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第三章 王都への旅

73.第二ラウンド

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ドオォォォォン

大きな音を立てて落ちたワイバーン。
落ちた衝撃で砂煙が立ち上がる。


「めがあぁぁぁ!」

「フルーム……会話から察しなさいよ……」


ワイバーンが空を飛び何も出来ないフルームはエイシェルの射撃を目に焼き付けようとしていたのだ。
パーティメンバーがワイバーンに一太刀入れるのだ。見逃すわけにはいかない。
そんな事ばかり考えていると急に目の前が真っ白になり、光だと気づいた時にはもう目が眩んでしまった。
正直、失明していないか本気で心配するフルームだったが、じんわりと視界が戻るのを感じる。少しでも早く回復させようとしばらく目をつぶっているのだった。


「あ!ごめん!ひとこと言えば良かったわね……」

「別にいいけど、2人の世界に入っちゃって……私達入れないじゃないの」

「ち、ちがっ!ワイバーンを倒すのに必死だっただけよ!」

「ふたりともまだおわってないぞ!」


エイシェルが叫ぶとアリスもフラムも構える。
砂埃が晴れてきたところで地面に落ちたワイバーンが起き上がるのが見えた。

普通なら助かるはずのない高さだ。
それにもかかわらず動き出すワイバーン。
やはり竜種は頑丈らしい。


「うわっまだうごけるの?」

「フルーム、あなたもう目はいいの?」

「少し点々見えるけどだいぶ治った!」

「そう、それじゃあ……行くわよ!」

「はいよ!」


フラムの簡潔な合図で2人は同時に動き出す。
エイシェルとアリスがやっとの思いで地上に叩き落とした。
このチャンスを不意にすることは出来ない。
そう思いフラムは駆け出したのだ。
そこへフルームも続く。
あっという間に距離を詰め、2人はワイバーンに斬りかかった。


「ふっ!」

「それ!」

グオオォォォォ!

翼を地面につけ起きあがろうとするワイバーンが吠える。
フラムとフルームは流れるようにワイバーンの両翼に一太刀浴びせた。
しかし、流石に硬い鱗で覆われているため浅いキズしか入らなかったのだ。

それでも2人は満足気に攻撃を続ける。


「キズが入った!」

「弾かれなければ続けるのみ!」


フラムとフルームは踊るように斬撃を繰り出す。
ワイバーンも黙ってやられているわけではない。爪や尻尾を振り回して攻撃してきていた。
フラムとフルームはその攻撃の全てを回避や剣でいなす事でやり過ごしていたのだ。

その動き一つひとつが繊細で本当に踊っているようなのだ。

その動きに見惚れていたアリスが何かに気付く。

(あれ?なにかがワイバーンの全身を包むような……?これは……魔力?……なるほど!そう言うわけね!)

アリスは何かに思い当たりエイシェルに声をかける。


「ちょっと矢をかしてくれるかしら?」

「別に構わないが……どうするんだ?」

「こうするのよ!」


アリスは受け取った矢と同じ形の氷の矢を作り出した。


「それは……?」


エイシェルが不思議そうな顔を浮かべる。
突然アリスが矢を貸してと言ってきたと思ったら何故か氷の矢を作り出したのだ。
エイシェルは理解が追いつかず思わず確認した。

「いいから、その矢と普通の矢をどこでもいいからワイバーンに当ててちょうだい」

「わかった。2人の邪魔をしない程度にだが、やってみる」

そう言うとアリスはエイシェルに2本の矢を渡した。
受け取ったエイシェルはというと、受け取ったその手で流れるように弓を構え2本同時に矢を放った。



グオオォォォォォォォォォォ?!


矢が当たったワイバーンが再び吠える。

エイシェルが放った矢のうち、氷の矢だけがワイバーンに刺さっていた。


「ビンゴ!あのワイバーンには魔力を込めた攻撃じゃないと通りにくいみたい!」


「なるほど……フラム!フルーム!一旦さがれ!……アリス」

「分かってるわ。任せなさい」

アリスの考えがわかり、エイシェルに案が浮かんだ。エイシェルはフラムとフルームを呼びつけるとアリスに考えを伝えようとした。
すると、アリスは既にエイシェルの考えを汲み取り任せろと言うのだ。
頼もしいことこの上なかった。


「何かしら?今いいところなのだけど?」

「ちょっとやりたいことがあるの!フルームもこっち来て!」

「その間はおれが矢で牽制してるから、なるべく急いでくれよ?」

そう言うとエイシェルが弓を大きく上に放ち矢の雨を降らせてワイバーンの自由を奪う。
見事に時間稼ぎをしていた。

「あのワイバーンは魔力を込めた攻撃ならよく効くみたいなの。少し剣に魔法を付与しても良いかしら?」

「それで攻撃がよく通るようになるんだったらお願い!」

「私も!」

フラムとフルームが剣をアリスに差し出すと右手と左手、それぞれの手をそれぞれの剣に触れた。

そしてイメージをして一気に魔力を注ぎ込む。
するとフラムの剣は髪色と同じ炎を纏い、
同時にフルームの剣もフルームの髪色と同じ鮮やかな青色をした水を纏っていた。


「「きれい……」」


2人は思わずそれぞれ自分の剣に見惚れてしまった。


「はい!これで大丈夫だと思う。後は頼んだわよ?」


アリスは自信満々に言うと笑顔で2人を送り出した。


「ありがとう!行ってくるわね!」

「ありがとー!これで勝てる!」

2人はそれぞれお礼を言うと、ワイバーンへ向けて駆け出した。

そして、剣を振りかざすとそれぞれ翼を切り落とすことが出来た。


グオオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!


ワイバーンが大きな声で吠える。
怯んでしまいそうなほど大きな音だがチャンスを逃すわけにはいかないと、フラムもフルームも攻撃を続ける。

すると両翼を失ったワイバーンが息を大きく吸い込んだのだ。


「あぶない!2人とも一回離れて!」

「火がくるぞ!」


アリスとエイシェルが叫ぶ。
しかし、剣士2人は止まらなかった。

チャンスはものにする!間に合わせる!
そう思いフラムもフルームもワイバーンの胸を目掛けて剣を突き出した。


「「いっけぇぇぇええ!」」


ザクッ!

ワイバーンの体内でフラムとフルームの剣が交差するのを感じる。
トドメの攻撃が決まったのだ。

しかし、ワイバーンも止まる気配がない。
どうせ死ぬならと火を吐いて道連れにしようとしていた。

「嘘でしょ?!」

「やばっ?!」

「ダメ!間に合わない!」

「剣を抜け!ワイバーンの血で火を防ぐんだ!!」

フラムとフルームは言われるがままに剣を引き抜く。

すると剣がワイバーンの心臓を貫いていたようでおびただしい量の血が噴き出す。
その血をフラムとフルームが被るのと、ワイバーンが火を吐くタイミングが合い、ギリギリ火を回避することが出来た。

ワイバーンも力が残っていないのか、火は一瞬出た程度で収まり、すぐに倒れ動かなくなった。

足元にはフラムとフルームが四つん這いになっている。


「うぇ……のんじゃった……」

「私も……どれだけ出てくるのよ……」


2人はワイバーンの血でずぶ濡れになりながらもお互いの無事を確認すると安心したからかお互いの姿を見て笑い合った。
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