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第三章 王都への旅

82.乗船券獲得

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船着場近くの乗船券を販売している建物へ向かう途中に見知った顔が向かいから歩いてくるのを見つけた。


「メルカさん!」

「おや?皆さんこんなところで会うとは奇遇ですね?まだこの町にいたのですか?」


アリスが名前を呼ぶと、そこには冒険者ギルドのあるカスースの町からパエニンスラ港町への護衛を依頼した商人のメルカがいた。
4人にとっては依頼人ながらも苦楽を共にした仲である。
突然のトラブルに対して依頼の成功報酬を追加で、しかもかなり多めに支払ってくれるなどとても親切で信頼と信用を第一に考える商人であり、4人としてもまた会えて嬉しく思えた。
そんなメルカの質問にアリスは素直に答えた。


「わたしたちはあの後カスースの町に戻ったんですけど、船で王都に行こうと思ってまた戻ってきたんです。ここには今さっき着いたところです」

「ほう、船で王都に……。これまた奇遇ですね。私も船で王都に行く予定なんですよ。あなた達がいるなら道中なにがあっても大丈夫ですね」

「流石に船の上だと限界がありますけどね。……というかそういう事は言わないで下さい。本当になにか起きたらどうするんですか?」


メルカがフラグとしか思えない言葉を発した為、エイシェルが突っ込む。
メルカは「そうそう何度も危ない目に遭うものか」と言いながら乾いた笑いをしていた。

メルカとてこの前のは心臓に悪かったのだ。
しかし、エイシェル、アリス、フラム、フルームの4人がなんとかしてくれた為、今ここにいることができる。
メルカはその4人が一緒に船に乗ると聞きき、万が一また何か起きてもどうにかしてくれるだろうと露骨に安心していた。


「そうだ、船で行くとの事ですが乗船券は大丈夫ですか?結構高額なのでもし足りなければいい条件で融資しますよ?」

「大丈夫ですよ。ちゃんと事前に調べて資金を集めてきたので」

「……ついこの前まで金貨20枚に驚いていたのに、短期間で4人分の乗船券を買えるだけの資金を集められたという事ですか……いやはや末恐ろしいですな……。どうですかな?商売もやってみませんか?あなた達なら何かやってくれそうに思えます」


メルカは素直に感心していた。
いざという時はほとんど無利子ででも貸そうと思っていたくらいだ。
それがどうだ。つい1週間ほど前は金貨20枚にとても驚いていた。あの反応からとても4人分の乗船券を買えるだけの資金があったとは思えない。
そうなるとこの短期間で4人分の乗船券の費用を集めたことになる。例えAランクの付き添いが4人だったとしても金貨200枚。
200枚でも大変なのに、まずそんなミラクルが起きるとは思えない。
到底Eランクの冒険者に集められるとは思えなかった。
それでも集めたというのだからその目標達成能力を強く買ったのだ。


「すみません。前にも他の人に商人を勧められたことがあったんですが、わたしたちはやっぱり冒険者が合っていると思います」

「そうですか……残念です。ただ、その前に商人を薦めた人もよく分かっていますね……。一度お会いしてみたいですな」

「カスース町の冒険者ギルドで買取の受付しているので会おうと思えば会えますよ?」

「おぉ、ギルドの職員でしたか……どこかで時間を作って行ってみるとしますか。貴重な情報ありがとうございました」


メルカは丁寧にお礼を言い、また明日と言ってその場を去って行った。
また明日の意味は分からなかったが引き止めるのも悪いし早く乗船券を手に入れたかった為気にしないことにした。

メルカと別れた後すぐに乗船券の売っている建物へ着いた。
そのまま中に入ると今度はフラムとフルームの見知った人がいた。
その人は乗船券の束を持って出口に向かおうとしたところだったがフラムとフルームを見つけると足が止まった。


「「パパ?」」


思わずハモっしまったフラムとフルーム。
2人の父親のフェルスが先客でいたのだ。


「ん?なんだ2人ともこんなところで?戻ってきたのか?……あぁ、そこの2人がそうなのか」


フェルスは娘達の少し後ろにいる2人を見て、この2人を娘達が追いかけて行ったのかと理解した。
それと同時に何故か懐かしい気持ちに襲われたのだ。
一緒に笑い合っていたかつての仲間を2人に重ねてしまい懐かしく感じていた。


