝からカレーを食べることにしたのだ。






店に入りメニューを見ると甘口なんてものはなかった。
標準の辛さに追加料金でスパイスを足せるようで辛くすることしかできなかったのだ。
ちなみに辛さは5段階まで上げることができる。


「うぅ……あまくちがない……。わたしは普通のにするわ」

「辛さを追加できるのか……おれは……」

「普通ので」

「……はい」

「私は辛さを最高まで上げてみようかな」

「フルーム……なんで一番辛くするのよ……後でどうなっても知らないからね?私は1段階にしてみるわ」


それぞれ食べるものが決まり注文すると、すぐにカレーが運ばれてきた。


「はやい!そして美味しそう!!」

「とても美味しそうね」

「辛くありませんように……」

「匂いがいいな……早速いただきます」


4人はそれぞれ運ばれてきたカレーを口に運んだ。


「からッ!!?でも、美味しい!……やっぱり辛い!!痛い!?」

「言わんこっちゃない……。私は1段階上げたくらいがちょうどいいわ。それにしても美味しいわね。普通のカレーと全然違う」

「これは……どうやって作ってるんだろう……多分なにか出汁を取ったりしているんだろうけど……具材もエビ、イカ、ホタテだからすごく相性がいい」


エイシェルは分析しながら食べている。
エイシェルの分析通りカレーには昆布と煮干しで出汁を取っていたのだ。
その出汁にスパイスを加えて煮込み、別の鍋で焼いたエビやイカ、ホタテを投入して完成する。
焼いた時の油ですら入れている為、とてもコクのあるルーとなっていた。


「……私にとってはちょっと辛いけど、それでも止まらないくらいにとても美味しいわね……!」


アリスにとって辛い部類であったが、それでも食べられないほどではない。むしろ多少辛くても食べたいと思える程には美味しかった。
その為、アリスのスプーンは止まることなくカレーを口に運ぶ。


しばらくすると辛さのせいかアリスの目から自然と涙が溢れてきた。
本当は辛さで鼻水も出ていたのだが、他の人に絶対に見られたくないからと、こまめに拭くように注意していた。
しかし、鼻に気を取られてしまい、涙を拭う事を忘れていたのだ。


「……アリス?泣くほど辛かったのか……?」

「え?あ、ちょっと辛くて涙が……でも大丈夫。これ、とっても美味しい……」

「この調子だと向こうでも泣食姫って呼ばれるかもね」

「うっ……絶対にそれだけは避けないと……」

「流石にここらだけだと思うけどね……」


泣き出したアリスを心配するエイシェルだったが少し辛かっただけで特に心配はいらないようだ。
そこへフラムが冗談を言う。
冒険者ギルドのあるカスース町で何故か広まっているアリスの二つ名。
船で王都に渡ってしまえば逃げることができる。アリスもフラムもそう考えていた。
……しかし、その考えが甘かったと実感するのは後日の話である。


「……アリスぅ……ヒールかけて……」


ひとり辛さの限界に挑み食べ続けていたフルームが自身の限界を感じていた。
辛さのあまり、あまりにも痛い為アリスに助けを求めるのだった。
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