「初めまして。フラムとフルームが世話になっている。娘達を助けてくれてありがとう。私はこの子達の父親で……王国騎士剣術部隊の団長を務めているフェルスという。よろしく」

「き、騎士団長!?あ……すみません……わたしはアリスです。こちらこそよろしくお願いします」

「エイシェルです。よろしくお願いします。……2人の父親ってすごい人だったんだな?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「そういえば私達の方から聞いてばっかりだったわね」


団長と聞き思わず声に出して驚くアリス。
父親が働いているところでも騎士団はエリート揃いと聞いていた。
そこの団長ともなると相当偉い人なのだと思ったのだ。


「そんなに畏まらないでいい。娘達の恩人なのだ。私も会ってみたいと思っていたのだよ」

「ありがとうございます……あと、いつも父がお世話になってます……」


アリスは一応挨拶しておいた。どうせフルームあたりにバラされるのであれば自分から話そうと思ったのだ。


「ん?君の父親?」

「パパ、ルードスさんのことだよ?」

「あの魔術部隊の指南役の人よ」

「……は?君、ルードスの娘なのか?!……という事はマーテルの娘でもあるか……なるほど、それならその実力は納得が出来る。どうりで猿の魔物を倒せるわけだ」


フェルスは猿の魔物を討伐した2人について情報を集めていたが、冒険者ギルドからの情報は名前とランクくらいであり素性は分らず仕舞いだった。
ただ、娘達が一緒に旅をすると言っていたので焦らなくてもそのうち会えると踏んでいたのだ。
まさか、かつての仲間の子供だとは夢にも思わなかったが……
それたまた驚くことになる。


「ちなみに、話しちゃうとエイシェルのご両親もアランさんとカレンさんなの」

「……偶然にしてはすごいな、何か作為的なものを感じるが…….。それにしても、君はあの2人の子供なのか……ご両親のことは残念だった」

「いえ、もう2年も前のことですから……。それに、今はみんながいてくれるので寂しくはないです」


エイシェルはフェルスの質問に笑って答える。
話した通り今はとても充実しており本心からの答えだった。


「そうか……2人とも、これからも娘達を頼む。私に出来ることなら出来る限りは協力をするつもりだ。何でも相談してくれ。」

「えっと、それなんだけど……私とフルームの乗船券をパパの付き添いって事に出来ない?それだとかなり安く出来るから……」

「なんだ、そのくらいなら構わない。むしろ4人の乗船券の費用を持ってもいいぞ?」


フェルスは娘達の恩人に何も恩を返していなかった。
この船の乗船券はかなり高額である。全員分の乗船券を買うとなるとかなり無理をしなくてはならないはずだ。この程度の費用負担でもまだ足りないほどの恩を感じており支払う気でいたのだ。
しかし、エイシェルとアリスは顔を見合わせてお互い思うことが同じであると察した。

「とてもありがたいのですが、それはお断りします」

「おれたち、みんなで集めたお金で王都へ行きたいんです。目的のためにみんなで頑張った結果なんです」

「……そうか、無粋な事を言ってすまなかった。他になにかあれば遠慮なく言って欲しい。君たちへの協力は惜しまないつもりだ」


フェルスはまさか断られるとは思わなかったが、よく考えれば当然のことだ。
彼らは冒険者なのだから。何にも縛られずに自由に行動できる。その代わりだいたいみんなこだわりが強いのだ。
仲間意識も高い。みんなで成し遂げようという想いが強い。目標に進み、その結果を求めているのだ。

おそらくフェルスも現役の時に同じ提案をされていたら断っただろう。
仲間との旅に余計な水を差すなと。

あの頃の情熱はどこへ行ってしまったのかとフェルスは少し寂しく感じた。




「あのー……そろそろ閉めたいのですが……」


後ろの受付から声が聞こえてきた。
到着したのが夕方だったこともあり、気付けば外が暗くなっていたのだ。
いつもは暇でだらけていたであろう受付の人が、今日は忙しかったのか憔悴している。
それだけ忙しかったのであろう。


「あぁ、すまない。この子達も乗船券を買うのであと少し頼むよ。ほら、行ってきなさい」


フェルスはそういうと4人を受付に行くように促した。
その手には乗船券の束が握られたままである。
エイシェルとアリスは受付でギルドカードを見せ、Bランク冒険者の割引価格で乗船券を買うことができた。
フラムとフルームもフェルスの付き添いとしてAランク冒険者付き添いの価格で買えたのだ。
金貨250枚を払い受付の人は発券の作業に入る。
流石に帰りの分を買う余裕はないが、ワイバーン(?)を討伐した分の報酬が入ったことで乗船券の代金を払ってもまだ金貨130枚程余っていた。

ちなみに受付の人は2人が前に変なやりとりをしていたのをみており、エイシェルとアリスを覚えていたらしくBランクのギルドカードを見せた瞬間に驚いていた。
1週間前までEランクだったのに今見せてもらったらBランクだ。別人ではないかと疑うレベルだった。

乗船券に一人ひとりの名前を入れてもらい乗船券四枚を手に入れることができたのだ。

ちなみに受付が一人ひとり名前を入れる作業をしている時、疲労からか若干手が震えているのが見えた。エイシェルもアリスはその手に気づいてフェルスの手の乗船券の束を見る。あぁ、これは長時間書き続けたんだろうなと察し、見なかったことにした。
疲労はヒールでは治せないし、聞いたところで何も出来ないからだ。
せめてもと思い心の中で応援していた。


そして乗船券が渡された後、受付から話があった。


「船の出発は明日の朝ですので遅れることのないようにお願いします。万が一乗り遅れた場合は次の便を待つことになりますのでお気をつけください。」

「やっぱり明日なんですね……。間に合ってよかったぁ……」

「ほんとうによかった……セラスさんに助けられたな」

「ほんとギリギリだったねー」

「かなりのハイペースで依頼を受けたつもりだったけど、それでもギリギリなのね」


セラスの話がなかったら少し休んで出発していたはずだと4人はセラスに感謝していた。
ただでさえ少しかさ増しして依頼を作ってくれたのだ。アレがなかったら今この場に間に合わなかっただろう。
戻ってきたら幾つか言われた依頼をやってあげようと思う4人だった。



乗船券を手に入れた4人はフェルスも交えて船着場を歩いていた。
そんな中アリスが提案する。

「今日は4人同じ宿に泊まらない?誰か遅れたら困るし……」

「……今はアリスが一番心配だけどな」

「ほんとは起こしてほしいからじゃないのー?……というか、目のクマ濃くなってない……?」

「昨日無理するからよ……今日はちゃんと寝ないとダメよ?」

「うっ、……分かったわよ……流石に遅れたくないし。」


アリスの提案の意図はフルームの言う通りだった。
今日も竜玉に魔力を込めるつもりでいたのである。
どんどん入る魔力が多くなるのが楽しくなってしまい隙あらば魔力を込めたいと思うほどだ。
しかし、アリスが提案した瞬間3人が懐疑的な目をしたため流石に今日は諦めることにした。
……ちなみに竜玉はエイシェルの籠の中に入っている。

4人はどの宿に泊まるかの話をしようとしたが、それを聞いていたフェルスが口を挟む。


「なんだ、宿をこれから取るのか?それなら騎士団で借り上げている宿に来るか?4部屋は空いていたはずだ」

「パパ、いいの?私達が泊まっちゃって?廊下で聞いちゃいけないこととか話されたりしない?」

「そこは心配しなくていい。4人とも今回の任務の当事者だから今更秘密もないしな。それに、空き部屋のまま金を払うより使った方がいいからな」


フェルスの言う通り宿を建物ごと借り上げているため空き部屋が生まれてしまうのだ。
それならばと有効活用するために提案した。
たしかにフラムが心配するように、本来であれば守秘義務だったり知られてはいけない情報がある為民間人をいっしょに泊らせることはしないが、もう全て知られているどころか4人の方が詳しいため、その心配はなかった。

そう言うことならとフラムは残りの3人に確認してフェルスと同じ宿に泊まることにした。








宿について食事を終えた4人は寝る支度を済ませると連日の疲れからそれぞれすぐに寝入ったのだった。
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